苛立ち
どうしてこうも狭量になったものか。
レイローズを見ながらそう思う。
もう、片時も離れられないような気がしてたまらないのは、タリスにかけてもらった術の影響があるのか。
果たして。自分の欲望なのか。
仕事が終わって帰るよと声をかけて抱き上げると、やっと目を開けた彼女だったが、まだ、しっかり覚醒したわけではない。
馬車の中で、揺られていると、また腕の中で眠ってしまった。
屋敷に帰って、自室に軽食を運ばせる。
「ローズ。そろそろ夕飯を食べないと、体調を崩します。」
そう声をかけてかけると私を見てフワリと微笑む。
無垢な赤子のように。邪気の無い笑顔。
そんな彼女が眠らないように話しかけて粥を食べさせる。食べてくれるだけで安心出来る。
この無意識の中で、パニックになって怖がったりしない所を見ると、攫われても恐怖を感じる事が無かったのだろう。それぐらい、急に攫われた。
食べ終わった彼女に果実水を飲ませる。
唇から溢れてつたう果実水を舐めとる。
夢うつつだからか、会話しようとしない彼女をゆっくりベッドに寝かせる。
この湧き上がる苛立ちはどうすればいいのだろう。
ぶつけようのない怒り。
消して彼女が悪い訳でない。
守れなかった。
間に合ったから良かったものの。間に合わなかったらどうなっていた?
「リオン…」
不意にローズが私を呼ぶ。
彼女から私に伸ばされた細い腕。華奢な指。指を絡めて、顔を寄せる。
「大丈夫。ここにいますよ。」
私の声に、フッと笑った彼女が、もう片方の手で私に縋り付く。
覆い被さり、強く彼女を抱きしめる。
ゆっくり、キスをする。
「んっ…。」
その吐息を聞くだけで、脳がおかしくなりそうだ。
「リオン…?」
少し薬が抜けつつあるのか、少し驚いた表情のローズ。
更に深く口づける。
「んんっ…はぁっ。あのっ。あぁ。待っ…てっ。」
覚醒しつつあるようで、しっかりと私を見る彼女。
ああ。彼女が戻ってきた。その安堵感に満たされる。
自分が笑みを止められないのがわかる。
それから、自分の中の雄の本能が止められない。
首筋を舐め、愛を囁く。
真っ赤になって、私を受け入れる彼女が愛おしい。
「お帰りローズ。私をこんなに心配させたのですから、私の気がすむまで相手をしてもらいますよ。」
やや乱暴に服を剥ぐ。
彼女の白い肌が晒される。
ゾクリと背筋に何かが走る。
征服欲が湧いてくる。
その白い柔肌に舌を這わせ、彼女を味わう。
欲望のまま。彼女は自分のものだと、自分が愛した証を刻むようにその身体に跡を残す。今迄は壊れ物のように扱っていた。自分を刻むような事はしていなかったのに。
やはり。今日の自分は変だと思う。抑えが効かない。羞恥に頰を染める彼女を見るだけで興奮が高まる。
「どうしたんです。こんなにとろとろになって。本当に可愛らしい。私が欲しいのでしょう?」
涙目で見上げる彼女の中に溺れて行く。
本能で、彼女を欲している。
快楽の波にのまれる。
静かに夜は更けてゆく。
ふと覚醒して、少しの身体の気だるさと共に、脳がスッキリしているのを実感する。
ああ。やはり、自分はまだまだだな。
何かに執着するとすぐにこのザマだ。自分の余裕の無さにあきれる。隣に眠る愛しい人の髪をすくい、口づける。君からは、私はどんな人間に見えるだろうか。
完璧な人間などいない。だが。前世から、常に上を目指して来た。
上に上に。より高みへと。
何の為にそうしていたのかは解らない。誰の為に上を目指すということは無かったが。今は違う。
手に入れた愛しい人。
もう、2度とその手を離すような事はしない。
冴えた頭で考える。リレイラへの旅程は国の魔術船を使用しても通常往復10日。相手との協議に1日あれば充分だろう。私が少し不在となって揺らぐような体制では無いが。馬鹿が出て来ないとは限らない。
昨日中に、メイオス前宰相(今はメイオス公爵)へ連絡し、何かあった時のフォローは依頼した。
リレイラへの旅程は、ホバルの通過時間による。
日付が変わった。
ホバルのクーデターは明日、火がつく。
リレイラへ向かうにはクロー川を南下するが、上流にあり、まだ川幅が狭い我が国と違い、川幅が広がるホバルはその国家規模も相まって、川に橋を架ける事が出来ていない。
今のこの技術水準ではまだ当面無理だろう。
ホバルは現在、川の通行権を主張しているが、このクーデターで東西に分離されるだろう。栄えた東と比べて、西は元々、直ぐに山岳が迫り元々土着の騎馬民族を取り込んだ形だ。
彼等の関係を切り崩して、川の利水権を主張させないようにしなければ。
クロー川をどれくらいで抜けられるか。なるだけ早く戻りたい。
タリスの同行で、少し旅程が早まるのを期待しよう。彼の魔術で補助すればどれ程旅程は短縮できるだろうか。
レイローズに手を出した事を後悔しても遅い。リレイラは絶対に許さない。
次話はレイローズ視点に戻ります。




