不機嫌
… 目を覚ますと、リオンがいた。
珍しい。彼の方が目を閉じているなんて。そう思ったら直ぐに起きる。
「おはようローズ。気分はどう?」
気分??
そう言われて始めて、自分が何も身につけずに彼の腕の中にいた事に気づく。
慌てて掛布を手繰り寄せると、手首を握られ、キスをされる。
あれ?何か違う。
ああ。そうだ。私、誘拐されたんじゃ?
「リオン…?」
「はい。どうしました?」
「…怒ってる?」
「貴女を少しの間でも守れなかった自分に怒ってます。」
「ごめんなさい。」
「君が謝る事ではない。」
「今、何時?私、どれくらい寝てたの?」
「貴女が誘拐されたのが昨日の昼。いまは日付が変わって午前3時を回ったところですよ。」
言われてみると、窓のカーテンが閉められている。
「だから暗いのね。」
「まだ夜が明けていませんから。」
そう言って、抱きしめられてキスをされる。
直接触れる肌。
昨夜の事は記憶が、無い。
「私、覚えていないの。ごめんなさい。あの。私…。」
何て聞けばいいんだろう。リオンはどことなく苛立っている。
私、犯人に何かされたのだろうか。
さあっと、血の気が引く。
手が震える。
「私、何かされたの?」
「いや。運ばれただけだ。」
「本当に?」
優しい嘘とかじゃないよね??身体の震えが止まらない。
「本当だ。君が拐われた直後から、タリスが精霊を使って君を追跡した。30分後には君は私とタリスで連れ戻した。異常を感知してから、タリスが精霊の眼で君を見ている。何もされていない。怪我もないだろう?」
私を安心させようとしてか?強く抱きしめられる。
「犯人は誰なの?」
「…リレイラの手の者だ。」
「どうして、私が?」
「まだ首謀者までは行きついていないが、リレイラと帝国が何らかの接触をしている事はわかっている。君個人が狙われる可能性は低い。だから、私の身内として狙われたと見るのが一番だろう。すまない。私のせいで怖い思いをさせた。」
「いいえ。私が馬車から出たのが軽率だったんだわ。ごめんなさい。」
ふっ、と、リオンが微笑む。
「ローズ。起きたばかりで申し訳ないが、急遽、明日からリレイラ行きが決まった。」
「そう。気を付けて。」
「君も連れていく事にした。」
「えっ?私も?」
静かにリオンが頷く。
「当初は留守番してもらおうと思ったのだが。タリスが、一緒に行くと言い出して。」
「タリスさん?」
「ああ。置いていくと守りが薄くなるから、連れて行った方が安全だと判断した。」
「迷惑にならない?」
「ああ。むしろ、私の妻としての同伴になるため、リレイラで公式行事に参加してもらわないといけない。こんな事を君に言うのは気が引けるが。外遊に行くと、妻帯者でなかったら、女をあてがって機嫌をとろうとしてくる輩が多いからね。君がいてくれると、私もゆっくり休める。」
「そう。」
深く口づけられながら、なんとなくだが、夢うつつに昨日の情事を思い出す。
解放されて、ふと見ると自分の体に赤い痕。
驚いていると、リオンがふっと笑みをこぼして抱きしめられた。
どうやら、ご機嫌は直ったらしい?
情けない事に、私の意識はまたそこで落ちてしまった。
さすがに、寝すぎたんだろう。珍しく早朝に目が覚めた。リオンがまだ横にいる。
「おはよう。」
笑顔で微笑まれると、心臓がドキドキする。
まだ、慣れない。
自分の旦那様なのに、かっこよすぎる。
「おはようございます。」
私が言うと、軽く頬に口づけされる。
「よかった。もう、起きようかと思っていたんです。体調がよかったら一緒に朝食をとりませんか?」
「ええ。大丈夫。」
ベッドサイドに無造作に置かれていた夜着を一旦、着込む。
リオンに急に抱えられる。行く先は浴室。
ええっと。一緒になんて、入ったこともないんですけれど。朝から刺激が強すぎますよね。
脱衣所にトンと立たされて困っていると、髪を器用にまとめられて、留められる。
無言で脱がされ、手を引かれる。
湯を浴びて、浴槽につかる。
そういえば、いつもリオンは多忙で、ゆっくり浴槽に浸かっているなんて見たことないかも。
浴槽の中でも抱きしめられる。
まったく、どうしたのかしら。
「後からまたメイドに綺麗にしてもらいなさい。明日は早朝に出立します。私は朝食後に出仕して仕事を整理しますので、帰りは遅くなります。旅程は10日ほどになりますので、メイドに準備をさせておきなさい。」
「わかりました。」
しばらく浸かって、浴室を出る。
バスローブを羽織って自室に戻り、メイドを呼ぶ。
リオンは自分でてきぱきと服を着ていたが。私はドレスを一人で着るのは無理。
庶民のワンピースでいいんだけどなあ。
そう思っている間に、あっという間に着付けられる。
リオンと共に食堂に行き、食事をとる。
彼はあわただしく王城に出仕してしまった。
「ねえ。リレイラって、何を持って行けばいいかしらね?」
アリスに声をかけると、
「大丈夫です。もう、ほとんど用意しておりますので、奥様に確認していただいて、追加があればすぐにご用意いたしますし、要らないと思われる物は外します。」
「あら。そうなの?」
リオンが先に言っていたのだろうか。
「昨日、お帰りになった時に旦那様に仰せつかっております。」
私の疑問に答えるようにアリスが答える。
「では、午前中のうちに確認して、必要な物があれば、午後に手配してくれる?」
「かしこまりました。」
ドレス、小物、最低限の宝石。化粧品類に暇つぶしに本を数冊。
旅先で手紙を出すかもしれないので、筆記用具一式と。
そういえば旅先でお世話になる方にお渡しできるお土産っていらないのかしら?
リレイラは南国なので、薄い絹は流通が少ないと聞いている。
絹のショールや小物を何点か買って用意するように言づけると、もう、私の用事は終わってしまった。
南のホバルはずいぶん前から政情不安に陥っている。足手まといにならないといいのだけれど。
用意された荷物を眺め、小さく、ため息をついた。
不器用令嬢、騎士になる
完結しましたので、回避の更新頑張ります。
スマホで投稿していると、文字変換が勝手に、頑張りますわ。となる恐ろしさをジワジワ実感しております。
いつか令嬢言葉をリアル投下しそう・・・




