リレイラと帝国の影
新年あけましておめでとうございございます。
相変わらずの不定期更新となりますが、お付き合いくだされば幸いです。
数日おきに更新して参ります。
目標は、3日おきなんですが。いつまで行けるか??
真冬に夏の話です。
…7月も終わりに差しかかろうとしている、うだるような暑さが厳しい日だった。
薬草院の筆頭官が宰相の執務室を訪れたのは。
「結論から申し上げますと、まず、南国リレイラの関与は間違いございません。かの国の海岸沿いに自生するつる草と、夢の花の花弁の混合で強い睡眠作用を認めました。つる草の水溶液に夢の花を浸すだけでも、若干の眠気を訴えるようです。」
1つ1つ、言葉を選んで伝える筆頭官に、リオンが静かに問う。
「リレイラが関与していると言う理由は?」
「問題のつる草が、どこにでも生えているものではなく、リレイラの居城のある断崖にしか生えていないものだからです。滋養強壮剤として、王族のみの取り扱い。表に出ることはほとんどありません。断崖からの侵入防止に、断崖をくり抜いて兵士の詰め所を配しています。第三者が採取するのはかなり厳しいと思われます。」
「成る程。では、薬草院が入手したように、何らかの入手方法があると。」
「はい。昨年夏の夜会でテーブルに置かれた花の水には高濃度のつる草の成分が認められました。協力者を介して探りを入れておりますが、向こうの王族の誰が関与したものかは不明です。」
「帝国の関与が疑われると報告が上がっていたな。帝国の者がリレイラと接触しているのをこちらでも確認している所だ。」
リオンの言葉に筆頭官が渋面を呈す。
「帝国でございますか・・・。」
「ああ。」
さて。今更だが、我が王国の正式名称はロイメール。王国がある東方大陸には中央にロイメールが位置し、周囲を小国が囲んでいる。ロイメールから西側に同程度の大きさの西方大陸があり、西方大陸はガザン帝国が約150年前に西方大陸全土を統一し、統治している。
海という境界により、帝国からの侵略を受けることも無い。
魔法が発達しているが、船はあっても飛行船及び飛行機等、空を飛ぶ物が無いため特段同盟を結ぶことも無く、商人達が珍しい物資を交易する程度だ。
人の交流も時折あるが、文化水準もほとんど変わらない。
しかし。
気になることはある。
元々、両大陸共に科学と魔法の混合のような世界で水準も変わらなかったのに、明らかに東方大陸の魔法水準は低下している。対して、西方の魔法水準が低下したとは聞かない。
この時期に手を出してくるか。
侵略の手を常に伸ばそうとしていたのか。
王国のを囲むのは政情不安も多い脆弱な小国。我が国も王国とは名ばかりで、王は実務を伴わない。貴族家の言いなりのような王家では役に立つまい。王家に強いカリスマが無い今、どうすれば良いものか。
これほど、海の存在がありがたいと思ったことは無い。
リレイラか。第3王子アーサーを婿にと思っていたが、帝国が乗り出してくるならば、アーサーを国外に出すことはできまい。万が一にしても、戦時になれば、ボンクラな第1王子は使いものにならない。第2王子は戦闘で役立っても内政は無理だ。多少の学があるアーサーが1番うまくやるだろう。
リオンが考えているのを見て、筆頭官が逡巡したのち、口を開く。
「リレイラの王女が帝国の魔術師に魔術での幻想を所望したことがあるとの情報はつかんでおりますが。茶会の余興であったと。」
「わかった。こちらからもその件、調べてみよう。」
「よろしくお願い致します。こちらも、何か進展がございましたら、すぐに報告に上がります。原因の特定までに1年以上も要してしまい、誠に申し訳ございません。」
「いや。よくやってもらっている。ところで、夜会などの行事で生花の使用を禁止していたが、原因が分かった今、解禁時期と口実はどうするか相談したい。もちろん、事実は伏せたい。」
「そうですな。対外的には異常なし、原因不明で、花が原因では無いと発表するのがよろしいのではありませんか。ただし、縁起が悪いとでも言って、夢の花の使用は禁止とする。私が宰相様と面会しているのは周知の事実でございますれば、本日付けで王の裁可をもらい発表されるのがよろしいかと存じます。」
「まあ、それが妥当だな。」
「一つ、お耳に入れておきたい事が。」
「何か?」
「夢の花の精製時に、職員の中で幻覚を見た者がございます。技術的に何か加えれば、取り扱いの難しい精神作用性の薬物になるかと思われます。その時の薬剤の配分は控えておりますが、なにぶん、精製時に職員に倒れられても困りますので、継続してその方面の薬効を調べるなら、浄化の魔法が使える魔術師がいないと継続できません。」
「専属がいたと思うが、どうした?」
「病に臥せっております。」
「何の病だ?」
「長く勤めており、薬物を取り込みすぎたのでしょうか。肺を悪くしているようです。」
「治癒師の協会に話を通しておこう。追って連絡を入れる。」
「ありがとうございます。」
礼を述べて筆頭官は退出した。
さて。面倒な事になった。
計画が狂う。まぁ、トラブルはつきものだ。何事も全てが自分の思う通りに動くばかりではない。
タリスとカイウスに連絡を飛ばす。
南に隣接するホバルが倒れるのは時間の問題だが。帝国が動く前に、しっかりリレイラを抑えるか。
政情不安なホバルを通過してリレイラに行くのも微妙だが。
私が動く方が、早く終わるな。
決済書類にサインをしながら、そんな考えをしている時だった。
ピリリと痺れが左手に伝わる。
―――――ローズ?
カタリと、小さな音を立ててリオンは椅子から立った。
術をかけてから常に感じていたローズの存在が弱まる。
誰だ?
誰かがローズに手を出した??
レイローズ…
怒りで、ブワリと魔力が溢れる。
握っていた万年筆がバキリと音を立てた後、パラパラと砕けて落ちる。
執務室内の文官達が、ギョッとした顔で自分を見ている。
ローズには、影も、騎士団からの護衛も付けていた筈だ。
揃って出し抜かれたか。
役に立たなかったか。
離れている事を後悔する。だが、反応はある。彼女は生きている。
さて。どうやって奪還するか。
久しぶりに感じる焦りと苛立ち。
〝待って。リオン。レイちゃん無事だから、ちゃんと見てるから魔力抑えて!お願い。内部からそんなに力を使われたらその部屋の結界が壊れるから。落ち着いて!!〟
頭の中に響いてきたのはタリスの声。
そんな事が出来るなんてタリスから聞いていない。
余計、苛々するが、魔力を抑える。
「何処だ?」
リオンの低く呟く声に
〝現場はバイス公爵家に着く少し手前の橋だ。人に見られないように、いつもの場所まで王城を出て来て〟
バイス公爵家。リリスティールに会いに行く予定だったな。
「少し出る。用のある者は待たせておけ。緊急時は副官に任せる。」
文官達は、リオンの威圧に蒼白になって首を縦に振ることしか出来なかった。
控え室から隠し通路に出て走る。
いつもの待ち合わせ場所。王城裏の水車小屋横まで走って5分。魔力強化で移動しても、少し息が上がる。
タリスが待っていた。
「状況は?」
「子供が馬車前に飛び出して。心配して馬車を降りたんだと思う。多分、相手方はわざとだ。降りた所を掻っ攫われた。今は馬車で移動してるんだが。笑うよ。僕の実家方面だから。僕の庭にようこそって感じ。」
「犯人が馬鹿で良かったな。国外逃亡を図られたら面倒だったが、わざわざ王都内か。」
「お出迎えといこうよ。」
タリスがニコリと笑って指を鳴らしたら、6橋の袂に立っていた。
「君が、普段どれだけ力を出し惜しみしていたのかよくわかった。状況をどうやって見ている?」
ギロリと睨むリオンに。タリスが首をすくめる。
「魔力と、精霊に力を借りて。ねえ。リオン、もうすぐ、レイちゃんを乗せた馬車が来るんだけど。ここで捕まえたらトカゲの尻尾切りだから、どうせなら叩き潰さない?僕、これでも相当怒ってるんだ。」
「尻尾は何本もあるものだ。」
「じゃあさ、どうでも良さそうなのは叩いて潰して。鍵にになりそうなのは泳がせようよ。地の果てでも追いかけられると思うんだ。」
「元まで辿れると?」
「もちろん、いい所まで行くと思うんだよね。」
「姿消しの魔術を使うよ。面倒だからさ。奴らの馬車の上に乗ろう。」
タリスが6橋を見る。
「来た。あの黒いの。飛ぶよ?」
タリスと共に、風の魔法で黒の馬車の上に乗る。重みが増して、一瞬、馬が力を入れるが、6橋のレンガ造りのガタガタする揺れに紛れて、御者は気に留める様子も無い。御者は三流か。
街中で誘拐など、大したことをやった者達にしては、何か抜けている。こいつらは捨て駒か。
昼間の静かな歓楽街の中、連れ込み宿に馬車が入り、止まった。
「いい度胸だ。」
冷たく言い放つリオンを見て、タリスが笑う。
「お仕置きの時間だね。」タリスの言葉は優しいが、見るものをゾッとさせる何かを纏っていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
リレイラ編は、少し長くなる予定です。長くなるので、書いているうちに、修正を入れる可能性もあります。
大まかなあらすじには影響しないようにしたいと思っていますが、修正が本編に影響する際は、その話の後書きと、最新の話の後書きに修正内容を記入する予定です。
よろしくお願いします。




