そう。ヒーローはかっこよく現れなくっちゃね。
レイローズは、いつも通りに午前中を屋敷で過ごし、午後一番にリリスティールに会いに出たのだが、今日は思わぬトラブルに遭遇した。
馬車が急停止する。子供が飛び出して来たとのこと。4歳くらいの小さな女の子。膝と手を擦りむいた程度で事なきを得たようでホッとする。
が、かわいそうに親が見当たらない。
「どうしましょう。こんなに泣いて、かわいそうに。」
女の子を抱き上げたその時だった。急に世界が、グニャリとまがったかのような錯覚。遠のく意識を感じ「奥様!!」と叫ぶ護衛の言葉が遠くに聞こえる。
ああ。これはだめだ。罠にかかった。失敗したな。
直感で悟る。
ごめんなさい、リオン。
思いは、届くのだろうか。
ごめんなさいリオン。お願い。助けて・・・。
さて。馬車が到着した連れ込み宿では、リオンとタリスが殺気を隠しながら首謀者のような女と、レイローズを抱えたゴロツキ3人の後から宿に入っていった。
レイローズに触られるだけで苛々すると、リオンは苛立っていた。
犯人達が一室に入る。バタリと閉じられる時に、建付けが悪いように魔力で細工をし、滑り込む。魔術が使える様子の女が、タリスの魔法に気がつかないのは実力の差だろうか?
「報酬だよ。」
南国特有の浅黒い肌を持つ金色の髪の女が金の入った皮袋を渡す。
「ヒュー。いいねえ、姉ちゃん。そんで、このキレーな姉ちゃんも好きにしていいんだろ?」
マントにくるまれたまま、ベッドに降ろされたレイローズを男達が、欲を抑えることなくニヤニヤと見る。
「ああ。構わない。では、私の仕事はここまでだ。」
そう言って、部屋を出ていく。
リオンがタリスを見ると、タリスが頷く。
女は、さて、どこまで泳いでくれるものか。できるなら、奥底まで泳いでくれるとありがたいのだが。
バタンと、扉が閉じられたのを見て、男達の視線が一斉にレイローズに向けられる。
タリスの結界が展開する。
男達は誰一人、動く事が出来なかった。
「なっ?体が動かねえ?一体どうしちまったんだよ!!」
「ひいい。」
「何なんだよ、これ。やっぱ、ヤバい仕事だったんじゃねえか」
男たちが話し出す。
「屑だねえ。」
タリスが呟く。
「自分たちが何に手を出したのかも分からない程度の屑だからな。潰しがいも無いな。」
そう、リオンが言うと、一気に部屋の温度が下がったような気がする。
「ひいいいいいい。誰だ、お前。」
男の一人が叫ぶ。
「叫んでも無駄だよ。僕が結界を張っているからね。あと、ここ、経営者知り合いだからさぁ。変な事に使われたら迷惑なんだよね。」
タリスが笑う。
「私の大事な者に、無断で触れた罰を与えよう。」
リオンが手を振ると、ビシリという音がして、男達の手の骨が粉砕された。
が。一瞬の事で、皆、何が起こったのか理解できていない。数秒後、後から襲う痛みに揃って悲鳴を上げ始める。
「後は僕が引き受けるよ。リオンはレイちゃんを助けてあげなくっちゃね。」
タリスの言葉に、雑魚への報復を諦める。
マントで包まれているレイローズを抱き起す。
清潔とは言えない着古されたマント。マントを捨てて、自分の上着で彼女を包んで、抱き上げる。
いつもの、優しいレイローズの匂いに、他人のマントの匂いが鼻について苛立ちが増す。
普段は使わない光属性の浄化魔法をレイローズにかける。
それでも、ちょっとでも触れられたと思うと、苛立ちが抑えられない。
「リオン。レイちゃんと一緒に家に送ってあげるよ。明日、また、話そうね。」
恐怖で震える男達などまるで居ないかのように、話す2人。
「ああ。」
一言、リオンが返事を返すと、一瞬で自宅の正門に立っていた。もう、驚く事もないが。全く。大した魔術師だ。
警備の者が蒼白な顔で駆け寄ってくる。
伝令が飛んでいるのだろう。
「大事ない。今日、彼女に付いていた者にもそう伝えろ。」
そう言って屋敷に入る。
「湯の用意を。」
使用人達が、2人を見て、安堵の表情を浮かべ、慌てて持ち場に走って行く。
誘拐から奪還まで約30分。
時間的にはまずまず。奪還に対しては合格点でもいい。が。彼女が誘拐されたという事実がマイナスすぎる。次からは原因を徹底的に潰す。
犯人を割り出し、絶対に報復すると、心に決める。
ソファに座らせたレイローズは目を覚まさない。
そうだったな。リレイ草が効きすぎたように、彼女は非常に薬物に対する耐性が弱いのだった。
無毒化のリングをさせていたが、眠剤作用だから、毒と判断しなかったか。
メイドが湯の準備ができましたと声をかける。
仕方ない。光浄化でさらに薬剤の効果を打ち消し、レイローズに声をかける。
「ローズ。ローズ。起きてくれませんか?」
「うう・・・ん。リオ・・・ン?」
はっきりと覚醒出来ない彼女を立たせて、メイド達の待つ湯船に手を引いて連れていく。
手際よくあっという間に脱がされ、ぼーっとしたまま湯につけられ、磨かれるローズを見ていた。
外傷も無いようだし。彼女が着崩れたりしていなかった事に安堵する。
「薬剤はほぼ抜けているが、体に負担がかかっているから、早めに済ませてやってくれ。」
「かしこまりました。」
メイド達がレイローズを支えながら手際よく髪や身体を洗っていく。
「奥様、上がりましょう。」
湯船から上げられて、うっすらピンクに染まった肌が美しい。風の魔法で風呂上がりの水気を飛ばす。
まあ。担がれただけだから、今回は、良しとしよう。
そう思いながら、自身の独占欲の強さに呆れる。
「旦那様、奥様のお召し物はどのように?」
「普段着でいい。休ませるが、今日は状況が変化するかもしれないからな。私がそのまま連れていく。執務室の休憩室で、近くに置いて休ませる。身体を締め付けない服にしてやってくれ。」
「かしこまりました。では、馬車は?」
「要らん。黙って抜けている。特殊な方法で戻る。王城にすぐ戻るが、ローズは私と共にいる。夜には戻る。不在となっても気にするな。」
「かしこまりました。」
メイド達が、レイローズを着付け、髪を整えるのを待つ。終わって彼女を抱き上げて呟く。
「おい、タリス。聞こえているんだろう。王城の執務室の控室まで送れ。」
“わかったよ~”
そう、声がすると、やはり、次の瞬間には控室にいた。
控室の自分の仮眠用ベッドにそっと寝かせてキスをする。
レイローズはトロンとした目をしている。
「眠ってていいですよ。隣の部屋にいますからね。おやすみなさい。」
レイローズがふわりと笑って、目を閉じるのを見て、彼女に布団をかけた。
執務室に戻ると、文官達が自分に注目する。
「もう、ご用事はお済みになりましたか?」
副官が尋ねる。
「ああ。心配をかけた。」
…目的が分からないなら、中枢の文官達も警護が必要だな。
「私の妻を誘拐した者がいる。事は、すぐに防がれたが。目的は不明。私の職権からしても、家族が狙われる可能性はある。私に手を出したという事は、君達や、君達の家族に今後手を出す輩が出てくる可能性も否定出来ない。」
リオンの言葉に、皆が表情を引き締める。
「各々、最近の家庭の状況を教えて欲しい。原因がわかるまでは警護のレベルを上げる。」
「ご配慮ありがとうございます」
副官と共に、皆が頭を下げる。
「当然の事をしているだけだ。マークス、至急、騎士団長との話し合いの場を設ける。こちらにご足労願うと、直接、伝達に行ってくれ。」
「はっ。」
1番若い文官を使いにやる。
「不在時に、何かあったか?」
「ございません。」
リオンの問いに、副官が答える。
さて。相手の思惑は何か。タリスの手腕にかかっている。
元々、魔力量が多い友を少し保護しただけだが。こんなに助けられる日が来るとは思っていなかった。
どんな因果か。
神経を研ぎ澄ませて考えろ。
リレイラと帝国と。
自分の力などたかが知れている。多少の魔法が使えたからと言って、自分が直接守れる範囲は狭い。手の内に入れた者ぐらいは守りたい。国全体を守るなど、理想論だ。
損害を1番少なくする方法を考えろ。
帝国の手出しは絶対に防がなくてはならない。
やはり、鍵はリレイラか。
帝国のように侵略するつもりは無い。が。事の発端がリレイラならば、それなりの報いは受けてもらわねばなるまい。
そうなると、ホバルの政権交代は早い方がいいな。リレイラを足がかりに、ホバルに手を出される前に、こちらが先手を打つ。
西方大陸側のスルホは、一見すると野心家に見えるが、我が国との境にある山脈を超えてまでの侵略に益が無いことはわかっている。国力は弱めながら、強い騎馬隊を持つ。
バルドー辺境伯に、西の護りの増強と監視強化の連絡を入れよう。帝国と取り引きされて陽動をかけられる訳にはいかない。
「宰相様、騎士団長様並びに副団長様がお見えになりました。」
マークスが帰室とともに、声をかける。
顔を上げると、齢60を超えてなお、眼光鋭い騎士団長ダグラス・コア侯爵と、副団長のカイウスがいた。
のんびりと、カイウスが結婚する話、主に嫁視点の話も投稿してます。
回避でも今後登場しますが、興味がある方は読んで頂けると嬉しいです。
読まなくても、本編には影響しません。
下にランキングタグを始めて設定しました。出来ました。よかった。使いこなせてない機能が沢山です。
2日の夜に設定したので、気がついた方もいらっしゃるかもしれないんですが、本編の変更がないので、遅れてお知らせ致します。




