空に消えた恋情
タリス父の話なので、暗い話が嫌いな方は読み飛ばしてください。少し話も前日と被りますし長めです。
こんな設定って感じで読んでもらえたらと思います。
読んでなくても本編に影響はほとんど無い予定です。
明日からレイローズの話に戻ります。
また、リオンとタリス書き間違えてました。
(*´-`)
ご指摘感謝します。
愛しい人をこの腕に抱く。何度も肌を重ねた愛しい人。きっと、もう2度と叶わない願いを抱きながら。
ずっと、貴女と過ごしたい。
「どうして、1年も連続して私を買うの?一体、貴方、本当にどこの誰なの?」
美しいメアリージュ。私が愛した人。
情事が終わり、帰る間際になって彼女は尋ねた。私から説明しようと思ってたんだが。
「クランチャードの庶子、カルファ」
静かに答えた私に、彼女が驚いて目を見開いている。
「貴方、何を言ってるの?」
「信じられない?私はあの処刑された男の2番目の弟だ。会ったことも無いがね。」
「それでは、私を買ったのは??」
彼女の困惑が伝わる。
「貴女に、私の子を産んで欲しいんだ。」
「何を馬鹿な事を。」
すぐに否定されるなんて、わかっていても、傷つくものだな。
「貴女の中に、私との子供がいるから。」
彼女がビクリと震える。
「嘘でしょう?」
そう言って、黙り込んでしまった。
「貴女を、愛している。でも、私にはもう時間が無い。」
「どういう事?」
「私はもう直、王家によって消されるだろう。」
「何を何を言っているのよ。やめてよ。大体、避妊してるわ。出鱈目を言わないで頂戴。」
キッと睨みつける青の瞳。宝石のように煌く瞳。優しく、彼女の手を取る。
「すまない。薬の効果は消させてもらった。」
私の言葉に彼女の指先の震えが伝わる。
「出来る事なら、もっと、君と過ごしたかった。」
自然と口から出る本心。
彼女は、俯いて私を見ない。
「勝手な願いだとは十分理解している。それでも、君にしか頼めない。お願いだ。そのまま、産んでくれないか?」
「本当に、勝手な男ね。」
私を真っ直ぐに見て、彼女が言う。
「王家はもう、この国で我が家が果たしていた役割を理解していない。このまま私がいなくなってしまえば・・・血脈が消えれば、我が家が継承してきた術が失われ魔力の均衡が揺らぐ。国だけでなく、この世界の理を支えるものがいなくなる。我が家は、この世界の魔力の安定を司ることを使命としてきた。もしかしたら、その理由を跡継ぎだった兄は知っていたかもしれないが、どうしてそうなっているのか私は知らない。」
「アンタが出来なかった事をこの腹の中の子1人に背負い込ませる気?」
「本当に、申し訳ないと思っている。だが。直系の子供に伝えられて来たんだ。私は兄のスペアでしかなかった。まさか、私が本当にスペアの役割を果たす時が来るなど思ってもいなかったんだ。こんな事になるなら、もっと準備をするべきだったんだ。」
本当に。悔やんでも悔やみ切れない。訳の解らない焦燥と彼女が受け入れてくれるのか?という緊張感が私を苛む。
「だから、私に魔力があると気がついて、私を指名したの?」
「そうだ。魔力持ちの者との間に生まれた者にしか、術は伝えられない。」
「ふざけんじゃないわよ。馬鹿にしてるの?確かに私にはなぜか知らないけど魔力があるわよ?でも、魔術が使えたことなんてない。低民の、たまたま魔力が出た者ってだけで魔術を使うほどの力はないのよ。魔力を宿しただけだと言われたわ。だから、何にも使えないとわかって口減らしに母に売られたのよ。どうしてあんたの勝手に私が付き合わないといけないの?」
怒って睨みつけて来るその姿ですら、愛おしい。
「確かに、始めは君の魔力しか見なかった。だが、後継を考えると同時に、私はずっと、この世界が崩壊してしまってもかまわないような気がしていたんだ。迷いながら君と何度か逢ううちに、君に惹かれていった。…ねえ、君を、愛している。信じてもらえないかもしれないが。私が死んでも、君が住むこの世界が壊れてしまわないように、手を尽くそうと思えたんだ。」
「私には、アンタの家がやっていた事なんて理解出来ないわよ。」
フイと横を向く彼女。多分、これは照れている。あまり喜びを出さない彼女の愛情表現。
思わず、笑みがこぼれる。
こんな、時なのに。
「大丈夫だ。私たちの子が理解する。そのための力を貯めている。多分、私と君が逢えるのは今日が最後だ。これ以上逢ったら、監視に疑われてしまう。だから、私たちの子供が12歳を越えて、ある程度身体が大きくなったらこの腕輪を渡してくれないか。きっと、僕が世界に施した術は15年、もっても20年。この子が成人する位までだ。その後、この子がこの世界を継続させるのか決めるだろう。私は、君に生きて欲しい。」
彼女の左腕に、金の細い腕輪をつける。
彼女の中の小さな命に、腕輪を発動させる為の術をかけ、最大限の加護を付与する。
「君は魔力を身体に宿していて。だから、その魔力が君をより美しく見せている。君の住む世界が辛いことも多いんだとわかっている。でも、その中で、そんなに美しい魔力の輝きを持った者を見た事がない。知っているかい?魔力には色や匂いや柔らかさがあることを。それは、その人のもつ魔力の性質だけでなく、内面からあふれるその人の生き方にも影響を受けるんだ。君は、本当に美しい。できることなら、ずっと君と共にいたかった。君と出会ってわかったんだ。禁術とされてしまった術を使った兄の気持ちが。私も、本当は君と繋がりたかった。だが、大きな術を使うと監視にばれてしまう。この会話を聞かれないように結界を張って、腕輪に力を貯める位が、今の私に出来る限度なんだ。」
そのまま、彼女を抱きしめて髪をなでる。
艶やかな柔らかい髪。
もう、この人に触れられないなんて…
「ねえ。メアリージュ。狂おしいほどに君を愛している。君と、私の子の為に、もう、私たちが会うことはかなわない。でも、知っているかい?人は輪廻の中で何度も巡り逢っているということを。次にこの世に生を受けたときは君を必ず迎えに行くよ。私は、きっと君の元に行く。自分勝手なのは百も承知だ。君の幸せをずっと願っている。」
「馬鹿な男ね」
そう言う彼女の口調は、いつも通りで。
「そうだね。この腕輪に何とか私の持つ知識のすべてを刻んでいる。だから、この腕輪だけは肌身離さず、この子に渡して。それから、この銀の腕輪を君に。小さな魔石が付いているから、君を悪意から守ってくれる。君が必要ないと思えたら、この子に渡してくれてもいい。もう、時間が無い。私は、この後はこの世界の安定に力を注ぐ。馬鹿な王家が私も消そうと何度も暗殺者を放っているから、いつか、私は病死か事故ということでこの世から消えるだろう。でも。もし、私の死を知っても、君は悲しまないでくれないか。次の世で会うための準備を先にしに行くだけだ。君がこの世を去るまで、私は一緒にいられなくても君を守る。ああ。ごめん。メアリージュ。本当に、君を愛しているんだ。君と、君が産んでくれる僕の息子に、幸多からんことを祈るよ。」
銀の腕輪を彼女の腕につけても、返されなかった。
「どうして息子だってわかるのよ?」
どうやら私は、とっても呆れられたみたいだ。
でも、否定されない事に、腕輪を返すと言い出されない事に安堵する。
「うーん。何となく。」
「馬鹿。」
「うん。ありがとう、メアリージュ。君と逢えて本当によかった。愛している。大好きだ。」
「そうね。私も、貴方のことは嫌いじゃなかったわ。」
「うん、知ってる。」
「本当に嫌な男ね。」
そう言いながら、うんざりと言う表情をしながら、静かな覚悟を感じる。
「本当に最低な男だよね。でも、こんな私の我が儘につきあってくれてありがとう。」
「ええ。」
「さようならは言わないよ。また、逢おう。」
「そうね。」
そう言いながら、はらはらと流れ落ちる彼女の涙。
とても綺麗で。理性が壊れそうになる。
最期の別れだ。
彼女に、触れるようなキスをする。
「行くわ。」
そう言うと、静かに立ち上がり、荷物を取る。
部屋を出る時、一瞬だけ、彼女が振り返った。
その姿を、ずっと脳裏に焼き付けておこう。
子供の頃から、私は父から遠ざけられた存在だった。
侯爵家の別荘を管理する執事の息子として育てられ、何の疑問も思わなかった。
両親は、愛情を持って接してくれた。
血の繋がりがあるのは、両親が仕えていた旦那様であり、旦那様が生物学的に父であると知った時も、すぐには信じられなかった。
何かの間違いでは無いのか。
しかし、それは、その淡い期待は強い魔力の発露とともに失われた。
父は魔術の名門侯爵家の当主だった。
母については、詳しく事は教えてもらえないままだった。ただ、貴族家の娘だと。
そうして、正妻の子では無い私は、庶子でありながら、それすら認められず、執事の子として戸籍に入れられていた。
髪色が似ているというだけで、彼等に預けられたのだ。
私の魔力は必要以上に漏れ出す事が無いように、部分的に封じられた。
別に、それはどうでもいい。
しかし、8歳になった夏から、月に1回、父が魔術の訓練に来るようになった。
それが、非常に苦痛だった。
限界まで魔力を上げられ、身が引きちぎられる感覚。
意識を失っても、強制的に覚醒させられ、また訓練を課される。
何故、訓練後は魔力は封じられるのにそんな事をしなければならないのか疑問だった。
恐ろしくて、質問など出来なかったが。
その答えをもらったのは、16歳の春だった。
一族として、世界の魔力の安定を維持する事が古くからの定めだと。次代は、義理の兄である長兄が継ぐと。
では、何の為に自分が訓練を受ける必要があるのか。
「予備だ。」
たった一言で私の存在は表現された。
つまりは、私は、兄に何かあった時の代替だと。
本来、その役を担う筈の次兄は、同じ父の子であり、正妻の子であるのに、魔力が低かった為に、その役割を担えなかったと。
今更、何かを父に期待などしていない。
ただただ、これ以上の接触を持ちたくなかった。
父も、もし長兄に何か起こっても、その時に教えたら良いという考えだったのだろう。魔術の訓練以外は全く口出しをされなかった。と、いうより、関心が無かったのだろう。
この世の魔術の理を知る。
つまらなかった。
そんな事は、どうでもよかった。
20歳になった頃には、必要な最低限の知識は伝えたとして、父侯爵は来なくなった。封魔も自分でコントロール出来た為、父から抑えられる事もなくなっていた。
侯爵家夫人は、私の事を知っているのか、別の別荘に行っても、私がいる別荘に立ち寄る事は無かった。
きっと、これからも関わる事など無いと思っていたのに、20歳の冬に、あの、忌々しい事件は起きた。
長兄が、王家の姫に懸想し、魂を結びつける魔術を自分と姫にかけてしまった。ものの1週間で姫は弱り果て、1ヶ月後には発狂して自分の魂を砕いて亡くなった。
長兄は直ぐに処刑。
本来、強い力を持ってた筈の長兄は、多分、姫が魂を砕いて存在自体を壊してしまったことで、放心状態となり、何の抵抗も無く何も話さず処刑されたと聞く。
父など、直系の一族は、牢に囚われた。
私は戸籍が執事の子であり、囚われる事は無かった。ただ、それ以降、父と連絡は途絶えた。
果たして、それが吉であったか、凶であったか。
数日は世界は安定していた。だが、わずか数日で、空気中の魔素が狂い出したのに気がついた。
ありとあらゆる所にいた精霊達が姿を消しはじめる。
仕方なく、魔力を安定化する術を使い始めた。だが、何故こんな事をしなければならないのだろうかと考えていた。
予備
その言葉が重くのしかかる。
父の言う通りにするならば、子を作って、この力を次世代に残さなければいけない。
どうしてそこまで。そう、考えているうちに1ヶ月が経った。
ちょうどその頃だった。やけに視線を感じる。ああ。きっと、何処からか私の出自がバレたのだと、何となく悟った。
時折、どうやっているのか、自分の食事に毒が混入される事が出てきた。
夜に、王都までフラフラと行くようになったのはそれからだ。
初めは、王城の様子を伺う為に意識を飛ばした。王城の結界は容易にすり抜けられ、囚われ、幽閉となった親族を徐々に消すように動いている事を知った。
貴族家だから、徐々に、真綿で締めるように。姫を殺した一族の存続を許さないという王家の怒りは強かった。
やはり、私の出自はバレていた。ただ、捕らえる手間より消してしまった方がいいという判断だった。
悩みながら、後継者を作る為の相手を探した。だが、庶子の私が貴族家の娘との間に出来た子であったように、魔力持ちでないと子に伝承は出来ない。
貴族家の娘とこの状態で恋仲になるなど無理で。子を堕されてしまったら、意味がない。しかし、平民にはまず、魔力持ちは居ない。
そんな時、ふと見つけたのがメアリージュだった。グランルージュの高級娼婦。
いいところの金払いのいい貴族のボンボンのお忍びとして、彼女を抱いた。慣れてくると、宿に呼び寄せた。
凛とした女性だった。始めは魔力しか見ていなかったが、数回会っただけで彼女に惹かれて行く、溺れていく自分が恐ろしかった。
彼女と離れたくはない。だが。既に日中、それから夜間の屋敷の出入りも監視され、事故を装い私の存在を消そうとする者がウロついている。
もう、時間が無い。
自分が、いなくなったら、この世界は崩壊に向かうのか。それでは、彼女も無事ではいられまい。
そう気付いてからやっと、覚悟が決まった。
彼女を抱く時に、コッソリと魔力を使って彼女が使用している避妊薬を無効化する。
父から多額の金銭を渡されていたが、どうせ居なくなってしまう私の財産など、どうでもよかった。
まずは、その日のうちに、彼女を1ヶ月、買い上げた。
買い上げた癖に、3日に1度程度しか呼び出さない。呼び出せない。
頻回に出ると、抜け出す為の地下通路がみつかってしまうから。
「馬鹿なんじゃないの?」
呆れ顔で、そう、言われた。
そして、1ヶ月も経とうとする頃、私は彼女の中に、違う魔力が生じた事で、子を授かったのを知った。
私は本当に愚かだ。どうして、監視のついていなかったあの1ヶ月を無為に過ごしてしまったのか。
悔いても。もう、時は戻らない。
私に出来る事は…………
結局、私はそれからの彼女の身を1年間と少し買った。
残念ながら、身請けする程の金額は持っていなかったからだ。
彼女が高級娼婦でなく、普通の娼婦なら、身請けも可能だったのだろうが。
何故1年も買ったのか?と尋ねる彼女に、彼女自身が気付いていない妊娠を告げる。
そして、心から愛の告白と、謝罪を。
小さな命に、時が満ち、一定量の魔力を得ていたら私の残した知識の受け皿になるよう、メアリージュの腹部に手を添えて術を施す。そして最大限の防御を付与する。
ああ。愛しているよ。何物にも変えられない君の存在が、この世で輝いていられますように。
君と、私の息子がこの世界でつつがなく暮らせるように。
二度と今生で逢う事が叶わなくても。
私はある精霊と契約をした。それは、通常の魔術師が扱う事のできない、魔力そのものの総意にあたる存在。理由は知らないが、クランチャードと共に存在するもの。もし、私の身体が死する時は、肉体に残った魔力全てを、精霊に譲渡する。その対価として、メアリージュと子を守ると。
高位の魔術師は、膨大な魔力を持っている。人に殺されるより、直前にトドメをさしてもらって精霊に力を渡す事にした。
そして、世の理を正し、なるべく長く世の魔力が安定するように、魔道具や、人が既に忘れた遺跡(精霊から教わった)などに術を施した。
最近は、日に何度も露骨に毒を入れられ、事故に見せかけて殺害されようとする。
ねぇ。私ももう、限界なようだ。
意識を飛ばし、風の精霊の眼を借りてメアリージュと、その膨らんだお腹を見る。
愛している。愛しているんだ。それなのに、それなのに…。
終わりは突然やって来る。とうとう、相手は育ての親に手を出したらしい。
母に声をかけられ、注意が逸れたその一瞬に、父から背中から斬り付けられ、両親が魔術で繰られている事に気づく。痛みで一瞬、訳が解らなくなる。
赤く染まった刃が見える。気がついても、遅い。これはもう無理だなと、冷静に思う。
父さん、母さん、ごめん。巻き込んでしまった。
このまま術が切れたら、血で染まった自分の手を見たら2人は悲しむだろう。衝撃の魔法と浄化の魔法で両親の記憶を飛ばして周囲を浄化する。
ドサリと倒れる2人。
ああ。目が霞む。
寒い。
自分の身体から温かな血液が流れ落ちていく。
来い。来い。精霊よ。
今こそ本契約の時だ。
もう、身体の感覚が無い。
『契約の通りに貰い受ける』
ゾクリとして、何かに身体の奥底を掻き回される感覚。流れ出る魔力。
『…その方の魔力の質の良さに鑑みて、お前も契約条件の場に連れて行ってやろう』
ドサリと自分の身体が床に落ちる。その、落ちた身体を眺める自分。
向き合った精霊が鮮明に見える。ああ。間違い無く、私の生が終わったのだと理解する。
美しい精霊。言葉に表せない程の神々しさ。全てを超越した存在。
ふわりと微笑んでその手が伸ばされる。
目の前に、メアリージュがいる。ああ。愛する人よ。
メアリージュが、ふと、私が送った金と銀の腕輪を撫でる。
抱きしめる事の出来ない腕で彼女を包み、頰にキスをする。
ありがとう。
声にならない声でメアリージュと精霊に礼を言う。
『正しく契約は履行される』
『人の子よ、ゆっくり休むがよい』
人ならざるものの言葉が、世界を震わせ
そして、1人の魔術師が静かに消えた
同時に、東大陸からほとんどの精霊が消える。
クランチャードの前侯爵が幽閉され、囚われており、原因を突き止めようとしたが、魔封じにより何の魔力も使用していない事が解っていた為、王家には何の手立ても無かった。
世界は、明らかな異常を感じつつ時を刻む。




