番外・タリス・5
とても寒くなってますが、皆さん、体調大丈夫ですか?インフルも流行ってるみたいなので、お体にお気をつけて。
一見、何も変化の無いように見える月曜日。
だが、確実に変わっていると感じた月曜日。休み時間になると、今まで、話しかけて来なかった者が話しかけてくる。教師が必要以上に親切にしてくる。
これが、リオンの言っていた保護下に置くと言う事か。
先週1週間、ほとんどべったりだった班員が、若干、僕を手元から離した途端、急に僕に接触を図ってくる。これが権力に群がるという事だろうか。僕は今、リオンやカイウスにつながる道具だと思われているのだろう。
全く。馬鹿馬鹿しい。彼らの顔は忘れないようにしようと思った。この中に、本当に僕に好意を持っている者なんて何人いるんだろう。多分、ほとんどいない。蚊帳の外から僕をみている級友の方がまだ信じられるような気がしていた。
放課後、家の整理があるだろうと、生徒会の仕事は免除されて、アルスの帰りの馬車に乗せてもらって新しい家に帰った。
まだガランとしたした室内。必要最低限の物は元からあったので、書籍と身の回りの品を整理すれば終わりだと思っていた。大きめの箱が4つ。開けてみると、3つは僕の私物で、1つは食料品や洗剤など、今日、買いに行こうと思っていた物が詰まっていた。
気遣いがすごいな。素直にそう思う。
私物のうち、2つは書籍やノート。
1つが衣類。
ふと、その衣類の箱の横に見覚えのない封筒があることに気がつく。
やや、厚みのある封筒。
開けてみると、手紙と、母がいつも左手首にしていたシンプルな銀の腕輪。
どうして?小さな魔石がついている腕輪は大事なお守りだと言って、絶対に外したことは無かったのに。
手紙を開く。
そこには簡潔に
これはあんたの父親からもらった物だから譲る。
形見みたいなものだろうから、大事にするように。
それだけ書かれていた。
お守りだと言っていた。それは、父の形見だったと??
それでは母は父を少なからず想っていたのだろうか。
無意識に左手にはめた腕輪を触る母の癖。癖だと思っていたけれど。母は腕輪を触りながら何を思っていたのだろう。
母がしていたように、左手にはめる。ああ。そうか。父の。男性用だから、こんなに大きめの腕輪だったんだな。
そう思った瞬間。腕輪から、魔力が流れ込む。
これは。
この感じは。
目の前に、きっと若かった頃の母が見える。
『勝手な願いだとは十分理解している。それでも、君にしか頼めない。お願いだ。そのまま、産んでくれないか?』
その声は。今の声は・・・。
『本当に、勝手な男ね。』
よく聞き慣れた母の声。
『王家はもう、この国で我が家が果たしていた役割を理解していない。このまま私がいなくなってしまえば・・・血脈が消えれば、我が家が継承してきた術が失われ魔力の均衡が揺らぐ。国だけでなく、この世界の理を支えるものがいなくなる。我が家は、この世界の魔力の安定を司ることを使命としてきた。もしかしたら、その理由を跡継ぎだった兄は知っていたかもしれないが、どうしてそうなっているのか私は知らない。』
『アンタが出来なかった事をこの腹の中の子1人に背負い込ませる気?』
『本当に、申し訳ないと思っている。だが。直系の子供に伝えられて来たんだ。私は兄のスペアでしかなかった。まさか、私が本当にスペアの役割を果たす時が来るなど思ってもいなかったんだ。こんな事になるなら、もっと準備をするべきだったんだ。』
『だから、私に魔力があると気がついて、私を指名したの?』
『そうだ。魔力持ちの者との間に生まれた者にしか、術は伝えられない。』
『ふざけんじゃないわよ。馬鹿にしてるの?確かに私にはなぜか知らないけど魔力があるわよ?でも、魔術が使えたことなんてない。低民の、たまたま魔力が出た者ってだけで魔術を使うほどの力はないのよ。魔力を宿しただけだと言われたわ。だから、何にも使えないとわかって口減らしに母に売られたのよ。どうしてあんたの勝手に私が付き合わないといけないの?』
キッと、涙目で睨み付けてくる母。
『確かに、始めは君の魔力しか見なかった。だが、後継を考えると同時に、私はずっと、この世界が崩壊してしまってもかまわないような気がしていたんだ。迷いながら君と何度か逢ううちに、君に惹かれていった。…ねえ、君を、愛している。信じてもらえないかもしれないが。私が死んでも、君が住むこの世界が壊れてしまわないように、手を尽くそうと思えたんだ。』
『私には、アンタの家がやっていた事なんて理解出来ないわよ。』
『大丈夫だ。私たちの子が理解する。そのための力を貯めている。多分、私と君が逢えるのは今日が最後だ。これ以上逢ったら、監視に疑われてしまう。だから、私たちの子供が12歳を越えて、ある程度身体が大きくなったらこの腕輪を渡してくれないか。きっと、僕が世界に施した術は15年、もっても20年。この子が成人する位までだ。その後、この子がこの世界を継続させるのか決めるだろう。私は、君に生きて欲しい。』
母の左腕に、金の細い腕輪がつけられ、男性の手が母の腹部にあてられる。
ああ。僕は、間違いなく、望まれて生まれてきた。
脳裏に流れてくる記憶を見ながら涙が止めどなくあふれる。
『君は魔力を身体に宿していて。だから、その魔力が君をより美しく見せている。君の住む世界が辛いことも多いんだとわかっている。でも、その中で、そんなに美しい魔力の輝きを持った者を見た事がない。知っているかい?魔力には色や匂いや柔らかさがあることを。それは、その人のもつ魔力の性質だけでなく、内面からあふれるその人の生き方にも影響を受けるんだ。君は、本当に美しい。できることなら、ずっと君と共にいたかった。君と出会ってわかったんだ。禁術とされてしまった術を使った兄の気持ちが。私も、本当は君と繋がりたかった。だが、大きな術を使うと監視にばれてしまう。この会話を聞かれないように結界を張って、腕輪に力を貯める位が、今の私に出来る限度なんだ。』
母を抱き締めて、髪を撫でる父の視点。
父の母を想う想いが流れ込んでくる。
『ねえ。メアリージュ。狂おしいほどに君を愛している。君と、私の子の為に、もう、私たちが会うことはかなわない。でも、知っているかい?人は輪廻の中で何度も巡り逢っているということを。次にこの世に生を受けたときは君を必ず迎えに行くよ。私は、きっと君の元に行く。自分勝手なのは百も承知だ。君の幸せをずっと願っている。』
『馬鹿な男ね』
『そうだね。この腕輪に何とか私の持つ知識のすべてを刻んでいる。だから、この腕輪だけは肌身離さず、この子に渡して。それから、この銀の腕輪を君に。小さな魔石が付いているから、君を悪意から守ってくれる。君が必要ないと思えたら、この子に渡してくれてもいい。もう、時間が無い。私は、この後はこの世界の安定に力を注ぐ。馬鹿な王家が私も消そうと何度も暗殺者を放っているから、いつか、私は病死か事故ということでこの世から消えるだろう。でも。もし、私の死を知っても、君は悲しまないでくれないか。次の世で会うための準備を先にしに行くだけだ。君がこの世を去るまで、私は一緒にいられなくても君を守る。ああ。ごめん。メアリージュ。本当に、君を愛しているんだ。君と、君が産んでくれる僕の息子に、幸多からんことを祈るよ。』
『どうして息子だってわかるのよ?』
複雑そうな母の表情。
『うーん。何となく。』
『馬鹿。』
『うん。ありがとう、メアリージュ。君と逢えて本当によかった。愛している。大好きだ。』
『そうね。私も、貴方のことは嫌いじゃなかったわ。』
『うん、知ってる。』
『本当に嫌な男ね。』
うんざりという表情の母。
『本当に最低な男だよね。でも、こんな私の我が儘につきあってくれてありがとう。』
『ええ。』
『さようならは言わないよ。また、逢おう。』
『そうね。』
そう言いながら、はらはらと流れ落ちる母の涙がとても美しくて。
父が、母に触れるようなキスをする。
『行くわ。』
前を向いて毅然として言う母の美しさは壮絶で。
グランルージュの華と言われた母の絶頂期の美しさを垣間見る。
きっと、母が帰ってしまったからだろう。腕輪に残された記憶はそこで途切れていた。
途切れる瞬間に、骨格が僕とそっくりの、優しそうな眼差しをした男性がチラリと見えた。母が腕輪を持っていたから?きっと、あれが父なのだろう。
僕は呆然と涙を流しながらたたずんでいた。
父の思いが強すぎて。その愛の重さに引きずられるように、涙が止まらない。
僕が産まれる前に亡くなった父の想い。
関わることの出来なかった父の、きっと、父なりの僕への愛情の渡し方。僕が、この記憶を見る事を想定していたのだろうか。
そして、なぜ父から受け継いだ知識に、魔力の均衡を取る方法などという、よくわからない知識が入っていたのかを理解する。
そうか。世界の魔力を安定させるのか。何故それを担うのか、父すら知らなかった事。今となっては、理由は僕には知りようが無いのか。
まだ、20年経っていない。世界の魔力は安定している。きっと、父の術が、まだこの世界に残っているんだと思うと、父に守られている気がした。
ガタンと急に扉が開かれて驚いて振り返ると、リオン始め、班員全員がいた。
「なっ?」
驚く僕に、
「いちおう呼び鈴押して入ったんだが?」
とリオン。
「お前、本当にストレスため込み過ぎなんだよ。」
と呆れたように言うカイウス。
泣いていたのがバレバレで。あわてて涙を拭う。
皆で、引っ越し祝いに来てくれたらしい。 皆、沢山の生活物品をくれた。
僕、何も買わなくてもしばらく生活していけそうだ。
それから、僕は皆に寂しがり屋で甘えん坊みたいに思われてしまって、僕の家に班員がちょくちょく遊びに来るようになり、たまり場のようになった。
その後、数ヶ月で結界を自分で上手に張れるようになったのだが、その家のあまりの居心地のよさに、僕はずっと卒業後もその家に住んでいる。
引っ越した後は、あまりにも学院生活が楽しくて。あれは夢のような日々で。
そうそう、マルローはあの後、実技実習で魔力を制御出来ずに学院施設に損害を与える事を3回起こして、落ちこぼれの烙印を押されて3年時には3組落ちしていた。クラスが変わったので、それから接点は無い。
クードスは、宰相選抜の時に実力も無いのにしゃしゃり出てきて、独断で地方にめちゃくちゃな伝令を飛ばして国政を混乱させたとかで、公爵家で謹慎状態と聞く。
多分、リオン、気がついていても見ていたんだろうなぁ。
流石に、崖から落とされたのは今考えても酷かったから、いい気味だと思ってしまう僕がいる。
僕は、卒業後は希望通りに魔道具研究所に入った。それも、在学中、魔力を誤魔化す為に色々とリオンが協力してくれたお陰だ。
今はなかなか全員で集まる事は難しいけれど、皆、それぞれの場で生きていて。
時々、家に遊びに来てくれる。
大切な仲間達で。
そんな彼等も、順に結婚し、家庭を持っていく。
先日、リオンがやっと結婚した。結婚後に色々、ゴタゴタあったけど。想いあっていて、離れたく無いという彼らの素直な気持ちにクラクラした。
クランフォードの生き残りだと、とうとうバレてしまっていた。でも、必要に差し迫るまで胸に秘めていたリオンに感謝しかない。相変わらず、リオンは僕に優しい。
クランフォード没落の原因、父の死の原因ともなった術を、2人にかける。
まさか。僕がこの術を使うなんて思わなかった。
同時に、間違いなく、本来、この術を使う対象である2人の絆を結べる事に、内心で歓喜した。
初めて、クランフォードで良かったと思えた。
レイちゃんと一緒に幸せになって、リオン。
僕には、君に返しきれないくらいの恩がある。
班員で結婚していないのは、僕だけになってしまった。
僕には、まだ結婚しようと思える相手がいないけれど。
この世界で、どこかに待っているのだろうか。
いつか、会えるのだろうか。
皆に支えられて、やっと大人になった僕だけれど。
こんな僕でもいいと言ってくれるような女性がいるのだろうか?
「婆さんにならずに済んで結構だよ。」
リオンの結婚式とパーティーがあり、その時に会ったカイウスの息子が可愛いかったと話すと、煙草を吸いながら母が言う。
相変わらず、母はグランルージュのあの部屋に住んでいて、娼館の女達の面倒を見ている。
だいぶ歳を取ったが、その年代の女性達からすると、かなり美しいだろう。
確かに。母が孫を見てお婆ちゃんしてる姿なんて、想像つかないな。
銀の腕輪は、魔力を取り出した後しばらく僕が持っていたが、魔力を付与できるようになってから防御魔法を沢山付与して母に返した。
返すと言ったら、
「アンタまで、アタシに何かさせようってんじゃ無いだろうね?」
と言われてしまい、苦笑してしまった。
「僕の方が、貰いすぎだよ。」
と言うと、
「よく解ってるじゃないか。」
と、満足気に笑われた。
僕は、僕の大切な人達の為に。
今日も人知れず世界を安定に導く。
これにて、番外タリス終了です。
タリスの両親がどうやって監視の目をかいくぐって逢っていたのかは、タリスが知る事が出来ない為、タリスには謎のままです。
タリス母が芯のある人ですから。
まだまだ、甘ちゃんな時期のタリスの話。
今後は、本編でも出てきて活躍してくれる予定です。
明日は、タリス父の話、短編を投稿します。




