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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第2章・番外・リオンとタリス
22/63

番外・タリス・3

青春回

「おつかれさん。」

カイウスが声をかけてくる。

「ああ。皆、揃ったな。」

リオンに、皆が頷く。

「やあ、タリス、来れてよかったね。体調はもういいのか?」

レルノーの問いに笑って頷く。

「ああ。ありがとう。昼間は心配をかけて申し訳なかった。」

僕の返事に、

「何、遠慮してんだよ。」と、カイウスに小突かれる。


皆が笑う。


店員が、見計らったように、食事を次々にテーブルに並べる。

1人1人、きれいな皿に前菜から、小鉢が並べられていく。変わった料理を出す店だ。

「食べようぜ。」

カイウスの言葉に、「では、今日は皆、お疲れ様。食べよう。」とリオンが言う。

乾杯の後、「これ、旨いな」とか、「これ、ちょっと辛くないか?」とか、賑やかに話しながら食事をする。

話は自然と、今日の郊外演習の話になる。


僕を落としたパリッツアー公爵家三男クードス。最近、目に余るものがあるという。そのクードスの腰巾着が、レック伯爵家次男マルロー。

「クードスはどうにもならないが、マルローなら崩せるな。」

悪戯をする子供のように笑うカイウス。

「誰がやるよ?」

ラナスが尋ねる。

「じゃあ、運で勝負しよう。判定はタリス。」

リオンに皆が注目する。

「運?判定って?」

いきなり判定と言われても。僕にはさっぱり。


リオンが立ち上がって席を外す。皆、笑って、まあまあ、なんて言って、教えてくれない。

戻って来たリオンの手に一皿。

その上に、クリームを挟んだ小さな焼き菓子が5個。


「では、今回の負けは2人。食べて、香辛料入りの不味い菓子を手に取った者が負け。作戦の実行2人となる。誰に入っていたのかはタリスに当ててもらう。タリスに見破られた者は、明日の昼、特定ダッシュ(学院食堂の特別定食限定30食確保のために食堂まで走ること。)に参加して勝った班員および、タリスにおごること。タリスが1人も見破れなかった場合、おごり無しの、タリスが特定確保ダッシュでどうだ。」


ニヤリと笑うリオン。

「おっしゃ。やるぜ。」

「負けん。」

「香辛料の程度によるよなあ~。」

もう、次々、好き勝手に話している。

よく、こんな事してるんだろうな。何だよ。君たち、本当に貴族かい?特定とか。平民が確保に走るヤツじゃないか。

廊下を走ったらものすごい勢いで風紀委員に捕まりそうなのに。


「用意はいいか?」

順々に好きな菓子を手に取って、リオンが残りを手にする。せーの、で食べる。

平然とおいしかったよ、と、食べる者、むせる者。


リオン、平然と食べる。

カイウス、苦しそうな表情。

ラナス、むせる。

クラウス、笑顔。

レルノー、笑顔。

アルス、引きつった笑顔。


「では、タリス、誰がハズレを引いたのか当ててみて?」

くくっと、リオンが笑う。

リオン、こんなに楽しそうに笑うのか?ちょっとそこに驚く。

「えーと。アルスは、ハズレだよね?」

だって、食べてすぐに魔力が揺らいだもの。 きっと、苦しかったんだね。

「ぐあー。ばれたか。」

アルスがテーブルに突っ伏す。

「あと、もう1人・・・?」

誰も、魔力が揺らいだものがいない。カイウスは魔術はそんなに得意じゃないから。じゃあ。平然としてそうなのって、リオン??

「リオン、かなあ?」

「えっ?マジ?」

カイウスが即座に反応する。

「降参。すごいねタリス。私が負けたの初めてだよ。」

リオンがお茶を飲みながら苦笑いしている。

「ちょと待て。タリスが2人当てたってことは、特定ダッシュは全員負けじゃないか。」

ラナスが突っ込む。

「よし、明日は仲良く6人で特定ダッシュしようぜ。」

カイウスがニヤニヤ笑って言う。


「カイウス。この間、1人負けで、風紀に捕まったからって、全員ダッシュは無いだろう。」

レルノーが突っ込む。


負けたのか、カイウス。そして、やっぱり捕まったのか。風紀委員に。

「誰が1番に到着するか競争しようぜ!」

拳を握るカイウス。

リオン「馬鹿だな。」

アルス「うん。」

レルノー「同意。」

クラウス「同じく。」

ラナス「死んでも治らないヤツ。」


「本当に、仲いいよね。」

つい、笑みがこぼれる。

「ああ、いつも、こんなもんだぞ。リオンとか結構面白いこと言い出すからな。この賭けもリオンが始めた事だし。」

カイウスが笑う。

「んー。さすがに、6人ダッシュはひどいな。じゃあ、全員負けだから、明日の昼は食堂の季節定食(当日朝まで予約可の豪華版定食)を皆で食べて、皆でタリスの分を出す、で、どうだろう。」

考えながら言ったリオンの言葉に、皆が賛成する。カイウスだけ、しぶしぶ賛成している。


面白い。本当に面白いよ、君達。

わくわくしてしまうのは、こんなに心が明るくなるのはなぜだろう。


で、僕の為に伯爵家のマルローに仕返しをする実行犯に、リオンとアルスとなったようだ。別に、平民だし、嫌がらせとか慣れてるし、いいんだけれども。

と、言うか。仕返しって何するの?未定だと言われてしまったけれど。

でも、そうやって、味方になってくれる彼らの暖かさが、心地よくて、素直に嬉しい。


楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

食事会はお開きになり、皆、各々、迎えが来て帰る準備を始める。

さあ。僕はどうしよう。


急に現実が押し寄せる。


僕は、どこに行こう。


いつもの娼館の奥の部屋、身体になじんでしまった勉強部屋にも帰れない。


「タリス、君は、私と来るんだ。連れてきた責任があるからな。」

リオンがそう言った。


「えっ?いや、いいよ。」

僕がそう言っても、皆に、いいから、リオンの言うとおりにしなよ。と、言われ、リオンの侯爵家の馬車に押し込まれてしまった。

付いてきたカイウスが、ニッと笑う。

「リオン、頼むぜ。」

「ああ。」

「タリス、リオンの言うこと聞いておけよ。絶対、悪いようにはしないからな。」

そう言い残して、カイウスが馬車のドアを閉める。

馬車が動き出す。


「・・・どこに?」

「私の家だが?」

普通に答えるリオン。

「ちょっと待って。僕、降りる。降ろして。」

「カイウスに、私の言うことを聞けと言われただろう。すでに、君の母君にも、今日は我が家で預かると伝令を送っている。心配はするな。」


頭を殴られたような気がした。

「待って・・・。母に伝令って・・・。君?」

「君の反応は、まるで、私が誘拐犯のようだな。同級生の家に泊まるぐらい、別にどうもないだろう?」


頭が真っ白で、返事が出来ない。

「全く・・・。君は、昼間も思ったが、しっかりしているようで、本当に危なっかしいな。馬車だから、すぐに到着する。詳しくは、私の部屋で話そう。」

リオンがため息をつく。


連れて行かれた僕は、あっという間に侯爵家に到着し、大きな扉の玄関で馬車を降ろされた。


気後れする間もなく、執事やメイドなどが数人、出迎えに来る。

貴族ってすごいな、と、ただ、そう思った。


リオンの後から屋敷に入る。リオンが使用人達と話をする。

しばらく、リオンの部屋で話す間に、僕が泊まる部屋を用意してくれるようだ。


「こっちだ。」

そう言うリオンについて行く。


娼館も、内装は綺麗だが、やたら華美で毒々しい。あれは客商売だ。

落ち着いた建物内の雰囲気と高貴さに、自分がいかに不似合いかを痛感する。


廊下を歩いていると、何人かの使用人とすれ違い、礼を取られる。

「ただいま帰りました。」

急にリオンが話すから、ハッとしてその相手を見ると、使用人ではなく、美しいドレスを纏ったご婦人がいた。

「あらあら。リオンがお友達を連れてくるなんて、カイウス以来だわ。嬉しい事。リオンの母で、クラリッサと申しますの。リオンの事、よろしくね。」

うふふと屈託無く笑う侯爵婦人。

「タリスと申します。大変お世話になっております。」

礼をとる。家名を名乗らないから、平民だと伝わるだろう。

「畏まらなくてもいいのよ。自分の家と思って過ごしてくださいな。それでは、またね。」

「母上。彼は、学院の同じ班で、とても優秀です。今後、時々こちらに来ますので、よろしくお願い致します。」

リオンが言う。

時々、僕が来るようになる?って、どういう事だ?

「わかったわ。」

そう言いながら、去って行かれる。


黙ったままリオンが歩き出す。

リオンが1つの部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。

「ここだ。」

続いて入る。

白い壁に青い装飾の落ち着いた部屋。

「聞きたいことがあるだろう。まあ、座ってくれ。」

促されるままに、指定されたソファに座る。


「さて。何から話そうか。タリス、君は、何が知りたい?」


「リオンは、僕の事をどこまで知っている?」

僕の頭の中は混乱している。わからない。どうしてこんな事になっている?彼の、リオンの真意は?


「君の経歴は把握済みだ。君は勉強ばかりしているから、とても情報量が少ないが。学院までの入学のいきさつは公になっているから、特段何もないな。住所は花街にあるグランルージュ。表向きはグランルージュの養い子という事だが。君の母上はメアリージュ。数年前までとても人気のある女性だったようだな。君は学業で、母上は金で低民から抜け出し、平民となった。」

流れるように話される僕の情報。


「知っていて、僕を助けたのか?」

余計に意味が、わからない。

この国で、低民からやっと平民になった者は、同じ平民からでも蔑まれるというのに。


それに、母の子であることは、オーナーと古い娼婦の女数人しか知らない筈だ。養い子だと通しているから。

なぜ。なぜバレたのか。


「出自に興味は無い。君は優秀である。私より、魔術においては実力は上だ。それは間違いないだろう?」

出自に興味が無い…?


「…魔力が君より多いのは、間違いないよ。失敗したなあ。去年、6橋で気がついたの?あれ、本当は僕が手を出さなくても良かったよね。」

「そうだな。」


「それから、僕の事を調べた?」

「ああ。情報収集は貴族としては当然だからな。」


「意味が、わからないよ。そんなことして、君に何の得があるんだい?それとも、僕の弱みを握って何かさせようとでも?」

「君は、好きに生きればいいじゃないか。魔道具を作りたいと言っていただろう。君が将来何になろうと、私の敵でなければ、それでいい。」


好きに、生きる?


固まったままの僕にリオンが話す。

「魔力量の誤魔化しようも、もっとあると思うのだが。あと、手っ取り早いのは、その為の協力者を作る事だよ。君のように、1人で抱え込んではボロが出やすい。今日の昼間がいい例だ。あのクードスがいくら公爵家だからと言って、上手く立ち回れば、マルローにしてやられる事は無かった筈だ。」


そうかもしれない。でも、どうすればいいのか、わからない。

「抱え込みすぎだ。そうだな。君、生徒会執行部の書記になれ。私は今、副会長で、カイウスも書記をしている。カイウスは書記とは名ばかりだがな。来年、役員交代すれば、私が会長、カイウスが副会長だ。君は書記を続けるといい。私についていたら、貴族のなんたるか、その対処法も学べるだろう。」


「何で、そこまで僕に・・・?」

「別に理由は無いが。」


理由が、無い?ますます混乱する。

「ああ。後、今日は、公爵家や伯爵家の馬鹿の手下がうろついていたから、君はずっと我が家の者で警護していた。6橋から動かないと言うんで、迎えに行ったんだ。」


何だよ、それ。何なんだよ。


今日、1日、ずっと僕の事を気にかけていたっていうこと?


僕の出自も知った上で?


熱いものが込み上げる。僕は嗚咽をこらえながら下を向いた。感情がぐちゃぐちゃで。もう、何がなんだかわからない。


リオンが立ったのがわかった。戻ってきたリオンに、タオルを差し出されて、また泣いた。僕は、子供の時から、泣いた記憶がない。泣くとは、こういうことなのかと、そんなことを思いながら、ぐちゃぐちゃな感情のままに泣いた。


「全く。その様子では、客間への移動もできないではないか。その状態では廊下も歩けないだろう。」

ふっと、リオンがため息をつき、部屋を出て行った。


廊下で、人の話し声がする。しばらくすると、リオンがお茶を持って戻ってきた。

黙ってお茶を飲んでいるとリオンが言う。


「貴族としては、情報を知ることは当たり前の事で、その情報収集能力は家によって異なる。君の個人情報を調べた事は謝ろう。だが、貴族とはそういうものだという事も理解しておいてくれ。君は、今日、目立ち過ぎた。きっと、公爵家からも間者が送り込まれ、調べられる。もし、君が母君とのことを詮索されたくないならば、しばらく家を借りて住まいを移したほうがいい。母君との会話は、多分、魔術などを駆使して盗み聞きされる。君が上手に防いでも、君がいない時に、日々の生活の中で、絶対に周囲がボロを出す。もちろん、君が周囲に知られても構わないのなら、このままでいいと思う。」


優しいのだな、と、思った。

リオンは、本当に僕を心配してくれている。

「わかった。家を、出るよ。」

涙は止まっていた。きっと、情けない顔なんだろうけど。彼の提示する選択が、僕を守る為に必要なんだと理解できた。


気が抜けたのか、急激に眠気が襲ってきた。


「こっちだ。」

リオンに言われてついて行く。隣室にベッドが2つ。


「こっちを使え。あくまでも、簡易ベッドだがな。君が泣くから、こんなことになったんだ。寝間着はベッドの上にあるだろう。あっちの扉が洗面所だ。」

そのまま、もう、寝たいな。

「着替えろよ!今からその制服洗ってもらうんだからな!明日、皺のよった制服で学院に行こうなど、私の家に恥をかかす気か?」

追い討ちをかけるように、そう言われて、しぶしぶ用意された寝間着に着替えたのだった。


翌朝、パリッときれいになった制服が洗面所に置いてあった。脱いだ制服をどこに置いたのかも記憶に無いんだが。リオンはすでに起きて、もう着替えていた。

結局、リオンの寝室に泊めてもらったらしい。

「世話になりっぱなしで、もう、どうしていいかわからないよ。」


そう言うと、

「だから、生徒会の書記になるんだ。」

と、対価にならない対価を要求された。そんな1日の始まりだった。


シュークリームの中にカラシが、基本ですけどね!異世界ですから!


どうも、リオンとタリスの名前ををよく書き間違えてる模様です。

思い込んでるから、気がつかないのか。


妄想の方が先を行ってるので。


すみません。でも、何回も見直すより、次を書きたい病です。

本当に、誤字報告ありがとうございます。


年明けたら。数日おき更新になると思います。

それもこれも、カイウス嫁の話ばかり書いてるから。苦笑。


タリス恋愛書きたいんです。でも、時間軸が、この回避の延長にあるので、書けないー!!


回避は朝の8時更新に合わせてるので(時間にこだわりは無いんですが、なんとなく。)


8時に更新なかったら、今日は更新しないのかと思ってくださって結構です。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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