番外・タリス・3
青春回
「おつかれさん。」
カイウスが声をかけてくる。
「ああ。皆、揃ったな。」
リオンに、皆が頷く。
「やあ、タリス、来れてよかったね。体調はもういいのか?」
レルノーの問いに笑って頷く。
「ああ。ありがとう。昼間は心配をかけて申し訳なかった。」
僕の返事に、
「何、遠慮してんだよ。」と、カイウスに小突かれる。
皆が笑う。
店員が、見計らったように、食事を次々にテーブルに並べる。
1人1人、きれいな皿に前菜から、小鉢が並べられていく。変わった料理を出す店だ。
「食べようぜ。」
カイウスの言葉に、「では、今日は皆、お疲れ様。食べよう。」とリオンが言う。
乾杯の後、「これ、旨いな」とか、「これ、ちょっと辛くないか?」とか、賑やかに話しながら食事をする。
話は自然と、今日の郊外演習の話になる。
僕を落としたパリッツアー公爵家三男クードス。最近、目に余るものがあるという。そのクードスの腰巾着が、レック伯爵家次男マルロー。
「クードスはどうにもならないが、マルローなら崩せるな。」
悪戯をする子供のように笑うカイウス。
「誰がやるよ?」
ラナスが尋ねる。
「じゃあ、運で勝負しよう。判定はタリス。」
リオンに皆が注目する。
「運?判定って?」
いきなり判定と言われても。僕にはさっぱり。
リオンが立ち上がって席を外す。皆、笑って、まあまあ、なんて言って、教えてくれない。
戻って来たリオンの手に一皿。
その上に、クリームを挟んだ小さな焼き菓子が5個。
「では、今回の負けは2人。食べて、香辛料入りの不味い菓子を手に取った者が負け。作戦の実行2人となる。誰に入っていたのかはタリスに当ててもらう。タリスに見破られた者は、明日の昼、特定ダッシュ(学院食堂の特別定食限定30食確保のために食堂まで走ること。)に参加して勝った班員および、タリスにおごること。タリスが1人も見破れなかった場合、おごり無しの、タリスが特定確保ダッシュでどうだ。」
ニヤリと笑うリオン。
「おっしゃ。やるぜ。」
「負けん。」
「香辛料の程度によるよなあ~。」
もう、次々、好き勝手に話している。
よく、こんな事してるんだろうな。何だよ。君たち、本当に貴族かい?特定とか。平民が確保に走るヤツじゃないか。
廊下を走ったらものすごい勢いで風紀委員に捕まりそうなのに。
「用意はいいか?」
順々に好きな菓子を手に取って、リオンが残りを手にする。せーの、で食べる。
平然とおいしかったよ、と、食べる者、むせる者。
リオン、平然と食べる。
カイウス、苦しそうな表情。
ラナス、むせる。
クラウス、笑顔。
レルノー、笑顔。
アルス、引きつった笑顔。
「では、タリス、誰がハズレを引いたのか当ててみて?」
くくっと、リオンが笑う。
リオン、こんなに楽しそうに笑うのか?ちょっとそこに驚く。
「えーと。アルスは、ハズレだよね?」
だって、食べてすぐに魔力が揺らいだもの。 きっと、苦しかったんだね。
「ぐあー。ばれたか。」
アルスがテーブルに突っ伏す。
「あと、もう1人・・・?」
誰も、魔力が揺らいだものがいない。カイウスは魔術はそんなに得意じゃないから。じゃあ。平然としてそうなのって、リオン??
「リオン、かなあ?」
「えっ?マジ?」
カイウスが即座に反応する。
「降参。すごいねタリス。私が負けたの初めてだよ。」
リオンがお茶を飲みながら苦笑いしている。
「ちょと待て。タリスが2人当てたってことは、特定ダッシュは全員負けじゃないか。」
ラナスが突っ込む。
「よし、明日は仲良く6人で特定ダッシュしようぜ。」
カイウスがニヤニヤ笑って言う。
「カイウス。この間、1人負けで、風紀に捕まったからって、全員ダッシュは無いだろう。」
レルノーが突っ込む。
負けたのか、カイウス。そして、やっぱり捕まったのか。風紀委員に。
「誰が1番に到着するか競争しようぜ!」
拳を握るカイウス。
リオン「馬鹿だな。」
アルス「うん。」
レルノー「同意。」
クラウス「同じく。」
ラナス「死んでも治らないヤツ。」
「本当に、仲いいよね。」
つい、笑みがこぼれる。
「ああ、いつも、こんなもんだぞ。リオンとか結構面白いこと言い出すからな。この賭けもリオンが始めた事だし。」
カイウスが笑う。
「んー。さすがに、6人ダッシュはひどいな。じゃあ、全員負けだから、明日の昼は食堂の季節定食(当日朝まで予約可の豪華版定食)を皆で食べて、皆でタリスの分を出す、で、どうだろう。」
考えながら言ったリオンの言葉に、皆が賛成する。カイウスだけ、しぶしぶ賛成している。
面白い。本当に面白いよ、君達。
わくわくしてしまうのは、こんなに心が明るくなるのはなぜだろう。
で、僕の為に伯爵家のマルローに仕返しをする実行犯に、リオンとアルスとなったようだ。別に、平民だし、嫌がらせとか慣れてるし、いいんだけれども。
と、言うか。仕返しって何するの?未定だと言われてしまったけれど。
でも、そうやって、味方になってくれる彼らの暖かさが、心地よくて、素直に嬉しい。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
食事会はお開きになり、皆、各々、迎えが来て帰る準備を始める。
さあ。僕はどうしよう。
急に現実が押し寄せる。
僕は、どこに行こう。
いつもの娼館の奥の部屋、身体になじんでしまった勉強部屋にも帰れない。
「タリス、君は、私と来るんだ。連れてきた責任があるからな。」
リオンがそう言った。
「えっ?いや、いいよ。」
僕がそう言っても、皆に、いいから、リオンの言うとおりにしなよ。と、言われ、リオンの侯爵家の馬車に押し込まれてしまった。
付いてきたカイウスが、ニッと笑う。
「リオン、頼むぜ。」
「ああ。」
「タリス、リオンの言うこと聞いておけよ。絶対、悪いようにはしないからな。」
そう言い残して、カイウスが馬車のドアを閉める。
馬車が動き出す。
「・・・どこに?」
「私の家だが?」
普通に答えるリオン。
「ちょっと待って。僕、降りる。降ろして。」
「カイウスに、私の言うことを聞けと言われただろう。すでに、君の母君にも、今日は我が家で預かると伝令を送っている。心配はするな。」
頭を殴られたような気がした。
「待って・・・。母に伝令って・・・。君?」
「君の反応は、まるで、私が誘拐犯のようだな。同級生の家に泊まるぐらい、別にどうもないだろう?」
頭が真っ白で、返事が出来ない。
「全く・・・。君は、昼間も思ったが、しっかりしているようで、本当に危なっかしいな。馬車だから、すぐに到着する。詳しくは、私の部屋で話そう。」
リオンがため息をつく。
連れて行かれた僕は、あっという間に侯爵家に到着し、大きな扉の玄関で馬車を降ろされた。
気後れする間もなく、執事やメイドなどが数人、出迎えに来る。
貴族ってすごいな、と、ただ、そう思った。
リオンの後から屋敷に入る。リオンが使用人達と話をする。
しばらく、リオンの部屋で話す間に、僕が泊まる部屋を用意してくれるようだ。
「こっちだ。」
そう言うリオンについて行く。
娼館も、内装は綺麗だが、やたら華美で毒々しい。あれは客商売だ。
落ち着いた建物内の雰囲気と高貴さに、自分がいかに不似合いかを痛感する。
廊下を歩いていると、何人かの使用人とすれ違い、礼を取られる。
「ただいま帰りました。」
急にリオンが話すから、ハッとしてその相手を見ると、使用人ではなく、美しいドレスを纏ったご婦人がいた。
「あらあら。リオンがお友達を連れてくるなんて、カイウス以来だわ。嬉しい事。リオンの母で、クラリッサと申しますの。リオンの事、よろしくね。」
うふふと屈託無く笑う侯爵婦人。
「タリスと申します。大変お世話になっております。」
礼をとる。家名を名乗らないから、平民だと伝わるだろう。
「畏まらなくてもいいのよ。自分の家と思って過ごしてくださいな。それでは、またね。」
「母上。彼は、学院の同じ班で、とても優秀です。今後、時々こちらに来ますので、よろしくお願い致します。」
リオンが言う。
時々、僕が来るようになる?って、どういう事だ?
「わかったわ。」
そう言いながら、去って行かれる。
黙ったままリオンが歩き出す。
リオンが1つの部屋の前で立ち止まり、扉を開けた。
「ここだ。」
続いて入る。
白い壁に青い装飾の落ち着いた部屋。
「聞きたいことがあるだろう。まあ、座ってくれ。」
促されるままに、指定されたソファに座る。
「さて。何から話そうか。タリス、君は、何が知りたい?」
「リオンは、僕の事をどこまで知っている?」
僕の頭の中は混乱している。わからない。どうしてこんな事になっている?彼の、リオンの真意は?
「君の経歴は把握済みだ。君は勉強ばかりしているから、とても情報量が少ないが。学院までの入学のいきさつは公になっているから、特段何もないな。住所は花街にあるグランルージュ。表向きはグランルージュの養い子という事だが。君の母上はメアリージュ。数年前までとても人気のある女性だったようだな。君は学業で、母上は金で低民から抜け出し、平民となった。」
流れるように話される僕の情報。
「知っていて、僕を助けたのか?」
余計に意味が、わからない。
この国で、低民からやっと平民になった者は、同じ平民からでも蔑まれるというのに。
それに、母の子であることは、オーナーと古い娼婦の女数人しか知らない筈だ。養い子だと通しているから。
なぜ。なぜバレたのか。
「出自に興味は無い。君は優秀である。私より、魔術においては実力は上だ。それは間違いないだろう?」
出自に興味が無い…?
「…魔力が君より多いのは、間違いないよ。失敗したなあ。去年、6橋で気がついたの?あれ、本当は僕が手を出さなくても良かったよね。」
「そうだな。」
「それから、僕の事を調べた?」
「ああ。情報収集は貴族としては当然だからな。」
「意味が、わからないよ。そんなことして、君に何の得があるんだい?それとも、僕の弱みを握って何かさせようとでも?」
「君は、好きに生きればいいじゃないか。魔道具を作りたいと言っていただろう。君が将来何になろうと、私の敵でなければ、それでいい。」
好きに、生きる?
固まったままの僕にリオンが話す。
「魔力量の誤魔化しようも、もっとあると思うのだが。あと、手っ取り早いのは、その為の協力者を作る事だよ。君のように、1人で抱え込んではボロが出やすい。今日の昼間がいい例だ。あのクードスがいくら公爵家だからと言って、上手く立ち回れば、マルローにしてやられる事は無かった筈だ。」
そうかもしれない。でも、どうすればいいのか、わからない。
「抱え込みすぎだ。そうだな。君、生徒会執行部の書記になれ。私は今、副会長で、カイウスも書記をしている。カイウスは書記とは名ばかりだがな。来年、役員交代すれば、私が会長、カイウスが副会長だ。君は書記を続けるといい。私についていたら、貴族のなんたるか、その対処法も学べるだろう。」
「何で、そこまで僕に・・・?」
「別に理由は無いが。」
理由が、無い?ますます混乱する。
「ああ。後、今日は、公爵家や伯爵家の馬鹿の手下がうろついていたから、君はずっと我が家の者で警護していた。6橋から動かないと言うんで、迎えに行ったんだ。」
何だよ、それ。何なんだよ。
今日、1日、ずっと僕の事を気にかけていたっていうこと?
僕の出自も知った上で?
熱いものが込み上げる。僕は嗚咽をこらえながら下を向いた。感情がぐちゃぐちゃで。もう、何がなんだかわからない。
リオンが立ったのがわかった。戻ってきたリオンに、タオルを差し出されて、また泣いた。僕は、子供の時から、泣いた記憶がない。泣くとは、こういうことなのかと、そんなことを思いながら、ぐちゃぐちゃな感情のままに泣いた。
「全く。その様子では、客間への移動もできないではないか。その状態では廊下も歩けないだろう。」
ふっと、リオンがため息をつき、部屋を出て行った。
廊下で、人の話し声がする。しばらくすると、リオンがお茶を持って戻ってきた。
黙ってお茶を飲んでいるとリオンが言う。
「貴族としては、情報を知ることは当たり前の事で、その情報収集能力は家によって異なる。君の個人情報を調べた事は謝ろう。だが、貴族とはそういうものだという事も理解しておいてくれ。君は、今日、目立ち過ぎた。きっと、公爵家からも間者が送り込まれ、調べられる。もし、君が母君とのことを詮索されたくないならば、しばらく家を借りて住まいを移したほうがいい。母君との会話は、多分、魔術などを駆使して盗み聞きされる。君が上手に防いでも、君がいない時に、日々の生活の中で、絶対に周囲がボロを出す。もちろん、君が周囲に知られても構わないのなら、このままでいいと思う。」
優しいのだな、と、思った。
リオンは、本当に僕を心配してくれている。
「わかった。家を、出るよ。」
涙は止まっていた。きっと、情けない顔なんだろうけど。彼の提示する選択が、僕を守る為に必要なんだと理解できた。
気が抜けたのか、急激に眠気が襲ってきた。
「こっちだ。」
リオンに言われてついて行く。隣室にベッドが2つ。
「こっちを使え。あくまでも、簡易ベッドだがな。君が泣くから、こんなことになったんだ。寝間着はベッドの上にあるだろう。あっちの扉が洗面所だ。」
そのまま、もう、寝たいな。
「着替えろよ!今からその制服洗ってもらうんだからな!明日、皺のよった制服で学院に行こうなど、私の家に恥をかかす気か?」
追い討ちをかけるように、そう言われて、しぶしぶ用意された寝間着に着替えたのだった。
翌朝、パリッときれいになった制服が洗面所に置いてあった。脱いだ制服をどこに置いたのかも記憶に無いんだが。リオンはすでに起きて、もう着替えていた。
結局、リオンの寝室に泊めてもらったらしい。
「世話になりっぱなしで、もう、どうしていいかわからないよ。」
そう言うと、
「だから、生徒会の書記になるんだ。」
と、対価にならない対価を要求された。そんな1日の始まりだった。
シュークリームの中にカラシが、基本ですけどね!異世界ですから!
どうも、リオンとタリスの名前ををよく書き間違えてる模様です。
思い込んでるから、気がつかないのか。
妄想の方が先を行ってるので。
すみません。でも、何回も見直すより、次を書きたい病です。
本当に、誤字報告ありがとうございます。
年明けたら。数日おき更新になると思います。
それもこれも、カイウス嫁の話ばかり書いてるから。苦笑。
タリス恋愛書きたいんです。でも、時間軸が、この回避の延長にあるので、書けないー!!
回避は朝の8時更新に合わせてるので(時間にこだわりは無いんですが、なんとなく。)
8時に更新なかったら、今日は更新しないのかと思ってくださって結構です。




