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今井君は疲れている。  作者: なわたり
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1.怪獣な彼女

どうもなわたりです。昨日の今日で投稿です。

今日は今井君の出番は無し。そして『僕』の名前が明らかになります。

展開がどうしても早くなってしまうのが考えモノですね。。

短いですが、どうぞお楽しみください。

7月9日 午後



 今井君が先に家に帰ってしまい、僕は取り敢えず残っていた日直の仕事を片付けた後に下校した。

 

 高校から僕が普段使う最寄りの駅までは15分ほどかかる。暴力的に降り注ぐ日差しは駅前の通りを焼き尽くすかの勢いだったが、並木道になっていたので僕は銀杏の影になってる部分を縫うように歩いていた。

 

 この道は駅までのメインストリートだが、この暑さのせいか歩行者は少ない。通りかかるのはクールビズの期間にも関わらずネクタイを付けて首元が汗でぐっしょりと濡れている会社員や、日傘をさした年配の婦人。

 

 車の量も少なく、どこか街が廃れているように見えた。歩く人たちがこの暑さで参ってるのは顔を見ただけでわかる。それも関係しているのだろう。


 

 結局家に着いたころには1時前になっていた。帰りの道中に何か買おうと思っていたのだが、娯楽費として持ち合わせているお金を昼食で使うのは気が引けたので、家までずっと飲まず食わずだった。

 暑さで少しめまいがする。テレビをつけると番組は昼のニュースだった。どうやら12時の時点で34度。真夏日だ。それは暑いに決まっている。まだ7月の前半だぞ? これからもっと暑くなるのかと気が滅入る。 学校の往復で億劫になってしまいそうだ。


 冷房が効き始めた部屋の中で、僕は食パンをむしゃむしゃと食う。何もつけずにむしゃむしゃむしゃむしゃ。芋虫になった気分だった。美味しい食事を作れる人間がこの家にはいないので今では慣れてしまった。いつからかエネルギーを補給できればなんでも食べれてしまうようになり、味覚を退化の一途をたどっている。


 二枚目に突入したとき、2階から階段を駆け下りる音が聞こえた。怪獣の登場だ。芋虫が怪獣から逃れる術はない……。そしてリビングのドアが開く。


「おー、おかえりぃー。あれれ? 相変わらず寂しい飯だね」


 はいそうですね。誰かさんが料理をしないお陰で相変わらず寂しい飯ですよね。


「あのですね。起きてるのであれば作ってくれませんかね。そして弁当も作ってくれませんかね。家ならともかく、学校で食パン六枚切りをむさぼるのってかなり恥ずかしいんですよ」


 馬鹿みたいに暑い外の世界を歩いてきたことで溜まったストレスと、保護者のこいつが平日の昼間から自室でぐーたら過ごした挙句、ろくな飯も用意できず僕のこの貧乏学生のような昼食(実際に貧乏ではあるのだが)を見てあざ笑っていることに、心底腹が立っていた。


 ていうか下を着ろ。上は白のよれよれのシャツ。下がパンツ一丁て、もう弟として恥ずかしい限りですよ。


「ごめんね。料理の練習はしてるんだけど中々上達しないしさ。これ以上やったら食材が勿体ないなーって。サキ君だって私が生み出したモザイクをかけたくなる失敗作よりも、食パン、素パスタ、素うどん、白米みたなシンプルな飯の方がマシでしょ?」


 彼女は相変わらずへらへらしていて腹が立った。しかし、言っていることは存外、的を外してはいない。

 

 彼女の作る料理は、見た目からして人間の食べるものではない。食材をつくった方には申し訳ないが、あれはまるで家畜のえさだ。味もとても食えたものじゃない。食い続けたら、そのうち当たって死ぬと思う。


「わかったから。取り敢えずズボン穿いて。目のやりどころに困る」


 本音を言うと、目のやりどころになど全く困っていなかった。8年間も一緒に過ごしているんだ。もう彼女が家の中でどのような格好をしていたって全く問題はない。凝視だってできる。(しないが。)

 しかし、あまりにもはしたない恰好なので、身内として恥ずかしいのだ。23歳のほぼニート(女)がパンツ一丁で家の中を徘徊してるだなんて近所に知れたらたまったもんじゃない。 


「しょうがないなー」


 彼女はソファーの背もたれに掛かっているジーパンを雑にとって、脚を通した。

 普通の恰好をすればただのニートなのにな。


「そういえばサキ君、頼んでたもの買ってきてくれた?」

「なんか頼まれてたっけ?」

「頼んだじゃーん。今月発売のBLぼn……」

「死んでくれ」

「はうっ」


 僕は彼女の額に美しい弧を描いたデコピンをお見舞いした。


 ていうか弟になんてもん買わせようとしてるんだ。ここら辺でBL本を扱ってる店はないし、仮に買いに行ったとしてそれをクラスメイトにでも見られてみろ。白い目で見られるのは僕だぞ。ただでさえ今井とのことでそういう噂が存在するっていうのに。人の趣味に口を出すものではないが、せめて節度をわきまえろこの極悪魔人め。


「痛いよー」


 彼女は額に両手を当ててフローリングに座り込んだ。好き放題言った挙句、次は泣きべそですか。面倒臭いの一言である。

 

 取り敢えず飯も食い終わったことだし、そろそろ自室に戻ろう。僕はリビングのドアを開けようとした。


「ちょっと待って」


 このアマ……。

 僕は、彼女に振り返り、できる限り顔で苛立ちを表現した。


「なんだよ」

「社長からメールが来たんだけどさ、なんか今井君の様子が最近変なんだって。サキ君、何か知らない?」

「えっ……」


 その質問の答えは、僕が一番知りたいとであり、一番わからないことであった。

 

 



 

 


 

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