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適当男の転生軍師  作者: TUBOT
戦争前夜
96/132

開戦

「後退だ! 後退!」

 テルシオが言う。その言葉を聞くと、ラルファル帝国の兵士達は後退をしていった。

 こちらに背中を見せずに後ずさりで後退をしていく。だが、一人だけ、急いで俺達に背中を見せて後退をしている兵士がいた。

「背中を狙え!」

 俺が言うと、その兵士の背中に何本もの矢が突き刺さっていく。

「敵に背中を見せるな!」

 テルシオがそう号令をする。

 すでに背中に矢がいくつも刺さった兵士は捨て置かれ、誰も彼を助け起こそうとはしなかった。

「傷ついた仲間を放っておくなんて、冷たいものです……」

 メイレナが言う。

「あれが普通です」

 俺はそう言った。あの倒された男を助け起こそうとして近寄っていこうものなら、そいつも矢を撃たれる。

 二次災害を起こしたら、それこそバカだ。

 俺がそう考えたところで、メイレナは首を振った。

「そうですね。もう戦争は始まっているのですね」

 相手を同情する余裕なんて、こっちは持ち合わせていない。そんな事を考えるくらいなら、他の事に頭を使うべきだ。

 そう考え、俺は次の一手を考える。

 テルシオはこれで真正面から攻撃をしようとは考えないだろう。だったら、次に考えることは何か?

 真正面から攻める事ができないのなら、裏から攻める事を考えるだろう。

「裏口の索敵を!」

 俺は言う。

「任せて! ロドム君!」

 メイレナを経由して、念話でそう聞こえてくる。

 これを送ってきたのはデイナだ。デイナの魔法はこの学園全体に虫を放ち、虫が見ているものをデイナの頭に送ってくる。

「さっそくだよ……」

 デイナが俺に伝えてきた。

 虫の中の一匹が、この学院の中に侵入した男を発見したのだという。

「遊撃隊! 敵を取り囲め!」

 俺がそう言う。メイレナがこの学院の生徒たちにその声を送る。そうすると、セリット達が動き出すはずだ。俺はそう考えてテルシオ達本体に意識を集中させた。


「ロドム君! 任せなさい!」

 セリットはロドムに向けてそう言った。

「期待してる!」

 すぐに返事が返ってくる。メイレナの念話で、セリットとシィとデイナとティーナの四人に敵の場所が伝わる。

 この四人はセンファイによって集団戦の動きを学んでいるのである。四人ぐらいがちょうどいい。少なすぎはもちろんダメだが、多すぎても邪魔になるだけだというのがロドムの判断である。

 その場所についたら、セリット達は周囲を見回した。

「誰もいないけど……」

 そう言う。だが、ここに敵がいるのは間違いない。

 シィは前に出ていく。周囲を見回しながら、この場にいるはずの敵を探した。

「月の光は不浄を浄化する!」


 ムーンライト


 シィは周囲の魔法を打ち消す魔法を使った。

 魔法の力で隠れていた敵は、姿を現した。

「虫よ!」

 デイナは魔法を使った。その隠れていた男に向けてデイナの虫は飛んでいく。

 その虫はその男の炎の魔法によって焼き尽くされる。

「まだまだ!」

 そう言いデイナはまた虫の大群を放った。その男はキリがないのに気づき、そこから逃げ出していった。そして、姿を消す魔法を。再度使用する。

「目標セット!」

 セリットが言い、全員が目標に向けて手をかざした。

「撃て!」

 そう言うと、全員の攻撃は体を透明化させた男に向けて魔法を放った。いくら大の男といえど、四人の攻撃の集中砲火を受けてはひとたまりもない。

 魔法で背中を撃たれ、黒焦げになった男が言う。

「なぜ、俺の場所が……」

 姿を消していたはずの男の場所をその場の全員は分かっていた。

「背中についた虫に気がつかなかったでしょう?」

 デイナは、魔法の縄を使ってその男の手を後ろ手に縛りながら言う。デイナは男の背中に取り付いている一匹の虫をつまんだ。

「この虫は光るのよ」

 男は姿を完全に消したつもりだったが、背中に取り付いた虫が光って場所を教えていたのだ。

「俺が焼いた虫は、囮だったか……」

 そう言う男。

 真正面から飛んできた虫にかまけて、背中にとりついてきた虫にまで注意が向かなかったのだ。

「うちのロドム=エーリッヒ君が考えた戦法だよ」

 ロドムは、センファイとの訓練中に、いくつものフォーメーションを考えていた。こういう虫の使い方を考えたのもロドムだ。

 ロドムはいろんな事態を予測して、セリット達に戦い方を教えて、その訓練をさせた。

 その訓練は自信になり、非常時でもどう動けばいいか? を教えたのだ。

 対抗策を知っているという事は自信につながり、このように慌てずに最高の行動をする事のできる戦いの『芯』を得る事につながった。

「ロドム君って、やっぱり強いよ……」

 ロドムの強さは軍師としての強さだ。『彼を信じていれば大丈夫』と、思わせてくれるのは、本当に頼もしかったのだ。

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