印象最悪
俺が学院長室に入ると、学院長は深刻そうな顔をしていた。
「挨拶は抜きでいきます」
学院長のメイレナはピリピリしていた。その緊張感は俺にも伝わってきてどうにも緊張をしてしまう。
「確認をしますよ」
メイレナは言った。
そして、メイレナはゆっくりと俺の前にまでやってきた。そして、俺の前をなんども右左と往復をしていった。
「落ち着きのない大人だな……」
「落ち着いていられますか……」
俺の軽口にも、そう真面目に返してくるメイレナ。メイレナはそれからさっきの言葉の続きを言い始める。
「あなた……指揮権を手に入れたら、この学院を守れますか?」
メイレナが言う。
「それはわかりません。ですが、俺以上の適任はいません」
俺はそう答えた。どうせ何か小細工を考えても、この学院長には見抜かれてしまう。俺は、そう言った。
「確かにそうでしょうね……」
俺の言葉に、メイレナは小首をかしげた。
それからメイレナは考え始める。
「根拠もなく、『守れます』などと言ったのであれば、君には下がってもらっていましたよ」
メイレナは人の心が読める。嘘を嫌うため、そういう考えになるのあろう。
「その通りです。そういう言葉は嫌いです」
俺が考えたことに、メイレナは言った。
「もう考えるだけでいいです。だれに聞かれるか? わかりませんからね」
そうメイレナが言い、俺の思念とメイレナの言葉による会話が始まった。
「単純に、問題は君に対する他の生徒たちの信頼度です。あなたは、いくらチェスピースの戦いといっても仲間ごと敵を倒すような戦法を使いましたよね」
前に、そんな方法も使ったのは覚えている。俺はそれを聞いて、意味に気づく。
「そうです、あなたが軍師になったら、ああいう戦法だって考えるかも知れない。チェスピースはあなたの意のままに動く人形でありますが、軍師が指揮をするのは生きた人間です。あんな死に方は誰だって御免のはずです」
そう言うメイレナ。俺は、その事を思い出しながらメイレナの言葉の続きを聞く。
「あなたのイメージをアップさせる方法を考えないといけませんが……あなたはいままで破天荒な事をしすぎました」
それは、俺だって覚悟の上でやったことだ。
今改めて考え直してみると、ファンクラブがあり、魔法も強い、周囲とは喧嘩腰で振舞う、今年入学したばかりの奴なのである。
俺は、自分が優秀なのは自覚しているだからこそ、人との衝突だってあって当たり前だと割り切って、行動をしていたのだ。
「そうですね。本来は、もっと時間をかけて、面倒な相手のあしらい方を覚え、異性だけでもなく同性からも好かれるような人付き合いを覚え、時間をかけてみんなからの信頼を得られるようにするのがベストなのですが……」
メイレナが言う。俺だってそんな事は分かっていた。だが、俺は人からナメられるくらいなら嫌われてもいいと、いうくらいのつもりで行動をしていた。
「その考えは間違っていません。ナメられている人間の出した指示なんて無視する人間が絶対に出てきます」
俺も、それに納得をする。どの世界であれ、結局男はプライドの生き物だ。とにかく、何かにつけて相手を貶めようとするし、自分が上に立つ事ばかりを考えている。
当然、『そんな奴の言葉なんか聞くか』と考える人間が出てくるだけならまだしも、俺への反感から俺の足を引っ張ろうと考える人間も出てくることは想像に難しくない。
「仲の悪い生徒もいくらかいるらしいですね」
メイレナが言うのに、俺は考えた。
許嫁が俺のファンクラブに入っているレリレンとデルクト。自分の支援人が俺のファンクラブに入っているディラッチェの腹の底も気になるところだ。
そして、フェリエの同室であるというあの女生徒も……
「もう考えなくていいです。頭が痛くなってしまいます……」
俺の破天荒ぶりには、メイレナも呆れているようである。俺自身。今の状況にうんざりしているくらいなのだ。
「ナメられないようにするという考えは共感できますが、よっぽど敵を作りすぎているようですね」
俺もそう考える。もしかしたら戦争になって俺が指揮権を得た場合俺の背中を撃とうとする人間だって現れるのではないだろうか?
「戦場における、将校死因の二割は部下に殺されたものであると言いますからね」
俺の印象は最悪だ。だから俺のイメージを上げるような何かをしなくてはならない。
「そうです? 考えてください。あなたはこの学園を救える唯一の人間です。ですが、英雄になるにはまだ時間が必要そうです」
だが、ふと思った。
天界の神と魔界の神がケンカをした……その話を思い出したのだ。
「参謀は悪人であるのは当然ですか……ですが悪人なりにみんなからの信頼を得ようと考えるのが必要で……そうですか、そういう考え方もありますか……」
メイレナが自分の言葉を止めてそうい出した理由は、俺がある考えを頭に思い浮かべたからだ。
俺の信用がまったくない事については諦めるしかない。だから、信頼のある人間に総司令をやらせる。そして俺はその人物の後ろに立って指揮をすればいい。
「そういう考えは基本的なものですね……なんで私も思いつかなかったか……?」
そりゃ、俺が指揮をして兵士を動かすのが一番であるというのは当然だ。
メイレナ学院長が俺が指揮をとる姿を想像できなかったようである。この線で考えていっていいだろうか?
そう考えて、メイレナの事を見る俺。
「そうですね。信頼を受けている人間を出して、あなたは、裏で策謀をめぐらすのが一番だと思います」
俺はそう聞いて、ほっとした。
これから先、俺は当分仲の悪い奴とのイザコザを解決する猶予ができたのだ。
「ただし……です」
メイレナは言う。
「これから先、他の生徒達と問題を起こしてもいいという意味ではないですからね……これからは健全に友人を多数作るのですよ」
メイレナはそう言った。俺は、あの奴らとのイザコザを解決する必要があると考え、頭が痛くなるのを感じた。




