日和見な人たち
「人望といえば、生徒会長だろうが……」
デルクトの事を俺は思い出す、そして彼の許嫁がロドムファンクラブの会員である事も思い出す。
「どうしようか? 何かをひとつ間違えれば、二度と口をきいてくれないと思うし……」
デルクトと俺の微妙な関係について考える。頼みごとをできるような間柄ではない。
もしも、この学院が敵に襲われる事になったらどうだろう? パニックはすぐに起きる。生徒達は逃げ惑い、混乱をした最中で一人、また一人と殺されていき、あとにはこの学院の生徒達の死体が残る。
その死体の山の上に立つテルシオの姿がこくめいに思い浮かんだ。
「そこまでですかね……ここの学院の生徒達も実力者ぞろいですから、そう簡単にはやられないかと……」
俺の隣を歩いているシィが言う。今は次の授業に向かって歩いているところだ。
「奇襲をされた部隊というのは、脆いものだよ……」
集団というのは多ければいいというものではない。
どうやって連携を取って戦うか? が非常に重要になってくる。陣形を作ること、兵站の訓練をする事。それらができて、初めて戦争というものができるようになる。
その事をみんなは理解しているだろうか? と考えると、絶対に理解をしていないと俺は思う。
その中で教師の姿を見つけた。
「みんな! 今日の授業の内容は変更だ! 兵站と連携の訓練をする! グラウンドに集まってくれ!」
その教師は、支援魔法の理論を教えているセンファイだ、細身……というよりはガリガリの体をしており、昔には軍隊に所属をしていたというのが嘘のように見える男だ。
生徒から『本当に昔は軍隊にいたのか?』と聞かれたとき『見ての通りの理由で辞める事になったがな』と言っていた。
『そりゃそうだ』と、隣で聞き耳を立てていた俺は、妙に納得をしたものだった。
それほど、ガリガリの男なのだ。
その普段は覇気を感じない男が、今は必死になって、生徒達に檄を飛ばしていた。
「ロドム=エーリッヒ! 今はお前はなにの授業だ!?」
俺の事を見つけると、いきなりそう聞いてきたセンファイ。
「支援魔法の実技の授業です」
シィがそう言う。そうするとセンファイは黙考をする。
「ならば、お前は今から俺の授業に入れ! お前ならディラッチェも呼べるだろう! あいつも連れてこい!」
明らかに興奮した感じのセンファイ。俺はその様子を見て、目を細めた。
「兵站訓練をなさるのですか?」
俺が聞く。そうするとシィは驚いて俺に言ってきた。
「なんですか!? あなたのスケジュールはしっかりと決めているのです。それに外れる事は私が許しません!」
「今は緊急事態だ!」
俺が言うとシィは黙った。
「君はフェリエを呼んで来い! あいつも簡単な動きくらいは学んでおく必要がある」
シィに向けてそう言ったら、シィも緊張感を感じてくれたようだ。どうも、よく今の状況を分かっていない感じではあるが、俺に言われたとおり、フェリエを探しに行った。
「みんな! 聞いてくれ!」
俺は大声で言う。
「この国は隣国と戦争をする。その時、この隣国との境界線近くにあるこの学院は最初の標的になるだろう! 君らは訓練中とは言え、立派な戦士だ! これから兵站訓練を覚えていかなければならない!」
俺が言うが、俺の言葉を聞く生徒なんて皆無だった。
「授業がないなら行こうぜ……」「あの骨……何を考えているの?」「骨だからな、脳みそが空っぽなんだよ」
そういう会話が聞こえてくる。俺やセンファイがいくら訴えても無駄だった。
「君たちには兵站訓練が必要だ。この学校の戦いは陣形を組む事を教えていない。陣形を組む事の必要性を、君たちは知らない!」
おれがそう言う。、だが、人はどんどんといなくなっていった。
俺の力のなさを痛感する。こんな事になるのだと分かれば、もっとやりようはあったはずだ。俺の言葉の無力さは、悔しくて悲しくなるほどに存在をしなかった。
「ロドム=エーリッヒ……君は気でも違ったか? それにセンファイ先生までなんですか?」
その騒ぎを鎮めるためにやってきたのは生徒会長のデルクトだった。
「この国は戦争なんかしません。国の政治かが何とかしてくれます。このように、戦争の準備をする事こそ、隣国を刺激することになり危険です」
デルクトは言った。
これは、国の政治家の使う文句だし、政治家達はそうやって戦争を沈めるつもりなのだろう。
だがそんな事は不可能だ。こんなにまるまると太った国を、狼が見逃すわけがない。
そんな簡単な事をこの国の人間は全く分からないし、わかろうとはしないのだ。
「ロドム様 一体何ですか!?」
そう言いながらフェリエがやってきた。
「単位に余裕があるからいいですが、こんな急の呼び出しはやめていただきたいのですが……」
面倒そうな顔で言うフェリエ。俺だっていきなり呼び出したのは悪いが、今はそれどころではないのだ。
「これから兵站の訓練をする。フェリエも覚えてくれ」
フェリエは俺の言う事が、全くわかっていない感じだったな。
「なんだい? 女の子をはべらすのを見せつける気かい?」
デルクトも鼻を鳴らしながら言う。俺はそんな事を考えていられる時期ではないというのに、それをこのデルクトも分からないのだ。
「とにかく、センファイ先生は授業を始めてください。ロドム君も、自分の授業に戻って」
そう指示を出すデルクト。この学校での発言力の無い俺の言葉は、ここまでうすっぺらいものなのか? そう考えると、嫌気がさしてくる。
「デルクト君。先生の言葉ですよ。生徒の君なら聞くべきです」
「学院長……そうはいいますが、先生というのは授業をするのが仕事でしょう? いきなりこんな事を言い出すのが先生の仕事ですか?」
理論を教えている先生なら理論を教えるべきであると、いうのがデルクトの主張らしい。
「デルクト君。このような事はラルファル帝国を刺激すると考えているのでしょう? でも、そんな考えは古いです」
これから、この国はラルファル帝国と戦争をする。その事を言ってしまうのか? 俺は思ったが、メイレナはこう言った。
「ケントシュタッツ王国との戦争は間近に迫っているのです。兵站の訓練も、これから授業に組み込みます」
メイレナの言った事は初耳だった。
「それは政治家の判断ですか?」
俺はつい聞いてしまった。その言葉は嘘であると、後になって知る事になる。
「重要機密です。この学院の生徒達と、一部の人間しか知らないのです」
俺はシィの方を向いた。だが聞きはしなかった。ここで、『あれは本当か?』とシィに聞かなかったのは、結果的には正解だった。
あそこでメイレナ学院長の嘘がバレたら、この学院は終わっていたのだ。




