すぐ近くにまで来ていた戦い
俺たちはそれから学院に戻っていった。
オルとレデは情報を持って帰ってくると言い屋敷から出ていく。彼女らが、本当に戻ってくるかどうかは不明だ。
だが、それでも構わないと思う。元々分の悪い賭けである。まあ、負けても損はしないくせして、帰ってくるものは大きい。やってみて損はない。
俺達は、帰りの馬車に乗っている。二台に乗り分けており、先を走る馬車は俺とシィとフェリエとディラッチェ。後ろを走る馬車はファンクラブの三人。
彼女らは、保養地に遊びに来るだけで充分楽しかったと言ってくれた。
そして、俺とシィの話題はあのスパイ二人の事だ。シィはどうやら、あの二人に高圧的に接したらしい。何のための飴役なのか、シィは分かっているのだろうか?
「おいおい、ボクの説明を聞いていたのかい? ボクが悪者になって、シィがいい奴になるんだ」
「すみません……少し地が出てしまいました」
俺がシィに向けて言う。あれが、シィの地であると考えると、寒いものを感じる。
「闇属性のロドム様の従者としてはぴったりではないですか」
フェリエがそう言い出す。
「なんだ? 機嫌が悪いのかい?」
俺はフェリエに向けて聞く。
あれからオルとレデの二人は国に返した。あの首輪の効果範囲は国を越えても発揮され、オルとレデの首輪は彼女らを苦しめるだろう。
「向こうの国に行って、解除されないですか?」
フェリエは言った。
「なんか、彼女らの肩を持つような事を言うね。あの二人がそんなにかわいそうかい? 彼女らはボクの命を狙ったんだよ」
俺は言う。だが、フェリエはそれに憮然として答えた。
「あんな三流にあなたが殺されますか……? おっかない護衛だってついているのに……」
「そうです、わたしはおっかない護衛ですよ」
「イヤミも効かないんですね……」
『ふん……』と、不服そうな顔をするフェリエ。
「でも、この世界を救えるのは私達のような悪人ですよ」
シィが言う。まあ、そうだ……悪人でないと軍師なんてやってられないのは事実。
「フェリエ、君には刺激が強すぎるんじゃないか? 一旦ボクらから離れたほうが……」
「そうですよ……フェリエ様にはこういうのは刺激が強すぎるかと……」
俺とシィがそう言う。フェリエはバカにされたと感じたようで、俺たちの方に身を乗り出してきた。
「ドロランド……やめとけ……」
そう言って、ディラッチェはフェリエの肩を掴んで止めた。
「俺はエーリッヒの話に賛成だ。これから先は相手を同情するような余地なんてない」
スパイなんて、八割は敵に見つかって殺されるような仕事だしね。ほとんどのスパイは使い捨ての道具くらいの扱いでしかない。
「非情に見えるだろうけど、これも仕方ないんだよ」
そう俺が言うのに、フェリエは俺から顔を背けた。
そして、フェリエの肩に乗る使い魔は、俺の事を不浄なものを見るようにして睨んでいる。何か言いたいことでもあるのだろうか? と思ったら相手の方から話しかけてきた。
「確か、軍師や参謀とかいう奴らは、まとめて地獄に落ちていったよ……」
「天界の神と地獄の神が些細なことで争いました……」
そう俺が言うと、ハトの姿をしたフェリエの使い魔は黙った。
「何の話ですか?」
フェリエはそう言った。
「軍師や参謀はあくどくなきゃやっていけないって話しさ。勇者は悪人が作りあげるものなんだよ」
そう言う俺。フェリエはそれに全く意味がわからないという顔をしていた。
「詳しくはそのハトに聞いてみるんだね」
俺はそう言って話を切り上げる。
「今回の勇者はフェリエになるかな……?」
俺は漠然とこの先の戦争の事を考えた。この先、フェリエは学院の戦力として戦う事になるだろう。そして、戦争の勇者になるかもしれない。
「フェリエは天国行きかな? そしてボクは地獄行き……」
そう呟く俺。そう遠くない未来、俺はテルシオと戦う事になるかも知れない。そう思ったし、本当にそうなるだろう。
「いいえ、違います。私は一人で天国に行くつもりはありません。あなたが地獄にいくなら私も一緒に地獄に行きますわ」
「それは、ボクが何人もの人間を殺した大悪人になってもかい?」
「ロドム様は軍師なのです。味方を殺す事もあるし、敵を殺すことにもなります」
「私はそのロドム様の最高の理解者になりますよ。例え、死が二人をわかっても……」
フェリエはそう言った。だが思う。フェリエは純粋すぎる。俺がもしかしたら、どれだけあくどい事をやるか? フェリエは分かってはない。戦争は非情だ。このような戦力の低い戦争は特に……
「その言葉……今は信じる……」
俺はそう言って、フェリエの手を掴んだ。
「私はその先、あなたの信頼をずっと裏切らないように戦いますわ」
俺とフェリエが手をつなぐのを見て、ディラッチェもシィも煩わしそうにした。
「二番目の理解者は私ですからね、忘れないでください」
そうシィも言う。
俺は馬車の中で、これからするべき事を考え始めた。
俺がどれだけ気張っても、この学院の軍師になる人間を決めるのはメイレナだし、総司令はメイレナになるだろう。
だから、おれは考える。メイレナに取り入ってこの学院の軍師になる。そうしないと、おそらくこの学院はテルシオに蹂躙をされる事になる。
しかも、その日はいつ来るかわからない。
早くしなければならないこの学院の生徒たちは、満足な連携も取れないし攻撃魔法の使い手も少ない。
「できるなら近接戦闘をする人間も欲しい……」
昔、銃器が存在しても敵と接近したときは殴り合いで戦っていたらしい。そのために銃刀というものが開発された。
それに似たようなもの、または騎士をこちらに読んで前線に立ってもらうか?
「いかんな……そんな事を考えるのは、自分が軍師になった後でいい……」
だが、まだ俺はこの学院の新入生だ。みんなからの信頼などない。この学院の軍師をやろうなんて言っても、誰も俺を認めはしない。
まず俺はダメもとでメイレナ学院長のところに向かっていった。
ここの学生も、教師も、集団指揮なんてできない。もちろん、俺だって経験なんかない。だが、俺がやらないとこの学院は確実に負ける。
「ロドム君。君だというのはわかっていますよ。入ってきなさい」
俺が学院長室のドアをノックする前にそう声がかかってきた。




