ep5 - 不条理の幻想
いや、しかし。
不謹慎にもどこかこの光景を幻想的で美しいと感じてしまう。
自分の街が見えるほど高い場所から見る夕暮れと、無数に浮かぶ黒い球は、何かの楽曲のMVに採用されてもいいんじゃないかと思える。
「なあ、そういえばなんだけど。」
「なに?」
「穴に吸い込まれたらどうなるんだ?」
穴はわからないことが多い。
知れることは知っておきたい。
「……。」
少女は何かを思い出すかのように上を見る。
「すいこまれると、さいぼうないこうぞうのだんかいてきなぶんしかいたいおよびせいたいぶっしつのふかぎゃくてきぶんかいかていがゆうはつされ、さいしゅうてきにさいぼうたんいでのこうぞうてきかんぜんせいがそうしつし、じっしつてきにしょうしつへいたることがじっけんてきけんしょうによってしさされている。」
自分は頭にハテナを浮かべた。
何一つわからない。
「……つまり?」
「ぶんかいされてしょうめつ。」
「なるほど。」
なんかAIみたいな返事だったな。
まあいいか。
「じゃあ吸い込まれたら死ぬんだな。」
「すこしちがう。すいこまれてもあながきえればすべてがもとどおりになる。」
その言葉に、少し安心する。
「よかった。」
そう言いながら浮島の次の段に登るため、上の地面に手を乗せる。
その地面はどこかおかしかった。
なんだか生温かくて、妙にぬるぬるしていて、そして腐った鉄のような匂いがする。
手を一度下ろし、見る。
そこにはべっとりと赤い液体が付いていた。
一気に青ざめる。
そのまま後ろを振り返ると、少女がハンカチを用意していた。
「このぜつぼうてきじょうきょうで、みずから、しをえらぶひともいる。」
「やっぱり血なのか……。これ。」
上の段には死体が転がってそうだ。改めてゾッとする。
ハンカチで血を拭いてから、もう一度慎重に上に登る。
上の段の地面と目が同じ高さになった時、死体と目が合う。
腹部には包丁かナイフ。
吐きそう。
「この人は……穴が消えれば元に戻るんだよな?」
「もどらない。そのしはあなとはかんけいない。」
「っ……そうか。」
せめてこれぐらいはと、その死体を仰向けにして、手を合わせる。
仰向けにしている最中、周りの穴を消していた少女も、後から手を合わせる。
はあ……吐きそうだ。
「こういう人がさらに出ないように、一刻も早く全部の穴を消さないと。」
「わかってる。だからはやく。」
少女は先に進む。
日が落ちてきて、暗くなりそうだ。
もし穴が光を吸い込む性質だったらやばかっただろう。
自分は少女の後を追う。
その時だった。
少女がふらつき、倒れ込んだ。




