第7話:世界樹の果実と、のんびりピクニック休日
「ふあぁ……よく寝た」
魔王軍の残党(という名の害虫)を秒速で片付けた翌日。
世界首都として連日大賑わいを見せる外の喧騒をよそに、俺――レントは、世界樹の根元に特設したテラスのハンモックで、のんびりと伸びをしていた。
見上げれば、青々とした巨大な葉の間から、木漏れ日が優しく降り注いでいる。
その枝の先には、昨日の今日でポコポコと新しい果実が実っていた。それはほんのり黄金色を帯びた、まるで桃とリンゴを足して2で割ったような美しく大きな果物だ。
「おっ、いい感じに熟れてるな」
俺が手を伸ばしてその果実を一つもぎ取ると、隣の芝生でゴロゴロと昼寝をしていたモフモフ大先生(元・Sランク巨大グマ)が、くんくんと鼻を鳴らしながら巨体をすり寄せてきた。
さらに、どこからともなく起きてきたルルが、ふわふわと空中を漂いながら俺の肩にストンと着地する。
「ねえねえレント、それ美味しそう! 朝ごはんにそれ食べる!」
「ああ、ちょうど今から切るところだよ。モフモフも食べるか?」
「「グルルッ!(大賛成!)」」
俺はナイフでその世界樹の果実をサクサクと切り分ける。
包丁を入れた瞬間、甘く爽やかな香りが辺りにフワッと広がり、それだけで頭がスッキリと冴えわたるのが分かる。さすが世界樹の恵み、普通の果物とは香りの次元が違う。
お皿に盛り付けた特製フルーツタルトと、淹れ立てのハーブティーをテラスのテーブルに並べ、俺たちはさっそくフォークを手に取った。
「いただきまーす」
サクッとしたタルト生地と、口の中でとろけるほどジューシーな果実の甘みが絶妙にマッチする。
「ん〜! おいしすぎる! レント、天才!」
ルルが目をキラキラ輝かせながら、両手いっぱいにタルトを頬張っている。モフモフ大先生も、前足で器用に(?)小さめの皿を引き寄せ、満足そうに鼻を鳴らしていた。
――平和だ。
本当に、これがやりたかったんだよ。
かつて王都で理不尽に追放され、「呪われし魔の森」に放り出されたときはどうなることかと思ったが、結果オーライどころか、最高の環境を手に入れてしまった。
トントン、と、テラスの入り口の方から控えめなノックの音が聞こえた。
視線を向けると、そこには冷や汗をダラダラと流しながら、ペコペコと頭を下げるガランデル将軍の姿があった。
「し、神聖庭師様……ご朝食の邪魔をして申し訳ありません……!」
「おや、ガランデルか。何か急ぎの用か?」
俺が紅茶を一口飲んでから尋ねると、ガランデル将軍はごくりと喉を鳴らし、一枚の分厚い羊皮紙を両手で差し出した。
「いえ、実は昨日の魔王軍残党の件ですが……隣国の皇帝陛下より、直接使者が参りまして、『我が国の全領土を、神聖庭師様のプライベートガーデンの「外周花壇」として編入していただきたい』という正式なご依頼が……」
「……は?」
俺の手から、フォークがポトリと音を立てて落ちかけた。
「おいおい待て待て。国を丸ごと花壇にするってどういうことだ。却下だ却下。勝手に俺の庭を広げるな!」
「はっ! 流石は謙虚であらせられる……! 国の拡大などという俗世の欲望に微塵も囚われず、あくまで『個人の庭』としての美しさを追求されるその姿勢、全軍を挙げて見習いますッ!」
(いや、そういう意味じゃないんだけど……)
俺が頭を抱えて深いため息をついていると、ルルがクスクスと笑いながら俺の頬をツンツンと突いた。
「ほら、レント。世界中のみんながキミの庭を愛してるんだよ。いいじゃない、賑やかで」
「賑やかすぎるのも考えものだぞ……」
遠くで見物客たちが「キャー、神聖庭師様が朝食をとっていらっしゃるわ!」「今日も最高にお美しい……!」と黄色い歓声を上げているのが聞こえる。
やれやれ、と俺は首を横に振り、苦笑しながら再び紅茶を口に含んだ。
静かなスローライフへの道のりはまだまだ遠そうだが――まあ、悪くない朝だ。
底辺職だったはずの庭師の日常は、今日も今日とて、最高にシュールで賑やかな笑顔に包まれながら続いていくのだった。




