第6話:世界一平和な「首都」で、最強の害虫駆除(?)が始まる
「最高評議会議長就任のご都城……じゃなくて、ご就任のお祝いに、これを!」
ガランデル将軍が持ってきたのは、なぜか純金でできた巨大な玉座――ではなく、世界樹の枝で作られた『最高級のロッキングチェア』だった。
さすがに玉座は恥ずかしすぎるが、ロッキングチェアなら縁側に置ける。俺は渋々それを受け取り、ため息をつきながら腰を下ろした。
「……ふう。まあ、座り心地は悪くないけどさ」
ここは、かつての『呪われし魔の森』。
今や両国の軍隊が警備を固め、世界中から集まった商人や観光客(?)が物見遊山で押し寄せる、大陸随一の『世界首都』である。
俺の家(世界樹の根元のログハウス)の周りだけは、相変わらずマイペースな空間が保たれているが、一歩外に出れば「神聖庭師様を一目見よう」とする人だかりで大賑わいだ。
「ねえレント、お腹空いた。今日はあのモフモフのクマくんと一緒に、甘い木の実のタルトが食べたい!」
ルルが俺の膝にぽふっと頭を乗せ、ぐりぐりと甘えてくる。
その傍らでは、かつてのSランク凶獣・モフモフ大先生が、すっかり大型犬のようになって尻尾をパタパタと振っていた。
「はいはい、今焼くから待っててくれよ」
俺が庭に新しく設置した『特製石窯オーブン(※世界樹の魔力を帯びているため一瞬で焼き上がる)』に向かおうとした、その時だった。
――ズズズズズ……ッ!!
世界樹要塞の空気が、ピシリと凍りついた。
首都の周囲を取り囲む結界の向こう側から、これまでにないほど禍々しく、おぞましい「邪気」がじわじわと這い寄ってくる。
「……ん?」
俺の手が止まる。
ルルがピクッと耳をそばだて、面倒臭そうにため息をついた。
「あーあ。せっかくのおやつの時間に、嫌な虫が湧いてきたね」
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
地平線の向こうから現れたのは、漆黒の瘴気を纏った巨大な影の軍勢。
かつて世界を滅ぼしかけた伝説の厄災――『魔王軍の残党』、そして封印されていたはずの『太古の邪竜(ラスボス級)』だった。
「ククク……! 聞けば、この地に人間の小僧が調子に乗って『世界首都』などというお遊戯を始めているそうだな!」
邪竜の背中に跨った魔王軍幹部――骸骨の姿をした最高幹部・ネクロデスが、空を覆うほどの黒い魔力を放ちながら哄笑する。
「その神樹とやらも、我ら魔王軍の『暗黒の苗床』にしてくれるわ! 人間ども、絶望してひれ伏せ――!」
首都の周囲に陣取っていた帝国軍と王国の近衛騎士団が、一瞬で顔面蒼白になり、腰を抜かした。
「ば、馬鹿な……! あの邪竜は、かつて一国を滅ぼした伝説の……ッ! 我らの武器では歯が立たない!」
絶望の空気が、一瞬で世界首都を支配する。
――が。
「……あのさあ」
俺は持っていた泡立て器を置き、じっと眉間を押さえた。
せっかくの休日だというのに、いい加減にしてほしい。今からタルトを焼こうという最高のタイミングで、なんでわざわざゴミを撒き散らしに来るのか。
「せっかく綺麗に整えた庭に、そんな汚い泥を引っ掛けないでくれるか?」
俺が低く呟いた、その瞬間。
ビュオッ……!!
俺の怒り(というか面倒くさいという感情)を察知した世界樹が、怒涛の勢いでざわめいた。
それはルルが指示したわけでもない。世界樹自らが、「我が主(庭師)の庭を汚す雑草」を許さなかったのだ。
ドオオオオオオオッ!!
大地から無数の『黄金のツタ』が弾丸のように射出され、空を覆っていた邪竜の軍勢を瞬く間に包み込む。
「なっ……なんだこれ!? 魔力が吸い取られる……っ!? 動けないだと……!?」
魔王軍の幹部も、伝説の邪竜も、抵抗する暇すらなかった。
黄金のツタに絡め取られた彼らは、凄まじい「神聖緑化の光」によって、その身に纏っていた邪気が完全に浄化されていく。
数秒後。
空から降ってきたのは、真っ黒な邪竜……ではなく、なぜか「つやつやと光り輝く、とっても可愛いトカゲのぬいぐるみのような生き物(無害)」と、綺麗に丸洗いされて気絶した骸骨の幹部(ただの骨の置物)だった。
ドサッ、と俺の足元にそれが転がり落ちてくる。
「ふう……。庭の肥料には……ならなそうだな、これじゃ」
俺がやれやれと首を横に振る背後で、帝国軍も王国軍も、そして世界中から集まっていた見物客たちも、全員が完全に言葉を失っていた。
数秒前まで「世界を滅ぼす厄災」だったはずの魔王軍が、庭師の一瞥と雑草処理によって、一瞬で「庭の置物」に成り下がったのだから無理もない。
「……す、すげぇ……」
「神聖庭師様は、魔王軍すらも『ガーデニングの素材』として一瞬で仕留められたぞ……ッ!!」
再び、首都全体が割れんばかりの歓声と、信仰心に満ちた絶叫に包まれる。
「さあ、ルル。タルトの続きを作ろうか」
「うん! あのトカゲくんも、お庭のペットにしていい?」
「……まあ、大人しくするならいいけどさ」
今日も今日とて、底辺職『庭師』の平和なスローライフ(※ただしスケールは宇宙規模)は、穏やかな夕日の中に包まれていくのだった。
(第1部・完? いや、庭の手入れはまだまだ続く!)




