第5話:最強の要塞都市、勝手に「世界首都」に認定される
「だから、軍隊を駐屯させるなと言っているだろうが……!」
帝国軍の総帥であるガランデルが勝手に感動の涙を流し始めたその日から、俺――レントの「静かなるスローライフ計画」は、完全に崩壊への道を歩み始めていた。
翌日。
ガランデル将軍の「神聖なる庭師様を守護せよ!」という勝手な号令のもと、帝国軍の精鋭部隊が世界樹の周囲にテントを張り始め、あっという間に立派な宿営地が完成してしまった。
さらに、王国側からも「まさか我が国に神聖領域が……! 帝国に奪われてなるものか!」と、慌てて国王直属の近衛騎士団がやってきて、世界樹の周りをぐるりと包囲するように陣を敷いたのだ。
結果。
かつての「誰も近寄れない死の魔の森」は、今や両国の軍隊がピリピリと睨み合い、その中心で俺がのんびりお茶を飲むという、カオス極まりない要塞都市へと変貌を遂げていた。
「おい、レント。なんか外が賑やかだけど、おやつはまだ?」
ルルが世界樹の枝に腰掛け、ぶらぶらと足を揺らしながら俺の服を引っ張る。
「今淹れるから待ってくれ……ていうか、ルル、お前もうちょっと危機感持とうぜ?」
「危機感? ボクが本気を出せば、あんな人間たち一瞬で消し炭だけど?」
「そういう物騒なこと言わないの!」
頭を押さえてため息をついていると、宿営地の方からガタガタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
やってきたのは、ガランデル将軍と、なぜかその隣にしおらしい顔で控える王国の宰相だった。彼らは俺の姿を見るやいなや、揃って深いお辞儀をする。
「お、お邪魔します、神聖庭師様……!」
「一体何の用だ、俺は昼寝がしたいんだが」
俺が不機嫌そうに言うと、ガランデルと宰相は顔を見合わせ、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「実は……帝国と王国の間で、緊急の首脳会談が行われまして……」
「ほう」
「我が国と王国、そしてこの『世界樹要塞』の三者間で不可侵条約を結び、さらに――この地を、全大陸の統治を司る新たな『世界首都』として正式に認定することに満場一致で決定いたしました!」
「…………は?」
お茶を飲んでいたカップが、危うく手から滑り落ちそうになった。
「なにいってんだお前ら? ここは俺のプライベートな庭だぞ? 首都にするな、勝手に決めつけるな!」
「なんと謙虚な……!『国などというちっぽけなものに縛られず、ただ自然を愛でたい』という無私の境地……! 流石は神聖庭師様です!」
「いやだからそういうのいいから!」
俺が必死にツッコミを入れている背後で、世界樹が「ぶるんっ」と嬉しそうに枝葉を揺らし、なんだかさらにぐんぐんと成長しやがった。
根元から湧き出る霊泉がナイアガラの滝のようになり、周囲には高級ホテル顔負けの温泉街が勝手に建ち並び始めている。これもう完全に都市開発だよ!
「あ、そうだ。神聖庭師様。つきましては、世界首都の初代『最高評議会議長』に、是非とも就任していただきたく……」
「断る!! 絶対に嫌だ!! 俺はただの庭師だ!!」
俺の絶叫が、新しくできたばかりの世界首都の空に虚しく響き渡る。
元・底辺職の庭師レント。
本人は「のんびりスローライフを送りたい」と願っているだけなのに、周囲の盛大な勘違いとチートすぎる植物たちのせいで、今日も世界を牛耳るトップへと祭り上げられていくのだった。




