第4話:噂が噂を呼び、今度は帝国軍が「神の御遣い」を迎えに来る
ガルドたち元パーティの面々が空の彼方へと消え去ってから数日。
我が世界樹要塞(※自称・普通の庭付き一戸建て)は相変わらず平和だったが、世間の方角では大騒動が巻き起こっていた。
「おい、見たかあの光景を……!」
「『剣聖の翼』が一瞬で消え去ったぞ……!」
「違う、あれはただの消滅じゃない。魔の森の深部に、突如として天をも衝く神樹が出現し、そこに『全知全能の神の代弁者(神聖庭師)』が降臨したっていう噂だ!」
王国全土、さらには隣接する大帝国にまで、その噂は爆速で拡散されていた。
なにせ、数秒でSランク魔獣をおとなしいモフモフに変え、Aランクパーティを星屑にしたのだ。一般人からすれば「世界の理を書き換える超絶技巧の持ち主」が現れたと映るのも無理はない。
そんな世間の喧騒など露知らず、俺――レントは縁側に腰掛け、手塩にかけて育てた高級茶葉で淹れたお茶をのんびりと啜っていた。
「ふう、やっぱり採れたての葉で作るお茶は格別だな。……ん?」
ふと、視界の端。
これまで「絶対に誰も近づけない死の土地」だったはずの魔の森の入り口に、ピカピカと黄金に輝く大軍勢が押し寄せてきているのが見えた。
――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
数千人規模の帝国正規軍。
先頭をゆくのは、漆黒の重装甲に身を包んだ、いかにも「強面で職人気質」といった雰囲気の帝国最強の将軍――ガランデル(45)だった。彼は凄まじい殺気を纏いながら、しかしその瞳には異常なまでの熱狂と崇敬の色を浮かべていた。
「……まて、おい。なんだあの数は」
お茶を飲んでいた俺の手がピタリと止まる。
ルルも「ん? また新しいお客さん? 今度は食べ物持ってるかな」と呑気に首をかしげている。
大軍勢は世界樹の根元、俺の作った可愛らしい花壇の手前でピタリと隊伍を整えた。
そして、将軍ガランデルは兜を脱ぎ捨て、泥だらけの地面にひざまずき、声を震わせながらこう叫んだのだ。
「――お噂はかねがね……! 我ら大帝国が総帥、そして全大陸の民を代表し、参りましたッ!!」
「……は?」
俺が思わず間抜けな声を漏らすと、ガランデルは地面に頭をこすりつける勢いで言葉を続けた。
「どうか、この愚かなる世界に慈悲を……! 世界樹を覚醒させ、万物の理を整え給う『神聖なる伝説の庭師』様! 我ら帝国を、貴方の広大な庭園の『下草』の一本にでも加えてはいただけないでしょうか……ッ!!」
「いや、待て待て待て待て待てっ!?」
俺は慌てて縁側から飛び降りた。
下草ってなんだ、雑草扱いか? いや、そうじゃなくて。
「俺はただの! 王都を追放されたしがない一般人庭師だからな!? 国を預かる大軍が突然やってきてそんなこと言われても困るし、第一、ここ俺のプライベートな庭だから! 入ってこないでくれる!?」
必死の抗議だった。
俺としては、静かにガーデニングを楽しみたいだけなのだ。これ以上、大勢の兵士に囲まれて目立つなんて絶対に御免被る。
しかし――。
ガランデル将軍は、俺のその必死の「謙遜(必死の言い訳)」を聞くと、ますます感動に震えたように涙を流し始めた。
「なんと……! 自らを『しがない一般人』と称し、権力に溺れず、ただ黙々と世界のバランス(庭の手入れ)を維持し続けるその無私の慈悲……! これぞ真の聖者、真の支配者の佇まい……っ!! 全軍、聞けぇい! 我らは今、歴史的瞬間を目撃しているのだッ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ――っ!!」」」
数千人の帝国軍兵士たちが、一斉に感動の雄叫びを上げ、なぜか俺に向かって一斉に忠誠の敬礼(土下座)をキメた。
空には世界樹の葉が祝福のざわめきを響かせ、ルルは「なんかあの人たち、面白そうだから飼ってもいいよ」と勝手なことを言っている。
――俺の理想のスローライフは、一体どこへ向かっているのだろうか。
遠い目をするレントの頭上で、今日も世界の運命は、なぜか勝手に最高潮へと整えられていくのだった。




