第3話:元パーティ、調子に乗って「最強の要塞」の門を叩く
世界樹がそびえ立ち、周囲が聖域と化してから数日。
俺――レントは、神樹の根元から湧き出た霊泉を利用して、手作りの露天風呂(岩風呂)に浸かりながら、深くため息をついていた。
「……はぁ。なんだか、のんびりするどころか、庭のスケールがデカくなりすぎて落ち着かないぞ」
敷地内では、あのときルルに浄化された元Sランクの巨大グマ――「モフモフ大先生」と名付けられたその巨獣が、庭の芝生を綺麗に刈り込む手伝い(ただ寝転がって雑草を踏み固めているだけ)をしてくれている。
さらに、世界樹の枝から滴る朝露は最高級のエリクシールに変化し、そこら辺に自生している雑草すら「伝説の薬草」になってしまっていた。
俺としては「これじゃ商売して大儲けできちまう……いや、商売なんて面倒だから絶対にしないけど!」と頭を抱える日々だ。
そんな平和(?)な昼下がり。
世界樹の周りを囲む『絶対防御の結界(ただの俺特製の低い垣根)』の外側から、ガチャガチャとやかましい金属音が聞こえてきた。
「おい、ここが噂の『呪われし魔の森』の深部か……?」
「信じられん。あんなに黒い霧に覆われていた死の土地が、まるでおとぎ話の楽園みたいになってやがるぞ」
聞き覚えのある、嫌味な声だった。
俺がそちらに視線を向けると、そこには見慣れた豪華な装備の一団が立っていた。
Aランクパーティ『剣聖の翼』。リーダーのガルドと、神官の美女、魔術師の男――あのとき、俺をゴミのように追放した連中だった。
「……なんでアイツらがここに?」
ルルが「ん? なんか虫みたいなのが煩いね」と、お茶をすすりながら首をかしげる。
どうやら彼らは、王都で「魔の森から異様な神気と黄金の光が放たれている」という噂を聞きつけ、「もしや放置されたお宝や古代の遺物があるのでは」と、一攫千金を狙ってやってきたらしい。
ガルドたちは、目の前にそびえ立つ神樹と美しく整備された庭園を見て、目を爛々と輝かせていた。
「すげぇ……! 見ろ、この高級な薬草の数々は! これを全部買い叩けば、俺たちは王国最強どころか、大陸一の富豪だ!」
「それに、あの奥にある豪邸……! 一体、誰の領地なんだ?」
ガルドはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべると、ずかずかと俺たちの庭の敷地――結界の門(ただの木製のアーチ)へと踏み込んできた。
「おい! この土地の管理人にお前は誰だか知らんが、ここは今日から俺たち『剣聖の翼』のものだ! さっさとその家から立ち退きな――って、え?」
ガルドが言葉を詰まらせた。
露天風呂から上がり、バスタオルを腰に巻いたままの俺と、その隣で桃をかじっているルルの姿に気づいたからだ。
「レ、レント……!? なんでお前がここにいるんだ……!?」
ガルドの顔が、驚愕と恐怖で歪む。
彼らにとって俺は、「魔の森に放り出されて、とっくに野垂れ死んでいるはずの無能なゴミ」だったのだから。
「おや、ガルドさん。相変わらず声が大きいですね。ここは静かにスローライフを送る場所なんですが」
きょとんとした顔で俺が言うと、ガルドは顔を真っ赤にして怒号を飛ばした。
「ふ、ふざけるなっ! お前みたいな無能の庭師が、こんな神聖な楽園を作れるわけがないだろう! きっと、どこかの強力な魔導師の隠れ家を不法占拠してるんだ! おい、みんな、こいつを叩き出せ!」
パーティのメンバーが武器を抜き、俺に向かって突撃しようとした――その時だった。
「――うるさい。ボクの庭で大声を出さないでくれる?」
ルルが、ふう、と小さくため息をついた。
ドッ……!! と、神樹の枝葉がざわめき、大地に眠る数万体の植物の根が生き物のようにうねり出した。
それは攻撃などではない。ただ、ルルの機嫌を損ねた世界樹が「害虫(侵入者)を排除しよう」と、ほんの少し魔力を込めただけだ。
「なっ……体が、動かない……!?」
「魔力が……吸い取られる……っ!?」
ガルドたちは一歩も動けなくなり、次の瞬間、世界樹の根によって綺麗にくるくると縛り上げられ、地面からプシューッと勢いよく噴き出した霊泉の水圧によって、空の彼方へとキレイな放物線を描いて吹き飛ばされていった。
「「「うわあああぁぁぁ――っ!!」」」
彼らの悲鳴は、やがて空の星のようになって消えていった。
「ふう、静かになったね」
ルルは満足そうに桃を食べる。
俺は遠ざかっていく光景を見送りながら、やれやれと頭を掻いた。
「……まあ、不法侵入者はとりあえず排除できたし、いっか」
こうして、元パーティによる「ざまぁイベント」は、本人が全く意図しないところで秒速で終了し、今日も世界一平和(?)な庭園に、穏やかな風が吹くのだった。




