あとに咲いた命たちと共に
物事って、正直初めよりも2番目3番目が肝心だと思うんですよ。初めよりも良い改善が出来るか、最初に良かったものを継続できるか。さぁて、2話を書いていきますよー!
「あの羽…本物か?」
「エンジェルなんて、御伽話でしか聞いた事無いわ。」
エリティアという見慣れない存在に対し、村人達は、好奇の目を向けながら、ざわざわと騒いでいた。
ソラはその野次馬を横目に、服についた土をはたく村長へと近付いた。この村長、彼の実の祖父なのである。本名はハヌル。ソラには訳あって幼少期から両親が側におらず、この祖父の手によって育てられてきた。
「爺ちゃん、あんな奴ら、パンチの1発くらい喰らわせてやればよかったのに。」
「無理を言うな、仮にわしがお前くらい若くても、きっと取り押さえられておるわ。」
先程まで頭を踏んづけられていたが、そのぶっきらぼうな返事を聞けて、大丈夫そうだと彼はホッと一息吐いた。そして師匠であるエリスへと、彼は顔を向ける。
「師匠、こいつらどうすんの?」
彼は制圧したばかりの、拘束された兵士たちに指を向け、エリスからの指示を待っていた。
「無論、どこかの小屋にでもぶち込んで尋問だな。
レイナ、ソラが切ったこの肥満体の男には、話せる程度に回復させておけ。」
「はい、今すぐ行きまーす!」
先程まで遠目から眺めていたエリナが、シスター衣装であるローブを被り直して走ってきた。
鎧を砕かれ、腹に焼き傷を付けられたムデンへと手をかざす。
「癒しの奉仕…」
レイナのしとやかな声と共に、気を失ったムデンに淡い緑の魔力が降りかかっていく。そして、焼き焦げた跡は無くなってないものの、しっかりと傷は塞がっていた。
その様子を見ていたソラは、わざとらしく口を尖らせて言う。
「こんな村を襲うような奴、助けなくても良いのにさ。」
「確かにこの人は悪人よ。だけど私は修道女として、届くところには手を差し伸べてあげたいの。」
自分自身のポリシーを語り、真面目そうなレイナは、意外にも誇るように腰へと手を当てる。
その後、皆はソラと村長の二人が暮らす村の中でも一回り大きい家へと集まった。
あのルクス帝国と名乗る奴らもそうだが、エリスは弟子がどこから天使なんかを連れてきたかを知りたかった。
「何…?あの城から…エリティアと言うのだな」
彼女は驚いたと言うように息を漏らし、エリティアを見つめていた。それに対し、エリティアもまた、考え込む師匠にある質問をする。
「ねぇエリスさん、あなたはソラの師匠だと言ってたけど…天界剣…なぜその存在を知ってるの?あれは天使の間でしか広まってないはずよ。それに、その顔どこかで…」
そのように問われたエリスは、無機質な表情をゆっくりと横にする。
「無駄な詮索はよせ、今はお前の話をしているんだ…」
その横で、椅子に腰掛けたソラ、アス、レイナの3人は、ソラの祖父から出されたテーブル上のクッキーを口にしており、呑気な会話を交わしていた。
「しかし、珍しく最近は朝が早いと思ってたが、お前が天使なんかと逢引きしてるなんて、思いもしなかった…」
「ほんとに。私たちにも教えてくれて良かったのに。」
クールな筈のアスと、真面目な口調のレイナから、コミカルなジト目で見つめられ、ソラは恥ずかしそうに誤魔化すのだ。
「揶揄うなって、だってエリティアも色々と気持ちが落ち着かなくて、一人で居たかったんだから…」
頬を赤くしたソラの言い訳が全て語られる前に、一区切りの話を終えたエリティアとエリスが、空いた椅子に座ってきた。そこに、気を利かせてか、皆の分のお茶をカップに入れて、ソラの祖父が出してきてくれた。
それを片手に、エリスはある話題をこのテーブルの上に出してくる。
「次はルクス帝国についての話だな。貴様らも名前くらいは聞いたことあるだろう。」
その問いかけに、静かにアスが説明を始める。
「あぁ、もちろん。俺たちの村とはかなり離れたところにある、この世界で一番の大国、そして兵力を持つ。だけど、それを治める皇帝は名君で、民からも慕われていた…」
まるで過去形のような言い方に、エリティアは思わずアスに尋ねずにはいられなかった。
「今は…違うのね…?」
「うん、エリティアさん。ちょうど18年前、そこの皇帝が病気で亡くなった。普通なら、その子供が継ぐに決まってるだろ、だけどその後釜は側近の帝国軍団長バレス。それに、王妃と産まれていた筈の子供も行方不明…出来過ぎた話だろ?単純な話、クーデターだ。おそらく、皇帝の死因も病気じゃないんだろうな」
この平和な村で暮らしてきたソラ達は、その話にゴクリと息を呑む。そして、その話を繋ぐように、エリスが話し始める。
「そして、ルクスはバレスによって支配され、独裁が敷かれていった。さらには、最近になって他国、街や村の侵略をも開始し始めた。数々の街や村、小国だが、すでに滅びたところも幾つか…」
実際、その魔の手が、この辺境の村にまで及んできている。ルクス帝国は、本気で世界中を取り込もうとしているのだろう。
「だがな…奴らにも恐れるものはある。それがお前だ。」
その話していた師匠の指先は、まっすぐとソラを捉えていた。
「勇者…虹色の光を瞳に宿し、天より授けられし伝説の剣を携え、その時代の悪を討つ。かつてはこの地上を手に収めようとした魔王を制した、まさに英雄だ。」
「そう!だから俺は、この時代の悪い奴に立ち向かうヒーローってわけ」
その誇らしい無邪気な声に、エリティアは思わずクスッと笑ってしまう。やれやれと言った風にエリスはため息を吐き、和やかに途切れそうになった会話を繋いでいく。
「それに、ルクス帝国に立ち向かおうと、国々が手を組み、あのギルドも動き出している。」
その言葉を聞いて、何かを思い出したかのように、ハヌルは声を上げた。何やら上の階に行き、この場に戻ってくると、手には何かが書かれた紙が持たれている。
「それ、誰かへの手紙なの?」
変哲もない紙なのに、不思議とソラの直感は、それが重要なものだと告げていた。
「お前宛じゃ。わしのバカ息子であり…お前の父親、ギルドマスター・カエルムからの手紙だ。」
衝撃的なその内容に、アスとレイナが驚愕と困惑を混ぜ込んで、表情を歪ませた。今まで付き合ってきた幼馴染が、そんな大物の子だとは思いもしなかったし、そのような話は聞いたこともない。
「ソラ…お前、あの冒険者達のリーダーの息子なのか?
というか師匠、アンタは知ってたのか?」
「そうよ。というか、なんで目を逸らすんですか?」
ソラの父親はギルドマスター、その事実を聞いても特に驚いていなかったが、二人の追及に対して、少し気まずそうに目を逸らす。
「まっ、まぁ…知り合いだ。ちょっとしたな」
「でもじいちゃん、今まで、なんで俺には話してくれなかったのさ!
ソラは不満そうに自身の祖父へとその訳を聞こうとすると、シワを蓄えた顔に悩ましさを浮かべていた。
「ソラ…お前さんは、自覚は無いようじゃが、色々と背負い過ぎておるのだ。帝国に刃向かおうとする者の息子、さらには、今世代の伝説の勇者…」
少し一息を吐いてから、ソラの祖父はゆっくりと口を動かしていく。
「勇者のことは幼い頃に知ってしまっておるが、本当はこの歳になるまで明かすつもりはなかった…それに、もしお前さんがあいつの息子だとバレたなら、この村は確実に狙われる。だから、今までこのことは黙ってきた。」
だが、その話を聞いたソラは、もう一つの疑問を頭に浮かべ、尋ねずにはいられなかった。
「俺の母さんは?父さんのことを教えてくれたなら、母さんのことについても話してよ。」
そう聞かれたソラの祖父は、打ち明けるのを躊躇うというよりも、どのように話したら良いのかと迷ってるように見えた。
「それが、わしにも分からん。碌に顔どころか、一切の素性も明かしてくれなくてな。知ってるのはお前の父だけだ…」
「村長、そんな得体もしれないお方との結婚を許したんですか?」
「ウォッホン…ソラ、ひとまずその手紙を読んでみろ」
レイナの問いかけを、ハヌルはわざとらしい咳をして目線をソラに向ける。
「えっと…「親父、ソラ、元気してるか?俺は相変わらずギルドの仕事が多くて、椅子に座りっぱなしだ。
体が鈍っちまって困るぜ。さて…世間話はこのくらいにして、ソラ。親父やエリスから聞いてると思うが、お前は勇者として、あの帝国に立ち向かうための重要なキーとなる。そして、お前には俺から手渡したいモンもある。父親として、初めてのプレゼントだな。だから、ギルドの本部がある俺の街に来い。そこで、親子初めての会合でも果たそうか。俺はこの街の抑止力として、動くことは出来ない。長い旅になるだろうが、待ってるぜ。」…だってさ。」
紙の右端には、byカエルムという文字が、ギルドの紋章と共に添えられていた。
父親の顔なんて全く覚えてないソラにとって、この文からどんな奴なんだろうと、想像が掻き立てられる。
ソラの手紙を音読を聞いていたエリスは、少し考えた後にため息を吐いた。
「カエルムのやつ…リジリエンスまで来いと言うことか。面倒だな。」
「その街、そんなに遠いところにあるの?」
ウンウンと頷きながら、アスはソラへと教えてやる。
「当たり前だ、なんせ100里以上も距離がある。
一体どれだけの街やら国を経由することやら。」
それを聞いたソラは、メートルに単位を直し、指でいくつか計算すると、その途方もない数字に数えていた自分でも驚いた。だが、それと同時に、今までにないくらいの冒険欲を湧き上がらせていた。
「長旅か、行ってみたい。父さんに会ってみたい。
じいちゃん俺、外の世界をこの目で見てみたい。」
齢17の少年にそれは少し厳しすぎると思ったが、ハヌルも孫の覚悟を棒に振るほど、無粋な男ではない。
「そうか…お前も大きくなったか。早いの、ほんとうに早い…。わしも快く、お前を送り出してやろう。」
その言葉に、ソラは思わずうるっときたが、その涙を誤魔化すように、拳で祖父の胸を小突いた。そして皆と話し合い、ひとまず出発日は一週間後にと定まった。
その夜、村のみんなも寝静まったところで、彼は木の剣を持って外に出ていた。昼間に騒がしかった広場に向かうと、アスが岩場に腰を下ろして、一人で月を眺めていた。足元には、彼と同じ木の剣が転がってる。
「「やっぱ、考えることは同じか」」
二人してその言葉をハモらせ、彼らは夜の静寂の中に、カンッカンッという音を響かせる。
「懐かしいな。昔はこうやって、お前とチャンバラみたいなことをして、そういう剣技では駄目だと師匠に怒られたな。
今じゃ使うのは本物の剣になって、魔法も使えるようになったから、本格的な修行しかやってなかったが。」
「でも、初心に還るってのも、大事だと思うよ?」
そんな問答と剣のやり取りをしばらく交わして、二人は同じ岩場に腰掛けて、夜空を見上げる。今夜は半月で、それを彩るように色んな星も広がってる。
「ほんとに村を出るのか?…まぁ、お前は決めたことをとことんやる男だからな。」
「うん、楽しみ。一人旅ってのはちょっと寂しいけどね…」
しんみりと言われた幼馴染の言葉にアスは目を丸くし、思わず笑ってしまった。
「いや、すまん。俺はいつからお前のパーティーから外されてたんだ。お前は別に頭は悪くないが、たまに直進で突っ込みすぎる。冷静な相棒は、勇者様にも必要だろ?」
「なんだよそれぇ〜。…ほんとにいいんだね、何が起こるか分からないよ?」
呑気な笑いを最初は浮かべていたソラだが、その表情をすぐに変えた。真剣な目で、幼馴染を信じると言うような心を孕んだものを向ける。
「旅は不測の方が面白いだろ?地の果てまでお供してやるよ。」
そう言って二人は微笑み合い、月明かりに照らされる中、拳をまっすぐに突き付け合った。
一方その頃、村の教会にある一室で、レイナは一人で考え事をしていた。ソラは旅に出る、おそらく仲の良いアスも、彼についていくだろう。そうなると、自分はこの村に取り残される。確かに自分はシスターとして、この教会に居なければいけないが、それでもいつも居る二人から外されるのは…そんな悩ましい思いを交差させていると、コンコンと扉が叩かれる
「レイナ…入りますよ?」
静かな声と共に、この教会の神父で、レイナの親代わりである男が入ってきた。
「何か悩みがあるようであれば、私がお聞きしますよ。さぁ、話してご覧なさい。」
「神父様…実は…」
レイナは、自分の葛藤を神父である彼に打ち明けた。時折レイナの言葉に頷いたりするが、基本的にはただ静かな聞き手となり、全てを語られた後に、神父も口を開く。
「レイナ、確かにここに残ってくれるのは私も嬉しいです。ですが、あなたはまだ外を知らない。いつもこの村で、あなたは困ってる人を助けたり、子どもたちの面倒を見たりしてくれてますが、遠くにある国では、もっと困ってる方々が居ます。天に仕えるものとして、あなたは知らなければいけない。手を差し伸べなければいけない。」
「神父様、ということは?」
彼は崇高な微笑みを浮かべて、レイナに言葉をかける。
「ソラ達と共に旅に出なさい。きっとその選択も、祝福されることでしょう。」
そう聞いたレイナは、思わず泣きそうになり、神父へと抱きついた。彼は驚いたが、親として無防備となったその頭を優しく撫でてやった。
3人がそんな決意を固めていた頃、エリティアは村長とソラの家、その客室にて、ベッドから窓の外を眺めていた。数百年の時が経った世界、ソラという新たな勇者、新たに世界を支配しようと企む帝国の野望、こんなにも部屋は静かだと言うのに、頭の中はそれらのことで騒々しかった。
そこにドアをノックして家に帰ってきたソラが入ってくる。
「やっぱり、エリティアも眠れなかったんだね」
「ええ、考え事ばかりしちゃって…頭がちょっと、落ち着かないの」
エリティアは静かなため息を吐き、彼を優しげな眼差しで見つめた。何故こうも、恋人が居ると言うのに、こうして自分をそんな無防備な眼差しで見つめてくるのだろう。ソラは胸が高鳴り、ゆっくりとエリティアの隣へと腰を下ろす。
「エリティアはどうする?じいちゃんは、一緒にこの家に住んでも良いとは言ってくれたけど、その…」
一緒に行かないかという何気ない言葉が、喉を通ろうとしてつっかえていた。先程までは相棒であるアスにあんなにあっさりと言えたのに、彼女に対しては何故か難しい。
「少し…また、リディウスとの話をさせてくれないかしら?」
一人で考えていたところに告げられ、彼は面食らったが、無言のまま、コクリと首を頷かせる。
それは数百年も前の出来事、旅の途中にある宿の一室での話だった。
「エティ、もし僕が死んだ後、魔王みたいな奴がまた出てきたらどうする?」
今のような夜の静寂の中、ベッドの端に共に腰掛けていた恋人からそのようなことを言われ、彼女は寂しげに頭をその逞しい肩へと乗せた。
「そんな不謹慎なこと言わないで…確かに、天使と人間は寿命が違うから、いつかは対峙しないといけない事だと言うのは分かってるわ。でも、あなたが居ない世界なんて、想像するだけでも、恐ろしくて…」
そう聞いたリディウスは、そっとエリティアの頭に手を乗せた。先程までの未来を恐れていた心を、一気に蕩けさせてくれた。
「困らせるつもりはなかったんだ。でもね、この先君には僕よりも大切な人がもしかしたら…いや、僕の次に大切なもの、守るものができるかもしれない。それで、もし何かに立ち向かわなきゃいけない時がきたら、その大切な人と一緒に、肩を並べて戦って欲しい。」
んー、と柔らかな唇に指先を当てて考えていたエリティアは、迷いのない笑顔を向けていた。
「約束するわ。でもまずは、魔王をみんなで倒して、その先の未来に繋げていかなきゃいけないわ。それに、この旅が終わったら、貴方と私は…」
彼女は言葉を言い止め、リディウスと共に頰を赤らめていたが、互いに愛おしむような微笑みを向け合った。
「リディウスとそんな話をか、へぇ…」
一通りの話を聞いた彼もまた、エリティアに対して、口から出かかっていたあの言葉を言おうと決意し、手を差し出す。
「エリティア、一緒に行こう。君の力が、俺には必要だ。」
その言葉に、彼女は目を見開き、今まで自分が仲間と歩んできた旅路を思い出す。リディウスと交わした約束を改めて思い出す。そして、その答えは決まっていた。
「あの人が守り抜いた世界に咲いたあなた達と、共に歩ませて。一緒に、世界に希望と言う名の灯火を、運びに行きましょ?」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに手を握り返す。
とても熱かったが、とても心地よく、日を跨ぐまではそれは消えることはなかった。
そして何日か経った後、旅立ちの日がやってきた。
動きやすい冒険の服ということで、村にいる奥さん達が、4人の服や背中に背負うリュックを仕立ててくれた。その出来栄えには、彼らも満足している。
「よし、食料も剣も持った!師匠、村のことはよろしく頼むよ」
「案ずるな。外の脅威からは、この私が全て守ってやろう…風邪は貰うなよ、お前たち。」
そう言って、エリスはソラ、アス、レイナの頭へとそれぞれ手を置いた。そんな何気ない言葉が、3人にとっては嬉しかった。
「じいちゃん、行ってくる…今までありがとう、でも必ず帰ってくるから!」
彼は育ての親を、力強く抱きしめると、ハヌルもまたそれを受け止めてくれる。
「あぁ、行ってきなさい。吉報を待っておるぞ。」
そんな感動の場面に、肉屋のオヤジが楽しげにソラが背負うリュックを叩く。
「俺らが作った食料、これにはこの村の想いが詰まってる。胸張って行ってこい!」
ソラはその言葉に力強く頷いて、村の外へと皆で歩き始める。
「行ってくる、また今度!」
彼は後ろを向いて歩きながら、見えなくなるまで村の方へと、今まで共に過ごしてきた人たちへと手を振り続けた。
to be continued……
読んでくれてありがとうございました!
ご感想、改善点、ドシドシドヒドシドシドシドシドシッ(例のラッシュ)とぜひお願い致します。
次はいつになるかなぁ。




