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ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
味方を増やして評価を上げることも断罪回避には不可欠ですわ!
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70 悪役令嬢、家(タウンハウス)に帰る。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


    

「ご無事で何よりです。と言いたいところですが何ですかこれは?」


 王都に戻った私は学生寮ではなくタウンハウスに連行された。

 寮の門限はとうに過ぎていたし、王都の外に出たようだから朝になっても戻ってくるかは未定。あの小心者の管理人に寝ずの番をさせるのも気の毒……と(そこまで配慮があったかは不明だけれども、とにかく)今夜は戻ってきたところでタウンハウスに帰される手筈になっていたらしい。

 寮にいるはずのペトラまでが待ち構えていたのだから間違いない。


 そしてペトラ同様、タウンハウス待機組にされたと思われる義弟(コンラート)の開口一番の台詞(セリフ)が冒頭のそれだ。

 コンラートは冷ややかな目でディナエルの背中を指し示す。

 糸が引きつったように飛び出しているのは爆破弾を抱えて草の間を走った時か、それとも水車小屋の乱闘か、民家で姿を消していた間か。心当たりがありすぎる。


「……後で服を何着か用意するわ」

「謝罪は相手の目を見て言うものですよ」

「うっ」


 傷は私が付けたものではない。

 それに毛に隠れてほとんどわからない。

 本クマ()は……まぁ背中だから気付かなかっただけかもしれないけれど、でも知った今でも全然気にしていないのだし、ちょっと細かすぎるのではなくて!?

 と言いたい。言いたいけれど、借り物に傷を付けて返すことになったのはどう転ぼうとも変わらないわけで。


 悪役令嬢なら他人のものなど壊してナンボ。逆に『そんな壊れそうなものを貸したと言うの!?』と難癖をつけるのが期待されている役回りだろうけれど、その期待に乗っては破滅一直線。

 応えて喜ぶのはマツリカとトラウラだけだとわかっているのだから、むしろ破滅回避のために逆を行く──誠意のない台詞(セリフ)NG(ダメ、絶対)

 そう思いながらも『悪役令嬢の先達(せんだつ)たちに(なら)って愛されキャラになるわけね、ふーん』ともうひとりの私が脳内で(あざけ)るわけで……コンラートの好感度をこれ以上下げないための苦肉の策とは言え、結局は馬鹿にしていた見知らぬ先輩と同じ道を選ぶ自分に納得がいかない。


 だがそんなことも言ってはいられない。

 なんせ離れていた数時間の間に、対・マツリカ好感度がほぼ(ゼロ)だった兄がマツリカ派に転向している。

 そして義弟(おとうと)も途中まではマツリカに同行していたと言う。

 〝妹大好き〟な兄があそこまで変わるのなら、義弟(おとうと)が変わっていないとどうして言える? 今は頭の中がディナエルの飛び出た糸で埋まっているから変わっていないように見えるだけで、ひそかにマツリカへの好感度が上がっていないとは絶対に言えない。

 いや、借り物に傷を付けて返してくる義姉(あね)を前にした時点で『それに比べてマツリカは』と爆上がってもおかしくない。


「だいたい、隠して誤魔化(ごまか)そうと思うその発想が、」

「うわあ! だったら袖の長いゆったりしたのがいいです! いろいろ隠せるやつ!」

「……いろいろ?」


 痛いところを突いてきそうになったコンラートの声を、喜々としたディナエルがさえぎる。

 ナイスだディナエル!

 どう考えても中に武器などを仕込む気満々なのが(うかが)えるけれど、『ディナエルが喜んでいるのなら』と義弟(おとうと)の口を(つぐ)ませられれば無問題(モーマンタイ)

 気合の入った一着を、(いな)、正装・普段着・寝間着(パジャマ)etc.と用意させていただくわ! ペトラが!!


「いろいろとは?」


 しかしそうは問屋が卸さない。それで引っ込む義弟(おとうと)ではなかった。

 まさか『いろいろ』が武器だと勘付きはしないだろうが、勘付かれたら最後、『純真なクマを悪の道に引きずり込むのはやめていただきたい』と言い出すのは百も承知。

 そして口を(つぐ)ませかけたアレも、はたまた過去に追いやったはずのソレとかコレとかドレとかまでも引っ張り出してネチネチと嫌味を言い出すであろうことも必至。

 残り少ない睡眠時間をこれ以上削らせないためにも絶対に知られるわけにはいない。


「ああー!! そうね! ディナエルが喜んでくれるのなら嬉しいわ! ね、コンラートも見たいでしょう!? ディナエルの新衣装!!」

「いえ別に、」

「そうよね! 見たいわよね! 楽しみにしていてねディナエル!」

「はい!!!!」


 なので口を挟む(すき)は見せない。

 所詮(しょせん)、ディナエルをこちらに引き込んでしまえばコンラートは折れるしかないのだ。

 ディナエル(推定年齢二十五歳・男)とキャアキャア無邪気にはしゃいで見せながら、私はコンラートが諦めの溜息を吐くのを待つ。


「……それにまたクマを拾って来て」


 予想どおり折れたコンラートは、それでも話を終わりにするつもりはなかったのだろう。今度は私が持ち帰ってきた片腕のクマに目を向ける。

 ルブローデの実家同様、メイド(若い娘)たちの手によってフカフカの肌触りになって戻ってきたクマに。


「また、って何よ。私は今までクマを拾って来たことなんて一度もなくってよ」


 形ばかりの反論をしつつも、私が心の中でガッツポーズを取ったのは言うまでもない。


 その『拾って来たクマ』ことカジウラは動きもしないし喋りもしない。

 寄ってたかって若い娘に体を洗われ、至れり尽くせりの美容(とぬい(ぬいぐるみ)に言うのは間違っている気がするが)を(ほどこ)される、世間一般では金を払わなければできない体験に(ほう)けているわけでは……まぁ、半分くらいは違うだろう。

 目の前にいるのがコンラートだから、ぬい(ぬいぐるみ)に徹するつもりに違いない。


 初対面でディナエルを傷つけられ、その後の夕食会、実技演習、と最悪な印象を上塗りし続けて来たカジウラが非力そうな新参クマ()の正体だと知れば、今までの怨みを晴らさんがために何をして来るか。

 また、そうでなくともカジウラは絶賛・脱獄中の身。

 身バレしていいことなど何もないのだから、ぬい(ぬいぐるみ)のフリでやり過ごそうと思うのは普通だ。


 しかし。


「実はこれ、カジウラなの」


 私がカジウラの身バレを考慮する義務はない。

 『やたらと物を拾ってくる』なんて貴族令嬢にあるまじきレッテルを貼られるくらいならカジウラには泣いてもらおう。

 それにむしろディナエルの力を奪い、ボロボロにした報いは受けて当然。

 ダンジョンの最深部にクマ化状態で放置され、()()うの(てい)で戻ってきてからも実の親からゴミと間違われ燃やされかけたディナエルの苦労を少しは身をもって知るがいい! 

 第一、私がカジウラを連れ帰ってきた目的は〝脱獄犯カジウラを捕え〟ることで今回特筆すべき成功が何ひとつなかった悪役令嬢の行動に華を添えるためと、マツリカと同じ転移者であるカジウラに彼女の情報を吐き出させたい、と言う思惑あってのことで、保護しようなんて考えはこれっぽっちもない。


 ここでコンラートに預ければ一瞬で暖炉に放り込まれ、文字通り灰燼(かいじん)に帰すのは時間の問題。

 生きたまま焼かれるのと断頭台の露に消えるのとどちらがいいか、なんて私は選びたくないけれど、それは勇者(笑)とて同じだろう。

 そして危機感を持ってくれれば、この究極の二択のうち逃れられる確率が高いほう──〝義弟(おとうと)(ぎょ)すことができる(であろう)義姉(あね)の後ろ盾を得る〟ために協力的になるに違いない。


「……カジウラ?」


 案の定、コンラートの目の色が変わる。

 隠そうともしない殺気に、カジウラもぬい(ぬいぐるみ)のフリでしのごうだなんて甘い考えは早々に捨てる気になったらしい。


「おい! 〝クマの人形がカジウラなの♡〟 で信じるってヤバすぎだろ義弟(おとうと)!!」


 焦ったように暴れ出した。


「ふふ、動かなければただのクマでやり過ごせたかもしれないのに、馬・鹿・な・ひ・と


 私の嘲笑交じりの声に固まったが時(すで)に遅し。

 視線だけで殺せそうな目を向けてくるコンラートのほうを見ることもできず、カジウラは固まったまま救いを求める子ウサギのような目を私に向ける。

 と言っても黒ビーズだけど。


「カジウラが何故(なぜ)

「ほら、ディナエルの力を取り返す時にカジウラの力も奪ってしまったのではないかと思うのよ」


 渾身(こんしん)のウルウル攻撃(のつもりだったかは疑問だが)から私は(さわ)やかに目を()らし、私はコンラートに答える。

 残念だったな!

 私はその手の顔には見慣れている。

 と言うか、カジウラの分際でディナエルと同じ顔をしようなんざ一〇〇年早いわ!


「しかし義姉(あね)上がディナエルの力を取り返したのは夕食会の時だったでしょう? あの後もカジウラは人間の形をしていたではありませんか」


 そしてコンラートもカジウラのほうなど見もしない。


何故(なぜ)今になって」

「鈍いのよ。よくあるじゃない、運動した翌々日くらいに筋肉痛が来るみたいな」

「待て! 俺を中年の筋肉痛と一緒にするな!」

「なるほど」

「なるほどじゃねぇ! 納得するな義弟(おとうと)!!!!」


 ウルウル攻撃を無視され、口を挟むもまた無視され。


っつーか(と言うか)、やっぱ全部お前のせいだったんじゃねーか! このツリ目おん、ぎゃ!」


 (わめ)き散らすカジウラを、これまた(さわ)やかに張り倒し(からの)踏みつけコンボで黙らせて。

 そして私は踏み潰したカジウラを超・上から見下ろす。


「お黙りなさい。あなたの未来は私の(てのひら)の上にあることをお忘れなく」


 そう言い放った矢先。


「「うわー! マコレッタだー!!」」


 声がした。



「……義姉(あね)上、こちらは?」


 コンラートもこれまた、カジウラを無視したまま我が家のメイドたちによって身綺麗にされた赤毛の娘とその後ろで所在なさげにしている巨乳娘ふたりに目を向ける。


 『マコレッタだー!』の片方はディナエルだが、もうひとりは初対面(後ろのふたりも肌の露出がない服を着せられてるので再会だとは思っていないかもしれないが)。

 私同様、人付き合いが不得手な義弟(おとうと)が、突然現れた家族や使用人とも違う第三者(モブ)に怪訝な目を向けても不思議ではない。


「リーナとアウラ、それにソラよ。今日のところは遅いからうちで休んでもらうことになったの」


 今更言うまでもないが赤毛娘がリーナ。巨乳のふたりが半乳ことアウラとソラ。

 今回の件の事情聴取も兼ねて王都に連れて来られた彼女らは、冒険者御用達の宿屋に泊まるのが本来の職業に見合った宿泊先。しかし夜遅すぎて今から宿探しは困難だろう、と我が家で預かることになったのだ。


 ちなみに半乳たちが兄たちを見つけて助けを求めたおかげで、最速でイグニートを捕えることができたらしい。

 彼女らの機転でコーネリアが奪還できたことを思えばバルトガー侯爵家でもてなしを受けてもいいところだが、うちに決まったのは手放しにもてなせない何かがあるからか。

 兄の許可は出ているので今晩は客人として扱われているが、そんな裏事情を感じるのか、それともお高くとまったお貴族様の屋敷な空気が合わないだけか、半乳たちは居心地が悪そうだ。

 リーナだけは『マコレッタと同じ屋根の下』 シチュ (シチュエーション)で脳内が占められていて気付いていないようだけれども。


 アロイスは何故(なぜ)か王城に連行されていった。

 (すで)にイグニートとエアハルト伯が捕らえられている手前、犯人扱いではないだろうと思いたいが、こちらも半乳たち同様、私が知らない何かがありそうだ。

 ディナエルが言っていた『隣国の王子説』!? と思うも、正確なところは聴取のために登城してからか、もしくは兄が帰って来てからになるだろう。



「こんな義姉(あね)と一緒で疲れたでしょう。今日のところはお休みなさい」


 コンラートは三人娘に攻略対象スマイルでそんなことを言う。

 今の今まで不愛想が服を着て歩いているような男だったのに、何時(いつ)の間に社交辞令まで言えるようになったのか。義弟(おとうと)の成長が嬉しい義姉(あね)であった……とはならない。むしろこの笑顔すらマツリカの影響を受けたからではないかと薄ら寒い。


「あ、じゃあ俺も」

「あなたは眠れると思わないで下さい」


 それじゃ、とカジウラが逃げかけるも、コンラートは冷淡に言い放つ。

 カジウラに関しては私もまだ聞くことがあるので同意見だが──。


「〝今夜は眠らせないぜ〟ぇぇ!?」

「ねえ、この人あんたの義弟(おとうと)って言ってたよね!? どういうこと!?」


 クマの声が聞こえない半乳たちには、コンラートがカジウラにではなく私に言ったように聞こえたらしい。



 このとにかく恋愛に結びつけようとする脳味噌は乙女ゲーム仕様ですか?

 コンラートが目だけで『どうにかしろ』と言ってくる。

 けれど!

 十余年ルブローデに引き(こも)ってきた私に、『女子力がない』と散々言われてきた私にどうしろと!?


twitterにUPしたお正月イラストです。

挿絵(By みてみん)

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