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ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
誘拐・監禁・駆け落ちは令嬢ものトラブルの王道ですわ!
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67 悪役令嬢、辺境伯に会う。

    

 トラウラ(仮)父は部屋を──あからさまに言ってしまうと中にいる〝女〟をひとりずつ吟味するように見ていく。

 このところずっと女をモノ(商品)としてしか見ないクズばかり相手にしていたせいで、この老人も若い女を物色しているようにしか見えないが、『助平爺(スケベじじい)にしか見えない』なんて偏見を押し付けても笑って許してもらえるのはヒロインだけ。

 世の悪役な(ヒロイン化しない、真の意味でヒロインを(いじ)める役回りの)悪役令嬢が破滅するのは、思ったことをダイレクトに口に出し、顔に出し、行動に出るからに他ならない。そうでなくとも破滅しやすい役柄なのだから一挙一動に気を付けねばならないのに。


 さて、そう考えるとこのトラウラ(仮)父は助平爺(スケベじじい)か、それとも正義の味方が世を忍ぶ仮の姿か。

 私は不快感を顔に出さないようにしながら、トラウラ(仮)の父と言う男を観察する。


 世に出回る〝正義の味方〟の九割近くは助平爺(スケベじじい)とは真逆の清廉潔白な美丈夫(イケメン)に描かれていることが多い。冴えない中年男だのいじめられっ子だのと言う設定がついていたとしても顔はいい。

 が、それはもともとモブに至るまでほぼ全員が美丈夫(イケメン)の世界だからだ。

 それより格段に美丈夫(イケメン)率が低い世界では、正義の味方の外見が助平爺(スケベじじい)でも仕方がない。母数(イケメンの数)が少ないのだから!


 クマッティやトラウラがぬい(ぬいぐるみ)姿なのは力を失っているからだ、と本(クマ)が言っていたところからして、神の本来の姿が人間仕様である可能性は非常に高い。

 神をモデルにして人間を作ったのなら、なおのこと似ていよう。

 むしろ作ってモブ顔なら、見本になった神の顔など()して知るべし。美男美女どころか老人で現れても意外なことではない。


 そして、そんな〝力がない〟はずのクマたちは「力がない」と言いつつ空を飛び、無言で意思を疎通させ、他のクマの位置を特定する。

 老人とは言え人間体(完全体)のトラウラ(仮)父を(あなど)るのは危険すぎる。



 だが、そうなると新たな疑問が。

 その神が何の用で此処(ここ)に?


 『救いを求める子羊』を救うために来たのだとすれば、該当者は確かにいた。

 男どもは全員倒されイグニートも不在、今やまわりにいるのは味方ばかりで本人からも危機感は全く感じられないけれど確かにリーナは売られそうになっていたわけで。

 そしてもっと正確に言えばリーナ以外のこの場にいない女たちは、現在進行形で今でも救いを求めているはずで。


 しかしやってきたのが神となると話は別。

 そもそも神は人間が起こした悪事には介入しない。

 そこまで親切だったら今頃この世界は理想郷(ユートピア)になっている。


 乙女ゲーム的発想でいけば『売られようとしている女に神は少なからず好意を持っていた。なので不可侵の(おきて)を破って介入してしまったのだ。神は力を剥奪され人間に()ちることになったが、女とラブラブでめでたしめでたし。その後のふたりについてはまた別のお話♡』なんて結末もあるだろう。

 が、今回はそれも違う。

 トラウラ(仮)父はリーナどころか此処(ここ)にいる女たちの誰とも面識がない。

 こちら側としてもリーナの()しはマコレッタ、オリヴィアとソフィアはコーネリア。私に至っては男より剣術、と恋愛偏差値の低い女ばかりが揃っていて、〝乙女ゲーム第三弾:神と人の異種族間恋愛〟に発展する可能性は極めて低い。


 むしろ、筋書きどおりの悪役令嬢を演じない私を強制的に悪役ルートに戻しに来た。のほうがあり得る。

 どうせなら他人に迷惑をかけまくっている子供(トラウラ)(かつ)を入れ、ついでに乙女ゲーム化を白紙に戻しに来ました、とやってほしいものだけれども、それは過ぎた期待だろう。



 だが。


「エアハルト伯爵閣下!」


 トラウラ(仮)父に向かって放たれたオリヴィアの一言が、今までの推論を全てブチ壊していった。


 衝撃の事実! エアハルト辺境伯は神だった!


 そんなはずがあるか。

 私は自分で自分にツッコミを入れる。



 エアハルト伯爵家と言えばルブローデと同じ国境を守護する家のひとつ。

 数年前までは隣国との(いさか)いが絶えなかったが、カジウラが平定してからすっかり平和になり、伯爵も領地でスローライフを満喫していると聞いている。

 ただ先日、跡継ぎが王族を狙う事件があり、伯爵が(いま)だに沈黙を続けているのを疑問視する声も上がっていた。

 その事件とは例のカジウラによるクリストファー暗殺未遂事件。

 刑が決まる前にカジウラが脱獄し行方をくらませてしまったあの事件だ。


 とすると? 今まで私がトラウラ(仮)だと思っていたアレ(クマ)は……トラウラではなく、カジウラ、なのか?

 私はディナエルを拾い上げる際に盛大に放り出したクマを見下ろす。

 投げ捨てられた形のままベシャリと腹ばいになっている姿はあの(・・)〝勇者カジウラ〟にしてみれば屈辱だろう。だが、彼もまたぬい(ぬいぐるみ)姿動き回るのは得策ではないとわかっているのか、ピクリとも動かない。


 カジウラだと言われれば片腕の理由にも思い当たる。

 何故(なぜ)クマになったのかについても……私はチートクラッシャーで彼から力を奪っている。ディナエルをはじめとする冒険者らがカジウラに奪われた力ではあるけれど、名前が書いてあるわけでもなし、その中にカジウラの力が混ざっていなかったとは言い切れない。


「(カジウラなの?)」


 念じてはみたが返事は返って来ない。

 思念でなら会話できるはずだが、ぬい(ぬいぐるみ)になりきっているのか、聞こえていないだけなのか。

 イグニートとは何の関係もなさそうなカジウラが何故(なぜ)此処(ここ)にいるのか新たな謎が増えてしまったけれど、本人なら身柄を確保しておいた方が今後、役に立つ機会は多かろう。

 私はカジウラを拾い上げ、ポケットにねじ込む。

 腰あたりにカジウラが密着していると思うと嫌だけれども、他にしまうところがない。


 そしてカジウラの件はひとまず置いて。

 私は改めてエアハルト伯に視線を移す。



「──お主は?」


 否定しないのは本人の証拠か。

 人違いをいいことにエアハルト伯になりすますつもりかどうかの判断は、コーネリアに付いて社交場のあちこちに顔を出しているオリヴィアの目に頼ったほうが確かだろう。


「ジョセフ・ブラウンが娘、オリヴィアでございます。こちらはルブローデ伯爵令嬢マルグリット様とバーミリオン子爵令嬢ソフィア様ですわ」


 そしてそのオリヴィアは彼をエアハルト伯だと認定した。

 となれば敬意は払わねば。

 彼女の紹介に合わせ、慣れないカーテシーをひとつ。

 エアハルト伯はそんな私を見て「ふん」とひとつ鼻を鳴らしたが……下手と思われたわけではないと信じたい。


「こんな田舎のボロ小屋に貴族の娘がいるものか。貴族の娘だと名乗れば助かるとでも思ったか?」


 ……信用されなかったのもカーテシーが下手だったわけではないと(以下略)。



 しかし、今の台詞(セリフ)は申し訳ないけれどもの凄く悪役のようだった。

 これもまた祖父が好んで読んでいた〝勧善懲悪(かんぜんちょうあく)モノ〟と呼ばれる掌編に出てくる小悪党(但しその話の中ではラスボス)を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 出だしこそ様々だけれども、後半──世を忍ぶ仮の姿な主人公が素性をバラし、それを知った敵が本物と知りながらも死人に口なしとばかりに『偽物だ!』と切りかかり、やたらと腕の立つ主人公の仲間がバッタバッタと切り伏せ、救われた被害者に感謝される──部分はほぼ同じでパターン化されている、あれらの話のラスボスに。

 私などはマンネリ化した結末にうんざりさせられたものだが、毎回敵が負けるのが確約されているから安心して見ていられる、と言う説を聞いたことが……いや、脱線した。

 ともかく、相手が貴族だと知ってなお『偽物』と突っぱねるその(さま)が、相手を知りつつ亡き者にしようとする小悪党の振る舞いにそっくりだ。


「疑われるのも仕方のないことでしょう。私とてこんなところに(とも)も連れず貴族の娘がいるべきではないと思っております」


 しかしそのスタンスをオリヴィアは忘れているだけだと思っている。

 もともと社交場よりも戦場に長くいたような人だし、そんな長くジークラムの平穏のために尽くして来た辺境伯──いわば〝正義の味方〟だからこそ、疑われるべき非は自分たちにあると思っている。


「しかも(とも)の代わりにいるのが変質者にしか見えない下着姿の男とくれば、」


 ……アロイスが下着姿なのは(まぎ)れもなく私のせいだ。疑わしい状況作りに一役買ってしまったと言われると立つ瀬がない。

 ああ、『どうせ将来は領地に引き(こも)るのだから無駄』とばかりに社交を切り捨ててきたのが今度ばかりは(あだ)になった。私を──私が貴族の娘らしからぬ行動に出ることをエアハルト伯が知っていれば……いや、ちょっと待て。何かおかしい。


 私がマルグリット・ルブローデ本人だと知っても、そしてオリヴィアやソフィアを本人とわかっていたとしても、彼はそれを認めないのではないだろうか。

 小悪党と同じだから、は、理由にするには薄い。

 けれど こんな (乙女ゲーム化した)世界にいるからこそ、初期ボス、中ボスあたりの〝やられ役〟は鉄板(テンプレ)行動をとる気がしてならない。


 よく考えろ。

 何故(なぜ)、エアハルト伯は此処(ここ)に来た?


 この地が王都よりもエアハルト領に近いと言うことは、私たちの移動時間を考えれば、ない。

 伯爵が兄たちより早く到着するには、アロイスの情報を持ったコンラートが王城に進言しに行くより前に出立しなければならない。

 バルトガー侯爵家がコーネリア誘拐を公にして助力を()うたとしても、いきなりエアハルト伯にと言うことはないだろう。親戚筋でもなければ親しい間柄でも、まして昨今の女性失踪事件の解決を任されているわけでもないエアハルト伯には。


 さらには『救いを求める子羊はひとり(・・・)』。


 そうだ。伯爵は最初から此処(ここ)にいる女はひとりだと知っていた。

 つまり(さら)われた女たちや半乳たちが此処(ここ)にいないことを知り、()つ、イレギュラーな私たちがいることは知らなかった、と言うことではないのか?



「失礼を承知でお願い致します閣下。バルトガー侯爵令嬢コーネリア様が人さらいに(さら)われてしましましたの。それを追って私たちは此処(ここ)まで来ましたが力及ばず、」


 『救いを求める子羊』がコーネリアを指している可能性もないわけではない。

 が、前述したようにバルトガー侯爵がいきなりエアハルト伯に頼むことはない。

 バルトガー侯爵に恩を売るために伯爵が独断で動いている、と言うのも考えにくい。



「オリヴィア、と言ったか」


 エアハルト伯は値踏みするようにオリヴィアを見た。それからソフィア、私と視線を移す。


「そしてソフィア、マルグリット、と」


 記憶から抜け落ちた貴族年鑑のページでも搔き集めて、私たちを思い出そうとしているのだろうか。

 社交界にほとんど顔を出さない辺境伯が娘か孫の年代の私たちを名前だけで思い出そうとするのは無理があるとしか思えないのだが、貴族たるもの、覚えていて当然! だったら指摘した私のほうが非常識。

 思えばコーネリアは誰にも名前を呼んで挨拶していたし、〝血塗られた(ブラッディ・)叛逆(リベリオン)〟の登場人物たちも初対面のヒロインの名前を当然のように知っていた。

 きっと皆、『貴族の社交なんて面倒なだけ』と上っ面だけしか見ていなかった私にはわからない努力を陰でしていたに違いない。

 だとすれば私の無知を隠すためにも黙っておくに限る。


「とするとその女がリーナか」

「閣下?」

「ああ、わかったわかった。お前たちも悪いようにはしない」

「本当ですか!?」


 あれ? リーナって紹介したかしら? と首を傾げるのも束の間、本当にわかったのかも怪しい言葉にオリヴィアが喜色を浮かべる。

 エアハルト伯はそんな彼女に薄く笑い、それからおもむろにアロイスに歩み寄った。 


「そうとも。だから……そうだな、まず、この男はいらないな」

「アロイス! 逃げて!」


 とっさに口を()いた声にアロイスが飛び退()く。

 彼がいた場所に、半拍遅れて剣が(かす)って行った。


「エアハルト伯爵様! 胡散臭(うさんくさ)く見えますけれど、彼は一応は私たちの協力者で!」


 慌てて説明を付け加えるオリヴィアに見向きもせず、エアハルト伯は抜いた剣をさやにしまう。

 そして。


「そうだろうね。こんな恰好(かっこう)をしているのに女を抱くわけでもないと言うことは、彼は客ではないのだろう?」

「客?」

「そしてお前さんたちも、」

「オリヴィア様、エアハルト伯からお離れになって!」


 私はそう言いつつ彼女の腕を(つか)んで後方に引き放した。



 エアハルト伯が何を考えているか。どれだけ考えたところでそれは推論の域を出ない。

 状況証拠のひとつもない。

 敵扱いするのは失礼かもしれない。

 が、先ほどのアロイスに切りかかった時と言い、伯爵からはピリピリした悪意を感じる。

 長年鍛えていたからこそ感じることができるようになった勘とでも言えばいいようなものが、伯爵は危険だと言っている。

 敵に寝返っている可能性が五割の確率であるはずのアロイスには感じなかった勘が。



 次いで呆然と突っ立っているソフィアを、そして座り込んだままのリーナに手を伸ば……したがさすがに三人目ともなるとエアハルト伯のほうが早かった。

 エアハルト伯はリーナを羽交い絞めにし、腹に──アロイスの服のおかげで肌の露出はなくなっているが──剣の切っ先を当てる。


「閣下、何を、」

「この女を怪我させたくなかったら武器を置け。で、そっちの壁に貼り付け。後ろ向きでな」

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