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ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
誘拐・監禁・駆け落ちは令嬢ものトラブルの王道ですわ!
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閑話 男たちのクマ三昧・4。(コンラート視点)


「それが真実だとして、マルグリットをひとり渦中に飛び込ませて、きみは安全なところで待つことを選んだと、そう言うことか?」


 義姉(あね)に『コーネリアが行方不明になった顛末(てんまつ)義兄(あに)に伝えてくれ』と頼まれ、フォルッツとクマッティをピックアップしがてら王城に向かったコンラートだったが、待っていたのは自分を(とが)める台詞(セリフ)と冷たい視線だった。



 王城は行こうと思って行ける場所ではない。

 しかも自分はルブローデの養子になって(いま)だ一ヵ月あまり。

 それまでも貴族とは言え(おおやけ)の場に顔を出すことなど(まれ)だった自分が、なのに一度も身元を照会されることなく〝ルブローデの次男〟として通されたのは、義姉(あね)が言うところの〝世界の乙女ゲーム化〟の影響なのだろうか。

 全く面識のない警備兵に顔パスで通されること数回。

 自分が攻略対象だからか、入学式がなかったことと同様、ストーリー展開に直接かかわって来ない部分は都合よく端折(はしょ)られる仕様なのか。

 そのあたりは不明だが一刻も早く義兄(あに)に仔細を説明しなければいけない今、引き留められる時間が皆無なのは有難い。有難いけれども、気持ちが悪い。

 

 が、ともかく、義兄(あに)に会うことは叶った。

 叶ったけれども──。




 通されたのは鍛錬所ではなく、会議室と応接間を足して二で割ったような部屋だった。

 普段、何に使われている部屋なのかは全く見当がつかないが、ただでさえ広い王城。特定の目的がない部屋など山のようにある。

 その山のような部屋のひとつで義兄(あに)とクリストファーの他に第一王子と第二王子、バルトガー侯爵と偉そうな雰囲気の男数名が(すで)に卓を囲んで座っていた。

 そこで冒頭の叱責が投げられた、と言うわけだ。



「まぁそう責めずに。それでルブローデ辺境伯令嬢は先に行くから合流しろと言ったわけなんだね」

「は、はい」


 顔が同じなので第一か第二かわからないが、兄王子の片方から声をかけられる。


 此処(ここ)に来てからの彼らの会話を(つな)げるに、どうやらコーネリアはこの兄王子のどちらかと婚約することになっていたらしい。

 双子のようによく似たふたりだが、まさか嫁まで共有するつもりではあるまい。

 そう考えるとコーネリアとは(えん)もゆかりもないはずのもうひとりまでもが此処(ここ)にいることには疑問が残るのだが、それよりも。


 コーネリアはクリストファーに熱を上げていたはずだが、その兄でもいいのか? 確か面食いだと聞いていたが顔は似ても似つかないのに。

 兄王子どちらかの婚約者なのに駆け落ちしたのか?

 いやそれとも……婚約が嫌だから駆け落ちしたのか?


 ありえる。大いにあり得る。

 なんせ婚姻にしろ養子縁組にしろ本人の意向なんてものはほとんど関与して来ないのが貴族社会。

 もしかすると彼女は本当に婚約が嫌で逃げ出したのかもしれない。

 しかしそれを口にしたらコーネリアの貴族生命どころかバルトガー侯爵家自体が取り潰しになるわけだし、現にバルトガー家は彼らに『コーネリアが誘拐された』としか報告していないようだし。

 王家に助力を頼みたいのなら『駆け落ちしました』なんて正直に言うはずがないけれど、ともかく、その報告が虚偽か認識していなかったかについては部外者の自分が口を差し挟むものでもないので黙っておく。



「ルブローデ辺境伯令息……はふたりいるから便宜上〝義弟君(おとうとぎみ)〟と呼ばせて頂こう。で、義弟(おとうと)君が持って来た情報によれば、ルブローデ辺境伯令嬢は同行している冒険者が人身売買の仲間ではないかと疑っている」


 席に着く面々をぐるりと見回し、兄王子A(第一か第二かわからないので暫定的に呼称する)が口を開く。

 場を取り仕切るのが好きなのか、コーネリアの婚約者候補だからか、これもご都合主義で端折(はしょ)られたあおりか。

王族が司会進行役を買って出ることには疑問符が浮かぶところだけれども、議事を止めてまで追及するほどのことでもないので、これも黙っておく。



「彼女の居場所がわかればその先にバルトガー侯爵令嬢もいると思っていいだろう。問題はどうやって居場所を特定するかだが──」


 酒場での騒ぎにいち早く勘付いたのはディナエルだった。

 人外なクマ同士ならではのご都合主義が働いたのか、漠然としてではあるけれど『ビビビッと感じた』のだそうだ。

 義姉(あね)もその力を認めていて、ディナエルを連れて行くからフォルッツかクマッティを使って場所を特定しろと言っていたし、実際、フォルッツは『ディナエルの行った方角を示すくらいならわかる』と言い切った。

 だが。


「──きみは彼女の居場所がわかる、と言ったね? どうやって」


 クマの存在を知らない彼らの前で、どう説明すれば。


「え、っと…………………………実は私、義姉(あね)限定で彼女の居場所がわかる能力(ちから)を持っていまして」


 クマの指示を彼らに伝える通訳が要る。

 持ってもいない能力持ちだと(うそ)()くのは(はばか)られるが、喋るクマを彼らの前に出すことに比べたら(こうむ)る被害は少ないはずだ。

 ちゃんと『義姉(あね)限定』って言ったから、今後行方不明者の捜索案件が出る度に駆り出されることはないだろうし。

 そんな諸々(もろもろ)の裏事情を煮詰めて、どうにか出した最良の答え。

 だが、


「馬鹿を言え。そんな能力聞いたこともない」


 案の定、速攻で義兄(あに)に否定された。



 真っ向から否定された場合はどうすれば。

 この場で義姉(あね)の向かった方角を指し示して見せたところで、それが正しいと言う証拠は何処(どこ)にもない。

 つまりは義兄(あに)を納得させられない。

 納得しようがしまいが義姉(あね)の位置を示せるのは自分だけだから義兄(あに)に同行することにはなるだろうけれど、義姉(あね)と合流するまで針の(むしろ)状態が続くのは正直キツい。


 そんなことを思い、悲嘆(ひたん)に暮れかけた時だった。


「いや、彼は予知能力持ちのルブローデ辺境伯令嬢の婿(むこ)となる男です。特殊能力のひとつも開花させていたところで不思議はありません」


 誰も信じてくれないだろうと思っていた(うそ)に、意外なところから賛同の声が上がった。

 クリストファーだ。


「ルブローデ辺境伯令嬢は私がヨルム男爵令嬢と出会うことを予知しました。〝予知が外れたら断罪してくれても構わない〟とまで言って。そんな彼女に釣り合うと見込まれて数多(あまた)の令息の中から選ばれた義弟(おとうと)君がその手の能力を持っていないほうが私には信じられません」

「……マルグリットが予知を?」

「え、あ……! すまない、このことは彼女の身に危険が及ぶばかりだから(おおやけ)にしないでくれと頼まれていたんだった。此処(ここ)だけの話にしてくれると嬉しい」


 義姉(あね)義姉(あね)で王族相手に大(うそ)を(いや、万に一つの確率で本当に予知能力持ちかもしれないけれど)ブチかましていたようだ。

 『断罪してもいい』と断言するからには余程(よほど)自信がある情報だったのだろう。

 そしてその情報どおりにクリストファーはマツリカと出会い、だからこそ今回の自分の(うそ)を信じることに(つな)がっている。過去の義姉(あね)のハッタリと、クリストファーの素直さには感謝しかない。



「では今もルブローデ辺境伯令嬢の居場所がわかるのだね?」


 他ならぬ(クリストファー)のお墨付きだから信じる気になったのか、もしくは使える手は何でも使わなければいけないほど万策尽きているのか。

 疑っている余韻を残しつつも兄王子Aは私に問いかける。


「今はまだわかりますが、距離が遠のけばわからなくなるかもしれません」


 そしてこの答えはフォルッツの受け売りでしかない。

 今でも全くわからないのにさらに距離で変わるかどうかなんて判断のしようもない。


「今わかるのは漠然(ばくぜん)とした方角のみですが、近付けばもう少し(くわ)しく感じることができるかと」


 捜索隊に同行した先で彼らが望む結果を伝えることができるか、それはクマのみぞ知る話。

 が、もし結果が出せなければ義姉(あね)何処(どこ)ぞへ売られるか殺されるか(悪役令嬢だから後者のルートのほうが高確率で用意されているかもしれない)するわけで。

 そうなれば『義姉(あね)が死んだから居場所がわからなくなった』という言い訳が通用するわけで。

 結果的に私が(うそ)を言っていたと証明することもできなくなるわけで。


 そう考えれば、どう転んだところで私が不利になることはない。




 兄王子Aは私の返答に軽く(うなず)くと、義兄(あに)に向いた。


「……では騎士団から精鋭を()り出して令嬢らの救出に向かわせるとしよう。人選はユリウスに任せる」


 信じて(もら)えたのか、ともかく出立を優先させることにしたのか。

 指示の前に三呼吸ほど間があったのが気になる。兄王子と義兄(あに)の間で無言のやりとりがなされたのかもしれない。

 『嘘だったらお前の判断で処分しろ』でなければいいのだが。


 指示を受けた義兄(あに)は私には目もくれずに立ち上がった。

 クリストファーも同じように腰を浮かしかけたが、兄王子に目で制され、思い直したように椅子に腰を沈めた。



 最近義姉(あね)が読みふけっている(たぐい)の小説では、敵のアジトに(おもむ)くのはヒロインの令嬢と貴族の子弟数名(王族を必ず含む)と言う所謂(いわゆる)レギュラーメンバーと決まっているのだが、そこは踏襲(とうしゅう)しないらしい。

 まぁ自分たちの場合ヒロインと言えばマツリカを指すらしいし、彼女とクリストファーの尻拭いをしつつ現役冒険者の人身売買組織とやり合うのは無理が過ぎるので、踏襲(とうしゅう)しないにこしたことはないのだが──。


「私も是非(ぜひ)参加させて欲しいのでするん!」


 ここへ来て急展開。

 義兄(あに)が出て行こうとした扉を勢いよく開けて、マツリカが登場した。

 制服の時は語尾が奇妙なものの普通の娘に見えたものだが、神殿仕様の白いローブを着用したその姿からは聖女らしい神々しさを感じる。語尾は相変わらずだけれども。


 しかしもうじき戻って来るとは聞いていたけれど随分とタイミングがいい。

 まるで彼女が参戦することが確定していたかのようだ。

 義姉(あね)はこの騒動をイベントと称していたが、こうなると確かにこれはマツリカのイベントのひとつなのだろう、と思わずにはいられない。



「コーネリア様もですけれど、ユリウス様とコンラート様に何かあったらジークラムの損失でするん。聖女マツリカ、是非(ぜひ)ともお供させて欲しいのでするん!」


 胸の前で両手を組んだお祈りポーズでマツリカは兄王子Aに訴える。

 聞き方によってはコーネリアは二の次で義兄(あに)と自分を心配しての発言のように聞こえなくもないが、〝聖女のお言葉〟的な効果(エフェクト)のせいか、それとも長年背中を預けて来た護衛(とその義弟(おとうと))に対・婚約者とは違うベクトルで心配はしていたのか。

 兄王子Aは何度も(うなず)くと、


「いいだろう。聖女マツリカよ。ユリウスを助けてやってくれ」


 と二つ返事で同行に許可を出した。

 兄王子Aだけではない。兄王子Bもクリストファーも、そして娘を(ないがし)ろにされたであろうバルトガー侯爵までもが口々に『頼んだぞ』と声をかける(さま)は、魅了の魔法をかけられたかのようだ。



 もしかしてこれは義姉(あね)が警戒していた〝転移者は異性にモテる〟能力のせいだろうか。

 魅了された人々は全員ヒロインの側に付き、ヒロインの言うことだけを信じるようになるらしい。


 兄王子たちやバルトガー侯爵は攻略対象ではないだろうが、権力者の支持を得ることができれば展開が有利に進むのはよくあること。

 コーネリアを助けると言う理由は同じだけれど、義姉(あね)の行動は自分勝手な暴走に等しく、反してマツリカはあくまで助力を申し出る形だ。決定権は兄王子たち側にあった。

 今回の件で彼らの好感度がマツリカ側に寄ったのは間違いない。


 これは偶然か?

 神殿で彼女に入れ知恵をした者がいるのか?

 それとも──。 



 マツリカは彼ら一人一人に(うやうや)しく頭を下げると、おもむろに私を振り返る。


「コンラート様の力、私は信じておりまするん!」



 ──クマたちに感化されて義姉(あね)の偏見を妄信的に信じてしまっていただけで、本来のマツリカはヒロインらしい他者の幸福を願う娘なのではないか?


 ふと、私の頭の中でもうひとりの私が(ささや)いた。


 言動が演技めいているから裏があるように見えているだけで。

 この世界に当てはめて見るからおかしく見えるだけのことで、彼女の元いた世界では語尾に『るん』を付けることも、好いた異性に体当たりしてくるのも普通のことかもしれない。

 なんせ彼女は転移者。

 この世界で生まれ育ったわけではないのだから、と。

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