表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
誘拐・監禁・駆け落ちは令嬢ものトラブルの王道ですわ!
PR
56/134

52 悪役令嬢、出迎えを受ける。


「大変だったね。怪我はなかったかい?」


 寮に戻るとクリストファーに出迎えられた。


 今回の事件で何故(なぜ)兄が出張(でば)って来たのか、どうやって兄にまで伝わったのかは疑問符が付いたままだが、ともかくわざわざ出向いて来るからにはその間護衛任務から外れることになる。

 当然クリストファーに無断で、と言うわけにはいかない。

 だから彼が知っていたところで何もおかしくはない。


 だが持って来た婚約話を蹴り、モンスター(クラスレグルス)を前にネチネチと責任を問い、上から目線で攻撃支援を命令した私を心配してくるとは思わなかった。

 まぁ社交辞令だろうけれども、さすがは令嬢キラー。どんな嫌な相手でも礼節をわきまえる紳士の(かがみ)だ!

 と、ちょっと感動しかかるも、


 ……いや。


 素直に感動できないヒネくれた悪役令嬢の(さが)

 もしかすると心配している風を装ってことの顛末(てんまつ)を聞きたいだけかもしれない。なんて考えが頭に浮かぶ。


 思えば、噂好きの叔母も似たようなことをよく言って来たものだった。

 兄妹喧嘩をした翌日や、父が遠征に行ったまま音信不通になった時、兄が王都に行ったきり帰って来なくなった時などの、


『大変ねぇ、何があったの?』


 にニュアンスがよく似ている。


 そうだ。私にはわかる。

 この言葉は決して〝私を〟案じて発せられたわけではない。

 〝私〟なら、目の前にいるのだから聞くまでもない。

 これは私ではない別の誰かの現状を知りたがっている言葉だ。


 別の誰か。

 とすればコーネリアだろう。

 オリヴィア、ソフィアと言う彼女の取り巻き嬢'sが私を訪ね、引き()るように連れて行ったことを学生の何人かは目撃している。其処(そこ)からコーネリアに何かあったらしい、と連想するのは容易(たやす)い。

 加えてコーネリアは侯爵令嬢だし、幼い頃とは言え縁談が出た相手だし、それは破談になったけれども本人は今でもクリストファーを慕っているし、(さき)の実技演習では同じパーティ仲間として戦った仲だし。

 何よりもクラスレグルスからクリストファーを(かば)おうとしたのはゴビルン(マツリカ)ではなくてコーネリアだし。

 いくら心の恋人がマツリカのままであろうとも、それだけ縁のあるコーネリアが危ない目に()ったとなれば気にならないはずもない。

 

 ふむふむ。これはちょっと脈ありじゃありませんか?


 私は心の中のコーネリアにガッツポーズを送る。

 (私ならこんな脳内お花畑王子願い下げだけれども)他人の恋路、しかも幼馴染みともなれば全力で応援する所存。

 特にコーネリアは今まで好かれようとあらゆる努力をしてきたもののその全てが空振(からぶ)り、気の毒になるレベルで認知されていない。

 この機会を是非(ぜひ)とも()かしてくっついて頂かなくては!


 なんせクリストファーとコーネリアなら身分的にも釣り合う。

 ふたりがくっついてくれれば私に婚約話が飛んでくることもなくなる。

 ヒロインでも悪役令嬢でもない第三者と身を固めてくれれば攻略対象からも外れるだろうから、今後、クリストファー絡みのフラグも消滅する。

 マツリカが目指す真のエンドが予測不能な今、王位継承権のある第三王子を彼女のイエスマンにさせておくのは危険だし、コーネリアだって顔は同じながら身元不明・才能不明・現在絶賛無職なイグニートとくっつくよりも、クリストファーのほうがまだましのはずだ! 脳内お花畑だけれども(大事なことなので二回言いました)!



『──私のために才能を開花させてくれたのね!』


 思い出すのは酒場でのあの茶番。

 本当に才能が目覚めたのかは知らないが、ともかく、あれでコーネリアはイグニートに()ちた。女という生き物(特に恋に恋する乙女♡)は命がけで自分を守ろうとする男に弱いのだ。

 今頃はイグニートを正式に護衛にしてほしいと嘆願しているか、最悪、(やつ)と結婚するとか言い出しているかもしれない。


 バルトガー侯爵家がどうなろうと知ったことではない。

 この一連はイグニートの『冒険者パーティを追放されたけれども、僕は侯爵令嬢に見初められてラブラブです。え? 僕がいなくなったからモンスターに勝てない? そんなこと知ったこっちゃありませ~ん』という無駄に長いタイトルのサクセスストーリーかもしれない。

 でも! そのストーリーに関わらないモブ(第三者)としては、そんな将来性不確かな主人公のハッピーエンドなどどうでもいい。

 それよりも身元がしっかりしていて金の苦労もしなくていい男(この場合はクリストファー)とエンドを迎えてほしいものなのだ! 脳内お花畑だけれども(三回目言いました)!


 こんなことを呟いていると『コーネリアにはカジウラの手綱を握ってほしいって言っていたじゃないか』と何処(どこ)かからツッコミが入るかもしれない。

 しかしカジウラはあれでもエアハルト辺境伯の養子。

 〝いずれは辺境伯を継ぐ男〟で〝祖王ヒャルターの再来〟で〝救国の勇者〟でもある。

 さらに当時は『行方不明になったり死亡した冒険者の件に主犯格で関わっている』なんて疑いもされていなかった。現在進行形で完全無職で金も爵位もないイグニートとはおススメ度が違う。


 と、言うわけで!


「ご安心下さいまし。コーネリア様は無事ですわ。でも怖い思いをされたようで……おかわいそうに」


 さあ! これを聞いて動かない男は男じゃない!

 令嬢キラーの異名に恥じぬよう、今から花束でも抱えてお見舞いに行くとよろしいわ! 

 私は茶番すぎて笑いだしたくなる口元を隠すように(うつむ)く。

 大丈夫。クリストファーにはコーネリアに同情して涙ぐんでいるように見えるはずだ。


 だがしかし。


「コーネリア嬢? あ? ああ、彼女も元気ならよかった」


 今ひとつな反応に思わず真顔で直視してしまった。

 直視してますます確信した。今ひとつに聞こえたのは聞き間違いではない。


 知りたかったのはコーネリアの安否ではなかったのか?

 もしかして本当に私を案じて──?


 だがしかし・2。


「それよりユリウスは? 無事かな」


 いや。当初の所見どおり私には何の関心もない。

 でもコーネリアでもない。

 どうやら誰もいないはずの私の背後にしきりに目を向けていたのは兄の帰還を待ち望んでいただけらしい。


「……お兄様ならかすり傷を負うような出番すらございませんでしたわ」


 コーネリアに脈がないのは残念だが、兄が『ユリウス』と呼ばせるほどクリストファーと親しくなっているとは予想外。

 しかしこれはこれでクリストファーにとっては喜ばしいことと言えるだろう。

 彼の周囲には〝愛でる〟価値しか見い出していない者や〝権力争いの駒〟に使おうと目論(もくろ)む者しかいなかった。

 その頃に比べれば〝信用できて頼れる誰か〟がいるのは良いことだ。特に兄は権力に全く興味がないから、クリストファーの将来についても私利私欲を含まない的確な助言をしてくれることだろう。



 そんなクリストファーが探している兄だが、学園の入口までは一緒にいたのだ。

 が、その足で王城に行ってしまった。

 今回の事件のあらましを本来の主である第一王子に報告しに行ったのか、『妹に危害を加え(ようとし)た』と言う理由で捕えた男たちを(ボコ)りに行ったのか。

 個人的には後者である気がしてならないが……ともかく、帰りは夕方になる、と聞いている。



「この後何かご予定でも? 兄は何も申しておりませんでしたけれど」


 兄は現在クリストファーの護衛の任についているが、それはああくまで深夜や早朝と言った警護が手薄になる時の保険のようなものだ。始終貼りついているわけでもないし、『貼りついていろ』と命令されているわけでもない。


 そして学園は魔法省謹製の結界で守られている。

 そもそもクリストファー暗殺が本当に(くわだ)てられていたかどうかも今となっては怪しいのだ。

 カジウラとマツリカも学園にいない。

 と言うわけで、兄をお気に入り(意味深)登録している第一王子たちから『もう護衛しなくてもいいのではないか?』と打診が来ていることも私は知っている。



 それにクリストファーが兄から剣の指南を受けているのは早朝と放課後。

 夕方には帰ると言っているのだから時間には帰ってくる腹づもりでいるのだろうし、だったらクリストファーはクリストファーで久しぶりの自由を満喫するなり勉学に励むなりしていればいいじゃないか。

 兄がいなかったほんの数週間前まではそうしていたじゃないか。


 嫌味混じりにそんなことを思うも、クリストファーはそんな私の悪意には全く気付く様子もなく、ただ所在なげに視線を彷徨(さまよ)わせている。

 そんなにも剣の修練が楽しいのか?

 それとも握り方か振るい方か剣を媒体にした魔法か、兄に助言を乞いたい部分があるのか?

 そう考えれば何処(どこ)へも行かずに兄の帰りを心待ちにしているのも(うなず)ける。



「夕方には戻ると申しておりましたわ」


 そう教えると、クリストファーはパッと顔を輝かせた。

 とは言え、夕方にはまだ間がある。


「……殿下。もし剣のことで何か気にかかることがあるのでしたら、僭越(せんえつ)ながら私がお教えできるかもしれませんことよ?」


 まだ間があると知ってなお、クリストファーはその場を動く様子がない。

 兄が帰って来るまで此処(ここ)で待っているつもりかもしれない。

 勉強熱心なのはいいことだが、ジークラムの第三王子を部屋の前の廊下に立たせたままでは休まるものも休まらない。

 と、なれば。

 関わり合いになりたくない男だが、兄が帰ってくるまでの時間潰しにお付き合いして差し上げるのもいいかもしれない。


 マツリカがいなくなって気が(ゆる)んだのか、最近は攻略対象の好感度上げもしていなかったけれど、思えばマツリカがいない今こそ追随が許されないほど爆上げしておくチャンス。

 挽回(ばんかい)できないほど私への好感度が上がってしまえばマツリカもその攻略対象の攻略自体を諦める可能性が高いし、そうなれば監視対象の数も減る。

 コーネリアとくっついてくれなかった時の保険としてでもそうでなくても、クリストファーの好感度を上げておくのは決して悪いことではない。

 


「あ、いや、マルグリット嬢の手を(わずら)わせるほどのことでは」


 しかし私の申し出をクリストファーは曖昧(あいまい)にはぐらかした。

 言葉の裏に『どうしても兄じゃないと嫌だ』と言う意思を感じる。

 第一王子、第二王子の時といい……兄はジークラム王室の心を 掌握 (グッとキャッチ)する特殊能力でも持っているのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者のモチベーションと話の続きのためにも
「いいね」や「☆☆☆☆☆」を付けて帰って頂けると幸いです。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ