表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
学園ものでモンスター絡みのイベントが起きるのはいつものことですわ!
49/134

閑話 男たちのクマ三昧・3。(コンラート視点)


 夜。

 私の部屋ではクマたちが円座になって菓子を(むさぼ)っている。バリバリと音とを立てて(むさぼ)(さま)はとてもぬい(ぬいぐるみ)には見えない。

 しかし非常識でしかないこの光景も見慣れてしまったし、何よりディナエルに理解者が増えたのは喜ばしいことだ。

 理解者。同類と言うべきか。

 同じ境遇だからこそ分かり合えた、もしクマ化しなかったら接点すらなかった。そう思うと人の縁とは不思議なものだなんて爺むさい感想すら抱いてしまう。


義弟君(おとうとぎみ)もこっち来て食べません?」

「……生憎(あいにく)とこんな時間から食べたら太る体質なので」

「人間って面倒だよねぇ」


 しかしそれはあくまでディナエルに関してのこと。

 私はディナエルほど彼らと馴染めずにいる。いや、ああして輪に入れてくれようとしているのにひとりで壁を作っているだけなのだが。

 (義姉)義弟(おとうと)と言う立場もあってか、彼らも私には無理()いして来ない。

 だから馴染めない。

 馴染めないけれど……開始三〇分で四袋目を開けようとしているフォルッツを見ると、馴染めないほうがいい気もして来る。


「クマいいですよクマ。体が綿になったみたいに軽いし、痛みも感じないし血も出ないし」

「若いおネェちゃんからモテモテだしのう」

「わ、私はそんな(よこしま)な理由で()しているわけではないですけどねっ!」


 ……堕落(だらく)している。

 元・義姉(あね)の護衛騎士と現役創造神の会話を聞いているとそう思わずにはいられない。

 いずれディナエルもこうなってしまうのだろうか。

 私もクマ化したらこうなるのだろうか。

 いや。

 これはクマ化は関係ない。



 私は乙女ゲーム化した世界でのヒロイン──マツリカの最()しらしい。

 だったら外見には気を(つか)っておいた方がいいだろう。

 マツリカは性格にはやや難があるけれど、もれなくアウリ麦を独占販売する権利が付いているし、何より〝ヒロイン〟。人生の勝ちが約束されている存在だ。親しくしておけばかなりの恩恵を享受できる。

 そしてそのためには〝彼女が好む私〟でい続ける必要がある。

 

 と、思っていたのだが。


「でも意外ですね。マツリカ嬢が神殿に行っちゃったら学園はどうなるんですかね?」


 彼女は実技演習での行動が不正とされ、神殿送りになってしまった。

 第三王子クリストファーをも巻き込み、懸念されていた王子暗殺の重要参考人とも親しい。本来ならば犯人が見つかる見つからないにかかわらず謹慎、もしくは退学して領地に戻るのが筋のところ、〝聖女で回復魔法が使える〟という自称に神官長が興味を持ち、〝神殿で行儀と回復魔法の使い方〟を学ぶことになったのだ。


 何時(いつ)かは戻ってくるが、何時(いつ)になるかは決まっていない。

 攻略対象が此処(学園)にいる限り、彼女は戻ってくるだろう。卒業してしまってからでは私との接点はなくなる。

 だが。


「うむ。これは第二章:神殿編が始まったと見て良いじゃろう」


 もし神殿に新たな攻略対象がいたとしたら?


 思えば先日の説明会でのマツリカは、私を見もしなかった。クリストファーにべったりだった。

 もしかするとあれはマツリカの心が私から離れたことを意味していたのかもしれない。

 私は彼女の〝()し〟ではなくなったと、クリストファールートか神殿の男ルートが濃厚になったと、そう言う意味かもしれない。



「神殿編? って第二章って何です? そんなのがあるんですか?」

「あるかどうかはマツリカのみぞ知るところじゃが、話の途中で舞台が変わることはよくあるじゃろ。今までのが学園を舞台にした第一章:学園編、で次が神殿編ってことじゃ!」


 円座のほうではクマッティの一言にフォルッツが難癖を付けている。

 ()に落ちないと言いたげに乱暴に五袋目を開け……そのせいだろう。失敗して噴水のように菓子が吹き飛んだ。


「自分で掃除して下さいよ」


 菓子の粉を()き散らされるわけにはいかない。

 私はフォルッツを鷲掴(わしづか)みにすると窓を開け、もう片方の手で体中に付いた菓子の粉を(はた)く。

 此処(ここ)に来て一ヵ月、(すで)にこの作業が手慣れたものになっている私を誰か(なぐさ)めてほしい。


「えー? ぬい(ぬいぐるみ)(ほうき)なんて持てなァい♡」

「……このまま捨てても良いのだが」

「やだなぁ、冗談ですよ義弟君(おとうとぎみ)ィ! 明日には新居に引っ越しなんだからちょっとくらい汚したっていいじゃないですかァ」

「ほう。ルブローデではゴミを散らかしたままで去るのが普通なんですかそうですか」

義弟君(おとうとぎみ)だってもうルブローデの人間でしょうに」

「一緒にするな」


 ……本っっっ当に堕落(だらく)している!!

 私はフォルッツを床に戻すと、やり場のない怒りを箱詰めにする衣類に向けて、どうにかこの場をやり過ごす。

 私が興味をなくしたと思ったのか、説教は終わったと思ったのか。円座はすぐに賑やかさを取り戻した。 


「で、神殿編って、それじゃ私らはどうなるんですか」

「どうもせん。普通に食って寝て起きてを繰り返すだけじゃ」


 確かに物語の途中で舞台が変わることはよくある。

 自分に当てはめてみても、オーエン、ルブローデ、学園と(すで)に三回変わっている。

 この世界はマツリカの影響で乙女ゲーム化しつつあるそうだけれども、その前に(自分たちにとっては)普通の世界だったのだから、マツリカがいなくなったからと言ってこちらの時間が止まることはない。

 ただヒロインが関わるイベントが一切起きないまま、文字にもならないような淡々と穏やかな学生生活を送るのだろう。

 その間、神殿ではマツリカを中心にしていろいろとイベントが勃発(ぼっぱつ)するだろうが、それでフラグが立った立たないと一喜一憂するのは悪役令嬢たる義姉(あね)だけで、私たちには影響しない。

 ……そもそもクリストファーとの婚約が白紙に戻っている今、義姉(あね)が断罪される要素が見つからないのだが。


「つまんないなー。それが得なの創造神サマだけじゃないですか」

「何で(わし)だけ。戦士の休息だと思ってフォルッツも惰眠を(むさぼ)るが良かろう」

「あのね。私は一刻も早くお嬢様を断罪されるかもしれない心労から解き放って差し上げたいんですよ。そりゃあ創造神サマは演習の間もずーーーーーーーーーっとグースカ寝てるくらいですから嬉しいでしょうけど。って言うか寝すぎですよ。脳が溶けますよ」

「大丈夫じゃ。綿は溶けん!」

「偉そうに言わないで下さい!」


 フォルッツの嫌味にも動じないクマッティの声を聴きながら、私は荷造りの手を進める。


 クリストファーの護衛をすることになった義兄(あに)との同居のため、(わず)か一ヵ月で再引っ越しすることになった。

 此処(ここ)よりさらに大人数向けの部屋になるため、共同──居間や食堂、水回りなど──も今より広くなるのはいいのだが、クリストファーの部屋と扉一枚で(つな)がっているなんて、プライバシーはどの程度考慮してもらえるのだろう。

 何よりあの義兄(あに)は(主にぬい(ぬいぐるみ)関連での)信用に足る人物なのか。それが気になる。

 剣の腕は確かなようだし、王族、そしてテオルクの信用も厚い。

 さらにはあの義姉(あね)が距離を置こうとするくらいの人物だ。

 これを機に義姉(あね)の暴走が減ってくれればいいのだが……どうにもそれ以上に厄介ごとが付いて来る気がしてならない。


「あの……義姉(あね)上はどうしてあんなに義兄(あに)上との同居を(こば)んでいたのでしょう」

「苦手なんすよ。お嬢様はラスボスになれそうなほどいろいろ超越しちゃってる人ですけど、ユリウス様はその上をいきますからねぇ」

「ラスボス?」

「そうっすよ。なんせルブローデの領主になるべく、お小さい頃からずーっと鍛練(たんれん)して来ましたもん。私も何度殺されかけたことか」

「そうじゃな。(わし)も初対面で燃やされそうになった」


 口をモゴモゴさせながら喋っているので聞き取りづらいことこの上ないが、言っていることと聞き取ったことにそれほどの差異はないだろう。

 ともかく、今の義姉(あね)が口先だけで『領主になる!』と言っていないことは確かなようだ。それはほぼひとりでクラスレグルスを倒した実績からも(うかが)える。

 その義姉(あね)の上をいくのか、あの義兄(あに)は。

 こっちは自称引き(こも)りの義姉(あね)が実は社交性バリバリな上に剣も魔法も使えると知り、劣等感が半端ないのに。


「……それなら私を養子にせずとも義姉(あね)上がルブローデを治めればいいのに」


 そんな思いがつい口をついて出る。

 今頃言うのも反則だが、私はもともと養子縁組には興味がなかった。

 オーエンの上に位置するルブローデを自由にできればオーエンに有利だろうと、せいぜいその程度。

 義兄(あに)となるユリウス・ルブローデが継承権を放棄して(義姉)だけになり……(いま)だ男子が継ぐのが当然と言われている貴族の慣習に(のっと)って男子の自分を養子に迎えたと、そう思っていた。

 嫁に出すつもりで育てていた(義姉)に辺境の領地経営は無理だから、と。


「お嬢様なら良い領主になれると思いますよ。なにより強い」


 しかし義姉(あね)はそんな甘い想像をはるかに超えて来た。

 剣の腕だけでなく、聞いた話では(すで)にルブローデ内で医療に重点を置いた施策を手掛けているらしい。最も身近な場所にいる護衛騎士の目から見てもラスボスと言われるほどの義姉(あね)に、性別だけで自分が勝てるとは思えない。


「そうじゃのう。お主がルブローデに来たのは、世界の歪みが作用した結果と言うか……攻略対象(悪役令嬢の義弟(おとうと))になるためだからのう……」

「攻略対象」

「でも、ま、マツリカが誰とエンドを迎えたとしても、それでいきなり養子縁組を解消して放り出すようなことにはならないじゃろ。お主はお主のしたいようにすれば良い」


 クマッティの言葉にフォルッツとディナエルも無言で(うなず)く。



 世界の歪みがなければ私は今でもオーエンにいた。

 語尾がおかしなヒロインに、会うたびに奇声を上げられることも、思ったままに行動する義姉(あね)に振り回されることもなかった。その義姉(あね)が数ヵ月から数年のうちに断罪・処刑されるかもしれない(・・・・・・)未来を考えることもなかった。


 義姉(あね)(いわ)く、フォルッツとディナエルもマツリカの攻略対象になる可能性は残っているらしい。

 が、当人たちは彼女にそれほど興味を持ってはいない。わざわざクマ化を解いて攻略対象(レギュラー)入りを確定させようと思わないほどに。

 だからこのメンバーの中では唯一私だけがマツリカの標的になっているようなもので、彼女の奇行を何度も目にしているが(ゆえ)に私に同情している部分も大きいのかもしれない。

 しかしだ。


「……そうですね」


 『したいようにすればいい』と言っておいて、私がマツリカと組むことで義姉(あね)が破滅への道を歩むことになったら、それでも許せるのか? 違うだろう?

 心の中に浮かんだ暗い感情を押し込み、私は荷造りを再開する。



              挿絵(By みてみん)



 それからさらに数日後。

 リク・カジウラ・エアハルトが牢から姿を消したとの一報が届いた。

 彼が本当にクリストファー暗殺を企ててたのかは、今となっては(よう)として知れない。



 マルグリットが義兄(あに)と同居したがらない理由は、クリストファーが持って来た「義兄(あに)と兄王子たちとの関係」の噂のせいなんですが、フォルッツはそれを知りません。

 ので、「苦手だから」だと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者のモチベーションと話の続きのためにも
「いいね」や「☆☆☆☆☆」を付けて帰って頂けると幸いです。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ