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30 悪役令嬢、心に誓う。


 その後のテオルクの説明によると、実技演習は数人でパーティを組んでダンジョンに潜り、最奥にいる教師から到達証を貰って帰って来る、と言うものであるらしい。


「おいおい勇者に肝試ししろってか?」


 と、マツリカが暴走している間は完全に空気と化していたカジウラがここぞとばかりにいきがるも、


「やりたくなければ不参加でいいですよ? 評価には響きますが」


 とあっさり一刀両断されたことは、見て見ぬ振りをしてさしあげるのがせめてもの優しさだろう。


「道中には弱いですがモンスターや(トラップ)を仕込んでおきました。みんな大好き宝箱もありますよ? (ただ)し、少ない予算をタダでばら撒くほど我々は親切じゃありません」


 どうせ金を使うのだからそれなりの成果を。

 今回のダンジョンは剣や魔法で力押しすれば突破できるものでも、地図を読み、暗号を解読する頭だけあればいいわけでも、運がいいだけでどうにかできるものでもない。学生個々の能力をその三種で見極めるのが目的だが、最も期待されている〝成果〟はチーム(りょく)だ、とテオルクは言う。


 入学したばかりの今ですら、王都周辺に集まる中央貴族と地方貴族では(すで)に溝ができている。

 『軟弱な都会の連中』と悪口を叩かれる中央貴族は暗号の解読などの頭を使うことが得意だし、『粗暴な田舎者』と(さげす)まれる地方貴族は剣や格闘が得意。

 無論全員が全員、テンプレに当てはまるわけではないが、だが、親しい(似た者)同士で集まった〝仲良しチーム〟でこのダンジョンで高得点を叩き出すことは難しい。

 つまりこの演習は、学生同士の溝を取っ払おうと言う目的もあるらしい。


 が、所詮(しょせん)これも乙女ゲーム仕様に合わせるための辻褄(つじつま)合わせであることは(いな)めない。

 クマッティは『乙女ゲームでは唐突にヒロインらが授業と称してダンジョン探索をするのじゃ!』と言っていた。手を取り合って苦難に立ち向かい、またヒロインを(かば)って怪我をした攻略対象をヒロインが(いや)すところまでが鉄板なんだとか。

 そんな裏事情を知ってしまうと、『だったらヒロインと攻略対象だけでやれよ』と言いたくもなる。

 今ばかりはクリストファーたちの、「さすがはテオルクだ。入学初日から学生同士の軋轢(あつれき)を対処する策まで考えているとは!」と素直に感心できる無知さが羨ましい。




「パーティは四人前後で組んで頂きます。我々としては中央、地方の差なく組んで頂きたいところですが、それでやる気がなくなっても困りますから、仲間選びはお好みで。初心者ダンジョンですし、皆さん魔法が使えますから途中撤退や怪我の心配はしなくてもいいと思いますよ」

「殿下!」


 説明するテオルクの声に(かぶ)るように、ひとりの学生が声を上げる。


「殿下! お声がけをお許しください。私はロディール・バーミリオンと申します。王城近衛騎士団に入団しておりまして……今は休団して此処(ここ)に来ております。是非、殿下の剣としてパーティに加えて頂きたく!」

「あ! 抜け駆けは(ずる)いぞ! 殿下! 私は、」


 ひとりが口火を切れば後は怒涛(どとう)の自己PR合戦だ。夕食会だと言うのに誰も料理など見ていない。

「それじゃあ私の仕事は終わったから、先に頂くとするよー」と、さっさと料理に向かうテオルクを無視して、学生らはさしずめ飴玉に集まる(アーリ)のようにクリストファーに群がっていく。

 令嬢キラーの名を思うがままにしてきたクリストファーだが、ここまでモテたのは人生初に違いない。



 この夕食会に集まった寮生は〝王都に通えないから入寮した者〟が多い。言い換えれば地方貴族の比率が多い。

 その中でクリストファーは確実に中央側。

 学生生活の間、第三王子と口をきくどころか視界に入ることなく終わる予定だった彼らに突然降って沸いた売り込みチャンス。明日にならなければ知らされることのない通学学生より先に、と殺到するのも当然のことだろう。


 そんな買い手市場の中、クリストファーが選んだのは〝勇者カジウラ〝だった。

 口火を切ったロディールは残念ながら保留。勇気は称えるが他のメンバーは検討して追々決める、だそうだ。

 カジウラひとりいればあとは非力なご令嬢で固めても十分突破できる……と下心丸出しの邪念に(ささや)かれたかは不明だが、まぁ予想通りの結果に終わった。


 下手にロディールがパーティに入ってクリストファーとの親密度を上げ、友人のひとりにでもなろうものなら攻略対象にも昇格するかもしれないから、監視対象が増えなかっただけ私的には良かったのかもしれない。




 マツリカはと言えば、「もちろんリカはコンラート様とふたりっきりでパーティを組むでするん♡」と厚顔無恥に言い放ったものの、「マツリカ嬢はいわば景品のようなものですし、ここは公平を()すためにもどちらのパーティにも入らないほうがいいでしょう」と、間髪入れないテオルクの提言のおかげで、その野望はあっさり打ち砕かれた。

 あれだけクリストファーの不興を買ったにもかかわらずコンラートと組もうとするあたり、〝最推し〟とやらを前にすると他の好感度はどうでもよくなるのか、それとも本当にクリストファーの利用価値は失せたのか。

 今のマツリカを見る分にはクリストファーが勝ったところで彼女が戻ってくる可能性はかなり低い、と見受けられる。


 脳内のお花畑でスキップしていた数時間前のクリストファーを知る身としては気の毒が過ぎるが、その反面、不良債権(ゴビルン)(つか)まされずに済んだのは幸運だったのかもしれない。

 いや、絶対に幸運だった。

 私としては、今後マツリカ(ゴビルン)義弟(おとうと)に付きまとう──必然的に私も関わり合いになることが増える──ことを思えば是非(ぜひ)ともクリストファーに持って行ってもらいたのだが。



 しかし。

 攻略対象とヒロインが同じパーティにならなければそもそもイベントが始まらないのに、その機会を一言で潰していくテオルクは何者だろう?

 シナリオの強制力よりも強い攻略対象……彼だけは敵に回すのやめよう、と心に誓った次第である。


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