↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/4

第三話 村長殺しの犯人は国王でした

「でっけえ……」


 馬車を降りた俺は、思わず声を漏らした。


 目の前には巨大な城壁。


 門をくぐった先には石造りの建物が並び、大勢の人が行き交っている。


「ここが隣街?」


『正確には城塞都市アルバス。この世界に存在する三大国、その一つであるアルバス王国の中心都市です』


「村との差がすごいな……」


『ギ!』


 隣でギギが元気よく手を上げる。


「お前はどこでも楽しそうだな」


 俺――新倫来は昨日、異世界に来た。


 職業はプログラマー。


 ……だった。


 現在はなぜか村長。


 異世界に来て二日で村長になった男なんて、俺くらいだろう。


「ん?」


 通りの向こうから大きな影が歩いてくる。


「オーク?」


 豚のような顔。


 二メートルはありそうな巨体。


「普通に魔物いるじゃん」


『いますね』


「じゃあギギ連れてても大丈夫そうだな」


『それはどうでしょう』


「え?」


『よく見てください』


 アイリに言われてオークを見る。


 首に金属製の輪。


 そこから伸びる鎖を、人間の男が握っていた。


「……あれ」


 周囲を見る。


 ゴブリン。


 獣人。


 見たこともない魔物。


 確かに人間以外もいる。


 でも。


 首輪。


 足枷。


 檻。


「そういうことかよ……」


『この国では、魔物は人間より下位の存在として扱われているようです』


『ギ?』


 ギギが首を傾げる。


「お前はそのままでいいよ」


『ギ!』


「おい、そこの男!」


 門番らしき男がこちらへ来た。


「そのゴブリンはなんだ?」


「ギギです」


「名前を聞いているんじゃない」


「友達です」


「…………」


「…………」


「友達?」


「なんで二回聞くんだよ」


 門番はギギと俺を交互に見る。


「変わった男だな」


「よく言われます」


『初めて言われましたね』


「アイリは黙ってろ」


「ん?」


「なんでもないです」


 やっぱり俺にしか見えないAIと会話するの、傍から見るとヤバい奴だな。


     ◇


「……まただ」


 街を歩いていると、妙なものが見えた。


 建物の壁。


 馬車。


 道端の樽。


 意識を集中すると、その表面に大量の文字や数字が浮かび上がる。


「コード……だよな?」


『何か見えるのですか?』


「アイリには見えない?」


『はい』


 壁に触れる。


 すると情報が増えた。


 材質。


 構造。


 劣化。


 過去に修復された場所。


「なるほど……」


 物そのものというより、そこに残った情報がコードになって見えている。


「ここ、脆くなってる」


『私には確認できません』


「じゃあこれ、お前の能力じゃないんだな」


『はい。おそらく転生時に、この世界の何者かから付与された能力かと』


「神様からの転生特典ってやつ?」


『可能性はあります』


「やっと俺にも主人公っぽい能力きたな」


 コードの一部に意識を集中する。


「これ……書き換えられるのか?」


 プログラマーなら考える。


 読めるなら。


 書けるんじゃないか?


 試しに壁の構成情報へ触れようとする。


 ――ドクン。


「うっ……!」


 心臓が大きく跳ねた。


 右腕が痺れる。


 自分の身体なのに、何かがズレたような感覚。


『倫来様?』


「……やめた」


『顔色が悪いですよ』


「読むだけにしとく。書き換えとか消去とか、怖すぎる」


 何が起きるか分からない。


 便利そうだからといって、世界を適当にいじるほど俺も馬鹿じゃない。


     ◇


「あなたが、新しい村長ですか?」


「新倫来です」


 街の役所で俺たちを待っていたのは、一人の男だった。


 前村長が死ぬ直前まで村に滞在していた使者。


「ずいぶんお若いですね」


「昨日なったばかりなんで、俺もよく分かってません」


「昨日?」


「色々ありまして」


 男が苦笑する。


「単刀直入に聞きます」


「どうぞ」


「前の村長が殺されたことは?」


「聞いております」


 男の表情が曇った。


「残念です。非常に話の分かる方でした」


「あなたは亡くなる前日まで一緒だったとか」


「ええ」


「何を話してたんです?」


「交易です」


 男が書類を広げる。


「あなた方の村では良質な薬草が採れる。一方、食料や鉄製品が不足している」


「それで街と取引を?」


「はい。交渉はほぼまとまっていました」


 男はため息をついた。


「ですから、私が彼を殺す理由などありません」


「…………」


「むしろ困っているのはこちらです。数か月かけた交渉が、また最初からになってしまった」


 確かに。


 殺すメリットがない。


「アイリ」


 小声で呼ぶ。


『はい』


「どう思う?」


『大きな矛盾は感じません』


「だよな……」


 こいつじゃない。


 そう思った瞬間だった。


「……ん?」


 男の身体に、コードが見えた。


 さっきまでの壁とは違う。


 複雑な文字列。


 そして、その中に妙な痕跡が残っている。


「なんだこれ……」


『倫来様?』


「ちょっと待って」


 意識を集中する。


 男が触れたもの。


 受け取った命令。


 その痕跡。


 まるでサーバーに残ったログを追うように、情報の流れを辿っていく。


 使者。


 前村長。


 交易。


 そして――。


「……嘘だろ」


 一本の痕跡が、別の場所へ続いている。


 窓の外を見る。


 街の中央。


 巨大な城。


「アイリ」


『はい』


「この街で一番偉い奴って?」


『国王です』


「……だよな」


 もう一度コードを見る。


 今回に限っては、痕跡があまりにも分かりやすい。


 前村長の死。


 その裏に残った命令。


 辿った先にいるのは――。


「王様だ」


『…………』


「前の村長を殺したの、この国の王様だ」


     ◇


「なあ、アイリ」


『はい』


 役所を出た俺は、城を見上げていた。


「この国、三大国の一つなんだよな?」


『はい。この世界でも最大級の国家です』


「俺は?」


『村長です』


「村長になって何日?」


『二日目です』


「…………帰っていい?」


『お望みでしたら』


 逃げることはできる。


 俺には関係ない。


 そう言って村長を辞めればいい。


 でも。


「人が一人、死んでるんだよな」


『はい』


「理由くらい知りたいよな」


『ギ?』


 ギギが俺の服を引っ張る。


「お前はついてくる?」


『ギ!』


「即答かよ」


 俺はアイリを見る。


「アイリは?」


『もちろん』


 アイリは笑った。


『倫来様が望まれるのであれば、私はどこまでもお供します』


「相手、王様だぞ?」


『関係ありません』


 また即答。


『たとえ世界を敵に回しても、私は倫来様の味方です』


「……頼もしいねえ」


 この時の俺には。


 その言葉が、ただただ心強かった。


「よし」


 城を見る。


「王様に直接聞きに行こう」


 昨日までプログラマー。


 今は村長。


 そして次の相手は――国王。


「異世界って展開早すぎない?」


『退屈しなくて良いではありませんか』


「限度があるだろ!」


 異世界に来て、まだ二日。


 俺は三大国の一つを支配する王に。


 喧嘩を売ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。