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推しを救おうとしていたはずなのに何故か主人公に執着されています  作者: 夕月


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7/8

Act・7

「…ぇ…」

聖剣が、俺に告げた言葉を、セトに告げた。

本当は、言うつもりのなかった言葉を。

「ぉ…れ……が…?」

ゆっくりと意味を理解したのだろう、これでもかと見開かれた瞳から大粒の涙が流れていく。

涙が頬を伝い、地面へと吸い込まれる度に、不自然に途切れた記憶が再生されていく。

聖剣と唯一言葉を交わせた夜のこと。

告げられた事実を永劫秘めることを誓ったこと。

そして、そのために自身の道を選んだことを。

「違う…違う違う違う違う違う違う違う!!俺はっ!俺はノアを人形になんかしたくない!!殺したくなんかない!!」

ガチャガチャと拘束具によって自分が傷つくことも厭わずに、いや、気づかずにセトは頭を振りながら激しく否定する。

こうなると思ったから、言いたくなかったんだ。

ゲームは別として、伊達に子供の頃からの付き合いじゃない、セトが、この世界のセトがどういう性格の人間かなんて嫌って程分かっている。

典型的なお人好しの陽キャで、コミュ力が高いくせに詰めが甘くて、こうと決めたら絶対に挫けないけど傷つきやすい。

向こう見ずで、考えなしの様に見えて色々考えて、考えすぎて抱え込みやすい。

(そんなお前だから、いつからか俺は……)

「ちが…俺は、ただ…ノアと、一緒に…村に居た時みたいに…ただ、ただっ!!」

「うん、分かってる。セトが本心からそう望んだわけじゃないってこと。」

違う違うと血が流れるほど暴れるセトをそっと抱きしめる。

すると、ピタリと暴れるのを止めたがその代わりと言わんばかりに涙の量が増え、まるで幼いあの日に戻ったかのように嗚咽が漏れる。

俺の名前を呼びながらただ泣きじゃくるセトの姿なんて、俺が俺を思い出した時以来だ。

叶うなら、そんな姿はもう二度と見たくはなかったのにと目頭が熱くなるのを、奥歯を噛んで堪える。

俺まで泣いてどうする、今俺がすべきことはセトを思い切り泣かせてやることだけだから。

「のあ…のあぁ…」

「大丈夫…大丈夫だから、な?」

「ひっく…うぅ……」

「ふふっ、セト、酷い顔してるぞ。」

「…ほっとけ…」

ようやく憎まれ口を叩けるほどにセトが落ち着くと、拘束具を解除した。

パキンッという氷が砕けるような音と共に解放されると、今度はセトから抱きしめられた。

「わぷっ!」

「ノア…」

「やれやれ。セトはともかく俺まで捕まえる事なかっただろうよ。」

「両成敗ってことでここは納得しといてよ。」

離さないと言わんばかりに抱きしめるセトと肩をすくめながら小言を言うミカエル。

なんだか旅を始めたばかりの頃のような空気に自然と笑顔になる。

≪問。何故、解いた。≫

「鞘…」

そこへ、無機質な声が響く。

声の主はいつの間にか外に出た、俺の中にあるはずだった聖剣の鞘だ。

しかし、初めて見た時とは違いその外見は黒く変色している。

まるで、錆びついているかのように。

≪解を希求。≫

「…俺の望みの為だ。」

≪否。汝の願いは平穏、拘束を解除する理由がない。≫

「望みだって言っただろ?確かに、何の心配もなくのんびり過ごせるならそれに越したことはないし願いと言ってもいいだろう。でも、望みは違う。」

≪不明。願いと望みの定義に矛盾を検知。≫

「人間なんてそんなもんだ。細かく見ればどこもかしこも矛盾だらけだからな。」

ケラケラと笑えば、鞘は押し黙る。

理解しようとしているのか、はたまた馬鹿にされたと怒っているのか、詳しくは分からない。

でも、鞘が何を望んでいるのかは分かっている。

「セト、聖剣を。」

「聖剣?」

「聖剣を、鞘に。」

≪!拒否。≫

「うわぁ!?」

「ノア!セト!!」

「くっ!」

俺がそういうや否や鞘から黒い波動のような物が放たれる。

セトが庇った俺ごとミカエルが背後に庇い神聖魔法で防壁を作る。

バチバチッと火花が散るような音に、セトとミカエルは目の前の存在がなんであるかを悟ったようで目を見開く。

そう、目の前に浮かぶ鞘の正体は、黒瘴に蝕まれた神器だ。

「どうしてこんなことに…!?」

「あれって聖剣の鞘なんだろ!?なんで黒瘴なんて纏ってるんだ?!」

「天命樹が黒瘴に蝕まれた時、聖剣は苦肉の策で黒瘴を自分自身に引き受けたんだ。聖剣は対象を切ることでしか正常に戻せないんだ。」

「なるほどっ…天命樹を切るわけにはいかないから…」

「黒瘴を引き受けたってことか。無茶するなぁ。」

「お前が言えたことか?」

「うっ…」

「それは同意かな。」

「ノアまで!!」

「全てを話せばセトは絶対に無茶をする。そんな事、させたくなかったのに結局ここまで来ちゃってさ…俺の覚悟どうしてくれるんだよ。」

「知るか!俺は…俺はお前がいない世界なんて、認めたくなかったんだよ…」

「セト…」

「おーい、2人の世界は落ち着いてからにしてくれ!!そろそろ持たんぞ!」

「っもっと持ち堪えて見せろよバカエル!!」

茶化す様に言うミカエルに噛みつくセト。

ああ、やっぱりこのまま2人と共に居たいと思ってしまう。

全てを思い出した(・・・・・・・・)俺がそう思うんだから、セトが引き込まれてしまうのもある意味仕方のない事なのかもしれない。

(だからこそ、その責任はきっちり取らないとな。)

「セト、聖剣ならアレを切ることができる。援護するからミカエルと突っ込め。」

「了解!」

「あいよ。」

聖剣を構えたセトがミカエルの隣に立つ。

その後姿を、俺はずっと見てきた。

セトは俺の事を相棒と呼んでくれるし、俺もセトの事を相棒だと思っている。

だけど、いつだってセトの隣にはミカエルがいた。

流石はゲームでのセトの右腕というべきか戦闘においても、私生活においても、2人の相性はとてもよかった。

ただ、年上という意識が割かし強いからなのかミカエルはいつもセトを揶揄う様な言動をするせいで右腕や相棒というよりも仲のいい兄弟のように見られていたし、実際、2人ともお互いの事をそんな風に見ていたと思う。

(その事に、俺がどれほど安堵していたかなんてセトには一生分からないだろうな。)

鞘に向かって踏み込む2人の背中に身体能力強化と魔導障壁を付与すると、神聖魔法の詠唱を開始する。

どういうわけか杖が手元にない今、炎や氷といった元素を使った攻撃魔法は使えないことはないがあまり高威力のものは使えない。

その点、神聖魔法ならば魔法を選べば杖がなくとも十全に戦うことができるが、高威力になればなるほど詠唱が長くなるという弱点があり、よほどの事がなければ使用しない魔法だ。

そして、今がそのよほどに該当する。

「天上に座す光の王よ、万象を統べる理をここに降ろし給え。穢れを祓う聖風は四方を巡り、永劫の鎖は魂の奔流を鎮める。」

祈るように手を組み、魔力を上げていく。

拘束魔法を連発したせいで魔力はもう殆ど残っていなかったが、ここでなら無理矢理補う事ができるものの見た目がかなりショッキングになる。

そういう意味でも2人には鞘に向かって行ってもらわないと都合が悪かった。

「我が祈りは天へ届き、我が戒めは地を縫い止める。いま、世界の狭間にて宣言する——」

素早いセトの剣捌きに合わせるように立ち回るミカエルの剣技はさながら剣舞を見ているようで、思わず見惚れる。

俺が熱中していたArcは殆どがドット絵だったのでこんな美麗グラフィックはなかったけど、きっと画面の中ではこんな死闘が繰り広げられていたんだ。

(猛々しくも美しいって、奴だな。)

ずっとこの光景を見て居たい、もっと2人と一緒に居たい、もっとセトと話をしたい。

そんな願いが湧いては消えていく。

だってそれは、叶わない願いだから。

俺はもう、願いを選んでしまったから。

「罪を赦すことなく、力を逃すことなく、存在の根源すら縛する封鍵を。 」

ぼやけそうになる視界を気合で堪えると、ようやく詠唱が終わる。

多数の魔法陣が鞘を中心に展開されると同時に、鎖が放たれる。

いくつかは地面に突き刺さり鞘の、いや、黒瘴の動きを封じるといくつかの魔法陣が合わさり檻を形成していく。

「穢れなき輝きの名のもとに アイアンメイデン!!」

そしてようやく、魔法を完成させた。

「はぁ…はぁ…」

「いつ見てもノアのアイアンメイデンは凄まじいな…」

「二度と閉じ込められたくねぇ…」

「同意だ。」

何重もの魔法陣から形成された巨大な檻と檻から放たれる鎖に貫かれた鞘は不快な金属音を響かせながらも沈黙した。

そのあまりの威力に顔を引きつらせた2人が俺の方を振り向くと同時に、顔色を青く染める。

(ああ、やっぱりそんな顔、させちまうよな…)

「「ノア!!」」

「大丈夫、痛みはないよ。」

「そんなこと言ってる場合か!!お前…消えかかってるんだぞ!?」

慌てて駆け寄るセトと反射的に回復魔法をかけるミカエルの連携が取れた行動に複雑な気持ちになってしまう。

ここは喜ぶか微笑ましく思うべきだろうと自分にツッコみを入れる傍らで、もう最後なんだから素直になればいいと開き直る自分もいる。

様子のおかしかったセトの言動に惑わされそうになった時に感じた、自分の中に別の自分がいるような感覚に近いのに気持ち悪く思わないのは、多分どちらも俺自身が本当に思っていることだからだろう。

我ながら、酷い矛盾だ。

「仕方ない、分かってたことだしな。」

「分かってたって…!拘束魔法を使ったからか!!」

「!ならなんでこんな無茶を!!」

「セト。」

「なんだ?!」

「分かってるんだろ、本当はもう。」

「…」

静かに俺が問いかければ、途端にセトは口を閉ざす。

子供の頃から、言いたくない事や認めたくない事があるとセトは決まってこちらが折れるまで口を閉ざす。

いつもならある程度して折れてやるのだが、今回は折れてやれない。

だって、もう終わってしまった後なのだから。

「俺は、もう…」

「言うな。」

「セト。」

「言わなきゃ、本当にならない。」

「残念ながら無理だ。俺が言わなくとも、セトが認めなくとも、事実は変わらない。ほら…」

視線で辺りを示せば、豊かな緑に包まれていたはずの森が崩壊を始めていた。

空中には不自然な亀裂が走り、ガラスが砕けるように空間が壊れていく。

こんなこと俺の世界は勿論だが、こちら世界でだって普通じゃありえない。

「な?」

「…っ…」

「セト…」

それでも認めないと言わんばかりに唇を噛んで沈黙するセトを、ミカエルが案じるように見つめる。

セトだけじゃない、ミカエルだってここがどういう場所で俺がどういう状況なのか分かっている。

分かっていて尚、ここに来たのだ。

セトを救うために。

「俺は…」

「やめろ!言わないでくれ!!…頼むから…」

「…嫌だ、ちゃんと言わせろよ…バカセト…これ以上、俺にお前を苦しませさせないでくれ…」



「俺はもう…死んでんだ。」




あの夜、聖剣と言葉を交わせた唯一の夜にそう決めた。

腕輪によって過去に飛ばされたセトの欠片は黒瘴に蝕まれその本質を大きく歪まされた。

元々、黒瘴というのは狂気を誘発させるものでその力が、セトの中にある俺と一緒に居たいという想いを狂気へと変化させたのだ。

そしてそれは幼い子供の姿となり、炎の海と化した故郷で俺を待っていた。


「ズッと…いっショだよ…オニイチャン。」


狂気に堕とされたセトの想いは共にいる事に重点を置きすぎた結果、贄の紋章を俺に刻んだ。

当初、俺はその紋章は俺以外には何の影響も与えないものだと思っていたがその考えは間違っていた。



「なんて事してくれたんだ…」

聖剣から贄の紋章の正体を告げられ、怒りでどうにかなりそうだった。

もとを正せば元凶は油断した俺に違いないが、それでもセトの純粋な想いを歪ませたことは許しがたい。

能天気に見えて傷つきやすいんだぞ、うちの勇者様は!

『怒りよりも汝は目を向けねばならぬことがある。』

「打倒黒瘴以外に見るべきものなんてあるのか?」

『悪しき祝福は、汝のみにあらず。我が使い手とも繋がっている。』

「えぇ?!なんっ……まさか、セトの欠片が発動したからセトが発動者に?」

『是。加えて、病の毒も僅かながら流れ込んできておる。今は我が浄化できる範囲ではあるが、大元に近づけば保証はできん。』

「!?」

この時、ようやく俺はどうして聖剣が俺と話そうとしていたのかを悟った。

世界を救う使命の具現化である聖剣にとって世界を救う事は存在意義だ、その為には使い手であるセトの力が必要不可欠。

だが、黒瘴の小細工によって俺がいる限りセトに黒瘴の狂気が流れ込んでしまう。

今は聖剣が抑え込んでいるけれどそれもいつまでもつか分からない、だから聖剣は全てを俺に告げて選ばせようとしているんだろう。

恐らく、選択肢が1つしかない選択を。

「…念のため聞くが、発動者を殺す以外にこの紋章を解呪する方法はあるのか?」

『我の知る限りはない。創造神ならあるいは知り得ているかもしれぬが、問う術はない。』

「じゃあさ、もし、もし俺の紋章が機能しなくなったら、セトは助かる?」

『是。』

「そっか………そっか。」

聖剣の短い一言で全て決まった。

迷いがなかったわけじゃない、悔いがなかったわけじゃない、せっかく転生したんだしもう少し生きて居たかったし、やりたいことだってあった。

セトに待ち受けている永遠の旅路に付き添ってやりたかったし、全てが終わった後に廃墟となった村を綺麗にしたかった。

ソリス(神官)と神聖魔法の研究をもっとしたかった

ミーティー(テイマー)と魔獣達をもっともふもふしたかった

ジン(忍者)ともっとスイーツを食べたかった

メルバ(女戦士)ともっと酒を飲みたかった

ミカエルともっと語り合いたかった

セトともっと…一緒に居たかった。

「…っ…」

小さな願いが湧き上がる度に止めどなく涙が溢れてくる。

寒くなんてないのに、体が小刻みに震えてくる。

死にたくないと、理不尽に叫びだしたくなる。

「どうして俺なんだ…俺はただ、このゲームが好きでやり込んでいただけの何の変哲もない人間だ…容姿だってそこまでじゃないし、何ならモブにも劣るような存在感なんだぞ!?勉強だって運動だって普通で、手先だってそんなに器用じゃない…彼女が居たことだってないし、友人も多い方じゃない…なのに、どうしてっ!!!」

堪えようとした、けどダメだった。

一度溢れた水が元に戻らないように、後から後から理不尽を詰る言葉が出る。

言葉だけじゃない、身の中を暴れまわる怒りに突き動かされた拳をセトの体にぶつけてしまう。

聖剣は悪くないし、セトはもっと悪くないのに、どうしても止められない。

「どうして気づかなかったんだ!!俺は!望んで転生したんじゃない!!死んだ時のことだって俺は被害者だ!!まだやりたいことがあった!!もっとアイツらと話したかったし遊びたかった!!もっと親孝行したかったし親戚の兄さんに恩返しもしたかった!!何もかもを奪われて、やっとまた人らしい繋がりを作ったのにまた奪うというのか?!なんの権利があってそんな事するんだ!!俺が何したっていうんだ!!!」

ドンッ、ドンッとセトの胸板を力いっぱい殴る。

これまでの旅路で、魔力には劣るが腕力も上がった俺が力いっぱい殴ればいかに鍛えられた肉体であっても青痣は免れないし、当たり所が悪ければ骨にヒビだって入る。

しかし、そんな事はお構いなしに殴り続けた。

聖剣もまた、そんな俺を受け入れ続けた。

声が枯れ、涙が枯れ、力が入らなくなった拳が叩き込まれるまで。



「くそっ…くそぉお…」

『…』

「なんで、スッキリしちまうんだ…まだまだ恨み辛みなんて山ほどあるってのに…どうして…」

『…』

「なぁ…聖剣…」

『なんだ。』

「俺が居なくなった後も、セトの事、守り続けてくれるか?世界がセトをぞんざいに扱ったら、怒ってくれるか?」

『…人間への干渉は制限されていない。我の存在意義に触れない程度であれば約束しよう。』

「そっか…なら………いいや…俺の命、相棒の為に使うよ…」

その時、俺は自分でも自覚できるぐらい晴れやかな気持ちで笑えた。

未練も後悔も怒りだってまだあるけれど、それをひっくるめて答えを出せたから。

でも、まだほんの少しだけ恐怖の方が強いから─

「だから、さ…せめて朝日が昇るまででいいから…泣かせてくれ…」

『…是。』

そういって聖剣は胸を貸してくれた。

ものすっごく拙い仕草で頭を撫でるというオマケつきで。



黒瘴の大元を絶つ為に、俺達は天命樹の中に侵入する計画を立てた。

しかし、難点が2つある。

1つ目は天命樹の中はいわば世界の情報を集積した様な場所で、普通の人間では入った途端に情報に分解されてしまう事。

2つ目は天命樹への入り口を開くには強力な神聖魔法が必要という事だ。

聖剣を持つセトならばどちらも心配はないが、普通の人間でしかないセト以外のメンバーはそうはいかない。

1つ目に関しては神聖魔法による防御を身に纏えば何とかなるが、そうなると2つ目が問題となってくる。

パーティー内で神聖魔法を使えるのは俺とミカエルだけ、天命樹への入り口を開く為には俺とミカエル、2人がかりで神聖魔法を行使する必要があったのだ。

そうなると天命樹へ突入するのはセトのみとなる。

セトの強さなら早々遅れは取らないだろう相手は黒瘴だ、油断はできない。

どうしたものかと頭を悩ませる面々に、俺は提案した。

“途中でレアアイテムを手に入れた、天命樹への入り口を開く役は俺だけでやる。”

レアアイテムを身につければ神聖魔法が強化されるから入り口を開く程度なら1人で何とかなると皆を説得し、作戦を決行したのだ。

かくして、天命樹へと入り口は開かれセト達は勇んで進んでいった。

(バイバイ。)

その背に内心で短い別れの言葉を告げ、隠し持っていた短剣を喉元につきつける。

皆に告げたレアアイテムは、嘘だった。

世界と同じ色を持つ俺の魂を使えば神聖魔法を使わなくても天命樹は入り口を開けてくれると予め聖剣から聞いていたのだ。

セト達が戦いに言っている間なら、自分の最後を見られることはない。

それに、もしかしたら自害じゃなくて黒瘴にやられたのだと誤解してくれるかもしれない。

ここまで俺を弄んでくれたのだし、この世界中から恨まれてるんだから冤罪が1つ増えた所で同じだろうと恨みを籠めながら思考する。

(いや、あながち冤罪でもないか。)

どうでもいい事だと言わんばかりに笑いながら勢いよく短剣を突き刺そうとした瞬間、天命樹が揺れた。

「なんだ?!」

神聖魔法を使って中の様子を伺うと、なんと既にセト達は黒瘴を討っていた。

ゲームよりもかなり強くなっているとは思っていたが、ここまで成長していたとは誤算だが少し様子がおかしい。

聖剣によって切り裂かれた黒瘴がセトを襲っていたのだ。

「どうして…まさか!?」

セトの中に流れ込んだ黒瘴を新たな依り代にでもしようというのか、往生際が悪い事この上ない。

すぐにでも命を絶とうと短剣を握りしめるが、もうミカエルの魔力が尽きかけているのに気づいた。

(このまま俺が命を絶てばセトは助かる、でもそうすればセト以外は天命樹によって情報に分解される…孤独の旅路の完成ってわけかよ!!)

盛大に舌打ちした後、僅かな逡巡の末に短剣を手放す。

聖剣はセトを守ると約束してくれた、だけどやっぱり旅には隣に体温がないと寂しいものだ。

ミカエルにはセトの行く末をそれとなく告げてある、きっと俺が居なくなってもセトの旅路に付き添ってくれることだろう。

そうすれば、きっともう寂しくない。

「天穹の最果てに眠る原初の光よ。世界を産み落とした始源の律動を、いま我が魂へ刻み給え。

星々は沈黙し、大地は祈り、万象は創世の静寂へと還る。

我が名は鍵となり、我が魂は代価となる。」

俺の中に残る全ての魔力を神聖魔法につぎ込み、詠唱を構築する傍らでダンジョン帰還用アイテム・生還の縄を天命樹に向かって放つ。

何の変哲もなかった縄が魔力の軌跡となって走りセト達を捉えたのを確認すると、思い切り引っ張った。

逆に引き込まれそうな力の反発に掌が燃えるような痛みを感じても、決して離さない。

その甲斐あって、1人、また1人と天命樹から救助する事に成功し最後の1人を引っ張りだした瞬間、最大出力で神聖魔法をぶつけた。

「いま宣ず。

創世の光は秩序を築き、封鍵は世界を縫い止める。

結合せよ! サンクトゥス・スティッチバインド!」

顕現した神聖魔法の鎖が黒瘴を貫き、固定する。

聖剣によって切り裂かれた黒瘴は攻撃を加えなくとも時期に消滅する、それまで持ち堪えられれば俺の勝ち。

まぁ、拘束を突破されても俺の勝ちなんだけど。

「やめろっ!ノアぁあああっぁあぁあ!!!」

ミカエルの声が聞こえる。

いつもならどうしたんだよと軽い口調で相槌を打ちながら振り返れるのに、今回ばかりはそれもできない。

だって、俺の体はもうすぐ物言わぬ石造となる。

それは、神聖魔法を行使しすぎた代償。

神聖魔法とは神へと信仰心によってもたらされる奇跡の御業。

とはいえ、信仰心があるからと言って誰でも使える代物ではないし稀に信仰心がなくとも使える者もいるという未解明な部分が多い魔法でもある。

ただし、神に選ばれし者のみが使う事を許された神聖魔法は強大な力を持つが故に身の丈に合わない使い方をすると重い代償を支払う事になるのだ。

代償の程度は様々で、片腕や片目を失ったり魂の一部が消えたし、ある特定の記憶を持っていかれる事例もあった。

その中で俺の代償は最も重い魂の献上、要は死亡だ。

つまり、拘束を突破しようとしまいと俺という黒瘴をセトに流している元凶が居なくなればどの道、黒瘴も終わりだ。

「ノア!!」

「!」

俺を止めようとする皆の声に交じってセトの声が聞こえる。

その声にも、俺は振り返れない。

もう、胸まで石化してしまっているからだ。

(…いや、それも言い訳だな。)

最後にその姿を見てしまったら決意が揺らいでしまう気がして、無様に泣き喚いてしまいそうな気がして振り向けなかった。

せめて最後ぐらいは、お前の相棒はカッコよくやりきったという姿を見せたかった。

「やめろノア!!俺との約束、忘れたのかよ!!」

「……」

「ノア!!」

「…セト!!」

「!」


「精々、俺の推しと生を謳歌しやがれ!!」





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