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推しを救おうとしていたはずなのに何故か主人公に執着されています  作者: 夕月


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6/8

Act・6

「一体…」

情報量が多すぎて、いや、処理する内容が複雑すぎて、脳がパンクしそうだ。

俺がゲームだと思っていた世界は本当に実在していて、その世界から俺の元居た世界に黒瘴が侵攻を開始したけど魔法が無くて瀕死の状態に追い込まれる。

起死回生を狙って人間に憑りつき、多くの人間に認知されることで力の回復を図ったがそれもあえなく失敗に終わり創造神と聖剣が安堵したことで俺がこの世界に転生する事となった。

うん、まとめてみたが分からん。

特に最後の部分。

『よって、汝の来訪と力の向上は病の意図するものではない。』

「あー、うん。そこなんだけどさ、どうして聖剣のせいになるの?黒瘴がゲームを作らせたって所までは何とか飲み込んだんだけど…」

『汝の魂はこの世界の波動と酷似しているのだ。』

「…はい?」

『全ての存在に命があるように世界にも命が存在する。汝の魂は世界の命と同じ色をしているのだ。』

「…マジで?」

『是。』

なんかとんでもないことを言われた、世界の命と同じ色ってあんまりピンとこないが兎に角、俺の魂が凄いってことだけは分かった。

だが、それでもやはり転生と聖剣は結び付かない。

『病が駆逐された時にそのことに気づくべきだった。病によってもたらされたこの世界の片鱗が汝の魂と共鳴してしまった。本来ならばその時点で創造神が察知するのだが、病が隠蔽を図った。恐らく、病に意思が芽生えたのはこの時だろう。』

「…ごめん、途中からまた分かんなくなった…俺の魂とこの世界が共鳴したって…俺、何も覚えがないんだけど…」

『覚えがなくて当然だ、世界の波動など人間が感知できるものではない。』

「あ、さいですか…いやいやいや、考えることを放棄するな自分!続けてくれ。」

意識が明後日の方向へ飛び立とうとするのを何とか引き留め、目の前の聖剣に向き直る。

正直言って話が壮大すぎて、実感がないというか現実味がない。

転生なんていう突拍子のない事というか夢物語的な事が身に起きたし、世界を救う旅の道中で数多の魔法や魔物、神話の中でしか知らない生き物なんかと出会ってきたのだからある程度の耐性は付いてきたというのに脳が仕事を放棄したがる。

でも、今ここで思考を停止してしまったらそれこそ取り返しのつかないことになる気がして何とか気合を入れる。

『汝の魂が死する間際、この世界と共鳴したことで輪廻の輪には渡らず禊をせぬまま招かれた。生前の記憶を有したまま生まれる魂は珍しくないが、死者の門を通ることなく生まれ直す魂は稀だ。しかも、世界と共鳴せし者なら猶の事。』

「…でも、本当ならそうなる前に創造神か聖剣が気づいて処理ってやつをするはずだったんだろ?」

『是。』

重苦しく頷く聖剣。

仰々しいことを言われてはいるが、それは結果であり問題の中心は別にある。

どうして黒瘴が隠蔽したのか、それが問題だ。

この世界に俺が生まれた時点で黒瘴が俺に何かしてきたならまだ分かりやすいのだが、そんな兆候もない。

聖剣は隠蔽をして時に意思が生まれたのではないかと言った、もしその通りだとしても生まれたばかりの意思が謀略を巡らせることなどできるのだろうか?

「なぁ、俺の魂ってかなり珍しいものなんだろ?」

『是。』

「だったらさ、俺の魂を食べるとパワーアップするぞーとかってなったりするの?」

『可能性はあるだろうが、処理しきれず自滅する可能性の方が高い。』

「自滅?」

『人間の体で例えるなら、食べ過ぎによる消化不良、が近い表現だ。』

「俺の魂の扱いよ…」

とても分かりやすかったがなんだか納得がいかないものの、喰われる可能性はそこまで高いわけではない事に安堵する。

その代わり、余計に謎が深まった。

「なら、どうして黒瘴はそんなことしたんだ?なんの考えもなく衝動的にやったとかか?」

『否。病の目的は──』



「ぐっ…」

「その様子だと、思い出したようだな。」

「多少は…まさか、記憶が歪められるなんて思わなかったよ…」

とても長い一瞬を経て我に返った俺は、未だ痛む頭を押さえながら立ち上がる。

ミカエルがギリギリ間に合ってくれたのは助かったけど、全ての記憶が元通りになったわけではなかった。

あの夜、聖剣と話すことができた唯一の会話の記憶が不自然な所で断絶している。

聖剣が病と称する黒瘴の目的さえ分かれば、いや、こんな状況に陥っている経緯さえ分かれば突破口が見えてくるかもしれないのにそう簡単には運ばせてくれないらしい。

「ごめん、ミカエル。俺の記憶はまだ完全じゃない。」

「どこまで思い出した。」

「セトとミカエルと旅立って、仲間を増やして世界を救う旅をしている所まで。でも、仲間の顔も名前も思い出せない…」

「アイツの執着は凄まじいな。」

「え?」

呆れたように言うミカエルに思わず聞き返すが、それを許さないと言わんばかりの斬撃が飛んでくる。

斬撃を放ったのは、セトだった。

「また、お前か…」

「それは俺のセリフだ。しこたま魔物けしかけやがって、お陰で捌くのに苦労した。」

「ふん、そのまま眠っていればいいものを。生き永らえたばかりか俺の邪魔ばかりしやがって、忌々しくてたまらん。」

「おー、おー、威勢のいいことだ。頭が回っていない事がよくわかる。」

「ぬかせ!!」

聖剣を構えた途端、セトの姿が16歳の姿へと変わる。

それは、最後に見たセトの姿(・・・・・・・・・)

(まただ、また妙な既視感が…俺はどこまで忘れてるんだ…俺は、俺は…何がしたかったんだ!?)

「やめろセト!!」

妙な既視感は焦燥を呼び、目の前の光景への強烈な拒絶感へと変わった。

2人が戦う姿を見たくない一心で静止の言葉を叫べば、ミカエルに相対したままセトが俺に応える。

「どうして止めるんだ、こいつは俺を攻撃したんだぞ。」

「お前の様子がおかしかったから止めただけだ、戦闘の意思はない。お前なら分かるだろ?」

「戦闘の意思がないなら攻撃してもいいのか?攻撃されて怖かった俺の気持ちは無視してもいいってのか?」

「無視するなんて言ってない、このままじゃそれを解消するための会話もできないから止めろって言ったんだ。」

何とか落ち着かせようとするが、背を向けたままのセトから殺気が消えない。

口調はいつものセトなのに、まるで小さな子供が癇癪を起しているかのような会話に不安が募る。

目の前にいるのは間違いなくセトのはずなのに、セトではない何かと話しているように感じてしまう。

(セト…っ)

「…ノアは、いつからか変わったよな。」

「え?」

「昔は俺の事、凄くなるって、誰よりも強くなるって褒めてくれたのにいつからか俺の事を遠ざけるようになった。」

「そんなことないだろ?」

「あるよ。旅の間、野営の見張りは俺とは組まないし索敵も進路決めも、いつも俺以外と話してた。」

「それは、適材適所ってやつだよ。現に、戦闘の時はいつもお前に…」

「戦いの時、ノアはいつも俺の後ろにいたじゃないか!!!アイツと一緒に!!」

「セト…?」

我慢の限界だと言わんばかりに叫ぶセトに、反射的に体が震える。

辛うじて思い出せた旅の道中では確かにセトの言う通り、俺とセトの距離は少しだけ離れていたかもしれない。

でもそれは物理的なもので、精神的な意味ではいつも隣にいた。

神官と一緒に見張りをしていた時、セトはいつも労ってくれた。

テイマーと索敵をしていた時、珍しいものを見つけたと見せればいつも喜んでくれた。

忍者と進路決めで口論していた時、双方の意見を聞いていつも仲裁してくれた。

いつもいつも、俺の傍にはセトが居てくれた。

そう思っていたのは、俺だけだったのか?

「陣形だったならまだ納得できた、でもアイツは前衛だ、ノアのように後衛じゃない。それなのに、いつもいつもいつも…アイツは我が物顔でノアの隣にいた…そこは俺の場所なのに…なによりも!!」

「っ!」

「どうして、ノアも受け入れているんだ!?お前の相棒は俺だろ!?違うのか!?」

振り向いたセトは、泣いていた。

感情の起伏が俺よりも分かりやすいセトは村に居た頃からよく笑ったり、怒ったり、拗ねたりしていたが、涙を流したのは俺が重傷を負ったあの時だけだった。

そのセトが、泣いていた。

「俺の相棒はセト、お前だ!」

「じゃあ何で旅に出てからずっと、アイツとばかりいたんだよ!?俺が間に入るといつも困ったような顔して、何話してたかも教えないでずっとずっと…俺を除け者にしてたじゃないか!!」

「除け者になんて…」

「気づかねぇとでも思ったのか!?」

「っ!」

遮るように言葉を被せられ、思わず息をのむ。

確かに、贄の紋章の件でよくミカエルには相談に乗ってもらっていた。

鈍痛程度ならばまだいいが、激しい痛みが襲うと自分では神聖魔法を発動できないから俺以外で神聖魔法を使えるミカエルに処置を頼んでいた。

セトだけにでも話した方が良いとミカエルは忠告してくれていたのに、俺はそれができなかった。

(どうして…?)

「なぁ、ノア。お前にとって俺は相棒なんだろ?じゃあ何で、何も俺にくれないんだよ。」

「な、にが…」

「そっか、それも分からないのか。お前にとって俺はその程度の存在ってことなんだな…ははっ、アイツには秘密なんて羨ましいものあげるくせに…ああ、そうか。」

「!?」

「アイツがいなけりゃ、俺に渡すしかなくなるよなぁ?ここにはもう、誰もいない。故郷も、両親も、友達も、そして…仲間も…」

「!やめろ!セト!!」

言い終わるや否や、セトは再びミカエルに切りかかった。

太刀筋が見えない程に素早い剣捌きだが、ミカエルは何とか往なしていく。

パーティー内でもセトとミカエルの連携は別格で、この2人が組めば敵なしだと評されたほどだ。

その2人が今、敵対している。

(嫌だ嫌だ嫌だっ…!俺は、こんな光景が見たくて戦っていたんじゃない!死を選んだんじゃない(・・・・・・・・・・)!!)

「神々の慈悲よ!光剣として顕現せよ!ホーリー・リストレイン!!」

掌に召喚した杖で、拘束魔法を発動させる。

2人とも手練れであり、何より俺の魔法の癖を熟知しているからそう簡単には捕まってはくれないけれど、だからと言ってはいそうですかと諦められるほど簡単な気持ちじゃない。

何度も何度も魔法を発動して、目の前が光で何も見えなくなるほど大量の拘束具を顕現させる。


 『なんだこのスキル…回帰?』

 『危ない!ノア!!』

 『え!?』


光で潰された視界にノイズのような光景が走る。

それは、途切れた記憶の断片。

「っ…」

奥歯を噛みながら、顕現させた大量の拘束具をこれでもかと降り注げば、ようやく2人を拘束することに成功した。

「ノアが力押しするなんてな…」

「くそっ…ここまでしてこいつを庇いたいのかよ!!どうして、どうして俺じゃ…」

「黙れ!!」

「「!?」」

再び喚き始めようとしたセトを今度は俺が言葉を被せて遮る。

予想外にミカエルまで黙ったが、そんなことに構っていられるほど今の俺に余裕はない。

拘束魔法はそれでなくとも魔力の消費が激しいのに、こんなにも連発してしまったからもう息も絶え絶えなのだから。

「お前…俺にばっか言うよな……なら俺も言わせてもらうが、旅の間のお前、なんなんだよ!?」

「え…?」

「人助けは美徳だ。誰にだって手を差し伸べるお前を俺は誇りに思ってるし、咎める気も止める気もない。だけどな!?後先考えずに突っ走って怪我するお前を心配するこっちの身にもなりやがれ!!終いには勇者様と持て囃され鼻の下伸ばすお前の尻拭いに俺がどんだけ苦労したお前分かってんのか?!」

「あ…えと…」

「何もくれないだぁ?やる暇もなく跳ね回ってた癖に何ほざいてやがる!!お前の傍に居たいだとか、誰かの傍に居ただとか、文句を言う前にテメェの行動振り返りやがれ馬鹿野郎!!」

「ご、ごめんなさい…」

「ノアが、キレた…」

先程までの威勢はどこへやら、顔を青くさせながらプルプル震えるセトとミカエルに少しだけ溜飲が下がる。

そして同時に、冷静さも戻ってきた。

「…なぁ、セト。」

「はい…」

「確かに俺は、お前に秘密にしてたことがある。偶然、ミカエルに知られちまった秘密が。」

「…」

「お前にも、言いたかったさ。でも、言えなかった…ははっ、笑うなよ?お前に言うのが、怖かったんだ。」

「怖か、った?」

秘密があることを認めれば、再びセトの表情に影が差す。

だけど、魔力が尽きかけて上手く動かせない体を無理矢理動かして近づき、頬に手を当てて顔を上げさせれば困惑した緑の瞳が見えた。

その色が、どうしようもなく俺を安堵させて、ずっと言えなかった言葉を、ミカエルにだって言えなかった言葉を口から吐き出す。

「ああ、怖かった。俺が、死ぬなんてこと…言うのは、さ。」

「…は?」

「おい…どういうことだノア。そんな事、俺は聞いてないぞ!」

驚愕に固まるセトと、声を荒げるミカエル。

セトにとっては寝耳に水だろうし、ミカエルにとっても初耳の情報だ。

だって俺は、贄の紋章の正体を誰にも言ってなかったんだから。

「…村が襲われた日、俺は正体不明の何かに呪いをくらった。それは時折魔法が使えないぐらい酷い痛みが出るからミカエルに浄化魔法をかけてもらってたんだ。そうだよな、ミカエル。」

「ああ…呪いの正体は結局分からず終いだけど、浄化魔法をかけ続ければ日常生活に問題はないから保留にするとお前は言っていた…だが、違ったんだな。」

「…うん。俺が受けた呪いは、贄の紋章って言ってな紋章が完成すると意思なき人形に成り果てるんだ…分かっている解呪方法は、術者を殺す事。」

「っそこまで分かってるならなんで言わなかった!!お前が、ノアが死なないで済むなら魔王だってなんだって、どんな奴だって倒してやる!!」

「…無理だよ…」

拘束具に身動きを封じられながら叫ぶノアに、不覚にも涙が出そうになる。

どうして黒瘴が俺の魂を隠蔽しようとしたのか、どうしてこの世界に呼んだのか…今、やっとわかった。

「どうして!?」

「それは、俺がこの世で一番倒して欲しくない存在だからだよ。」

「な…に…?」

「…おい、まさか…」

「うん……セトだよ。」

「…え?」

「俺に、贄の紋章を刻んだのは…セトなんだ。」

愕然とするセトと、驚愕に目を見開くミカエル。

俺も、正直事態を飲み込めているわけじゃないのにこうして冷静でいられるのは目の前に俺以上に感情を乱している存在がいるからなのかもしれない。

「どういう、ことだよ…俺っ、何もしてない!!ノアに何も!!」

「うん、セトの意思じゃないってちゃんと分ってる。というか、もとを正せば俺のせいいと言えなくもないし」

「…は?」

「2人はさ、旅の途中で魔物が住処にしてた洞窟の事、覚えてる?」

「あ、ああ…近くの村から年頃の娘ばかりが攫われてたってやつだろ?」

「うん。その時にさ、俺が魔物に襲われそうになった所をセトが庇ってくれた。セト、覚えてる?」

「…覚えてる…ノアの背後から、見たことない真っ黒い魔物が襲い掛かろうとして…咄嗟に、庇った…」



「酷いものね。」

「喰い殺すというより、喰い散らかすと表現した方が適当だな。」

「せめて、安らかに…」

「ううっ…」

「大丈夫か?」

「は、はいぃ…」

旅の途中に立ち寄った村で年頃の娘ばかりが攫われるという事件が発生していた。

その頃にはセトの名前は広く轟いていて、村に到着するや否や盛大な歓迎と嘆願を受けた。

どうかこの村を救ってくれと懇願する村長をお人好しなセトが拒めるはずもなく、パーティー総出で調査に当たった所、魔物による仕業であると判明した。

魔物の住処となっている近くの洞窟を訪れてみれば、至る所に血が付着し奥に進むにつれて強烈な腐臭が漂ってきた。

人より鼻がいいテイマーは早々にグロッキーになり、ミカエルが浄化魔法で誤魔化しながら進んでいったが、奥で山と積まれた死体に涙目になっていた。

無事に魔物の討伐を終え帰路につこうとしていた時、見慣れた装備を身に着けた死体を見つけた。

というか、実はこのイベントはゲームに登場するもので魔物を討伐するとレアアイテムがゲットできるのだ。

それがまた強力なアイテムで、最終エリアでとてもお世話になった思い出の品でもある。

魔物からドロップするとばかり思っていたが、まさか死体漁りをする羽目になるとは…と努めて無心に装備品に手を伸ばした。

(ごめんなさい。世界を救い終わったらきっと返しに来ますから、それまでどうかお貸しください………ん?)

内心で両手を合わせながら装備品である腕輪を手に取る。

その時、見慣れた装備品と少しだけ違う箇所があることに気づいた。

ゲーム登場するこの装備品はとてもシンプルな見た目をしていたのに、今手にしている腕輪には大きな魔法石があったのだ。

(なんだ?これ…ステータス!)

気になった俺は付与されているステータス値を見ようとステータス画面を展開した。

転生者特典として俺だけが使えるこのスキルは地味に役に立つ代物で、このスキルのお陰で呪いのアイテムだとか悪意ある企みから身を守ることができている。

ちょっと毛色の違う鑑定の様な存在だ。

「なんだこのスキル…”回帰”?」

開かれたステータス画面には、レアアイテムと呼ぶにふさわしいステータス値と固有スキルが表示されていた。

アイテムにスキルが付与されていること自体は珍しい事ではないが一般的なことでもない、俗に言うレアアイテムと呼ばれるものにしかないものにしかない事だが、その中でもこのスキルには見覚えがなかった。

(人生の半分をつぎ込んだと言っても過言ではない俺にも覚えがないスキルか…俺の転生者特典みたいなこの世界特有のものなのかな?詳細とかって分かったりしないかな…)

「危ない!ノア!!」

「え!?」

スキルを見るのに夢中になっていた俺に、セトの声が突き刺さる。

勢いよく振り返った先には、見たことのない魔物が俺に向かって牙を向いていた。

かなりの接近を許してしまっていて防壁魔法は間に合わない、かといってこのまま魔法で応戦しては自分にまで被害が出る。

一か八か杖で槍術の真似事でもするか!?と杖を召喚した瞬間、俺と魔物の間にセトが滑り込んできた。

「ぐぁあ!!」

「セト?!」

「このっ!」

セトのお陰で俺は事なきを得たが、その代わりに魔物の爪がセトの首筋に食い込んでしまった。

咄嗟にミカエルが魔物の腕を切り落とすことでセトの首は繋がったままだが、血管を傷つけた様で鮮血が止めどなく流れてしまう。

「セト!しっかり!!セト!!」

「の、あ…ぶじ…?」

「無事だけどこんな庇い方するな!!」

「へへっ…もう、のあがきず、つくの…いや、だから……さ…」

「俺も同じだってなんで分かんないんだ馬鹿!」

「だい、じょーぶ……ずっと、いっしょって…やくそく、し…た…から…」

「もう喋るな!!」

ミカエルと女戦士、忍者が魔物の相手をしてくれている間に、回復魔法をかけながら出血多量にならないようにゆっくりと魔物の爪を引き抜いていく。

神官とテイマーも手を貸してくれたおかげで何とか綺麗に爪を引き抜く事には成功したが、まだ油断はできない。

今回は奇跡的に貫通は免れたが、大きな傷口が出来てしまっていることに変わりはない。

回復魔法で傷口を覆い感染症などを防ぎつつ、同時に炎症を抑えていく。

剣等のただの武器による傷ならばこのまま一気に回復魔法を強めていけばいいのだが、今回は魔物による傷だ。

魔物の中には攻撃時、状態異常を付与する種族が居る。

もし今回の魔物がその類だとしたら、このまま傷口を塞ぐことは逆にセトを危険に晒してしまう。

(ステータス、オープン!)

「ノア、状態異常は?」

「毒と麻痺。」

「では浄化は私が。」

「回復補助、入ります。」

「ありがとう、頼む。」

短い言葉でも俺の意志を汲み取ってくれる仲間に感謝しつつ、処置を進める。

状態異常を解除する浄化の進行を見つつ、傷口の修復に尽力していく。

神官の手早い浄化とテイマーが補助魔法で出血を抑えてくれたおかげでなんとか一命をとりとめることができたが、最初の出血で血を流しすぎたセトの顔色は白い。

「セトの容態は?」

「傷は治療したけど、最初に血を流し過ぎた。増血剤は宿に置いてきた荷物の中にあるから、すぐに出た方が良い。」

「異議なし。」

「目的は既に達成してるしね、長居する理由もない。」

「では、セトは私が。」

「頼む。」

「先頭は俺が。」

「では、俺は後ろだ。」

無事に魔物を倒したミカエル達が合流すると手際よく撤退準備を整え、ミカエル、女戦士、セトを背負った神官、俺、テイマー、忍者という順で辺りを警戒しながら洞窟を進む。

ぐったりとしたセトの背中を見つめながら、自責の念に駆られる。

(俺がもっとしっかりしていればセトがこんな怪我を負う事もなかった…ボスモンスターを倒したからと言ってここはゲームじゃないんだから完全に安全なわけじゃないってこれまでの旅でも散々痛感してきただろ…でも…あんな魔物、ファンブックにも載ってなかった。)

自分の失態を責めながらも視野を広く持てるようになったのは、旅に出たことで得た成長の1つだった。

村に居た頃ならば、自分がもっとちゃんとしていればと自分を責めるだけ責めて打ちひしがれていた事だろう。

でも、そんなことをしたって状況は変わらない。

反省は大事だ、後悔も大事だ、でももっと大事なのは反省で得た改善点を次に生かし後悔を忘れない事。

背後を取られたことは改善点を生かせていないが、冷静にセトの処置が出来たのは後悔を忘れなかったから。

だから今すべきことは、自責の念と共に襲ってきた魔物について考えを巡らせる事。

もしも新種だったなら、セトの怪我も油断はできない。

(けど、どこかで見たことがあるような……あれ?)

今度は意識が集中しすぎないように注意しながら推察していると、先程まで手にしていた腕輪がなくなっている事に気がついた。

もしかして、あの腕輪はレアアイテムなどではなく魔物召喚系の罠だったのではないかと訝しみつつも、無事に洞窟を出てセトをベッドに運び終える頃には、俺の頭から腕輪の存在は消えていた。


そして、あの夜にそれは蘇ることになる。



「なら、どうして黒瘴はそんなことしたんだ?なんの考えもなく衝動的にやったとかか?」

『否。病の目的は汝だ。』

「俺?いや、なんで?やっぱり食べる為?」

『否。しかし、我にも理屈は分からぬ。それを知るのは、我を持つ使い手だけだろう。』

「使い手って、セト…?どうしてセトが?」

またこんがらがってきたと頭を抱える俺に、聖剣が掌に映像を投影する。

魔法が苦手なセトではできない芸当に、やはり目の前にいるのは聖剣なのだなと他人事のように思う横で、投影された腕輪に見覚えがあった。

それは、あの洞窟でいつの間にか消えていたレアアイテム。

「それって…」

『汝が見つけた腕輪だ。神の祝福を受けた聖なる腕輪なのだが、気難しい奴で使い手を選ぶ。』

「まぁあのステータスならそうだわな…って、違う。ステータスじゃなくてその腕輪がセトと何か関係があるのか?」

『この腕輪に付与されていた祝福は回帰。腕輪に認めし者が望んだ時間に、欠片を挿むことができる。』

「欠片?」

『魂の欠片だ。とはいえ、人間程度の欠片ではできることは木の葉を数ミリ動かす程度だが、病となれば話は別。』

「……なぁ、まさかとは思うが。あの時、腕輪が認めたセトの欠片が黒瘴と一緒に時間を遡っただなんて言わないよな?」

『否。』

「よかった…」

『正確には、病に侵された使い手の魂の欠片が、使い手が望んだ一時に挿まれた。』

「尚悪いわ!!!」

思わず突っ込みを入れるが、それどころではない。

あの時、俺を庇って魔物の一撃を喰らったせいで魔物の瘴気みたいなものを浴びてしまったのだろう。

欠片じゃないセトの魂なら何とかなったかもしれないが、切り離された欠片じゃ黒瘴には対抗できなくてもおかしくはない。

しかも欠片とは言えセトの魂だ、どんな影響があるか分かったものではないと慌てる俺とは裏腹に、聖剣はただ静かにこちらを見ている。

「どうすんだよ…欠片とはいえセトだろ?黒瘴の力も合わさったらかなり厄介なことになるんじゃ…」

『是。』

「やっぱりなぁ~…って、肯定するってことはもうなんかあったのか!?」

『是。』

「一体、何が…?」

『汝の腕にあるものだ。』

「俺の、腕…?」


『汝に刻まれし悪しき祝福。それは、我が使い手が望みし未来だ。』


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