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推しを救おうとしていたはずなのに何故か主人公に執着されています  作者: 夕月


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5/8

Act・5

ノア、14歳。

杖を手に入れた俺は、攻撃も回復も補助もなんでもござれなオールラウンダー魔法使いを目指していっそう魔法の鍛錬に打ち込んだ。

その甲斐あって魔法に関しては村一番の腕前にまで成長したが、純粋な火力ではやはりセトには敵わない。

普通の剣を使ってこれならば、聖剣を手にしたら一体どれほど強くなるのか頼もしく思えばいいのか、それぐらいでないと世界を救えないのかと震えればいいのか判断がつかない。

「また負けた…」

「ノアの魔法は油断できないからこっちもヒヤヒヤだよ。」

「よく言うよ、笑ってたくせに。」

「楽しくてつい。」

「こっちは必死だってのにさ。ま、いいや。次はその顔に泥塗ってやる。」

べーっと悔しくて舌を出す俺に対して、セトは楽しげに笑うから毒気が抜かれる。

ゲームでも序盤辺りまではこの笑顔を浮かべられていたが、中盤にはもう険しい顔しかしていなかった。

ミカエルを救って少ししてからは多少、少年らしい笑顔を浮かべるようになったけどセト本来の笑顔とは比べ物にならない。

ゲームでは専ら、ミカエルファンとしてプレイしていたがこの世界に生まれて15年共に育った今では、セトにも幸福であって欲しいと心から思う。

その為にも─

「じゃあどっちがデカい獲物を狩れるか勝負しようぜ!今日、ちょうどミカエルの誕生日だろ?」

「その話、乗った!あ、勝った方が好きなこと一つ命令できるってのはどうだ?」

「大きく出たな!じゃあ制限時間は夕暮れまででどうだ?」

「異議なし。」

「よーし!じゃあスタートだ!」

開始の合図とともに森へと駆け出す。

まずはこれから待ち受ける過酷な旅の前に、暖かな思い出を作ろう。

人は案外、そういう記憶に助けられるものだから。



「俺の勝ち!」

「くっそー…」

「ここら辺は斬撃耐性を持つ奴が多いからな。」

「あ、さてはそこまで計算してたな!?」

「ふっふ~ん、世の中ゴリ押しで解決できるほど簡単ではないのだよセト君。」

「うぐぐっ…」

「なぁ~にお願いしようかなぁ~!」

夕暮れ、見事な猪を狩った俺に対してセトの獲物は小鹿。

小鹿にしては大きい部類に入るが猪には及ばないので、この勝負は俺の勝ちだ。

セト相手に白星を挙げられたことが嬉しくて機嫌よく獲物を運ぶ準備をしていると、予想よりも大きい獲物に持ってきた運搬用の縄の長さが足りなくなってしまった。

「あ、長さ足らないや。」

「張り切りすぎだろノア…」

「こんなに立派な猪に出会ったんだ、そりゃ張り切るだろ。仕方ない、村まで一っ走りしてくるから見張り頼んだ。」

「それが願いか?」

「それを願いにするならお前の夕飯はなしだ。」

「冗談だよ、冗談。」

降参と両手を上げるセトと笑いながら俺は村へと引き返す。

風魔法を使えば村まですぐの為、さっさと縄を調達してセトの元まで戻ろうと気楽に考えていた俺の目に火の海が映った。

「なっ…」

村は、魔物に襲撃されていた。

逃げ惑う村人達を魔物が容赦なく襲っている。

村に残っていた戦士が応戦しているが、魔物の勢いが強すぎて焼け石に水状態だった。

「っ!やめろ!!」

衝撃の光景に茫然としている俺の前で、魔物が幼い子供を食べようとしたことで何とか我に返ると攻撃魔法を繰り出す。

切り裂き、燃やし、凍てつかせ、薙ぎ払う。

何とか付近の魔物を一掃すると、怯えていた子供に向き直る。

「大丈夫か!?」

「う、うん…」

「一体何があったんだ?」

「分かんない…いきなり、魔物が襲ってきて…お父さんと、お母さんが、逃がしてくれて…ひっく…」

恐怖のあまり泣き出してしまった子供を宥めつつ辺りを見回す。

家屋は火に飲まれ、あちこちに血を流して倒れ伏した村人がいる。

手当てをしたい衝動が沸き起こるが、同時に目の前で倒れている人間が手遅れであることも分かってしまう。

もう少し早く戻っていればと唇を噛みながら、子供を抱き上げ緊急時に村の避難場所に指定されている方向へ走る。

もしかしたら、まだ生き残りがいるかもしれないと願いなら走った先にあったのは無残な死体の山だった。

「…っ!!」

「お兄ちゃん…?」

「見るな…見ちゃダメだ…」

そっと子供の視界を遮りつつ、競り上がってくるものを飲み込む。

原型のある者から肉塊と成り果てた者までいる光景は、例え大人だったとしても見るのは辛い。

それは俺にも言えることで、腕に抱えた子供が居なかったら無様に叫び散らかしていたかもしれない。

(避難所がこの有様じゃ生き残りの可能性は絶望的だ…せめて、この子だけでも…!)

「とにかく逃げよう、しっかり捕まっていて。」

「逃げる…?どこに…?」

「どこか安全な場所に。」

「この村から…出るの?」

「少しの間だけね。」

怯える子供を安心させようと努めて優しく接するが、俺自身は限界に近かった。

優しかった村人達の無残な姿が、炎に飲まれる故郷が、脳裏にこびり付いて離れない。

本当に生き残りはもういないのか?

両親は?

友達は?

ゲーム開始まであと1年もあるのにどうして魔物が襲ってきた?

分からない事が多すぎて頭が痛くなってくるが、とにかく今は目の前の命を守る事だけを考えるべきだ。

俺自身が、死なない為にも。

「大丈夫、俺が一緒にいるから。何も怖くないよ。」

「お兄ちゃんが、一緒にいてくれるの?」

「ああ。だから、一緒に行こう。」

「…うん、分かった。」

ニコッと笑顔を浮かべた子供に安堵すると、炎と煙にまかれないようにしながら森へと飛び込む。

俺とセトが狩りをしていた方角からは魔物が居なかったことから、恐らく魔物は俺達とは反対側から襲ってきたのだろう。

ならば、俺が来た方向に逃げればセトにこの非常事態を伝えつつ安全を確保できると考えた。

「はぁ…はぁ…」

息を乱しながら死に物狂いで走る。

魔物の気配はないものの森に入るまでは、いや、セトと合流するまでは気を抜けない。

俺のミス1つで抱えた命も消えてしまうかもしれないという重圧が、俺の思考を固まらせた。

「もう少しだね、お兄ちゃん。」

「ああ、もう少しで村の外だ。怖いか?」

「ううん、お兄ちゃんと一緒だから平気だよ。」

「そっか、もう少しの辛抱だからな。」

「うン。」

あと少し、崩れかかった柵を飛び越えれば村の外だ。

そこまで逃げればあとは魔法を駆使してさらに距離を稼げる。

早く、早くと逸る気持ちを抑えながら動かす足は次の瞬間、ピタリと止まった。

「な…んで…」

「ズッと…いっショだよ…オニイチャン。」


最後に目にしたのは、顔全体が真っ黒に染まった子供だったモノの笑顔だった。



「ノア!ノア!!目を覚ませ!!ノア!!」

「…んっ…」

「!ノア!!」

気がつくと、俺はミカエルに抱きかかえられていた。

村を飲み込んでいた炎は鎮火され、焼け焦げた家の骨組みだけが取り残されている。

それがまるで、先程までの光景が夢ではない証拠の様で競り上がってきたものを勢いよく吐き出した。

「う゛っ…お゛え゛っ…」

「ノア!」

嘔吐する俺の背をミカエルが優しく摩ってくれる。

胃液まで出し切ると多少はスッキリしたが、気分は最悪だったし何も考えたくない。

でも、現状は許してはくれない。

ミカエルが持っていた水筒の水で口を濯がせてもらい、何とか話せるようになるとすぐに口を開いた。

「ごめん…ミカエル…」

「落ち着いたか?」

「多少は…俺は、どうなっていたんだ?」

「…俺が来た時には村は火の海で、そのそばでお前が倒れていたんだ…」

「俺と一緒にいた子供は?」

「…」

「魔物に、喰われたのか…」

「いや…」

「?」

「……お前が、喰われかけていたんだ…」

「は?」

「俺だって自分の目を疑ったよ、でも、見た儘を伝えるならノア、お前はその子供に喰われかけたんだ。」

「…はぁ?!」

「俺が剣を振り下ろした瞬間、散るように消えたけど…手応えはなくてな…」

驚愕し声を荒げるが、ミカエル自身もよく分かってはいないようで困惑しきった表情で眉を寄せている。

そんなミカエルに少しだけ冷静さを取り戻した俺は、目覚める前の記憶を掘り起こしにかかる。

もしかしたら、ミカエルがいた位置から偶然そう見えただけかもしれないという願いを込めて。

(確か、もう少しで村から出れるって所まで来て…そう、壊れかけた柵に手をかけたんだ。そしたら、あの子が笑って…そう、わらっ……て…)


  「ズッと…いっショだよ…オニイチャン。」


「っ!!」

「ノア!?」

「はっ…はっ…ヒュー…ヒュー…」

「!落ち着けノア!ノア!!」

蘇った記憶は、願いを無残に打ち砕くものだった。

村から出ようとした瞬間、腕に抱えていた子供が豹変した。

顔が黒く染まったかと思えば体の半分が黒い何かに変わり、俺に纏わりついてきた。

黒い何かを引き剝がそうとしても、まるで水の様に掴むことができない。

そんな俺を黒く染まった顔で子供だった何かが見つめていた。

顔全体が真っ黒で表情なんて分からないのに、何故か愉快そうに歪んだ口だけははっきりと分かった。

そして─

「ノア!!」

「!!」

「落ち着いて、俺の呼吸に合わせるんだ…」

「ヒュー……スー…はー……ゲホッ、ゲホッ!」

「いいぞ、そのまま……そう、上手だ。」

ミカエルの声に我に返ったけれど、同時に感じる息苦しさに混乱しそうになるがミカエルの声に導かれるように呼吸を合わせると次第に楽になっていくのが分かる。

どうやら、記憶のフラッシュバックによって過呼吸を起こしていた様だ。

それほどまでに、あの光景は衝撃的だったのだとどこか他人事のように考えてしまう。

「…ありがとう、ミカエル…」

「落ち着いたみたいだな。所で、その様子だと何か思い出したみたいだけど…」

「うん…ミカエルが見た通り、俺は子供だった…いや、子供だと思っていた何かに喰われそうになった。」

「魔物か?」

「分からないけど、魔物じゃない気がする。」

擬態・憑依する魔物の存在は嫌というほど知っているが、あれはどう見ても魔物という存在には見えなかった。

というよりも、生物に見えなかった。

近い表現が魔力を物質化した存在だが、この世界にそんなものは存在しない。

少なくとも、ゲームには登場しないものだ。

「じゃあ一体…ん?…ノア、この模様はなんだ?」

「模様?…!?」

俺を介抱してくれていたミカエルが気づいたのは、右腕の袖から見えた線。

薄紫色をした線を不審に思ったミカエルが俺の袖をめくると、右腕に不可思議な紋章らしきものが刻まれていた。

見たことのないものだったようで不思議がるミカエルの横で、俺は愕然とした。

何故なら、ゲームで見たことがあったからだ。

(これ…未完成だけど間違いない…贄の紋章?!)

ゲームでは、旅の途中で仲間になる神官に刻まれている紋章だ。

この紋章を刻まれた者は徐々に紋章に精神を蝕まれ、最終的には紋章を刻んだ者に隷属する意思なき人形となってしまう。

紋章に完全に蝕まれ、人形と化した者が刻んだ者を求め、身を捧げるように傅くことから贄の紋章と呼ばれている。

マフォリアの長い歴史上、災厄の魔法使いと呼ばれた1人の男が生み出した魔法であり現在では名前すら失われた魔法だ。

ゲームでは神官を救うためにセト達が奔走し、何とか太古の記録を記した石碑を修繕することで詳細を知ることになるが、そこにこの紋章の解呪方法は書かれていなかった。

「ノアはこの模様の事、何か知ってるか?」

「え?あ、いや…俺も分からない…」

ここで俺が贄の紋章の事を話せば何故そんなことを知っているのかという事にもなるし、何よりも解呪方法が分からない事も教えることになる。

希望のない事実とは口にする者にも、聞く者にも精神的に結構重いものがくる。

だから、少なくとも今は、口にしたくなかった。

「…、……ぁ……!!……」

「ん?」

「どうした?」

「何か、聞こえる…」

「新手か?」

微かに聞こえた声らしきものに身を固くする俺とミカエル。

意識を耳に集中すると、聞こえてきたのは不可思議な存在でも、敵でもない、セトの声だった。

「セトだ…セトが呼んでる…」

「一先ず合流しよう、立てるか?」

「うん…なぁ、ミカエル。」

「ん?」

「模様の事、セトには黙ってて。」

「え…どうして?」

「俺が、自分で言うから…それまで…」

「…分かった。」

それだけ言うと、ミカエルと俺は遠くで俺を探し回るセトと合流する為に歩き出した。



あれからセトと合流した俺達は無残な姿と成り果てた村人達の埋葬を終えると、一時的にミカエルの家に身を寄せていた。

「あまり気乗りしないだろうが、何か食べておいた方が良い。」

「ああ。ありがとう、ミカエル。」

ミカエルの気遣いには感謝しかないものの、口にした料理の味は分からなかった。

それでも、これからの事を考えるためにも食事はしておくべきだと無理矢理口に詰め込んだ。

「「ご馳走様。」」

「お粗末さん。どうする?風呂にでも入るか?それとももう寝ちまうか?」

「いや…少し、状況を整理したい。」

「俺も。」

「まぁ、お前らがそういうなら止はしないが無理はするなよ。あんなことがあった後だ、完全に冷静になっていない部分あるだろうからな。」

「ありがとう、ミカエル。」

こちらを心配そうに見つめるミカエルにぎこちない笑みを浮かべながら、各々持っている情報を出し合っていく。

俺とミカエルは既に情報の擦り合わせが済んでいた為、子供らしき何かと贄の紋章を省いた経緯を話す。

「セトの方は?」

「俺はノアが一向に戻ってこないから何かあったのかと思って獲物を隠してから村に戻ろうとしたんだ。そしたら、突然地面がなくなって変な洞窟に転がり落ちてさ。」

「洞窟?」

「ああ。なんか、洞窟にしちゃ綺麗な場所だったしなにより、森にはよく入ってるけどあんな洞窟見たことなかった。でもその時はとにかく急いで村に戻らないとって洞窟を進んでいったらこの剣が刺さってたんだ。」

「!?」

セトが手にしていたのは聖剣だった。

つまり、村が襲われたのはゲーム開始の合図だったのだ。

本来ならばセトが15歳になった年にゲームが始まるはずなのに、1年早まるとは予想外だった。

(どうして早まったりなんか…まさか、シナリオを無視してミカエルを助けたから…?)

「綺麗な剣だが、どうして持ってきたんだ?」

「なんか、剣が自分を抜けばここから出られるって言ったんだよ。」

「…セト、頭でも打ったか?」

「本当なんだって!!俺だって信じられなかったけどマジで言ったんだよ!!」

ジト目を向けられて焦るセトだが、俺はそれどころではない。

セトが口にしたセリフは間違いなくセトが聖剣を継承する際に告げられる言葉なのだ、村が襲撃されセトが聖剣を手にし、継承の際に告げられる言葉を受けたとなればもうゲームの開始を疑うことはできない。

(この贄の紋章だってそうだ。本来なら神官に刻まれるべきものが俺に刻まれてる…いや、ちょっと待てよ。ノアって確か、村が襲撃された時に一緒に殺されてなかったか?)

ゲームのノアの役目は村が襲撃されているのを知らせる事。

その後、共に村の防衛に尽力するが力及ばずノアとセトを残して村は全滅してしまう。

失意に俯くセトの隙をついて現れた魔物からセトを庇いセトに聖剣の正体を告げ退場するのだ。

しかし、今の現状は全く違う。

(シナリオ通りに進むのであれば村が燃えている時点でセトの元へ引き返すべきだったんだ。でも、俺はそれを失念していた…その結果が贄の紋章だとしたら、これ以上シナリオを壊すことは避けた方が良いかもしれない…)

もしこれ以上、シナリオを無視して突き進めばどんなしっぺ返しを食らうか分からない。

もしかしたら、セトが死んでしまう可能性だってあり得るのだ。

「なぁ!ノアは信じてくれるよな!?」

「え?」

「ノア、今からでも遅くはない。お前の回復魔法を頭にかけてやれ。」

「だー!!俺は正常だバカエル!!」

「え、あーっと…ごめん、何の話?」

「セトが幻聴を聞いたって話。」

「ちっがーう!!剣が引っこ抜けって言ってきた話だ!!」

「あー…」

考えに没頭しすぎて放置していた結果、ミカエルの中ではセトが幻覚・幻聴に陥った事になったらしい。

確かに、いきなり剣が喋っただなんて言われても信じる方が難しい。

俺だってゲーム知識がなければミカエルと似たり寄ったりな反応をしたかもしれない。

「多分、心配はいらないと思うよミカエル。」

「もう手遅れってことか?」

「おいコラ!!」

「俺もよく知らないけど、セトの持っている剣は聖剣と呼ばれる神器だと思う。」

「「神器?!」」

「昔、父さんの書庫で見たことがあるんだ。神々が打ち鍛えた聖剣を記した伝承の話、その挿絵に描かれていた姿とセトが持っている剣が酷似している。それに、もし本当に聖剣なら剣が喋る事も納得できるからね。」

シナリオから逸脱し過ぎないように気を付けながら、聖剣の詳細を説明する。

にわかに信じられない事の様だが、何とかミカエルも納得しセトに至っては自分の主張が肯定されたことと超絶レアな剣を手に入れたことに舞い上がっている。

「見たかバカエル!!俺の言った通りだっただろ!?」

「嘘じゃない事は認めるが、知っていたのはノアだ。お前の功績じゃない。」

「ぐっ…い、いいんだよ!俺とノアは唯一無二の相棒なんだからな!」

「どんな理屈だよ…」

開き直るセトに呆れるミカエル。

あんなことがあった後なのに、いつもと変わらない2人の様子に自然と口角が上がる。

お陰で、自分の方針が見えた。

考えなければならないことは山のようにあるけれど、最終的に俺がどうしたいかが定まっていれば大丈夫だ。

(どんなことがあろうとも、セトとミカエルは俺が守る…絶対に。)



一夜明け、ひとまず情報を集めるために街に向かう事にした俺とセトが出立の準備をしていると既に準備を整えたミカエルが俺達の前に現れた。

「おはようさん、そろそろ出れそうか?」

「出れるって…もしかして、お前も来るつもりか?」

「当たり前だろ、お前らを放っておけるか。」

「気持ちは嬉しいけどこの村にとってミカエルの存在は大きいはずだ。俺達の村が襲撃されたんだから、この村も村の防衛には力を入れたいだろうし…」

「心配するな、村長から許しはもらってる。村の脅威を未然に防いだ若き英雄2人の力となれってな。」

ミカエルの両親を騙った魔物を討伐した一件は、予想以上に感謝されていたらしく村の防衛は自分達に任せて俺達を護衛せよと言われたらしい。

嬉しいやら申し訳ないやらシナリオ的にいいのか不安やらでぐるぐるしている俺の横で、セトが嬉しそうにミカエルを歓迎している。

「折角ノアと2人ができると思ったが、村長にそこまで言われたとあっちゃ仕方ねぇな。」

「お前とノアと2人きりになんてしたら、ノアが哀れすぎるからな。」

「どういう意味だ!?」

「所かまわず突っ込んで要らん物を引っ提げてくるお前の尻拭いにどれだけノアが奔走する事になるか…想像しただけで涙が出そうだ。」

「あー…」

「んなことするか!!というか、ノアまで納得するな!」

「日頃の行いを鑑みるこったな。」

「ぎぃ~!!」

「あははっ!」

唸るセトに思わず俺が笑えば、釣られるようにミカエルとセトも笑い出す。

穏やかな旅立ちはゲームとはかけ離れたものだったけど、後悔は微塵もなかった。

例え後から手痛い反動があったとしても。


そして、ノアが15歳となる4ヶ月前の冬に3人は旅立つ。



村を旅立ってから様々なことがあった。

ゲーム通りに進むことからかなり離反したものまで、正直何度も死にかけた。

それでも、その度に新たに仲間になった神官が、忍者が、女戦士が、テイマーが、活路を見出してくれた。

それでも悲しい事も悔しい事もあったけれど、それ以上にとても楽しかった。

世界を救うという重圧が圧し掛かる険しい旅だというのに、笑顔が消えることはなかった。

だからこそ、忘れていた。

「ぐっ…うぅ…」

旅の途中で運よく入ることができた宿屋の一室。

野宿の連続だった俺達は久しぶりに柔らかいベッドで寝れると喜び、早々に就寝した。

疲労が溜まった肉体は即座に睡魔を呼び寄せたので、抗う事無く身を委ねる。

これで朝までぐっすりだと思っていた矢先、体中に激痛が走った。

敵の攻撃は受けていないし、変なトラップも踏んでいないはずなのにこの痛みはなんだと身を起こしてみれば、右腕だけだった贄の紋章が右胸まで侵食していた。

「なっ!?…ぐっ…」

村を旅立ってからジワジワと紋章の範囲は広がっていたが、ここまで一気に広がったことはなかった。

紋章を刻んだ存在が近くにいるのか、それとも何か別の要因かは分からないがこのままここに居れば仲間達にこの紋章の事がバレてしまう。

幸い、まだミカエルにしか紋章の存在は知られていないのでどうにかこのままやり過ごしたい。

「ぐっ…はぁ……はぁ…」

動く度に鈍い痛みが走る体を何とか動かし、宿の外に出れば冷たい夜風が優しく包んでくれる。

詰めていた息を吐き、新鮮な空気を思い切り吸い込めば幾分か落ち着くことができた。

静けさを取り戻した頭は、さっそくこの紋章について思考を始める。

(今まだ誤魔化せてるけどずっとこのままというわけにもいかない…でも、あれからずっと紋章を刻んだ奴について調べてはいるけど一向に手掛かりは見つからない。せめてゲームでもう少し紋章の事を取り上げてくれればよかったのに…)

腕を睨みつけながら記憶を漁る。

ゲームでは神官を助けるためという大義名分で敵と戦う事になるのだが、ぶっちゃけ戦わなくてもストーリーを進ませることはできる。

敵と戦わない選択をした場合、神官は本部に呼ばれたと言って一時的にパーティーを離脱し世界を救い終わった後に殉職したと知らされるのだ。

その後味の悪さと言ったらもう最悪だったので、それからは絶対に神官を助けてから世界を救う事にしていた。

だから、俺を助けなくてもセトは旅を続けられる。

俺は神官みたいに協会という組織に所属しているわけじゃないから、言い訳を考えるのが難しいという所を除けばゲーム的にも問題はない。

しかし、懸念が1つあった。

俺が死んだら、セトが歩むことになる永遠の旅路に誰が付き合うというのだ。

(最悪の場合、ミカエルにセトの行く末を教えるか?ミカエルならきっとセトの旅路に付き合ってくれるだろうし、セトもミカエルとなら楽しく過ごせるかもしれない。)

今日も今日とてじゃれあっていた2人を思い浮かべて小さく笑う。

もしも、ラストエリアまでに方法が見つからなければミカエルにセトの行く末を打ち明けようと決めた俺の後ろで、ジャリッという音が聞こえた。

「誰だ!?」

「…」

「セト…?」

勢いよく振り返りながら杖を構えた俺の前には、就寝しているはずのセトがいた。

思わず右腕に視線を向けてしまうというミスに、バレたかと冷や汗を流すがセトは不自然に沈黙したままだった。

(いつものセトなら、なんだかんだ相手の機敏に敏い奴だからこんな夜更けに何してるんだ~とかなんとか言いながら俺の妙な行動にツッコみを入れたはずだ。それに、ここまで静かなセトは風邪引いた時ぐらいだ。)

外見はセトだが魔物が化けているのかと警戒を解かず、いつでも動けるように姿勢を低くして様子を伺っていると、月にかかっていた雲が途切れこちらを向くセトの顔が淡く照らされた。

「!?」

セトの瞳は透き通った緑色をしているはずなのに、そこに居たセトの瞳は…銀色だった。

『こうして言葉を交わすのは初めてになるか、招かれし者よ。』

「お前は、誰だ…何故、セトの姿をしている。」

『我は聖剣。今は、使い手の肉体を借り汝と対話をしている。』

「聖剣!?」

そんなことがあり得るのかと驚愕する傍ら、魔物が持つ禍々しい気配とは真逆の清涼な気配にあながち嘘ではないと理解する。

だが、セトの体を借りてまで俺に話しかける理由だけが分からなかった。

「どうしてそこまでして俺に?それとも、セトに何か頼まれたのか?」

『否、これは全て我の意思だ。使い手の意識がようやく深い眠りについてくれたのでな、心置きなく汝と対話ができる。』

「深い眠りって、まるで俺との会話をセトに聞かせたくないみたいだな。」

『汝が望むのなら使い手に報告すれば良い、だが汝にはこの方が都合よかろう。』

「…」

その言葉で、何について話したいのか察しがついた。

聖剣は世界を救う使命を創造神によって具現化された存在だ、そんな聖剣から見れば世界を救う唯一の希望であるセトの傍に、それを阻害する可能性がある俺がいる事を危惧してもおかしくない。

牽制か、警告か、はたまた排除か、目的は分からないけれど楽しい会話にはならなさそうで表情を険しくさせる。

『そう警戒するな。我は汝を害する気はない、問答をしに来た。』

「問答?」

『汝ならば知っているであろう、贄の紋章を。』

「ああ…」

『けれど、紋章を刻みつけた存在は知らない。』

「その通りだ……まさか、聖剣は知っているのか?」

『是。』

「っ誰だ!?一体誰が何の目的でこんなものを俺に刻んだ!?」

やっと見つけた手掛かりに詰め寄る俺を、聖剣はただ静かに見つめている。

温かい緑とは違うどこまでも静かな銀の瞳に映る俺の顔は焦燥に駆られるあまり、どこか青く見えた。

『汝に紋章を刻みし存在は我が仇敵にして世界の病だ。』

「…は?…ちょっと待て、それって、まさか………黒瘴?」

『是。』

「なんで…いや、それよりもどうして黒瘴が俺に!?そもそも、黒瘴に意思なんてないはずだろ!?」

『そのはずだった、汝が来るまでは。』

「ど、いう…ことだ…」

『世界の病が発症した時、創造神は我を創造し対処にあたらせた。当時は、使い手を選ばずとも我のみで対処が可能だったが、天命樹から力を吸い取った病は進化した。天命樹が持つ権能の一つ、境界維持を行使できるようになってしまった。』

「それと、俺が来たことに何か関係があるのか?」

『境界維持とは世界と世界の境界を維持する力であり、また構築する力でもある。その力を悪用しこの世界と汝の世界の境界線に亀裂を入れた。』

「亀裂?」

『生じた亀裂から病は汝の世界へ侵食を試みた。だが、汝の世界には魔法の概念がない。その結果、病は存在を保てず自然消滅するはずだった。』

「…」

『しかし、病は波長の合う人間に憑りつくことで増殖を試みた。結果で言えばそれも失敗に終わったが、その際、汝を見つけてしまったのだ。』

「待て、待ってくれ…じゃあ何か?俺が前世でプレイしたゲーム自体が黒瘴で、それを俺が気に入りすぎたから俺がここに来ることになって、黒瘴の力が上がったってことか?」

『見解に誤認がある。汝が手にした物は病そのものではない、汝が手にした物を創造した者に病が憑りつき拡散を試みたのだ。』

「なんでそんなこと…」

『汝の世界はこの世界よりも空想力、いや、認識の力が強く働く。ないはずの存在でも多くの人間があると認識すれば朧気でも存在が構築される。病はそれを狙ったのだ。』

突拍子のない情報に頭がこんがらがる。

聖剣のいう事をまとめると、黒瘴が天命樹の力を吸い取って俺の世界を襲おうとしたけど魔法がなかったから失敗。

それでも諦めずに人に憑りついて数を増やそうとしたけどそれも上手くいかなくて、往生際悪くあのゲームを作った。

ゲームを通して多くのプレイヤーがこの世界を、黒瘴を認識するように。

「でも、あのゲームはそれほど流行らなかった。」

『是。結果、汝の世界に侵入した病は駆逐された。よって、創造神も我も汝の世界に対して処置は無用と判断したが、それは誤りだった。』

「どういうことだ?」

『先に謝罪しよう。汝がこの世界に来訪した原因は、我だ。』

「!?」



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