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推しを救おうとしていたはずなのに何故か主人公に執着されています  作者: 夕月


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4/8

Act・4

「ダメだ!!!」

「!?」

俺とセトとの距離があと数ミリで0になる瞬間、鋭い声が響いた。

誰だと視線を向けるよりも先に、セトの立っていた場所が隆起しセトを後方へと押し込める。

その隙に、俺は誰かに抱えられ後方へと飛びし去った。

「はぁ…はぁ…間に合った…」

「ミカ、エル…?」

「ああ、助けるのが遅くなってすまない。」

「なんで…い゛っ!」

予想外の人物の登場に目を見開いた瞬間、脳を貫くような激しい痛みが襲う。

いや、貫くよりも正しくトンカチで頭を叩き割られるような激痛は意識を失わないほうが不思議なほど…というか、ここまでの激痛ならさっさと意識を手放してしまいたい。

(何だこの痛みは!?一体何が…いや…なんだこの記憶は?!)

呻く俺の頭の中に身に覚えのない記憶が再生されていく。

この村で生まれた事は同じだけど、俺の傍にはセトだけじゃないミカエルの姿もあった。

幼い俺の手を引いて村を散歩していると、どこからかセトがやってきて俺を遊びに誘う。

嬉しそうにしながらミカエルを振り返る俺を、ミカエルが優しく背を押し俺とセトは仲良く駆け出していく。

(そうだ…俺は…この村に転生者として生まれた…だけど当時、俺にその自覚はなかった。だから……死にかけたんだ…)



ノア、3歳。

「ふぁいあー!」

小さな手を前にだし、少し舌足らずに唱えた呪文は無事に炎の魔法を精製した。

生み出された小さな火の玉は目標としている的に命中し、少し焦がした。

「すげー!ほんとうに魔法だ!」

「えへへ!」

魔法を発動した少年の隣には、同い年の少年が目をキラキラさせながらはしゃいでいる。

そのはしゃぎようは魔法を発動した少年よりも大きくまた純粋で、発動した少年は頬を赤く染めて照れる。

「いいなぁノアは、魔法使えて。俺も魔法使えるようになりたいなぁ。」

「セトは俺よりも剣凄いんだからいいじゃんか。」

「すごいか?俺、またクヌギのおっさんにコテンパンにされたんだけど…」

「これから凄くなるからいいの!セトはもう少ししたら他の人なんて目じゃないくらい強くなるんだから!」

「へへっ、なんかノアがそういってくれると本当にそうなりそうな気がする!」

嬉しそうに笑う少年に本当だよ!とさらに念を押す少年。

これが、俺が俺という前世を思い出す前の出来事。

前世を思い出すまでには至らないが、僅かに前世の記憶が影響していたからなのかゲームのノアと違って部屋の中で本を読むのではなく鍛錬に時間を費やしていた。

その甲斐あって低級魔法ならば危なげなく発動できるようになった俺を他の子供達は遠巻きにしていたし、大人も子供のくせに一端の魔法を使う俺を持て余していた。

前世の記憶が蘇っていたならばもう少し上手く立ち回って村人から距離を置かれることもなかったかもしれないが、ただの子供に過ぎなかった当時のノアにはそれができなかった。

頑張れば頑張るほど何故か孤立していくのに、それが分からなくてでも頑張ることをやめることもできなくて次第に独りぼっちになっていくノア。

しかし、セトだけは違った。

初めこそ魔法の訓練をするノアの様子を遠巻きに見ていたが、持ち前の好奇心を刺激されたのか次第に傍で見学するようになり、終いには興奮気味に声をかけられた。

「すげぇな!!今のどうやったんだ!?」

「え、えと…」

遠ざけられるばかりだった当時のノアにセトの純粋な好奇心は刺激が強すぎて上手く喋る事ができなかったが、セトは気にした風もなくそれから毎日ノアの元を訪れるようになった。

最初こそセトも他の皆と同じで時期に居なくなる、俺を遠ざけると警戒心を募らせていたが、セトはずっと変わらなかった。

あの魔法はなんだ、この魔法はなんだと、鍛錬をしているノア以上に興味津々に魔法について問いかけるセトにノアは次第に警戒心を、解き心を開いていった。

「なぁなぁ!今のどうやったんだ!?」

「…水魔法の応用だよ。木の実、好きでしょ?」

「なんで分かったんだ?!」

「口の周り、真っ赤だよ。」

「え?!」

「ふふっ…」

「!笑った!」

「え?」

「ずーっとマズいもの食べてるような顔よりも、笑ってた方がノアは可愛いって!」

「かわ?!お、俺は男だぞ!?」

「わー!ノアが怒ったー!」

「待て―!!」

セトがノアを揶揄い、ノアが向きになってセトを追いかける光景は大人達に無邪気な子供同士のじゃれあいに映ったようでノアは得体の知れない存在ではなく、ただの頑張り屋な子だったのだと警戒心を解いた。

そして、その空気に感化されたのかノアを遠巻きにしていた子供達も少しづつノアと関わるようになり、気づけばノアは村に受け入れられていた。



ノア、5歳。

「スプラッシュ!」

魔力によって生成された水が勢いよく放射され、気に命中する。

すると、木に実っていた木の実が勢いよく降り注ぐ。

「さっすがノア!」

「魔法で木の実食べまくろうだなんて考えつくのセトぐらいだよ。」

「いいじゃんか!水魔法で採った方が洗う手間も省けるし何より普通に採るよりなんか美味い!」

「もう…」

そういってはしゃぐセトに呆れたような風を装いながらも、ここまで喜んでくれるセトにノアも嬉しくなる。

セトがノアの手を引いて村の中へ連れ戻してくれてからというもの、ノアの魔法は村で大変重宝されていた。

ノアが頑張れば頑張るほど村人達はノアを認め、頼り、賞賛をくれた。

その事をセトは我が事のように喜んでくれた。

それだけではない、ノアに負けないように剣の稽古に精を出す様になったことでセトもまた剣の腕が上がっていた。

まるで、一緒に強くなろうと言ってくれているようでノアはとても嬉しくて夢中で日々を過ごしていたある日、ノアは一つの悪夢を見ることになる。

「うう゛っ……」

子供に似合わない苦闘の表情を浮かべながら見た夢はミカエルが望まない悪事を強要されている光景。

つまり、ゲームでのミカエルだ。

ここで前世の記憶が蘇ってくれればよかったのだが、残念ながら記憶は蘇らず暫くの間悪夢に魘される日々を過ごすことになった。

「ノア、大丈夫か?」

「セト…」

「顔色が悪いぞ、何かあったのか?」

「その、最近毎日変な夢を見るんだ…」

「夢?」

「知らない男の人が苦しんでいる夢…その人はね、悪い事したくないのにお父さんとお母さんを人質に取られて無理矢理言う事を聞かされてるんだ…」

「なんだよそれ、酷すぎるじゃないか!!」

「うん…それでね、その人、最後は悪い事は悪い事だって牢屋に入っちゃうの…あの人の意思じゃないのに…あの人は、何も悪くないのに…」

「ノア…」

目尻に涙を浮かべるノアをセトが優しく宥める。

もしここに大人がいたならば、ただの夢だとノアを諭して終わったかもしれない。

けれど、ここにいるのはノアと同じ子供のセトだけ。

「よし!なら俺がその人を助けてやるよ!」

「セトが?」

「おう!その人、本当はいい奴なんだろ?なら、悪い奴だけ倒してそいつと友達になればいいんだ!」

「お、俺も手伝う!俺も、あの人助けたい!」

「よーし、決まりだな!俺とノアならどんな奴でも大丈夫だ!」

「うん!」

固く結んだ掌は温かくて、さっきまで半泣きだったノアに笑顔が戻る。

ノアが笑ったことにセトも嬉しそうに笑い、さっそく夢に出てくる人物を探そうという事になった。

とはいえ手掛かりは夢だけ、前世の記憶を思い出していない以上正確な居場所は分からない。

早速頓挫したかに思えた捜索は、鍛錬の日々によって活路を見出してしまう。

「われをみちびけ!」

探索魔法を使って位置の特定を試みたのだ。

成長した今なら分かる、それがどれだけ無謀なことであるかを。

探索魔法は例えるなら警察犬のようなもので、探索対象の一部がないと発動すらしない。

だというのにこの時、探索魔法は発動してしまった。

「あっち!」

「よし!行こう!」

示された道は2人をミカエルの元まで導いてしまった。

セトとノアの村とミカエルの村はそれなりの距離が開いていたが、ノアが習得していた風魔法を使ってあっという間に到着してしまったのだ。

草陰に隠れながら辺りを伺えば、今まさにミカエルが両親に憑依した魔物によって悪事を働こうとしている間際だった。

「デは、たのンだヨ?」

「ろうホうを、マッてるゾ。」

「う、うん。任せて、父さん、母さん。」

明らかに様子のおかしい2人だが、ノアとセトより年上とはいえ幼いミカエルは逆らうことができずぎこちない笑顔を浮かべたまま頷く。

この時、ミカエルは偽両親に近くに住む領主の屋敷を燃やす様に命じられていた。

理由は領主の悪政で自分達の村が害されるから正当な報復をするのだと教えられていたが、幼いミカエルは疑問を感じていた。

(父さんと母さんが言うんだ、本当に領主は悪い奴なのかもしれない。でも、悪い奴だからって家を燃やしてもいいのか?もし巻き込まれたら大怪我だろうし、今日住む場所だってなくなる…)

本当に実行していいのか、両親の言葉を守っていいのか、逡巡するミカエルと偽両親の間にセトとノアが滑り込んだ。

「見つけたぞ!魔物め!!」

「俺達が成敗してやる!!」

「「!?」」

「な、なんだ君達!?」

「従っちゃダメだ!この人達は、お兄さんのお父さんとお母さんじゃない!」

「!?」

ノアがミカエルに叫ぶ。

なんてことを言うんだと怒鳴るべきなのに、ノアの言葉に納得してしまっている自分がいる。

ノアの言う通り目の前の両親が偽物なら、あの優しかった両親が恐ろしい頼みごとをしてくるわけがない。

「いイかゲンなことをイウな!!」

「わレわれは、ホンものダ!!」

「ならこれも平気だろ!そりゃ!」

そういってセトが投げつけたのは聖なる祈りが込められた聖水。

魔物が嫌う聖水を浴びて平気ならばこの2人は本物の人間と証明できたが、ミカエルの目には聖水に悶え苦しむ2人の姿が映った。

「ぎゃぁぁあああ!?」

「おのレ!よくもフカイなものを!!」

「これで証明できただろ?あんたらが人間じゃないってのがさ!」

「よくもお兄さんを苦しめたな!俺達が相手だ!!」

「ワイショウな、にんゲンふぜイが…イギがるナ!!」

「セメていいユメをみながラクにしテやろうとシたが、キがかわッタ…サイごのしゅンかんまデくるシみながラシネ!!」

人間の皮を捨てた魔物が3人に襲い掛かる。

幼いながらも見事な連携を見せるセトとノアだが、聖剣を持たないセトに魔物を祓う力はない。

浄化の性質を持つ光魔法をノアが連発するが、切っても切っても復活する魔物相手に次第に魔力が枯渇していく。

「この…」

「ヒッヒヒヒヒヒ!さっキまでのイセいはドウした?!」

「ショせんはこのテイど。にんゲンなぞ、われラのカテになるほカつかいミチはナイ!」

「天命樹を蝕む病原菌のくせに!!」

「「!!」」

苦し紛れに叫んだノアの言葉に、魔物が顔色を変えた。

これまでこちらを嘲笑いながら楽し気にいたぶっていたのに、獲物を見つけた猛獣のように目をギラつかせノアを凝視してる。

「キサま…ナゼ、しっテいル…」

「おまエが、えらばレシもノか…?」

「え?」

「おマえをクえば、およろコびにナル。」

「われラがハは、およロこビになル。」

「「くわセろ。」」

「ノア!!」

これまでとは違う、本気の攻撃に前衛のセトはいとも簡単に吹き飛ばされ魔物の爪がノアの体を引き裂く。

夥しいほどの鮮血と激しい痛みに叫び声をあげるが、魔物は意に介さず次々に攻撃を仕掛けてくる。

セトよりも僅かに実戦経験が上だったミカエルが何とかノアと魔物の間に滑り込んでノアを庇うが、多勢無勢でありこれまでの連戦でミカエルの体力も底をつきかけている。

このままいけば間違いなく自分は死ぬ、そう悟ると恐怖に体が竦む。

「よくもノアを!!」

「セト!!」

吹き飛ばされたセトもミカエルに加勢するが受けたダメージは決して軽くない。

ついには2人とも剣をはじかれ、魔物の攻撃を直に受けてしまう。

「ぐぁあ!!」

「がぁ!!」

「セト!お兄さん!」

地に倒れピクリともしない2人に、ノアの恐怖は限界を超えた。

(俺が、俺がお兄さんを助けたいなんて言わなければセトがこんな怪我をすることも、お兄さんが傷つくこともなかった…俺が、俺が何も言わなければ…)

「じゃマ、いなクなっタ。」

「くわセろ。」

「…ぁ…」

舌なめずりをしながら近づく魔物にノアはガチガチと歯を鳴らしながら震える。

このまま喰われるのも、2人が死ぬのも、この魔物が生きながられるのも、全部が嫌だった。

どうすれば助かる?

どうすれば2人を救える?

どうすれば死なずに済む?

強い祈り様に浮かび上がる想いは、強固な記憶の鎖を開いた。

この時、ノアは俺を思い出したんだ。

「っ!!悪しき穢れに蝕まれし哀れな羊に救済を!!ホーリー・ジャッチメント!!」

「なっ!?」

「ぎゃぁぁあああ!?」

俺が持っていたゲーム知識の中から、威力の強い浄化効果を持つ光魔法を放つ。

現れた幾千もの光の剣が魔物の体を貫き、魔物の叫びが鎮まる頃には魔物の体は黒い灰となって消滅した。

「はぁ…はぁ……せと…みか、える…」

脅威は退けたが、このままでは瀕死の2人は間違いなく死ぬ。

痛む体に鞭を打ち、這いずりながら2人の傍に辿り着くと再び魔法を発動させる。

「光よ、癒しの恵みとなれ…ヒール…」

俺の手から溢れる光が2人の傷を癒していく。

しかし、発動できた回復魔法が低級だった為に2人の酷すぎる状態には焼け石に水。

それでも諦めず何度も何度も回復魔法を唱え続けたおかげで、2人の意識を戻す事ができた。

「んっ…」

「あれ…俺は…」

「ふた、り…とも…」

「ノア!!」

「君!!」

「よか…っ…た…」

起き上がった2人に緊張の糸が切れた俺は、意識を失った。

受けたダメージもそうだが、魔力が枯渇するまで使ったのだから無理もないが起き抜けに目の前で猛攻を受けていた子供が倒れたのだ、2人の心労はとても高かったことだろう。

「ノア!ノア!!目を開けて!!ノア!!」

「落ち着け!この先に俺の村がある、そこなら癒し手もいるはずだ。」

「助かる!?」

「分からない…だが、俺達がここで騒ぐよりよほど可能性がある。この子は、身を挺して俺を、俺達を救ってくれた…見す見す死なせてたまるか!」

「っ!」

後に聞いた話だが、意識もなく傷だらけな俺が運び込まれた診療所は天と地がひっくり返ったような騒ぎになったそうだ。

それもそうだろう、どんなに軽く見ても重症な俺と応急処置程度しかされていない中傷の2人がいきなり現れたのだ、今考えても手当てをしてくれた方々には頭が下がる。

因みに、俺が寝ている間に2人はその村の村長に大目玉を喰らったそうだ。



「ノア―――――――――――!!」

「ちょっ、セト、痛い…」

「ご、ごめん!」

死闘から3日後に、俺の意識は戻った。

起きた俺を見たセトは俺の名前を呼びながら号泣し、確かに俺がここにいると確かめるように力の限り抱きしめる。

大方治っているとはいえ、セトの全力で抱きしめられては正直まだ痛いので素直に告げれば慌てて離れてくれる。

けれど、やはり安心できないのか今度は力こそ弱いがそれでもしっかりと抱きしめられた。

「お前3日も寝たままだったんだぞ!?俺、このままノアが起きなかったどうしようって不安で…怖くて…」

「…うん…ごめん、セト。俺があの人を助けたいだなんて言ったから…」

「ノアは悪くない!俺が、俺が調子に乗って助けるなんて言ったからノアが…あの人が居なかったら、俺はノアを失ってた…ノアが俺は凄くなるって言ってくれたのに…俺…全然凄くない…」

「セト…」

肩を震わせながらなくセトに、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

いくら記憶が影響していたとはいえ年端も行かない子供に期待を持たせる言動をしたのは俺の落ち度だ。

きっとセトはノアの言葉通りに凄い自分がまるでヒーローの様に活躍できると考えたのだろう。

その考え自体は間違ってはいない、ただ早すぎただけだ。

「そんなことない、セトは十分凄いよ。魔物に吹き飛ばされたのにすぐ戻って俺を守ってくれたじゃないか。」

「でも、それはあの人が時間を稼いでくれたから…」

「時間を稼いでくれてもセトじゃなかったら間に合わなかったよ。きっと、俺もあの人も魔物に喰い殺されてた。」

言葉にして少し恐怖が蘇る。

前世の記憶が蘇ったばかりで混乱しているせいもあるが、戦闘とは無縁の生活をしていた俺にとってあの経験はトラウマものの恐怖だ。

でも、だからこそセトの存在に感謝している。

きっと、セトが居なかったら前世の記憶を取り戻した時点で俺は恐怖で発狂している。

この世界で俺を思い出す前から俺と共にいてくれたセトが傍に居てくれたから、俺は俺としてあの経験を受け止めようって思うことができるんだ。

「セト、ありがとな。セトが居てくれたから俺、生きて居られる。」

「ノア…」

「だからさ、これ以上俺の恩人を責めないでやってよ。な?」

「う゛んっ…」

ふわふわな金髪を優しく撫でると、涙声で頷くけれど俺を放すことはなかった。

自責の念と喪失の恐怖は別問題なのだなとセトの心が負った傷を想い、好きにさせていると控えめなノックの後に包帯を巻いたミカエルが水差しをもって現れた。

「やぁ、気がついたみたいだな。自己紹介が遅れたけど、俺はミカエル。よろしく。」

「あ、俺はノアって言います。えと…その…」

「君の言葉を遮ってすまないが、どうか先に言わせてくれ。魔物の幻影を見破り、俺や両親を救ってくれたこと、本当に感謝している。」

水差しをサイドボードに置くと、俺に向かって深々と頭を下げるミカエル。

突然の出来事に俺が恐縮し頭を上げてくれと頼めば、先程よりも幾分か晴れやかな表情を浮かべたミカエルと目が合った。

「詳しい話はセトから聞いている、君が予知夢を見てくれなかった今頃俺はどうなっていたか…」

「予知夢?」

「ああ、魔法適性が高い魔法使いが時折見ることができる未来の光景の事を予知夢と呼ぶんだ。その年で予知夢を見ることができるなんてとこの村一番の魔法使いが驚いていた。」

「ノアはすげぇんだから当然だ!」

「あははっ、そうだな。」

目を真っ赤にしながら吠えるセトに同意するミカエル。

俺が意識を失っている間に一体何があったとツッコみたい所だが、セトから3日も眠ったままだと聞いたことを思い出す。

5歳の子供が何の連絡もせずに3日間も行方不明となれば今頃、村は大騒ぎだろう。

ミカエルを救うという当初の目的も果たせたし、残る疑問は後日改めて聞けばいい。

「あの、これ以上ご迷惑をおかけするのも心苦しいですし、俺達はそろそろお暇します。」

「起きたばかりだし、まだ安静にしておいた方が良い。それに俺達は怪我だけだったけど、君は加えて魔力が枯渇していたんだ。歩くことはまだ無理だよ。」

「でも…」

「大丈夫だノア。母さん達にはちゃーんと連絡してあるから!」

「え?!」

「ノアの事だから母さん達の事気にすると思ってさ、この村の村長さんに頼んで連絡してもらったんだ…まぁ、叱られたけど…」

思いもよらないセトのファインプレーに思わず拍手を送る。

小さな声で呟かれた最後の言葉は俺としてもそうなるだろうなとは思っていたので、仕方がないし、非は完全にこちらにあるのだから甘んじて叱られるべきだろう。

「ありがとう、セト。安心したよ。」

「安心するのはまだ早いぞ、ノア。母さんの様子からして帰ったら冥府の神級の雷落とされる気がする…」

「ま、まぁ…うん…覚悟は、しとくよ…」

「そうしとけ…ノアの場合、俺より重いと思うからよ…」

「えぇ?!なんで?!」

「当たり前だろ?怪我と魔力枯渇なんて死の一歩手前じゃねぇか!!この村の人達が手を尽くしてくれなかったら今頃お前はここにいないんだぞ!?」

「あぅ…でも、あの時はああしなかったら2人が危なかったし…」

「おう、だから俺からは何も言わない。俺の代わりに母さん達にしっかり絞られとけ。」

「…そのセリフ、そっくりそのままセトに返すからね。」

「うぐっ…」

「ふっ…くくくっ…」

「「?」」

軽快に言い合う俺達の横からくぐもった声が聞こえてきてそちらに目を向ければ、ミカエルが口元を抑えてプルプル震えていた。

体調が悪いのかとも思ったが、血色のいい顔色にそのような気配がなくセトと2人で首を傾げればもう我慢の限界と言わんばかりにミカエルが笑い出した。

「あっははははっ!君達は本当に仲がいいんだね。こんなにもテンポのいい会話は聞いたことがないよ。」

「そう、かな?」

「当然だろ!なんてったって俺達はむにの親友で相棒だからな!」

そういって俺の肩を抱き寄せたセトの笑顔は、とても晴れ晴れとしていた。



2日後、歩けるようになった俺とセトが村に帰るとセトの予想通り冥府の神も真っ青な表情を浮かべた両親に迎えられ、村に入ると同時に土下座をすることになった。



ノア、10歳。

両親の怒りと心配がある程度下火になると途端にセトは剣術の稽古に力を入れるようになった。

魔物に吹っ飛ばされたのがよほど悔しかったらしく現在は、専ら剣を振るっているか筋トレに勤しんでいるか遊びと称した体力づくりをしているかのどれかといったぐらいに行動がパターン化していた。

対して俺は思い出した前世の記憶を精査しつつ、魔法の鍛錬に力を入れていた。

このままいけばセトが聖剣を手にして旅に出ることになる、そうすればただの村人(・・・・・)である自分は付いていくことはできない。

立派に成長したセトの背中を見送るだけなんて嫌だし、旅の果てに世界を救うという偉業の代償として永遠の旅路を孤独に歩むセトに何もしてやれないのも絶対に嫌だった。

ならば、力を付ければいい。

世界を救う勇者の旅に同行できるぐらいに、そして、永遠の旅路の供を務められるぐらいに。

「爆ぜろ!!」

手から放たれた火魔法は命中した的を半分ほど黒く焦がす。

本当はもう少し威力を上げたい所だが、これ以上威力を上げると俺の手まで焦がしてしまうのだ。

これは他の魔法にも言えることで凍傷になったり裂傷になったりして一時期魔法の鍛錬を禁止される程だった。

「杖があればなぁ…でも、高いんだよなぁ…」

村から少し離れた距離にある街にはいくつかの武器屋があり、物語の進捗によって品揃えが変わるので長くお世話になった覚えがある。

ゲームをプレイしている時は金策攻略とかもしていたので資金は潤沢にあったので武器屋の価格がとても安価に見えたが、今はそういうわけにはいかない。

つい最近お小遣い制度に変化した俺の財政状況では武器屋で一番安い武器すら買えない。

両親に頼めば買ってくれるかもしれないという考えもないわけではないが、俺が魔物相手に死にかけたという事実は両親にとってかなりショックなことだったらしく、回復魔法や補助魔法ならいいが、攻撃魔法に関しては習得すること自体よく思っていない。

そんなところへ魔法の杖が欲しいと言おうものなら、どんな顔をされることやら。

「う~ん…」

「やぁ、ノア。難しい顔をしてどうしたんだ?」

「ミカエル!」

悩んでいた俺の元にあの一軒以降、よく俺達の村を訪れる様になったミカエルが訪ねてきた。

これ幸いに悩みを打ち明ければ、ミカエルもまた表情を曇らせた。

「俺としても君のご両親と同じ意見かな。」

「ミカエルまで…」

「ノアの魔法は確かに凄い。だけど、そこまで力を付けなくてもいいじゃないかな?この村には他にも頼もしい戦士もいるし、何よりノアの相棒がいるじゃないか。」

「それは、そうだけど…」

ゲームを知らないミカエルにしてみれば、今無理に力をつける必要なんて皆無に感じることだろう。

元々、魔法使いとは後衛で前衛の援護をしながら隙を見て遠距離攻撃をするのが仕事だ。

威力の強い魔法を駆使して戦いたいという俺の理想とは真逆の姿が正道であり、ミカエル達が望む姿なのだろう。

だけど、それではダメなのだ。

俺自身がちゃんと強くならないと、セトに置いて行かれてしまう。

セトを、独りにしてしまう。

「…」

「…納得してないみたいだね。」

「…うん…ミカエルの言っていることも、父さんや母さんが言っていることも分かるんだ。分かるけど…皆が思い描く魔法使いじゃ、俺、いつかセトに置いて行かれる。」

「セトが?ノアを?それはないと思うよ。」

「ううん。この先、セトはすっごく強くなる。強くなりすぎてセトが困るぐらいに…そんなセトの相棒が俺みたいな弱っちい魔法使いなんて嫌だ。」

ゲームの事は言えないから少しぼかしながらも俺の素直な気持ちを告げる。

そうすれば暫く逡巡したのに、ミカエルは仕方ないなと言わんばかりに頷いた。

「分かったよ。ノアは一度言い出すと頑固だからな。」

「!じゃあ、街まで連れて行ってくれるの!?」

「それはダメ。というか、俺もそこまでお金持ってるわけじゃないからな。別の方法を試してみよう。」

「別?」

「俺の村に精霊が祈りを籠めたと言われる湖があるんだ。そこは昔から癒し手達の修練の場で、何人もの癒し手がそこで修練を積むんだ。」

「そんなすごい湖と杖に何か関係があるの?」

「その湖に資格ある者と認められるとそいつに合わせた杖が湖から贈られるんだ。俺の村には魔法を使う人間は癒し手しかいないけど、要は魔法を使う人間が湖に認められれば見合った杖が貰えるってわけだ。」

「つまり、俺がその湖に認められれば杖が手に入るってことだね!」

「そういうことだ。どうだ?試してみるか?」

「うん!」

そうと決まれば善は急げとばかりに俺はミカエルと一緒に暫くの間、ミカエルの村にお世話になることになった。

いきなりの事に俺の行動を渋るセトを何とか説得して湖に認められる為の修行に明け暮れる。

安易な気持ちで挑んだわけではなかったものの、湖に認められるまでに3年もの歳月がかかってしまった。



ノア、13歳。

「お帰り、ノア!」

「ただいま、セト!」

何とか湖に認められた俺は、胸を張って村に帰った。

両親や村人に温かく迎えられた俺を、待ち焦がれたと言わんばかりにセトが抱きしめる。

3年の間に身長がとても伸び、尚且つ鍛錬の賜物なのか体格もよくなったセトに抱きしめられるとすっぽり腕の中に納まってしまう。

俺だってこの3年で身長伸びたはずなのに…と内心不貞腐れながらも、久しぶりの再会を喜ぶ。

「それが言ってた杖か?」

「うん!これを手に入れるまで本当に長かったよ…でも、お陰でもっと魔法を磨くことができた。セトだって、鍛錬相当頑張ったんでしょ?こんなに筋肉付いちゃってさ。」

「まぁなぁ~今じゃ、この村一番の実力者といっても過言じゃないぜ。」

「その言葉、過言にしてあげようか?」

「お?やるか?」

「また今度ね。流石に今日はやりたくない。」

「だな。」

酒に食事に騒ぐ村は今、俺の帰還を村総出で祝ってくれている。

半分は騒ぎたかっただけなのではと思うほどの騒ぎようだが、この村らしいと表情を緩める。

すると、何を思ったのかセトが俺の肩を抱き寄せ自分に靠れさせてきた。

「セト?」

「なぁ、ノア。次、どこか行くならさ…俺も連れて行けよな。」

「え?」

「ノアがいないと、なんか俺ダメみたいでさ…なんていうか、うまく息ができなかった…」

「そこまで寂しい想いさせた?」

「寂しい、か…うん、それに似てるけど、少し違うな……俺の半分がごっそりなくなってしまった感じで…正直、剣の稽古がなかったどうなってたか分かんねぇ。」

「セト…」

冗談のつもりで言ったが、セトは本気だったらしく苦しそうな表情で胸を抑える。

俺が村を離れるまで俺とセトはずっと一緒だった、だから余計にこの離別が堪えたのだろう。

かくいう俺も魔法の鍛錬がなければ、モチベーションを保てていたか怪しい。

「わかった、次はセトも誘うよ。」

「絶対だぞ?」

「うん。その代わり、変な所に誘っても文句言うなよ。」

「ノアと一緒ならどこだっていい。」

俺の言葉に満足げに笑うセトの顔は、無邪気なのにどこか男の顔をしていて不覚にも胸が疼いた。



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