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推しを救おうとしていたはずなのに何故か主人公に執着されています  作者: 夕月


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2/8

Act・2

セトが聖剣を手にしてから数日後、俺の怪我も大分良くなっていつもの日常が戻ってきた。

意識が戻った当初は母さんに泣かれ、父さんに叱られ、それはそれはえらい目にあった。

でも、セトの両親がセトを助けてくれてありがとうと頭を下げてくれた時の誇らしい気持ちが全てを流してしまった。

我ながらチョロいものだと思わなくもないが、変にズルズル引きずっているよりはよほど生産的だと開き直ってみる。

だって、やることが山積みなのだ。

(セトが聖剣を手に入れてしまった以上、ゲームは始まってしまっている。ゲームとの差異は開始時期と俺。この二つでどこまでやれるか…)

怪我を治すためにベッドで大人しくしている時間を使って、頭の中でこれまでの事とこれからの事を整理していく。

当初、俺は推しのミカエルの早期救済を掲げていた。

転生チートがあればよかったのだが、序盤お助け死亡キャラでしかない俺にそんな力はなくミカエルを救う方法はセトが戦うというゲーム本来の選択しかなくなる。

でも、その為にはセトが世界を救うために旅立たなくてはならない。

世界を救うために旅立ってしまえば、もうセトの運命を止めることも変えることもできなくなる。

せめて世界を救った後にセトが望むものを手に入れた~とかいうストーリーならここまで悩むこともなかったのだが、ゲームのセトが最終的に手にしたのは永遠の旅路。

旅人気質な奴なら永遠の旅路なんて幸福以外の何物でもないかもしれないが、ゲームのセトもここのセトも残念ながら旅路気質ではないし、どちらかといえば何かを守ろうとする騎士の様なタイプだ。

そんな奴に、永遠の旅路なんて似合わない。

(う~ん…せめて俺のステータスがセト並みぐらいになればもう少し動きようもあるんだけどなぁ…今の俺にアドバンテージがあるとすればそれはゲーム知識だけだけど、その殆どは本編の知識だから開始時期が早まったこの状況でどの程度役に立つのか疑問だ。)

ゴロンと寝返りを打ちながら眉間にしわを寄せる。

俺にセト並みのステータスがあれば、セトが立てる筈だった功績のいくつかを俺が先に打ち立ててセトの力を必要以上に知らしめないという事も出来た。

そうすればセトが永遠の旅路を選ぶしかなかった原因である、セトの力が強大になりすぎたという事を防ぐことができたのだがゲームといえど現実という事なのか、そこまで甘くできてはいない。

(あーもう!!鞘を授けたのなら何か使えそうなスキルもつけておけよな!!…ステータス・オープン)

上手くピースが嵌らないもどかしさをぶつけるように、荒々しくステータスを開く。

そこには、意識が戻って最初に開いたのと似た画面が表示された。


名前 ノア

年齢 5歳

職業 村人(子供)

称号 死を運命づけられし者

HP 100

MP 900(↑)

スキル ステータス鑑定

装備 聖剣の鞘(神器)


(ん?)

同じ表示がされるとばかり思っていたそこには、この前見た時と違った箇所があった。

それはMP。

前に見た時はMPの数値は300だったはずのに、今は900と表示されている。

見間違いか?と目をこすったり、開き直しても数値は変わらない。

つまり、たった数日の間に倍以上の数値になったのだ。

(どういうことだ?なんでMPだけこんな…鞘の恩恵か?確かに聖剣の方にはリジェネとかいろいろなスキルがくっついてたから、鞘も同じであっても不思議じゃないけど…ん?!)

じーっとステータス画面を睨みつけながら考え込んでいると、目の前でMPの数値が1つ上昇したではないか。

今度こそ見間違いを疑ったがやはり見間違いではなく、それどころか暫く眺めているとまた1つ上がった。

(鞘のスキルはMP回復じゃなくてステータス値上昇効果なのか?でも、こんな数値序盤お助け死亡キャラじゃありえないぞ。それこそセトみたい、な……まさか…)

もしかして、鞘と聖剣は繋がっていてセトのステータスの一部が俺に流れ込んできているとしたら、どうだろうか。

それならば主人公並みのステータスを持っていることも頷けるが、何故MPだけなのだろうか?

≪それは、使い手が未熟故。≫

(え?!せ、聖剣!?なんで?!)

≪否。私は鞘、貴方の中に眠りし神器。≫

突如脳内に響いた声は、洞窟で聞いた聖剣の声に似ていて思わず聖剣の名を口にすれば声は即座に否定、いや、訂正した。

確かによくよく聞けば聖剣よりも声が柔らかい気がする。

≪貴方の見解は正しい。私と聖剣は一心同体、聖剣が高まれば私もまた高まる。≫

(じゃあ何でMPだけが俺に流れ込んでくるんだ?セトが未熟だからって言ってたけど、セトが成長すればMP以外も流れ込んでくるのか?)

≪それは使い手次第。今、使い手は聖剣の力を持て余している。本来なら使い手自身に影響が出る所を、私を通して貴方が肩代わりしているのだ。≫

(じゃあ、セトが成長して聖剣の力を完璧に扱えるようになればセトの意思で俺に力を渡したりできるってことなのか?)

≪是。≫

ゲームの開始時期が早まったことで未成熟なセトが聖剣を持つ状態となってしまったが、そこを俺がフォローする形になったという事か。

確かにじっとしている事が苦手なセトは俺よりも魔力の扱いが下手で、魔力を体内で循環させるという魔法の基礎もできない。

それはゲームでも同じなのかレベルをカンストさせても、MP値は上がるものの使用できる魔法はゲーム内で最も少ない、というか初期魔法しか使えない。

それでも魔力だけは多いから、魔道具を駆使して弱点が魔法の魔物もなんとか攻略していたことを思い出す。

(つまり、今俺は魔力だけはセトと同じってこと…これは、使えるんじゃないか?)

≪問。どう使う。≫

(腕っぷしが強くても子供の行動範囲なんて大人に比べれば遥かに狭い。だけど、魔法があればそこをカバーできるかもしれない。)

≪魔法を極めるという事か?≫

(極めなくていい、ただ、セトの露払いができればいいんだ。)

このゲームに登場する魔法は効果と合わせて殆ど覚えている、移動系と遠距離系の魔法を駆使すればミカエルの救済だけでなくゲーム中盤ぐらいの敵は何とかなるかもしれない。

そうればセトは世界を救った英雄の綺麗な栄誉だけ受けられるかもしれないし、そんな英雄ならどの国も欲しがることだろうし、それにセトは男の俺から見ても結構イケメンだ、選り取り見取りだろう。

ゲームではドット絵が殆どでキャラの美醜は簡略化されていたけれど、とある国のお姫様はなかなか可愛かったし、旅の途中で出会う女戦士は色気満載だったし、途中で立ち寄る村に住む娘は清楚美人だった。

誰を選ぶのかはセトの自由だけれど、ゲームと違って永遠の旅路なんて孤独とは全く違う未来が待っているはずだ。

幸せそうに隣に佇む誰かに微笑むセトを思い浮かべる俺に、鞘は変わらない口調で告げる。

≪否。貴方の見解は間違っている。≫

(どういうことだ?)

≪貴方の見解は戦闘ありきで成り立っている、だが、貴方は戦闘を行うことができない。≫

(それはこれから魔法を学んでいけば…)

≪否。貴方が学びで得られるのは知識だけ、貴方は攻撃魔法を扱う事ができない。≫

(ど、どういうことだ?!攻撃魔法って適正とかいるのか?!)

≪鞘は戦わない。≫

(え?は?…確かに鞘は戦闘には基本的に使わないけど……ん?まさか…鞘を持っている限り戦闘魔法は使えないってことか?)

≪是。≫

(はぁ―――――――――――!?なっんだそのデバフ!?攻撃魔法が使えなきゃどうやって魔物を倒せって言うんだ!?)

≪魔物を倒すは聖剣の役目、私の役目は浄化と癒し。故に、汝の魂に影響がない。≫

(!)

そうだ、元々俺の魂は世界を救う対価になれるって聖剣が言っていた。

という事はゲームのストーリーを一々なぞらなくても、さっさと俺の魂を対価にしてしまえば事は丸く収まるという事だ。

聖剣を継承したことで一定の厄介ごとは舞い込んでくるかもしれないが、セトなら日常のスパイスとして楽しんでしまう事だろう。

その光景を見られない事だけが残念だが、まぁ致し方ない。

(そうだって、俺の魂は結構レアなんだったわ。戦闘とかできなくてもなんとかなるな、うん。)

≪問。対価になることを未だ望むか?≫

(勿論。こんなワイルドカード滅多にないんだから、使わねぇと損だろ。)

≪それを望まぬ者が居るとしてもか?≫

(いるか?そんな奴…う~ん、でも居たとしても俺の意思は変わらないな。俺を救ってくれたこの世界を救えるのなら例え誰に気づかれなくてもいい。)

だってこれは所詮、自己満足なんだから。



「はぁ…」

ランドセルを降ろして溜息をつく。

今日も、うまくできなかった。

本当はもっと会話をしたいのに、いざ相手を目の前にすると言葉に詰まって逃げ出してしまう。

そんな自分が嫌でどうにかしようと思う反面、もうこれはどうしようもないことだと諦めている自分がいる。

それの事実がまだ自分を嫌いにさせる堂々巡りにいい加減、疲れてきていた。

友達が欲しいと思っていた、けど、友達が居なくても案外どうとでもなる。

だって、明日から自分は中学生だ。

6年もの間、一人で生活できていたんだからその半分しかない中学生生活もどうにかなるかもしれない。

中学生生活がどうにかなれば、同じ期間である高校生生活だってどうにかなるかもしれないし、大学に行くかどうかは分からない。

だから、もういいかもしれないと思いっきりベッドに飛び込んだ。

スプリングがギシッと嫌な音を立てたけど気にしない、というか気にする気力すらなかった。

もういいやと思いながらも未だ諦めることができない自分がいる事を自覚していたからだ。

本当はくだらないことで笑い合って、一緒に遊んで、今日という日を泣きたかった。

でも勇気のない俺にはそれができなかった、いや、正確には違うが。

勇気だけじゃない、どうすれば友達になれるのか、俺には分からなかったんだ。



「卒業おめでとう。」

「ありがとう。」

「これ、卒業祝いだ。今の子はやっぱコレだろ!」

「う、うん…」

「俺のお古で悪いけど、整備はちゃんとしてあるからさ。それに、最新ゲームも一本入れといたから勘弁な。」

自分の不甲斐なさに打ちのめされた翌日、親戚のお兄さんが卒業祝いをもって遊びに来てくれた。

引っ込み思案で人見知りな俺が会話らしい会話をすることができる、数少ない人間の一人。

それが、俺の転機になった。

「えっと、これをここに射してんでこれをここに入れる…電源ボタンは…あった、これだ…」

お兄さんが帰ってから早速ゲーム機を起動してみた。

今まで興味はあったけれど、機会に恵まれないというか中々タイミングが無くて触れてこなかったそれは俺に鮮烈な世界を見せてくれた。

お兄さんが言っていた通りゲーム機は最新の物ではないものの、同梱してくれたソフトは比較的最新のものばかり。

技術進歩が目覚ましいお陰で、最新のゲーム機ではなくとも最新のゲームを遊べる事をありがたく思いながら夢中でプレイした。

どれも見た事ないものばかりなのにとても楽しくて、惹きつけられる。

失敗して何度ゲームオーバーになってもつまらないどころか、何が何でも攻略してやると逆にやる気に火がついてネットで攻略サイトを片っ端から調べた。

いくつかのゲームを攻略した頃、お兄さんから進められて当時一番の人気だと言われていたゲームをプレイした時に俺は壁にぶち当たった。

ただ攻略するだけなら難しくはないが、シークレット要素を解放するために必要な激レアアイテムを入手するなどのやりこみ要素の難易度が桁違いに難しかった。

何度も何度も失敗して、でもどうしても諦めたくなくて、それでも攻略サイトを見るだけじゃどうにもできなくて落ち込んでいた時に、このゲームと出会った。

「Arc…?」

最初はただの気分転換のつもりだった、でもプレイしていくうちにキャラに魅せられ、ストーリー引き込まれ、気づけば夢中でプレイしていた。

【俺はただ諦めが悪いだけだ。苦手なことや嫌なことと天秤にかけてそれでも諦められないから足掻いてるだけだ。】

「足掻く…」

ゲームのセトのセリフは俺の胸を貫いた。

いくら楽しくたって所詮はゲームだ、何よりやりこみ要素は絶対にやらなきゃいけない者じゃない、そもそもメインストーリーはクリアしているんだからそれで終わりでも問題ない。

そう問題はない、でも、問題ないからって諦めたくない。

提示された条件の先にある光景が見たい、誰に命令されたからとかやらなきゃ死ぬとかじゃなく俺自身がそうしたんだ。

そう、ただの自己満足だ。

「あ…あの、さ…」

「ん?お前って確か…」

「お、同じクラスだけどその…〇〇〇の話、聞こえてきて…」

「なに?お前もやってんの?!」

「う、うん。それで、ちょっと苦労してるところがあって…」

気付けば学校のクラスメイトに話しかけていた。

ネットでの攻略情報では限界があり、決死の覚悟で声をかけたのだ。

「ここなんだけど…」

「え?!お前こんな所まで行ったの?!」

「どうした?」

「見てみろよ!!ここ、昨日俺らがスゲー苦労した癖に爆死して終わったとこ!!」

「これがどうしたよ、自虐してんのか?」

「ンなわけあるか!!ここまで到達した猛者がここにいるんだよ!」

「は?妄想も大概にしろよ。」

「事実じゃボケ!!オラ!お前もなんとか言え!!」

「あ、えっと…うん、到達しました…」

「マジか!?」

「な~んで俺の言葉信じねぇかなコイツ…」

「日頃の行いだろ。」

「なにおう!?」

「くっ…ふふふっ…」

「ほら見ろ!!笑われただろうが!!」

「お前のアホさ加減の賜物だろ。」

テンポのいい会話の応酬に緊張が解れていくのが分かった。

結局、俺が求めていた攻略情報は得られず逆に攻略情報を強請られる事態になったが最終的にそいつら二人と共にあーでもないこーでもないと言いあいながら無事にやり遂げた。

やり遂げた先にあったのは半端ない充実感と小学生最後のあの日、仕方ないと諦めようとしていた友達という存在だった。

「なぁなぁ!次何やる?」

「こないだ発売された奴攻略してたんじゃないの?」

「詰まった!」

「またかよ…また雪崩おきんぞ。」

「それもまた醍醐味ってやつだろ?」

「額に青痣作る醍醐味があってたまるか。」

「あ、バカ!それ秘密っていったろ!!?」

「やっぱりあの湿布…」

「だー!憐れむなぁ!!」

ぎゃーぎゃーとくだらないことで騒いで、馬鹿やって、笑って、ゲームで味わう様な楽しさを現実でも味わえる幸福を噛み締めた。



【俺はただ諦めが悪いだけだ。苦手なことや嫌なことと天秤にかけてそれでも諦められないから足掻いてるだけだ。】


高校生になって初めての得た二人の友達との繋がりは社会人になってからもずっと、それこそ俺が死ぬまで長く続いた。

セトの言葉が無かったら、あのゲームと出会っていなかったら、今の俺はいない。

きっと、なんだかんだと理由を付けて無理矢理自分を丸め込んで諦めていた。

そうして諦める癖がついて、何もかもを諦めて無気力な日々を機械的に過ごしていたと思うし、俺が死んだことを悲しんでくれる家族以外の誰かもいなかっただろう。

俺が俺としてちゃんと生きられたのは、このゲームが始まりなんだ。

だから俺の魂ぐらいでこのゲームが、この世界が、俺の親友(セト)が苦しまずに済むのなら俺は喜んで対価になる。

(鞘、どうすれば俺は対価になれる?できれば早い方が助かるんだけど。早くしないと聖剣に引き寄せられて魔物が村を襲いそうだし。)

≪村は既に襲われた。≫

(そうか、襲われたのか。ならやっぱり早く…え?ちょっとまて、今過去形で言った?未来形じゃなくて?)

≪是。貴方が目覚める前にこの村は一度魔物の襲撃に合っている。その際、聖剣の使い手が撃退した。≫

(oh…)

思わず顔を覆って天を仰いだ。

マジか、確かにセトが聖剣を手にしたらゲームは止められなくなるとは思ってたけどここまで早いというのか…いや、それだけじゃない、目が覚めた当初は暫く療養の為に部屋に籠っていたけど大分よくなってからはリハビリがてら頻繁に村の中を散歩していたが、村襲撃イベントが既に完了しているというのに村に変化らしい変化は見られない。

ゲームでは生き残りはセト一人だけで、尚且つ村自体もかなり悲惨な状況になっていたというのにこれは一体どういうことなのだろうか。

(こっちのセトの方が優秀だからか?)

≪否。かの者は未だ未熟、貴方に力が流れ込んでいることがその証拠。≫

(じゃあどうしてこんなにも村は無傷なんだ?)

≪それはかの者がこの場を戦場としなかったから。≫

(つまり、魔物は襲ってきたけど村に入る前に撃退されたってことか?)

≪是。≫

それでも魔物が近距離まで迫ってきたという事実は変わらない。

村に被害がなくても、危機的状況が発生したことを軽視していい理由にはならないしこの村の村長は長なだけあってかなり慎重な人だ。

防備を厚くするとか、警備を強化するとか、できる備えを片っ端からやりそうなのにそれもない。

まるで、襲撃されたことに気づいていないかのように。

≪貴方の見解を肯定。≫

(うおぉう!?へ?え?…もしかして、俺の考え筒抜け?)

≪是。≫

(マジかー…プライバシーゼロかよオイ…)

≪救済に関係のない事に触れることはない。≫

(さいですか…あー、もう開き直ろう、うん。さっき俺の見解を肯定するって言ったよな?つまり、セトは皆に気づかれる前に襲撃してきた魔物を一掃したってことか?)

≪正確には村人が魔物の存在を検知しないように工作した上で撃退した。≫

(はぁ!?んでそんな面倒なことを…騒ぎになるのを防ぐためか?)

≪否。貴方を守るためだ。≫

(俺?)

村が戦場になれば意識がなかった俺は間違いなくお荷物だ。

善人な両親は最後まで俺を見捨てないでいてくれるかもしれないけど、お荷物を抱えたまま逃げ切れるほど魔物は優しくない。

俺諸共殺されるか、最悪俺だけでも守ろうとして両親が殺されていたかもしれない。

そんな未来が一瞬脳裏を過り、背中が冷たく粟立つ。

≪貴方の見解は不足している。正確には世界から貴方を守るために隠蔽工作を講じた。≫

(え?世界?どういうこと?)

嫌な光景を、頭を振ることで無理矢理追い出すと、またしても鞘が不可解な言葉を告げる。

俺を世界から守るために村の皆に気づかれないように魔物を撃退しただなんて、それではまるで世界が魔物を使って俺を殺そうとしているみたいではないか。

魔物は天命樹を蝕む病である黒瘴が生み出したもので、世界の意思とかそんなものではないはずだ。

≪是。貴方の見解を肯定。≫

(ならどうしてセトがそんなことをする必要があるんだ?まさかアイツ、何か勘違いしてるのか?)

≪否。かの者は己の願いの為に聖剣と契約を結んだ。しかし、その内容を啓示する権限を私は持たない。≫

(えぇ!?肝心な所だろそれ絶対!!)

≪持たぬものは啓示できない。≫

(ぐぬぬぬっ…)

まるでパズルの最後のピースを取り上げられたような感覚に、奥歯を噛みながら唸り声をあげる。

セトの勘違いでもなんでもなく、セト自身の願いの為に行動を起こしそれを聖剣が容認したというなら誰にも気づかれずに魔物を撃退することは重要なことだったのだろう。

でも、だからこそ分からない。

魔物から守るならまだ分かる、ゲームにも魔王的な強敵が存在したからそいつら辺が世界を救う対価になれる俺の魂に気づいて先手を取ろうとしたとも考えられるからだ。

けれどセトの行動は俺を世界から守る為だと鞘は言った。

何故、俺を世界から守る必要があるのか。

(なぁ、鞘。鞘が言える範囲でいいから教えてくれないか?セトの願いってなんだ?)

≪貴方と共に在り、それを阻む事象を粉砕する事。≫

(何か物騒だな…う゛~ん…でもやっぱりわからん…)

その願いがどうして世界を相手取る事になるのか見当がつかない。

俺としてはさっさと世界救って、平和になった世界でミカエル共々笑って過ごしてほしいのだが攻撃魔法が使えない今の俺では単独では何もできない。

このままではセトの旅が早く始まってしまう、15歳に成長したセトですら苦労する過酷な旅だったというのに5歳、いやもうすぐ6歳になる子供にあんな旅をさせるわけにはいかない。

それにもし聖剣の助けとかでゲーム通りの成果を挙げてしまったら、ゲームよりももっと酷い結末に辿り着いてしまうだろう。

その前にどうにかしてセトを隠しながら、セトが倒すはずの魔物を倒して露払いをしなければならない。

攻撃魔法を使わずに魔物を倒す方法はないものかと頭を捻っていると、不意に体の力が抜けた。

「ぁ…れ…」

波が引くように体の力が抜けていき、最後には意識を失うように眠りについた。

≪技術向上を確認。≫



「んっ…」

気がつくと、空は既に明るかった。

鞘との会話をしている途中で寝落ちてしまったと理解すると同時に、ドアがノックされる。

はい、と小さく声を上げると同時に開かれた先にはセトが居た。

「お!やっと起きたな寝坊助め!」

「え、俺そんなに寝てた?」

「寝てた、寝てた。そりゃもう見事にな。」

「えぇ…」

中身はどうあれ肉体はまだ5歳の子供なわけだし、自覚していないだけで体は休息を欲しているという事だろうがセトの言葉から寝顔を見られた事を悟り気恥ずかしさに頬を掻く。

「腹減ってないか?昼飯持ってきたぞ。」

「ありがとう。」

昼、そこまで寝てしまったのか驚きながらもセトが持ってきてくれた温かい食事をありがたく食べる。

休息と同時に体は栄養も欲していた様で、すぐに皿は空になった。

「ご馳走様!」

「美味かった?」

「うん!こんなに肉あるの珍しいね!」

「そいつは俺が狩ってきたんだ。最近、森の周りにいい獲物が多くてさ。」

「セトが?それは凄いけど、無理してないか?」

「平気平気!」

いくら主人公のステータスを持っていても目の前のセトはまだ子供、小さな小鹿であっても強敵なはずだ。

だが今食べたスープに入っていた肉は鹿肉の味ではない、猪肉の味だ。

猪は鹿よりも多くの肉を取ることができるが気性は獰猛、しかも大型な個体ばかりで熟練の狩人であっても不意を突かれれば命を落としかねない。

セトと比べれば巨人と小人ほどに差がある体格差があり、奇跡的に極めて小さい個体を見つけられたとしても巨人が大人に変わった程度だろう。

見た限りでは怪我はしていないようだが、自分より大きくまた獰猛な奴を相手にすれば幼心は恐怖震えたかもしれない。

(唯でさえこれから過酷な旅が待ち受けてるんだ、せめて今この時ぐらいは安らかに過ごしてほしい…)

「ノア?どうした?」

「ううん、何でもない。セト。」

「ん?」

「セトが強いことはちゃんとわかってる、でも強いからって痛いとか辛いとかそういうの我慢するんじゃないぞ。せめて俺ぐらいには言えよな。」

「…うん、ありがとう。」

嬉しそうなセトの表情になんだか照れ臭くなって、硬そうに見えて柔らかい金髪を少し乱暴に撫でる。

痛いぞ~とか言う癖にやめようとすると、続きを強請るように視線を向けられる。

まるで人懐っこい子犬の様で、セトの気がするまで思う存分撫で繰り回す。

無邪気なセトの為にも、どうにか戦闘手段を見つけてセトの旅路を少しでも明るいものにしなければならない。

それが、ゲームの開始を阻止できなかった俺のせめてもの罪滅ぼしだから。

「なぁ、ノア。」

「ん?」

「ずっと、傍に居てくれよ。」

「ああ、勿論。」

撫でられることに満足したセトがじゃれてくるのを、まだまだ子供だと笑いながら俺は穏やかに答える。

満足げなセトの笑顔につられて思わず笑みを浮かべながら、まずは体の回復が先決だなと思い直す。

だって、セトを撫でているだけで酷い眠気が襲ってくるのだから。

(腹いっぱいになったから余計だろうけど、ここまで弱っていたとはな…子供の体で無理しすぎたか…)

眠気にぼぉっとする俺を、セトは優しく抱きしめながらゆっくりと横たえさせてくれる。

その手つきがまた優しくて、心地よくて、俺は眠気に抗いきれずまたしても意識を手放した。

「ずっと、ずっと傍に居てくれよ、ノア……その為なら俺は、どんなことだってするから。」



眠ったノアの頬を、セトは壊れ物を扱うように優しく撫でると静かに部屋を後にする。

その際、一瞬だけセトの姿がブレる様に輪郭が薄くなる。

けれど、それを知る者は誰もいない。

いや、正確にはそれを知る人間は誰もいなかった。

≪技術向上を確認。≫


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