第7話 吸血鬼の秘薬
前回の続きです。
度々訂正やら修正をしながら連載していますが読んでくださりとても嬉しいです。
アイルの訪問から早くも一カ月が経ったある日、私はローザの街に買い出しに出掛けていた。
「さて、買い物もひとしきり片付いた事だし、そろそろ屋敷に帰らねば」
そんな事を呟きながらいつも使う屋敷への近道である路地裏を歩いていると不意に声をかけられた。
「そこのお兄さん、いいもの見て行かない?」
「……私か?」
「他に誰がいるのよ」
話しかけて来たのは私と同い年くらいの鍔の広い白い帽子を被った赤髪の少女だった。
「これ、良かったらどうぞ!」
そう言って差し出されたのは赤く透き通る不思議な液体の入った硝子小瓶だった。
「これはなんだ?」
そう聞くと少女は怪しげに微笑むとこう答えた。
「これは恋が叶う魔法の秘薬なの」
すると少女は私の手に無理矢理その小瓶を握らせる。
「最近開発されたばかりの新薬なの、これ試供品だから是非使ってみてね!」
そう言うと少女は断る間もなく路地の暗がりに消えて行った。
「恋が叶うと言われてもな……」
私は怪しさしかない手の中の小瓶を空に掲げる。
瓶の中の赤く透き通った液体は何処か不気味で、路地の少ない光を反射し怪しげな輝きを帯びていた。
***
「さて、これをどうするべきか……」
私は屋敷に帰った後、先程貰った小瓶をどうすべきかを考えていた。
(正直こんなもの貰ったところで使い道に困るだけだな)
ふと窓を見るとあんなに高かった日はいつの間にか山に隠れ沈みかけている。
(私が恋をする日なんて来るのだろうか……)
夕日を見ながら私はふとそんな事を考える。
(いや無いな、そもそもどれだけ望んだとしても自分だけを愛し守ってくれる相手なんて現れる訳がない)
期待するだけはもう止めた。
叶いもしない希望に期待し、搾取されてばかりの私は二年前のあの日にもう死んだのだから。
「涼香、旦那様がお呼びです」
私がそんな事を考えていると、不意にモーエヴィンに呼ばれた。
私は咄嗟にポケットに小瓶を突っ込み返事をする。
「今向かいます」
そして私は考え事をするのを止め、屋敷の主人であるユウの元へ向かった。
ユウは血を欲する度によく私を自室に呼び出す。
そんな毎日の呼び出しに慣れたのか、はたまた感覚が麻痺したのかはわからない。
だからなのか、もう来たばかりのあの頃の様にユウの呼び出しに怯えることは無くなっていた。
「旦那様、涼香です」
「入れ」
私が扉の前でいつも通りの決まった文言を言えば短く淡白な返事が返ってくる。
「失礼致します」
そうして部屋に入れば、いつもの様に落ち着いた様子のユウが机の前に立っていた。
「今からする事は分かっているだろう?」
「はい……」
無言でこちらを見つめてくるユウの眼差しは怖気づいてしまう程の迫力があり、私は捕食される側なのだという事を本能的に理解させられてしまう。
私はリボンタイを抜き取り仕事用のジャケットの前を開けシャツのボタンを上から順に外していく。
ボタンを胸辺りまで外し終わり首を晒せば首筋にユウの唇が降ってきた。
そして私の首筋を舌で舐めた直後、その上から被せる様に牙を突き立てた。
「ッ……!」
耳に近い辺りを噛まれているせいか静寂な室内に血を啜る音がやけに大きく響いている気がした。
私はユウの食事の邪魔をしない様ただひたすら吸血の痛みを静かに耐える。
だが必死に耐えるあまり無意識のうちにユウの背に手を回していた。
そして高そうなユウのシャツに皺を作っていく。
「!?」
暫くすると首筋に突き刺さっていた牙がズルリと引き抜かれる感触がした。
「……今日はこれで終わりだ」
そう言いユウは私の傷口を丁寧に止血していく。
「んっ……」
だがユウの舌使いと首筋にかかる息に私はうっかり声を漏らしてしまった。
「まだ何処か痛むのか」
「……いえ、もう大丈夫です」
私の様子を伺う様に顔を覗き込むユウは先程まで私の血を啜っていた本人とは思えない程にしおらしかった。
私はユウが止血を終えたのを確認し速攻で衣服を整える。
「……ではご用件がお済みでしたら私はこれで失礼させて頂きます」
生憎こちらも今回かなりの量の血を吸われた様で立ちくらみがしてしょうがない。
(今日は一刻も早く明日に備えて早く休みたい。明日もやらねばならない仕事が山の様にあるのだから)
「待て」
「……如何なさいましたか?」
私が部屋を出ようと背を向けようとするとユウに呼び止められた。
普段ならこの後特に用もなく解散なので私は首を捻る。
そして数秒の沈黙の間の後ユウは口を開いた。
「君のポケットに入っていたコレは何だ?」
それを見た瞬間、背筋に悪寒が走る。
私は咄嗟に入れたはずのズボンのポケットを探すが先程まで入っていた小瓶は消えていた。
(まさか血を吸われている時に取られたのか!?)
私が慌てていると先程まで余裕そうな顔でこちらを見ていたユウの表情が険しくなる。
「まさか君、俺に言えない様なやましい事をしているのか?」
「いえ、そんな事はありません!」
「ではこれは何だ?嘘偽りなく全て俺に報告しろ。ではければ今この場で君の息の根を止める」
そう言ってユウは殺気を孕んだ鋭い目で私を睨み付ける。
私は震える声で今日の昼にあった事をユウに報告した。
「それは今日の昼に買い出しに行った時、知らない少女から『恋が叶う薬』と言われ押し付けられたものです」
私がそう答えるとユウから怒りの表情が抜ける。
「そうか、ではこれは俺が持っていても問題ないな?」
「はい……私は旦那様の意向に従います」
そう言うとユウは瓶を机上に置いた。
「では今日はこのくらいにしておこう、もう行っていいぞ」
「……では失礼致します」
そうして私はユウの自室を後にした。
「さて、どうしたものかな……」
涼香が去った後、ユウは瓶を持ち上げ左右に軽く振る。
「中身も瓶も似た様な透ける様な赤い液体も……これは間違いなさそうだ」
それはあの日、アイルに見せられた吸血鬼の秘薬と呼ばれたものと全く同じ物だった。
to be continued……
此処まで読んでくださりありがとうございます。
今回は少し短めだったので次回の投稿は明日の土曜日12時を考えております。
是非見に来てくださると嬉しいです。




