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第6話 お騒がせな嵐

少し遅れましたが前回の続きです。



 


 ユウの屋敷で勤め始めて三ヶ月が経とうとしていたある日の夜の事だった。


 その夜私は来客用のベルの音で目が覚めた。

 寮から正門側の窓を覗くと、門の前には一台の馬車が停まっているのが確認できた。


「今日は来客の予定は無かった筈だが?」


 私は直ぐに支度をし、確認を取るべくユウの元へ来客を知らせに向かった。


「旦那様、お客様がいらしております」


 ユウにそう伝えると彼は何処か気怠そうにそう私に指示を出した。


「とりあえず様子を見て来てくれ」


「かしこまりました」


 私が門のスイッチを入れると魔力が巡り外の門が徐々に開いていく。

 門が開ききると、停まっていた馬車は敷地内へ入って来た。

 そして私は急ぎ玄関に向かう。


 玄関を開けるとそこには長身と言われる私よりも遥かに体躯のいい美男子が馬車から降りて来た。


「本日は当屋敷に何か御用でしょうか?」


 私がそう問いかけると大男はこう返してきた。


「おや……ユウ君新しい従者でも雇ったのかな? 僕そんな話全く聞いてないんだけどなぁ……」


「あ、あの……」


 私が対応に困っていると、長身の男はハッとした様子で目の前の私に意識を戻す。


「嗚呼ごめんね! 挨拶がまだだったね!」


 そう言うと大男は咳払いをし自己紹介と挨拶をする。


「初めまして、僕はアイル・ルーン・ヴァーミリアン、急ぎの用故に知らせなくこちらに訪ねてしまい申し訳ない。今は家主であるユウは御在宅だろうか? もし今この屋敷にいらっしゃるのなら、急ぎの案件故に面会の時間を設けて欲しいと家主に伝えてくれると助かる」


 そう言いアイルと名乗った男は頭を下げた。

 長い金髪はお辞儀と共にサラリと垂れ下がり、口元からはユウと同じく大きく目立つ牙が覗く。


「かしこまりました、一度旦那様に確認を取って参りますので、暫くお待ちください」


 そう返すとアイルと名乗ったその人は再び態度を砕き返事をした。


「よろしく頼むよ」


 そして私はユウの自室へと戻り来客の事を伝える。

 するとユウはアイルの名を聞いた途端に顔を顰め舌打ちをした。


「その男を客間に通しておけ」


「かしこまりました。」


 ユウは私にそう指示をすると少々怠そうに準備を始めた。

 そしてユウが身支度をしている間に私は待たせていたアイルを客間に案内する。


「いや〜君のお陰で助かったよ! そう言えば君の名前を聞いていなかったね」


 名前を聞かれた私はアイルに向き直り自己紹介をする。


「申し遅れました、私は涼香と申します。去年の春頃から旦那様の推薦でこの屋敷に勤める事になりました」


「そうだったんだ! それなら僕も知らない訳だ」


 するとアイルは私を吟味する様に見つめ始める。


「……あの……何か顔に付いていますか?」


「……もしかして涼香ちゃんって——」


 その時、客間の扉が荒々しく開く音がした。

 そこには普段では考えられない程、乱暴に扉を開けるユウの姿があった。


「やあユウ君久しぶり! 元気にしてたかい? 唐突の訪問で迷惑かけちゃったね」


 そう言って抱き着こうとするアイルを可憐に躱しユウは客間のソファーに腰掛けた。


「いい大人なら報連相くらいしっかりして欲しいです。それでは手短に要件を聞きましょうか、俺もそんなに暇じゃないので」


 ユウは丁寧な言葉遣いでは誤魔化せない程の棘のある言葉をアイルに吐き出す。


「酷いなぁせっかく会えたのに! 会うの久しぶりなんだから仕事の話だけじゃなくて恋バナとか最近のユウ君の気になる子の話とかもしようよー!」


「時間の無駄です」


 そんなアイルの軟派な態度を空かしユウは本題を切り出す。


「それでわざわざ遠路遥々(えんろはるばる)雑談でもしに来たんですか?兄上(・・)


 

 私はユウの放った最後の言葉に衝撃を受ける。


(兄上って……この二人兄弟なのか!?)


 見比べてみると確かに言われてみれば顔の雰囲気は似ているが、髪色も異なるうえに体格もかなり差がある為、言われるまで気が付かなかった。


「そうそう、ユウ君に話しておかなくちゃいけない重大な話があってね、それでわざわざローザまで来たってワケ!」


「そうですか、では手っ取り早く要件を聞きましょう」


 私は本題に入りそうな空気を読み取り、部屋の扉の方へと向かった。


「では私はお茶の準備に行って参りますので、これにて失礼させて頂きます」


 そう言って下がろうとすると突如アイルに止められる。


「別に要らないよ、それより涼香ちゃん君には少し居残りしてもらうよ」



***



「それで要件なんだけどその前に……」


 するとアイルの顔から一切の表情が抜け落ちる。


「その子、何処から連れてきたの?」


 先程のおちゃらけた雰囲気とは打って変わり空気が張り詰めていくのを肌で感じる。

 そうするとユウはアイルに私を紹介した。


「紹介が遅れました、この子は涼香。センチュラルとマエロンの国境付近の町で出会い、そして訳あって今うちの屋敷で働いてもらっています」


そういうとアイルの眉がピクリと反応する。


「ユウ君、僕はその訳と言うものを知りたいんだけど?」


 アイルから放たれる迫力は凄まじい。

 だがそれ以上にアイルの圧にも全く動じず、涼しげな顔で聞き流すユウの肝の座り具合に私は感心してしまう。


「……はぁ、この件は兄上であってもあまり介入されたくはないのですが……」


「見たところ彼女(・・)はまだ成人すらしていない様に見えるよ。それに涼香ちゃんは吸血鬼じゃないみたいだし、食料になってもらうついでに屋敷で働いてもらおうって事かい? ユウ君大好物だもんね生娘の血(・・・・)


 そう口にするアイルに私は手の震えが止まらなくなる。


(なんで会って間もない私の正体を知ってるんだこの人!? あと隠してきた事をユウにベラベラと喋るな!)


 だがユウは動じる事なくアイルに答える。


「それがどうしたと言うんです? 第一この屋敷に長く仕えているモーエヴィンだって吸血鬼ではないでしょうに」


「それはそうだけど……僕はユウ君が心配なんだ! 万が一彼女がユウ君を裏切りでもしたらどうするんだ!? 人間は簡単に他人を欺いて、利用しては裏切る様な薄汚い種族だというのをきちんと理解しているのかい!?」


 そう言うアイルの目には身内を案じる心配の色が滲んでいた。

 

(それもそうだ、私はアイルからしてみれば何処の馬の骨かもわからない赤の他人なのだから)


 すると静かにアイルの話を聞いていたユウが口を開いた。


「その点に関しては心配要りません。何故なら僕は涼香と血の盟約(・・・・)を結んでいるので」


 そう言うとアイルは目を見開いた。


「血の盟約って……ハァ、どうやらユウ君はよほど彼女がお気に入りみたいだね」


「そうですね、涼香が居るといつも退屈しないし血も飲み放題。悪いことなんて一つもないのだからこれ以上は口を出さないでもらえますか?」


 そう言うとアイルは渋々引き下がった。


「ユウ君がそこまで言うならしょうがない……だけど一つ言わせてもらうよ。あまり彼女にハマり過ぎるな、これは僕からの忠告だ」


 そうしてアイルは咳払いをした。


「では本題に入ろう。だけどその前に……涼香ちゃん、すまないけどこの話は僕とユウ君以外に聞かれる訳にはいかないんだ」


 そう言われユウの方を見ると「もう下がれ」と指示される。


「かしこまりました、では私はこれにて失礼させて頂きます」


 そうして私はアイルのユウの居る客間を後にしたのだった。


た。




♢♢♢


 


「それで本題とは?」


 涼香が客間を去った後、俺がそう切り出すと兄上は口を開く。


「ユウ君なら知ってる筈だよね、最近ローザの街で出回っている吸血鬼の秘薬(・・・・・・)のこと」


 そのワードに俺はピンときた。


「それなら以前報告書で目にした事があるがそれがどうかしましたか?」


 するとアイルは懐から何かを取り出した。

 それは赤い透き通る様な液の入ったガラスの小瓶だった。


「これが闇市に流通していた吸血鬼の秘薬の実物だ。効能はものによって様々らしいが、中には飲んでから一日中日光を浴びても灰にならないという代物もあるらしい」


 その言葉に今度は俺が驚かされた。


 日光、それは我々吸血鬼の最大の弱点。


 稀に日光に耐性のある吸血鬼も居るが、それでも普通の人間の様に一日中日光を浴びていれば、疲弊し生命力が削られてしまう。

 

(しかしそれすら克服できる秘薬が既に何処かもわからない場所で作られていたとは……)


 しかしそうなれば法や設備が行き届いていない分、事態は深刻になる。


「それに、どうやら今吸血鬼の秘薬(コレ)を使って日中に活動し、各地の人間社会で悪行を働く愚かな同胞が増えているらしい」


「成程……吸血鬼は本来夜闇に生きる日影者の種族、それ故に日中は襲われまいと油断している獲物(奴ら)を襲えるという訳か」


 そう返すとアイルは俺の回答に頷く。


「だがそれだけじゃない、それとは別に特異な固有能力を持つ吸血鬼のみが狙われる誘拐事件もここ最近センチュラルや隣国の近隣地域で増えているみたいだね。僕としてはこの二つ何処かで繋がっている様な気がするんだ」


 その言葉が兄上の口から飛び出し頭を抱えた。


「なんだか今日の話はやけにきな臭いな」


「うん僕もそう思うよ。それにこの件、他国も関与している可能性が高い」


 そう言うと兄上は席を立ち俺の方へと近付いてきた。

 

「だからくれぐれも気をつけるんだよ。ユウ君の持つ特異能力なんて何処の国の野心家が狙ってくるか分からない代物だからね」


 そう言うと兄上は俺に背を向けた。


「じゃあ用事も済ませことだし、僕はこの後この街で仲良くなったかわい子ちゃん達と夜のデートに行ってくるから! また来るね〜バイバイ!」


「はぁ……またですか」


 そうしてお騒がせな兄上()は屋敷を去って行った。


「……吸血鬼の秘薬、もっと詳しく調べなければいけない様だ」


 そうして俺はのしかかってきた新たな問題とこなさなくてはいけない仕事の山に俺は頭を抱える事となった。












to be continued……


ここまで読んでくださりありがとうございました。

次回の投稿は来週の金曜日を予定しております。

また読んでもらえたら嬉しいです。

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