第8話 御意のままに
本日2本目です。
※微官能表現あり。
それはとある日の早朝、私は休憩の合間に狩りの腕が鈍らない様、庭先で肉体を鍛えていた。
するといつもの配達員が屋敷の門前に設置されている郵便受けに手紙を投函していた。
私は一度手を止め郵便受けを確認する。
その手紙は見たこともない漆黒の封筒で、差出人を確認しようにも名前は封筒の何処にも書かれていなかった。
しかし便箋の裏を見てみると、封に二羽の蝙蝠が入った家紋らしきマークがシーリングで押印されていた。
私は何か重要な機密でも書かれているのではと思いその手紙を屋敷の主人であるユウの元へ届ける為、彼の居る自室へと向かった。
「失礼致します、旦那様お手紙が届いております」
「入れ」
短い返事の後、部屋に入ればユウは日光を一切通さない分厚いカーテンで閉め切られた薄暗い室内で仕事用の椅子に腰掛け大量の書類と睨めっこをしていた。
だが私が手紙の乗ったトレイを目の前に差し出すとユウの眉間に皺が寄る。
「はぁ……またか」
「?」
ユウはそう言い手紙を受け取ると封を開け内容を確認する。
そして手紙を読み終えると机上に置かれていたランプの火で手紙を燃やしてしまった。
(何か不都合な内容でも書かれていたのだろうか?)
「これから同じ所から手紙が来ても封を空けずに燃やせ」
「その様な事をしてもよろしいのですか?」
私は困惑しユウに問うと明らかに不機嫌そうな態度でこう言った。
「かまわない、この手紙の送り主は毎回毎回同じ様な内容でしか文を送れない病気らしい。そんな奴に付き合っていられる程俺は暇じゃないからな」
そしてユウは再び書類に目線を戻した。
(ユウがそう言うのならこれ以上私がとやかく詮索するのもよろしくないな)
「……かしこまりました、次からその様に致します」
そして用事を終えた私はユウに頭を下げ部屋を出ようと背を向ける。
「そう言えば——」
すると不意にユウは私を呼び止める様に口を開いた。
「今日のメインディッシュがまだだった、涼香こっちに寄れ」
ユウのこの合図は紛れもなく食事の要望だ。
無論断るなんて選択肢など存在しない。
「失礼致します」
そして私は言われるがままユウの座っている椅子の前に立つ。
そしてリボンタイを外し仕事様のシャツの襟元を開けいつもの様に首元を露出させた。
「どうぞ」
するとユウは余程待ち侘びていたのか、椅子から勢い良く立ち上がると私の身体を思い切り抱き寄せた。
そして私はユウの胸の中にすっぽりと収まる。
「!?」
私が驚き硬直しているとユウは私を抱きしめたまま首筋に顔を埋める。
そして首の匂いを嗅ぎ舌を這わせたかと思えば、首筋に口付けをし、甘く牙を立て刺激する。
「旦那様……んっ……何を……?」
私はくすぐったさに身を捩らせる。
しかしユウは一向に食事をする事はなく、焦らしては私の反応を見て遊ぶのを止めなかった。
(ユウは一体何をしているんだ?)
初めはユウの気が済むまで待っていた。
しかし悪戯は止まる事を知らず、寧ろ徐々にエスカレートしていった。
そしてユウの悪戯は首から鎖骨、そして胸の方へと徐々に降りていく。
(イヤ……! それだけは絶対に駄目!!)
そして我慢の限界に達した私はユウの胸板を強く突き返した。
「!」
そうするとユウは正気に戻った様だった。
「すまない……抑えが効かなかった」
「あ……いえ、私こそただの食料の分際で旦那様を拒絶してしまい申し訳御座いませんでした。……ではお食事、早く済ませてしまいましょう」
「……そうだな」
そう言うとユウは私から視線を逸らしたまま首筋に顔を埋め食事を始めた。
「今日はこれで終わりだ」
そう言い首元から顔を上げたタイミングで私はユウを問いただす。
「旦那様、突然ですが教えてください。何故先程あんな真似を?」
「あんな真似とはなんだ? はっきりしてもらわねば困る」
そう言ってすっとぼけるユウに呆れた私はもっと具体的に聞きたい事を噛み砕き質問を投げかけた。
「普段あの様に私を抱き寄せたり匂いを嗅いだりなど旦那様は決して行いませんでした。なので正直突然の出来事で驚いております、もしかしてあの行動には何か意図があったのですか?」
そう言うとユウはまるで一瞬悪戯っ子の様な表情を浮かべた。
「嗚呼、あれはこの間の仕返しのつもりだ」
「仕返し?」
「君この間食事中に俺に抱きついてきただろう?」
「まさか……そんな無礼極まりない事を私がしていたのですか?」
そう言って首を傾げるとユウは信じられないと言わんばかりに目を見開きこちらを見る。
「……まさか無自覚であんな事をしていたのか?」
「申し訳ありませんが身に覚えがございません、その様な無礼があったのであればこの場で謝罪させて頂きます」
全く心当たりが無く困惑する私にユウは頭を抱えていた。
だが此処で私の中に疑問が浮かぶ。
(以前の仕返しと言っていたが、何故ユウは不快と思ったその時に私の腕を振り解くなりしなかったのだろう?)
「はぁ……覚えていないのならもういい、早く身だしなみを整え仕事を再開しろ」
「……かしこまりました」
私は衣服を整えユウの自室を後にした。
(一体何だったのだろう? ……それに何故ユウはさっきからずっとあんな悲しそうな顔をしているんだ?)
そんな痛々しい程に元気の無いユウを見ているとこちらの胸の内まで重く苦しくなった気がした。
そして私はその日一日中、あの部屋で起きたユウとの出来事が脳裏にチラついてしまい仕事に集中できず、頭を悩ませる羽目になったのだった。
***
涼香が部屋を去った後、俺は大きな溜め息を吐いた。
そして先程の手紙の内容を思い出し段々と怒りが込み上げてくる。
「……はぁ……本当ジジイ共のお節介には嫌気がさす……」
先ほど燃やした手紙は見合い結婚をさせたい吸血鬼の老人共が俺に宛てて送りつけてくる見合いの資料や写真だった。
しかも毎度毎度ご丁寧に違う女性の写真を送りつけてはこの様な余計な一文を添えてくる為、そろそろ俺も我慢の限界に到達してしまいそうだった。
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ユウ・ロラミア・ヴァーミリアン。
貴殿は高貴な血筋の吸血鬼だ。
故に早く花嫁を見つけ世継ぎを産ませなくてはならぬ。
だがそう言って数十年、貴殿は我々の助言を無視し続けてきた。
なので今回最終処置として一ヶ月後に見合いを兼ねた大規模な舞踏パーティを開催する事にした。
そしてこのパーティには始祖の吸血鬼であるカイン様もご参加される。
これは老吸血鬼の意向であり最後の温情だ。
このパーティで必ず花嫁を見つけろ。
高潔なる朱き吸血鬼ヴァーミリアンの名に泥を塗る様な真似は決してしてくれるな。
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「俺は……愛無き結婚など絶対にしない……!」
俺は怒りの余り執務机を激しく叩いた。
(だが、相変わらず頭の堅い吸血鬼のジジイ共は俺の考えを聞く気は更々無いだろうな)
その証拠に既に吸血鬼のジジイ共は俺ですら頭の上がらない上位吸血鬼である始祖の吸血鬼、カインの名前を使い俺を強制的に参加させるつもりの様だ。
こうなってしまった以上、俺の一存では到底拒否なんて出来る訳もなく頭を抱えた。
「クソッ……!」
再び感情のままに机を殴ると炭となった手紙の破片は舞い上がるり、そして冷たい床にひらりと落ちた。
to be continued……
此処まで読んでくださりありがとうございます。
このお話はかなり試行錯誤を重ねたうえに出産しました。
次回の投稿は来週の金曜日になります。
また読んでもらえたら嬉しいです。




