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第15話 貴方の心に寄り添う

何とか今日までに間に合いましたので投稿させて頂きます。

今回は作者公認ゲロ甘回ですのでどうぞお楽しみください。


『今度俺と共に街へ行こう』


 少し前にユウと交わした約束。

 私は今日ユウと共に街へ出掛ける為の準備をしていた。


「変じゃないだろうか……?」


 寮のクローゼットに仕舞われ久しく袖を通していなかった私服に着替え身嗜みを整える。

 久しぶりにクローゼットの奥から出してきたせいか服には家具の匂いが染み込んでいた。


「この格好で旦那様の隣を歩くのは少々気が引けるな……」


 そう思うものの外に着て行ける様な服なんて大して持っていない私はできるだけユウの面子を潰さない様、清潔感に気を付けながら持っているものを最大限生かし着こなしを工夫する。


 ユウはこの日の為に溜まっている仕事を片付け休日まで取ってくれた様だ。

 しかし私が仕事に穴を空けモーエヴィンを困らせる訳にはいかないと言うとユウは「それなら俺の仕事の延長で君を連れ出せば問題ないだろう? 安心しろモーエヴィンにも上手く伝えておく」と言い私を強引に丸め込んだのだった。


(ここまでしてもらってるんだ。だから今日は下手な事をしてユウに恥をかかせてしまうわけにはいかない)


 そしてそうこうしていると夕刻を知らせる広場の鐘の音が遠くから鳴り響く。


(マズいもうそんな時間なのか……! このままだとユウを待たせてしまう!)


 そうして私は急ぎ必要最低限の荷物を持つと屋敷の玄関へと向かった。





 玄関に着くとそこにはまだユウの姿は無かった。


(ふぅ……約束にはきちんと間に合ったみたいだ)


 そして私は再び自分の身嗜みを整え頭から順に最終チェックを行っていく。


「よし……」


 これであとはユウが来るのを待つだけだ。

 しかしこういう虚無な時間程落ち着かないものである。

 そして手持ち無沙汰になると私の思考は自分の行動の非について考え始める。


(本当にこんな無難な服装で良かったのだろうか? しかし恋人同士のデートという訳でも無いのに、なんだかこうしていると段々と恥ずかしくなってきてしまった……。 って何を考えているんだ私は……これも一応仕事という事になっているんだぞ)


 そうして私は大きな溜息を吐く。


「……そうだ何も心配する必要はない、だって私は過去にもユウと町を歩くくらいしていたじゃないか」


 すると私の背後から聞き馴染みのある凜とした声が鼓膜を揺さぶる。


「待たせた」


「……お待ちしておりました、旦那様」


 後ろを振り返るとそこには普段の仕事着とは打って変わりカジュアルだが品のある私服に身を包むユウの姿があった。


「ではそろそろ行こうか」


 そう言ってこちらを見つめるユウは遠い昔に思い描いたまま心の内に仕舞い込んだ私の夢そのものだった。


「……はい」


 そして私は舞踏パーティーぶりにユウと共に馬車に乗り込むのだった。



***



「着いたみたいだな」


 するとユウは馬車の戸を開き先に降りるとこちらにスッと手を差し出す。


「あの旦那様……今はドレスを着ていないので手を借りる必要はありませんよ」


 そういうとユウの表情に影が落ちる。


「……俺がまだ怖いか?」


 そう問いかけるユウの声は先程と違い暗かった。

 そしてその声色はこちらの良心を揺さぶる様な不安や哀情を孕んでいた。


「え……」


 私は慌てて顔を上げる。

 そして淋しそうな表情でこちらを見つめるユウと視線がかち合った。

 その瞬間私の胸がキュッと締め付けられる。


「あ、いえ……そういうわけではありません」


 そう言い私が素直にユウの手を取りステップを降りれば彼の表情はいつも通りに戻っていた。


(……さっきのは一体何だったんだ……?)


 私は自分の胸に手を当て胸の鼓動が正常に動いている事を確認した。


「此処から目的地まで少し歩くので着いてきて欲しい」


 そう言うとユウはそのまま私の手を握り込むと私の手を引きながら人の波を掻き分けて行く。


「ローザの街は多種族国であるセンチュラルの中心都市になっている。故に他の国の町と違い日が落ちても尚人々が多く行き交う。だから逸れてしまわない様俺の手を決して離すな」


「わかりました」


 私はユウの手をキュッと握り直す。

 ふと空を見上げれば日の沈んだ夜空に幾つもの星々が瞬き夜の空を彩っている。


(灯りのせいだろうかマージナの時程星はよく見えないな)


 だが日が落ちても尚、活気の絶えないこの街で空を見上げる様な変わり者はどうやら私だけの様だった。


「着いたぞ」


 そう言われユウと同じ方へ視線を向けると目の前には煉瓦作りの少し古びた店があった。

 建物内に入ると中には精巧に磨かれキラキラと輝く宝飾品の品々が見栄え良く綺麗に飾られていた。


「いらっしゃいませ……おやこれはまた珍しいお客様ですね」


「久しいなモルガン夫人」


 ユウがそう言うと夫人はこちらに会釈をした。


「以前予約していた品は?」


「ええ、ただいまお持ちいたしますので少々お待ちください」


 そう言うと夫人は店の奥へと引っ込んで行った。


「旦那様は宝飾品にご興味があったのですね」


 何気なく私がそう呟くとユウは少し照れくさそうにはにかむ。


「そうだな、折角こんな風に君と出掛けられるのだからと思って少し前から準備していたんだ」


 私はそんな事を言われ照れ臭くなってしまいユウから視線を逸らす。


「……冗談はよしてください」


「冗談じゃないんだが……」


 そうこうしていると店の奥から夫人が此方へと戻って来る足音が聞こえた。


「お待たせ致しました。こちらで間違いありませんか?」


 夫人が持って来た木箱を開けると、そこには控えめなデザインだが精巧かつ繊細なカットが施され丁寧に磨かれた赤い宝石の煌めく耳飾りが入っていた。


「注文通りだ、やはりモルダンの腕は昔も今も変わっていないな」


「ええ、うちの工房主は仕事にはいつも真摯ですからね」


 そして夫人との談笑が終わるとユウは私の名を呼び手招きをする。


「涼香こっちに来てくれ」


「はい」


 私はユウの荷物持ちとして連れてこられたのだと思い彼の前に手を差し出す。

 しかしユウは私の手の上に荷物を乗せる事はなく、先程受け取った箱から耳飾りを取り出すと私の耳元に当てがった。


「見込み通りだ。やはり君には燃える様な赤がとても似合う」


 そう言って笑いかけるユウの表情は今まで見たどの笑顔よりも優しく、そして嬉しそうだった。


(……なんで……なんで貴方はそんな思わせぶりな事を平気でするの?)


 いつもそうだ、少し優しくされるだけで他人からの善意や好意に不慣れな私の心はいとも簡単にグラついてしまう。


 いつの日かの記憶が蘇る。

 旅に不慣れだった三年前のあの頃、親切にも私の事を助けてくれた青年がいた。

 しかしそんな彼の好意はただまやかし、蓋を開けてみれば世間知らずの女を貪る事しか考えていないただのケダモノだった。


「……私が似合っていたところで何の意味もないでしょう?」


 そして私はいつもの様に他人の好意を突き放す。

 しかしユウは先程私の耳に当てがった耳飾りを優しい手付きで付け始めた。


「意味ならある。……だってこれは俺から涼香への贈り物なのだから」


「……!?」


 そしてユウは私に近づくと私の耳を優しい手付きで触り始めた。

 突然の出来事に驚いた私は咄嗟にユウの側から飛び退く。


「だからどうか受け取って欲しい」


 そう言われ耳元にそっと手を伸ばすとそこには先程の耳飾りがチリチリと揺れていた。


「……でも私は旦那様に何もお返しできませんよ」


 私がそう返すとユウは優しい手付きで付けてくれた耳飾りを撫でる。


「必要ない。だって俺はいつも君から沢山貰っているからな」


 そう言うとユウの手は耳飾りから私の首筋へと流れる様に移動する。

 そして首筋を優しく撫でられたその時、私が屋敷へ連れてこられた本来の目的が脳裏を過ぎる。


(嗚呼そうか……何を勘違いしているんだ私は。ちょっと贈り物を貰ったくらいで勘違いをするところだった。私は本来ユウに血を吸われるだけの食料、愛玩こそすれ特別な人達の様に愛されるなんて事はない)


 私達がそうこうしていると店の入店ベルが店内に響き渡り他の客が店内へと入って来る。


「そろそろ行こうか」


「……かしこまりました」


 そしてユウと私は再び夜の賑やかな街を歩き始めたのだった。



***



「着いたぞ、今日二箇所目の目的地だ」


 ユウにそう言われ促されるまま彼の横に並び立つ。

 するとそこには今までで見たこともない程の街明かりに照らされた景色が広がっていた。

 

「……綺麗」


「気に入ってもらえただろうか?」


「はい、とても」


 私がそう返すとユウの表情はふわりと綻ぶ。


「出会ったばかりの頃に言っていただろう? 旅の途中で出会う様々な景色を脳裏に焼き付けたいと」


 私はその言葉に目を見開く。


「覚えていたのですか? あの日の会話を……」


「当たり前だろう、だってあの時俺は君に——」


 その時、背後から誰かの足音が近付いてくるのが聞こえた。

 振り返るとそこにはカップルらしき男女が仲睦まじくくっつきながらこちら側へとやって来ていた。

 そしてその二人は自分たちの世界に没頭しておりこちらに気がつく様子がない。


「愛しているわダーリン」


「僕もだよマイハニー」


 そう言いながら彼らは熱い抱擁と口付けを交わし二人の世界を大満喫している様だった。


「はぁ……本当に間が悪いな。折角二人きりになれそうな時間に合わせて来たというのに……」


 するとユウは彼らの前に立ちはだかり私の視界を遮る。


「……でも確かにこんなに綺麗な景色なら自分の好いた人にも見せて共有したいという気持ちは分かる気がします」


 私がそう言うと珍しくユウが頬を染めた。


「まあ、君が気に入ってくれたのならそれで良しとしよう」


 そして私達は目の前でイチャつくカップルを尻目に街へと戻り、その後はユウの気が済むまで様々な店を巡ったのだった。


 そして街中で私の手を引くユウはいつもの彼より何処か明るくそして優しげな表情をしていた。


(いつからだろう……前は一刻も早くユウから離れたくて、開放されたくて仕方なかったのに)


 ユウに手を引かれ歩く度に彼から貰った耳飾りがカチカチと耳元で小刻みに揺れる。


(今ではユウとのこんな優しい時間がずっと続けばいいのにって考えてしまっている——)


 けれど私は知っている。

 利害関係で動くこの世界では利用価値や存在意義の薄いものから切り捨てられていく。

 それは金や富、人脈、才能、そして愛であっても例外など一つもない。


(だから怖い……ユウから貰うもの一つ一つが……私には重過ぎる……)


 だからこそ特定の者に心酔なんてしてはならないのだ。

 再び捨てられ同じ様な傷を負うくらいならいっそ気付かないふりをしてしまった方が心が楽なのだから。


「今日は久々に時間を忘れられた。またいつか君とこんな風に出掛けられたらいいな」


 そうこうしているといつの間にかユウとのお出かけは終わり私とユウは帰りの馬車に揺られていた。


「私の方こそ本日は屋敷から連れ出して頂きありがとうございました。それと旦那様から頂いた品も大切にさせて頂きます」


 そうしてユウと過ごす長い様で短いひと時は終わりの時を迎えたのだった。









to be continued……

ここまで読んでくださりありがとうございました。

次回の投稿は来週の金曜日を予定しておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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