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第12話 氷の女王

前回の続きです。



「本日は長命吸血鬼(ハイヴァンパイア)、アダン・モルトーネ・ホリホック主催のパーティーにお集まり頂きありがとうございます。今宵はゲストの皆様を楽しませる為様々なものを揃えました。それでは皆様この特別な夜を楽しんで参りましょう、乾杯!」


 そうして主催者の挨拶と共にパーティーが始まった。

 しかしパーティ開始の挨拶が終わった直後、私とユウは狩人の目をした女性達に包囲されてしまう。


「お久しぶりですわユウ様! よければ私と少しお話しでも——」


「ユウ様、以前ご紹介頂いたボルドー家が娘サラと申します。よろしければ今宵共にダンスを踊って頂けませんか?」


 そしてユウしか見ていない彼女達は私を包囲網の外へと弾き出す。

 弾き出された私はそのまま人混みに揉まれ気付けばユウを囲む集団を見失ってしまった。


(どうしよう人が多すぎてユウを見失ってしまった)


 見失ったユウを必死に探すも会場には人も多く、そして普段着ない様なドレスや靴が私の行動に大きな制約を課している。


(ハァ……こんな事になってしまうくらいならあの時ユウの出してくれた打開案を素直に受けてタキシードでパーティーに参加しておくべきだったな)


 私は過去の自分が下した判断に頭を抱えていると、ふと反対側の会場が矢鱈と騒がしい事に気が付く。


(何か問題でもあったのだろうか?)


 私は騒ぎが気になってしまい会場が最も騒がしい方へ行ってみると、どうやらご令嬢同士が揉めている様子だった。


「貴方さっきから目障りなのよ! 私達が優しくしてあげているうちに目の前から消えなさい!」


「そうよ、下級吸血鬼の分際で上級吸血鬼に見初められようと媚を売るだなんて、身の程知らずも甚だしいですわ!」


 どうやらここでは女同士の牽制及び蹴落とし合いが行われている様子だった。


「……いえそんなつもりは……ただ彼のグラスが空いていたので飲み物を勧めただけで……」


「言い訳はよろしくてよ! それに下級吸血鬼の分際で私よりも目立つドレスを着るだなんて恥を知りなさい!」


 そう言うと強気な令嬢が非難を浴びる控えめそうな令嬢に向かってグラスの中身をぶち撒ける。


(マズいこのままだと折角のパーティーが台無しになってしまう!)


 しのごの言ってられない急展開に私は約三年ぶりに雪女の力を解放した。

 そして控えめな令嬢にかけられたグラスの中身は彼女にかかる事なく氷の礫となり床にポトリと落下した。


「い、今の何!?」


「な、何事ですの!?」


 そう慌てる周囲に私は人混みを掻き分け割って入る。


「人様のパーティーで騒ぎを起こすとは何事ですか。折角なら談笑しあってお互いの親睦を深めた方が圧倒的に有意義ですよ」


「貴方誰よ! 礼儀知らずにも程がありますわ!」


 そう言われ私は淡々と答える。


「名乗るほどの者ではございません。ただこの場の争いは会場内の雰囲気を乱すと判断し仲裁に参りました」


 そう言うと強気な令嬢は牙を剥き出しにし私に向かって吠える。


「私はただ立場のわかっていないこの女の行動を嗜めただけですわ! それなのに貴方も私に恥をかかせるつもり!?」


 そう食ってかかる相手に私は冷静に答える。


「でも見る限り貴方は嗜めるの限度をゆうに超えている様に見えました。それにこれ以上騒ぎを大きくしては貴方もタダでは済まなくなりますよ」


 そう言って私は周囲を見渡す。


 そこには私同様騒ぎを聞きつけた参加者が群がり、じっと冷たい視線を送っていた。


「は………クッ今回はこのくらいにしておいてあげるわ!」


 そう言うと強気な令嬢は取り巻きを連れて会場の外へ出て行ってしまった。


「大丈夫ですか、ドレスは無事ですか?」


 私は彼女達が去った後、先程後方に下がらせた控えめな令嬢に声を掛ける。


「は、はい……お陰様で無事です」


「それは良かった」


 そして私は彼女を一度落ち着ける為、会場脇まで移動し近くにあった椅子に座らせた。

 そして近くで水を貰うと令嬢に手渡す。


「お水です」


「あ、ありがとうございます……」


 彼女は少しおどおどとしている様子だったので私はそっと隣に座った。


「先程は助けて頂きありがとうございました」


「いえ、大層な事はしていません。ただ困っている人が居ると放っておけないだけなんです」


 私がそう言うと令嬢はか細い声でぽつりと話し始めた。


「……なんだか少し羨ましいです。私は怖くてあんな風に振る舞う事は出来ないので……昔からそうなんです。気が弱いから舐められてばかりだし、そのせいで吸血鬼なのに血だって吸うのが怖い……」


 そう言うと令嬢は乾いた様に微笑んだ。

 暫く談笑していると彼女も落ち着いてきた様子で身体の力も抜けていた。


「では私は会場で逸れてしまった連れを探しに行かなくてはいけないのでこれにて失礼させて頂きます」


 そう言い頭を下げその場を去ろうと背を向けると令嬢は私を呼び止めた。


「あ、あの! ……折角なのでお名前だけでも教えてくださいませんか? 貴方に何かお礼がしたい……です」


 この時私はこのやりとりに何処か既視感を覚えた。


「私の名は涼香です」


「涼香……珍しいお名前ですね。改めまして私はリディア・グリーディル・バートリと申します。涼香様、今日は助けて頂きありがとうございました、貴方とまた何処かで会えます様に」


 するとリディアは私に近寄ると優しく私の手を取り、そっと手の甲にキスをした。


(この国の者達はよくキスをするな、もしかしてキスは挨拶と同義なのだろうか?)


 そういう考えに至った私は失礼の無い様にリディアの手にお返しのキスをした。

 するとリディアは顔を真っ赤にし床にへたり込んでしまった。


「ありがとう、では私はこれで失礼致します」


 そうして私はリディアと別れユウを探しに戻るのだった。




「と、とんでもない人たらし……いえ吸血鬼たらしですわ……」


 そして涼香が去った後リディアは顔を赤らめると再びかけていた椅子にへたり込むのだった。






to be continued……

ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回の投稿は明日の12時を予定しておりますのでまた読みにきてくださると嬉しい限りです。


またいつも感想などをくださる皆様のお陰で私とても励みになっております。

精一杯返せる様努めておりますので是非今後ともよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
ここまで読んで、なんだかんだ一番好きなのは涼香が少しずつ人を信じられるようになってきているところですかね。吸血鬼ですが。 ユウは最初は普通に怖いし、涼香の自由まで奪っているので「いや、お前が心開いて…
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