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第11話 日陰者の集い

皆様日頃からお世話に名前おります。

有機鈴凛トマチンです。


 シルエットを女性らしく見せる為コルセットを締め上げる。

 そして滅多に着ることのないドレスを華やかに魅せるパニエを広げ、最後に着慣れないドレスに袖を通す。


 今夜はいよいよパーティの日だ。

 この日の為に私は二週間前から入念に準備をしてきた。


(私に与えられた役割はただ一つ、主人であるユウに言い寄ってくる有象無象から守る事だ)


「大丈夫、きっと……大丈夫」


 この日の為だけに用意してもらった鏡を覗くと、眉間に皺の寄った見ていられない程の怖い顔をした自分が映し出される。

 慣れない手付きで紅を指したせいか化粧が若干左右非対称になってしまっている様に感じた。


 そして髪は屋敷に来た時よりも伸びてはいたが、簪の様な装飾を付けられる程長くはなく、仕方なく形見の簪はお守りとして懐に忍ばせた。


「しっかりしろ……こんな顔じゃ余所者に舐められてしまうだろう」


 私は頬を両手で軽く叩き口角を引き上げる。


「行くか」


 そして私はユウの待つ玄関先へと急いだ。



***



「お待たせ致しました」


「っ……!」


 私が玄関へ行くと既にユウは準備を終え私を待っている様だった。


「申し訳ありません、こういった衣装には慣れておらず着替えるのに暫し時間がかかってしまいました。では会場行きの馬車も既に到着している様ですので参りましょう」


 そう声をかけるがユウからの返答がない。


「旦那様?」


 私が顔を覗き込むとユウは意識を取り戻した。


「あ、嗚呼そうだな……」


「何処かおかしなところでもありましたか?」


「いや、とても似合っている……」


 私がそう尋ねるとユウは蚊の鳴くような声でボソリと返事をしてくれた。


(ユウはやはりまだパーティの参加には消極的なのだろうか?)


「ありがとうございます、ですがずっとこのまま此処に居ては外気でお身体を冷やしてしまいますので早く馬車に乗ってしまいましょう」


 私がそう言い玄関の扉を開けようとするとユウは私に待ったをかけた。


「少し失礼する」


 するとユウは唐突に背後から抱きつかれ心臓が大きく跳ねる。

 するとユウはそのまま私の首に顔を埋めた。


(こんな急いでいる時にまさか食事を始める気なのか……?)


 私は襲って来るであろう痛み身構えていると、首筋にチクっと牙を立てられるのとはまた違う痛みが走る。

 そして意表を突かれた私はそのまま固まってしまう。


「これでよし、さぁ行こうか」


 そう言うとユウは何処か照れ臭そうな様子で先に馬車の方へと向かって行ってしまった。


「あ……旦那様待ってください」


 そして私達二人はパーティ会場行きの馬車に乗り込んだのだった。



——


『旦那様、私貴方の選んだドレスを着ます』


 あの日の晩、私はユウにそう伝えた。


 故郷を出てから約三年、私はずっと自身が女として見られる事は危険な事だと認識していた。


『大丈夫だ、君が周りから何と言われようと俺が必ず側に付いて守ると誓おう。

社交やダンスなんかより涼香の方が大切なのだから』


 だけどあの夜、それは杞憂に過ぎないのだと知った。

 そしてユウがあの時見せてくれた誠意に私は少しでも報いたいと思ったのだ。


——


 会場へ向かう途中の静かな車内。

 不快な揺れも少なく沈黙が心地良い筈なのに、先程からユウの視線が気になってしまい落ち着くことができない。


「旦那様どうかされましたか?際程から様子が変ですよ」


「……いや別に何もない」


 そう言う割には先程からソワソワと落ち着きがない。


(もしかして体調が優れないのだろうか?)


 心配になった私はユウの状態を見るべく顔を近づける。

 するとユウは急に近付いて来る私にビクリと反応しこちらに鋭い視線を向けた。


(やはり体調が悪いのだろうか?心なしか少しだけ頬が赤い様に見える)


「君は一体何をしている……!?」


 ユウにそう問われ私は返事をした。


「もしかして旦那様体調が優れませんか? 先程から私のことをずっと怖い顔で見ていらしたので、それにお顔も赤い様ですし……熱でしょうか?」


「べ、別になんともない! 放っておいてくれ……!」


 私は一瞬ここ数年程封印していた自分の力をユウを為に使うべきかを悩んだ。

 しかしユウは私の手を払うと真っ赤な顔のままそっぽを向いてしまい、その後私と目を合わせてはくれなかった。


 そうしてユウと私は再び気まずくなってしまった車内での時間を会場に着くまで静かに過ごす事になったのだった。




***




「着いたぞ」


 馬車の戸が開くとユウは一足先に馬車から降り、そして私の目の前に手を差し出してきた。


(これはモーエヴィンの授業でやった作法だ。確かエスコートする男性の手を取りドレスの裾を引っ掛けて転ばない様ゆっくりとステップを降りるんだったな)


 そして私はモーエヴィンの授業通りユウの手を取り馬車から慎重に降りる。


「行こう」


 そうしてそのままユウにエスコートされながら会場へ向かう。


「此処で君に伝えておきたい事がある」


「なんでしょうか?」


 するとユウは私にだけ聞こえる声で耳打ちをした。


「この会場ではできるだけ一人になるな、俺と離れる事があったとしても必ず人目につくところに居てくれ」


 するとユウは周囲を見回し再び私に耳打ちをした。


「このパーティには俺と同族である吸血鬼達が集う。つまり君はいつ誰に襲われ血を吸われてもおかしくないんだ」


 ユウのその言葉で私の背筋に寒気と緊張が走る。

 そして強張る私を見てユウは私の手を優しく握った。


「大丈夫だ、君は一人ではない」


「……ありがとうございます」


 その一言で私の緊張は少しだけほぐれた気がした。


 受付を済ませ共に会場に入ると会場には沢山の煌びやかな参加者達が集まっていた。

 そして会場の入口付近に居た数人のご令嬢達がユウの周りをロックオンしていたかの様に早急に取り囲む。


「あら、お久しゅうございますわヴァーミリアン様。よろしければあちらで少しお話でもいかがですか?」


「ご機嫌様ヴァーミリアン様、お元気にされていましたか?」


 そうしていつの間にかユウの周りには彼を独占しようと激しく火花を散らす女性参加者が逃げ道を塞ぐ様に集まっていた。

 そんな中私は完全に出る幕を失いユウの背後に隠れる様に立つだけになってしまう。


(さて、どうしようか……)


 するとユウは突如私の腕を掴んだ。


「すまない、お誘いはとても嬉しいのだが生憎今晩は先約が居るのでお誘いに乗ることはできない」


 そう言うとユウは私の手を引き、群がるご令嬢達を掻き分けその場立ち去った。

 そして断られた女性達は私を一斉に睨みつける。


ユウ(ターゲット)を前にした女吸血鬼というのは末恐ろしいな……)


 そして暫くユウと私は彼女達の視線から逃れる様に会場を逃げ回った。


「はぁ……ようやく巻けた様だな」


「はい……」


 私は動きにくい見た目だけの靴を履いているせいか、いつも以上に体力を消耗した気がする。


(こんなに歩き回るのならもう少し歩きやすい靴を履いて行くべきだったな)


「もしかしてユウか?」


 そう後悔していると不意に背後から声をかけられる。

 私とユウが警戒しながら振り返るとそこにはとてもフランクに手を振る銀髪赤目の好青年が立っていた。


「今回はきちんと出席している様で何よりだ」


「お久しぶりですカイン様」


 すると今まで頭すら下げたことの無かったユウが首を垂れる。


「相変わらず他人行儀だな君は、昔からの付き合いなのだから敬称なんて付けずにもっとフランクに来てくれてもいいんだぞ」


「そういう事は公の場でする事ではありませんので」


 するとカインと呼ばれていた青年は私の存在に気がついた様子で、品定めをする様な目線を私に向ける。


「おや、ユウが女性を連れているとはこれまた珍しい」


「ご紹介致します。彼女は涼香、俺の連れであり将来を共にと考えている俺のかけがえのない存在です」


「ふむ」


 ユウにそう紹介され私はモーエヴィンに習った通りに頭を下げる。


「お初にお目にかかりますカイン様」


 するとカインは一瞬目を細めた後、私に向けて自己紹介をしてくれた。


「初めまして、僕はカイン・ロザリア・ヴァレリス。この国でユウと同じく政治家をしている」


 そう言い頭を下げた後、カインの雰囲気がガラリと変わる。


「よし、挨拶も済ませたのだし、もう堅苦しいのは無しだ! だから今宵は目一杯楽しもう!」


 するとカインは私の前に右手を差し出した。


「もしよければこの後一曲僕と踊ってくれませんか?」


「勝手に俺の連れに絡まないでください」


 私を巻き込もうとするカインをユウは牽制する。

 するとカインは唐突に距離を縮めると私に耳打ちをしてきた。


「実はユウは昔っからあんな感じだから頭や顔が良くても女の子が怯んで声を掛けられない程の堅物吸血鬼なんだよ」


「丸聞こえですから、それと涼香に変な事を吹き込まないで頂きたい」


 そう言うとユウは私をカインから引き離した。


「すまない、普段はこんな風に振る舞われる方では無いのだ」


「いえ、私は気にしておりませんのでご心配なく」


「残念、もう少しでユウの化けの皮を剥がせそうだったのに」


 するとユウは私の手を掴みカインの元から離れる。

 私は後ろを振り返り軽く会釈した後、ユウに連れられるがまま再び会場を歩き始めたのだった。






「いやーユウも案外侮れないね。まさかあの堅物吸血鬼が生娘一人にあそこまで執着するとは……」


 カインは先程涼香と接近した際にドレスの襟からチラリと覗く魔力の込められた酷く独占的な朱い印に気が付いていた。


 その朱い印は古来より吸血鬼が行うマーキングの一種だ。

 古くはお気に入りの餌だと周囲の吸血鬼に知らしめる為に使われる事が多い(まじな)いだった。

 しかし昨今では独占や愛情の証として恋人や配偶者、契りを結んだ者にのみ施す場合が殆どだ。


「彼女はもうユウから逃げられない(・・・・・・)だろうね」


 だがそんなカインの小さな独り言は会場の喧騒に掻き消され誰の耳にも届く事はなかった。







to be continued……

ここまで読んでくださりありがとうございます。


今週8月11日からお盆休み強化月間ということで、8月11日、そして8月13日から8月16日まで「吸血鬼ユウの御意のままに」を毎日投稿させて頂くことになりました。


次回の投稿は8月13日です。

楽しみにお待ちください。

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