第55話 (コンフィの章)コンフィと呼ばれた日
女装剤(ある女騎士の事情)
第55話です。
今回は、大型休暇のピクニック回……なのですが、
少しだけ、コンフィの過去と、
母ビゼットとの関係のお話になります。
これまであまり語られなかった
バリヤージュ家の事情や、
母の本当の気持ちなども出てきます。
少ししんみり回ですが、
コンフィにとって、とても大切な一日のお話です。
••✼••大型休暇後半••✼••
・⋯━☞バリヤージュ邸☜━⋯・
今日は、待ちに待ったぴくにつくぅ♪
母ビゼット・アン・バリヤージュが提案してくれた
催しなのだが、正直困っている。
元聖騎士の息子として生まれたコンフィには、
こんな催しなどとは無縁だった。
すごく新鮮で、ウキウキしている自分に
驚きながらも「楽しむ」という概念を覚えた。
お弁当や小荷物などは、マジックバッグに。
服装は普通のロングドレスのはずが、
どこか軽装具が着いてちゃってたりする。
肩当やら肘当てやら膝当てやら……
ほとんど手ぶらだが、肩当や肘当て、
膝当てなどを着けた
アザミ女騎士団隊員たちがゾロゾロと歩く姿は、
やはり女騎士団そのものだった。
「アンビショーネお嬢様、せっかくのピクニック
なのですから、もっと楽しんでみては?」
「そうですわねぇ……確かに楽しい?のでずが、
騎士たるもの、本当にこれで良いのか?と。」
「ううむ。まったく……
血の気の多いと言いますか、
困った、お嬢様ですわね?
奥様のお計らい、無駄にしませぬように」
「わかってますってば(汗)」
「わかってますわぁ」
そうなのだ。
今回の、この催し。
母ビゼットがコンフィのために計画したもの。
いや、元々女の子が欲しかったという母だ。
たまには、女の子らしいコンフィと、
過ごしたかったのだろう。
「アンビショーネ、もう少しゆっくりと……
歩いてくれませんか? はぁ…はぁ…はぁ…」
「!!……お母様! 申し訳ありません(汗)」
「申し訳ありませんですわ!」
パタパタパタッ……
コンフィは、慌ててコンフィたちと遅れて歩く
母ビゼットのもとへ急ぐ。
「さ! 手をお取りになってお母様!」
「お取りになってー」
「ありがとう アンビショーネ……すん…すん…」
「∑(Ⅲ ̄□ ̄) お、お母様っ?!」
「お母様ぁー!」
「「「「?!……奥様ぁ!?」」」」
コンフィが母ビゼットの手を取った瞬間!
母ビゼットは、突然嗚咽を漏らす。
そんな母ビゼットを見て、ギョッ!となる。
どうしていいのか分らず、アタフタなコンフィ。
「お、お母様? どうされたのですか?!
どこか、痛くしましたか? お母様?」
「どこか痛い?」
「すん…すん……いいえ、そうではないのです
わたくしは、嬉しくて、嬉しくて……」
「はえっ?!……う、嬉しい?」
「はえー?!」
「まさか、こんな日が来るなんて……」
「こんな日?…………はっ!」
「……え?」
その時、コンフィの中に走馬灯のように、
子供の頃の記憶が蘇る。
………………
…………
……
••✼••追憶••✼••
コンフィがまだドゥーク少年だった頃。
父、ゴヴェルノ・アグア・バリヤージュは、
元聖騎士だった。
その誇りなのか見栄なのかは知らないが、
王宮近衛騎士団の相談役と称して、
一緒になって訓練に参加。
母ビゼットから言わせれば、「大人の遊び」だ。
母ビゼットは、そんな父を軽蔑していた。
過去の栄光にばかり走り、家庭を顧みない。
自分の趣味に走り、剣を振る姿など、
見たこともなければ、見たくもなかった。
しかし、それももうすぐ終わる。
長男へレダー・ラボロ・バリヤージュが、
16歳の大人になれば、きっと……
だが、そんな母ビゼットの期待は、
大きく裏切られた。
父ゴヴェルノ・アグア・バリヤージュは、
長男のへレダーに領地運営を全て丸投げし、
自分は、
「近衛騎士団を育てて欲しい」
との国王から言われた事を大義名分とし、
堂々と、王宮へ毎日のように出掛け、
朝の食事すら、共に食べたことが無かった。
そんな暮らしが、数十年も続いたのだ。
母ビゼットは、一人寂しかった。
ドゥークも成人となると、
ストローム騎士団をストロームと共に発足し、
屋敷には一切戻らなくなった。
益々、孤独となる母ビゼット。
そんなある日のこと……
今からちょうど4ヶ月ほど前に、
ドゥークはバジリスク戦で足を石化負傷し、
騎士生命は絶望とされたところで、
母ビゼットは、隠し持っていた「女装剤」を
ドゥークに飲ませ、怪我は全快。
しかし、48歳の息子が、
見た目16歳の少女へと
変身してしまったのだから、
母ビゼットは大手を振って喜んだ。
だが、ここで大問題が発生する。
女装剤とは、禁忌の薬とした、
国王テイダー・レビィ・マイーヤは……
大魔女ラカ、並びに、魔女が作った、
「呪の薬(通称︰女装剤)」は、
精製の禁止。
所持の禁止。
使用の禁止。
売買の禁止。
これらを、国全体への箝口令とした。
これを破れば、高位貴族といえども、
お家の取り潰し。
連座制により、その家族、また、
親戚にまで罪に問うと言う厳しいもの。
だが、母ビゼットは、女装剤の使用に
躊躇いなど無かった。
騎士となった息子とはいえ、愛していたのだ。
そして母ビゼットは、ドゥークに、
「アンビショーネ」と名付け、
アンビショーネは、自らを名付けた名前、
「コンフィ」をミドルネームとし、
アンビショーネ・コンフィ・バリヤージュとなる。
だがしかし……
コンフィは、女となっても、
「騎士になる!」
と言って聞かなかった。
だが、そんなバリヤージュ家の事情を、
諜報員の目にて見ていた王妃、
プミレーニェ・マハーレ・マイーヤは、
突然、母ビゼットを王宮へ呼び出す。
そこで、王妃と母ビゼットが交わしたのは、
ある、とんでもない契約だった。
コンフィのために學園に再興した、
「女騎士学部」
に通わせて、女騎士として育てると同時に、
淑女としても、次期王妃としても教育させる。
つまりは、
「第一王子との婚約」
を、させることだった。
それさえ守れば、女装剤の所持、使用、売買
などについては有耶無耶にし、
一切を罪に問わないとしたのだ。
母ビゼットには、断れるはずがなかった。
自分一人だけでなく、家族や親戚にまで、
連座制で罪に問われることになるのだから。
結局は、王妃の企みに手を貸すこととなり、
コンフィを、まったく思い通りにできない。
せっかく、女の子ができたのに、
女同士で、キャッキャッウフフな時間を
過ごしたかっただけなのに、
そんな日は、今日まで1日も来なかった。
••✼••追憶終わり••✼••
……
…………
………………
でも、今日はこうして、
アザミ女騎士団とメーべを入れて、
20人もの女の子たちに囲まれることとなり、
この人生にて、初めて楽しく過ごせたことに、
嬉しくて涙したのだった。
「……お母様、今まで……ごめんなさい」
「ごめんなさーい……」
「うぅん いいのよ
わたくしも、貴女には今まで、
辛い思いをさせてしまったわね?」
「あっ!……いいえ……そんな」
「いいえ~」
母は、疲れきってしまったのか、
静かにその場へ座り込んだ。
その姿は、昔よりもずっと小さく見えた。
この時、コンフィの中で記憶が蘇る。
すぐ下の弟が生まれたばかりの頃、
母ビゼットに、
「騎士となって、皆を守る」
と言ったのだが、母ビゼットの反応は……
「あなたも女の子だったら良かったのに…」
そう言われ、酷く傷ついたことを。
だが、今は女の子になってしまったが、
こうして女騎士団団長となり、
一応は、
「騎士団を起こし団長になる」
という夢は叶った訳である。
思い起こせば、
いつも、厳しい表情の母。
一人、部屋で涙を流す母。
この、二つの顔の母しか見た事がなかった。
でも、今日の母は、とても穏やかな表情で、
どこか、ホッとした様子にも見えた。
「今日くらい、母の夢を叶えてあげたい。」
そう、思ったコンフィだった。
「さあ、お母様?
もう少し行くと、ちょうど良い木陰になった
小さな丘がありますわ」
「丘がありますわ」
「ああ、そうでしたわね
じゃあ、もう少し頑張りましょうか
……よぃ、しょっと」
「ん……!」
この時、コンフィは母の手を引いて思った。
「なんて、軽さなの……」
「ほら、わたくしの腕に掴まってください」
「うふふ 大丈夫よ? ありがとう」
「いえ、でも、無理はしないでくださいね?」
「無理はしないでー」
「うん ありがとう……………………コンフィ」
「こんっ!…ありがとう…御座います…お母様」
「ありがとう~」
コンフィは、そんな母の、
かすれて、消えてしまいそうな小さな声に、
刃物で胸を刺される思いをしたのだった。
ぐぐぐっと、胸を締め付けられる。
胸の奥が苦しい……
目の奥が熱い……
口の中が涙で塩っぱい。
コンフィは、母を力いっぱい抱きしめたい
気持ちにかられるが、ぐっと堪える。
そんな事をすれば、か弱い母は……
この日このとき、母の愛を感じたのだ。
そして、そのまましばらく歩く。
………………
…………
……
「……! あら
何を泣いてるの? コンフィ」
「い……いえ……ふぅうぅ……ん……」
コンフィは、涙を止められなかった。
母が、こんなにも小さく見えるなんて。
とても頼りなく、そして愛おしく。
こんな事では、女騎士団団長として威厳が……
でも、今だけは、この心のままに、
素直になりたい気持ちでいっぱいだった。
初めて、學園へ連れて行かれたときは、
母は、自分の事しか考えていないものと。
身勝手な父と同じだとさえ、思っていた。
なぜ、もっと早く気づけなかったのか……
母の、この気持ちに……本当は、本当は、
こんなにも、こんなにも、わたくしを、
愛してくれているではありませんか。
「い、いいえ……なんでも……御座いませんわ」
「御座いませんわ……大丈夫ぅ?」
「ふふふ まったく、泣き虫さんね?
小さい頃と、ちっとも変わってないわね?」
「ひぃいぃいぃん……お母様……お母様……
すん…すん…ひぃいぃん………」
「……」
「ほらほら! 可愛いお顔が、
涙と鼻水で、大変よ?」
「えぶっ……ぶぶっ……ぶしゅ」
「……」
母ビゼットは、ハンカチを取り出すと、
涙と鼻水で洪水状態のコンフィの顔を、
優しく拭いてくれるのだった。
「クスクスクスクス……ほら、綺麗になった!」
「ひぃいぃいぃん……っふぅ……うん」
「「「「…………」」」」
コンフィは、母ビゼットに、
初めて、「コンフィ」と呼んでもらえたことに、
部下たちの前なのに、恥じることも忘れて、
すごく嬉しくて涙したのだった。
初めて、自分を認めてもらえた気がして……
コンフィは、小さくなった母の肩に、
そっと頭を乗せて歩く……。
すると母も、そんなコンフィの頭を
優しく撫でながら、小さく笑うのだった。
この日、初めて母に甘えたコンフィであった。
それは――
コンフィ四十九回目の、暑い夏の日のことだった。
第55話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、コンフィと母ビゼットのお話でした。
今まであまり表に出てこなかった母の気持ちや、
コンフィの子供の頃の記憶などを書いてみました。
強くて立派な女騎士団長のコンフィですが、
母の前では、やっぱり子供なんだなぁと、
書いていて思いました。
コンフィが初めて母に甘えることができた、
そんな一日のお話でした。
次回は、ピクニック本番(?)になります。
また少し賑やかな回になると思いますので、
よろしくお願いします。




