第26話 (コンフィの章)騎士を続けたければ、淑女になれ
いつもお読みいただきありがとうございます。
第26話です。
物語も少しずつ深みを増し、それぞれの想いが静かに、けれど確実に動き始めました。
今回はその「揺らぎ」の回になるかもしれません。
どうぞ、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。
これは、コンフィが自分の女騎士団を、
設立する前のお話。
ビオラからの、ピオニー女騎士団への
入団の誘いを断ったすぐの頃である。
・⋯━☞バリヤージュ侯爵邸☜━⋯・
「ふん……嘆かわしいことですわね」
ある女騎士の母親、
「ビゼット・アン・バリヤージュ」
侯爵夫人(78歳)だ。
豪邸の窓から外を、
恨めしそうに見つめながら呟く。
屋敷の外には、
ドレスアーマーを装備した、
白金の縦ロール髪をなびかせる少女が、
大きな長剣を背中に背負って、
屋敷の門を出て駆けて行く。
ここは、バリヤージュ侯爵邸。
なんと、コンフィの生家である。
コンフィは侯爵家の次男坊だった。
しかも、男性だった頃の名前は
「ドゥーク」だった。
「コンフィ」とは、
ドゥークが自ら付けた名前である。
自分よりも若くして騎士団長となった
グラムレスに対抗心がを持つ彼は、
女に変身されられ女騎士になった頃、
王からの指示で、「女騎士団」の再興の
報せが届いた時には、グラムレスは既に
「ピオニー女騎士団団長」として、
世に出ていたのを知る。
そこで、ビオラに対立して、
「コンフィ(対立)」と名乗ることとなる。
だが、本当の名前は、母親が勝手に決めた
「アンビジョーネ」なのである。
したがって、コンフィの本名とは、
「コンフィ」が、ミドルネームとなり、
アンビジョーネ・コンフィ・バリヤージュ
と、なった訳である。
コンフィは、物心ついた頃から、
聖騎士に憧れていた。
騎士学部で學園を卒業と同時に、
当時設立したばかりの、
「ストローム騎士団」へ入団。
ストローム団長とは同期であり、
常にライバル心を抱えていたが、
副団長にまで上り詰めたはいいが、
バジリスク討伐戦で、右足を石化される。
その報せを受けた、
実母のバリヤージュ侯爵夫人は、
秘蔵の魔法薬をドゥークに飲ませる。
バジリスクにより石化した部分は、
「エリクサーもしくは、
秘蔵の魔法薬でしか治せない」
と偽り、「魔女の呪の魔法薬」
を飲ませたのだ。
「魔女の呪の魔法薬は完全回復する」
という効果は本当だった。
確かに、息子のドゥークの足は、
完全に元の足へ戻った。
だが、翌朝になって目が覚め、
気がついたドゥークは、
体の異変に気づく。
見知らぬ少女がいると、
屋敷中大騒ぎとなり、
侍女たちに取り押さえられた。
そりゃそうだ。
48歳のバリヤージュ侯爵家次男が、
見た目16~17歳の超絶美少女へと、
姿を変えてしまっていたのだから。
後に、バリヤージュ侯爵夫人は、
ドゥークの名前を、
「アンビジョーネ」と、改名したのだ。
また、
「アンビジョーネ」
とは、(野心)の意味があるそうだ。
「コンフィ」を、
ミドルネームと残したのは、
母であるバリヤージュ公爵夫人の、
優しさなのか……
それとも縛るための足枷か。
バリヤージュ侯爵夫人の掌の上で、
踊らされているコンフィであった。
なぜ、バリヤージュ侯爵夫人は、
自分の息子を女の子にしてしまったのか?
その訳は、バリヤージュ侯爵夫人は、
女の子が欲しかったようだが、
なぜか生まれてきたのは男ばかり。
バリヤージュ侯爵は喜んだが、
バリヤージュ侯爵夫人は、
娘を諦めきれなかった。
母親として、娘を着飾り淑女として、
育てる事が夢だった。
女の子養子を迎える話もしたようだが、
バリヤージュ侯爵に強く拒否された。
所詮は政略結婚のバリヤージュ侯爵夫婦。
2人に、愛などなかった。
それから数十年。
バリヤージュ侯爵夫人は、
虚無感に苛まれる人生だった。
ところが、
ドゥークが騎士団による魔物討伐戦で、
大怪我をしたとの報せを受ける。
そこで、バリヤージュ侯爵夫人は、
密かに手に入れていた
「魔女の呪の魔法薬」を、
ドゥークに使うことを決意した。
元々は、自分のために、
使うつもりだった魔女の呪の魔法薬。
「男性が飲めば女性化」と言われ、
「女性が飲めば若返る」と言われる。
そんな薬が世に出回れば、
この国が混乱の渦に……
そう懸念されたがために、国王から
国全体に敷かれた箝口令だったが、
時すでに遅し……
いつしか「魔女の呪の魔法薬」は、
「女装剤」と呼ばれるようになるほどに、
有名な代物となっていた。
しかも、エリクサー並の回復効果!
今では手に入れる事が難しいエリクサー
同等の回復効果に加え持病も治り、
女性が飲めば若返るのだから、
手に入れようとするのは必然である。
そう。バリヤージュ侯爵夫人は、
女装剤とは、
「男を女へ変身させる薬」
の呪い効果の外にも、
「若返りの薬」
としても、認識していたのだ。
ところが、自分以外に使う羽目となる。
バリヤージュ侯爵夫人は、
元々女の子が、欲しかった。
なら、使わない手はない。
バリヤージュ侯爵夫人にとって、
ドゥークに女装剤を飲ませる事により、
石化した怪我も治し、ついでに、
「娘ができる。」
まさに、一石二鳥であった。
つまりは、コンフィは、
実の母親に嵌められたのである。
そう。着せ替え操り人形にするために……
だがコンフィは、腐らなかった。
まだ、聖騎士の夢を諦めなかった。
その結果、いろいろゴタゴタはあったが、
今では、「アザミ女騎士団団長」
として、剣を握っているのである。
バリヤージュ侯爵夫人も、
娘に剣を握られることを許したとはいえ、
そのためには条件を与えていた。
「成るからには剣と淑女を極めなさい」
それが、実母バリヤージュ侯爵夫人から
コンフィへの突きつけた言葉だった。
つまりは、騎士として極めるならば、
「聖騎士を目指す」
そして、淑女として極めるならば、
「王妃を目指す」
と、いうことである。
もちろん、それには異論はなかったコンフィ。
聖騎士にさえなれれば、
国王に次ぐ発言権がある。
王妃になどならなくても、
母親の望みは叶えられるはずだと、
考えていたのだ。
なのでコンフィは、
淑女としての振る舞いと、そして、
聖騎士としての威厳と厳格を極めるべく、
妥協は許されなかった。
コンフィにとって、
バリヤージュ侯爵夫人とは、
母であり、命の恩人であり、
そして神なのである。
逆らえるはずがなかった。
今は……。
そして今日。
コンフィは、実家となる、
「バリヤージュ侯爵邸」へ来ていた。
・⋯━☞侯爵邸正門前☜━⋯・
「ただいま……」
「これはお嬢様! お帰りさないませ!
す、すぐ、すぐに門を開けますから!」
『なんで、そんなにビビってるんだ?
もういい加減、慣れて欲しいものだ』
ガッチャン!……
ドゥウゥウゥ……カツン!
「さっ、ど、どうぞ!」
「……ありがと」
コツン…コツン…コツン……
屋敷の門前広場にヒールの音が響き渡る。
この、見た目は、
白金髪縦ロール(母の趣味)に狐目で、
厳しい表情の超絶美少女なのに、
悪役風姉御肌令嬢は、この侯爵家の次男。
その名も、「ドゥーク」、
改め、「コンフィ」という。
「次男?」
という疑問形の声が聞こえてきそうだが、
本当に本当にのお話。
実は、この彼も「女装剤の被害者」
の、1人だったりするのだ。
(お母様のせいですわ!)
元々彼は……いや、彼女は、
今の容姿になる前は、
48歳ブクブク髭面ツルッパゲデブオヤジ
……だった。
まったく、騎士にあるまじき姿だ。
この頃のドゥークは、
夢を諦めかけていた。
そのせいか、どんどん太ってしまった。
そう。聖騎士になる夢を。
なのに今は、誰が見ても悪役令嬢!
今では、
「悪役騎士団白金縦ロール団長令嬢」
とまで呼ばれる始末。
屋敷では、侍女たちには可愛がられ、
執事たちには恐れられ……
これも悪役令嬢ばりな顔のせいか?
その根拠は如何に?
実は、彼女は、自覚はまったくない。
黙っていても圧を感じる程の鋭い眼光と、
母親仕込みの淑女たる言葉使いが、
第一印象で既に悪役令嬢を連想させる。
また、ゆっくりとしたテンポの、
一言一句を丁重にとり、
穏やかなトーンで話しているのに、
なぜか、キツイ印象を与えてしまうのは、
やはり悪役令嬢の鏡といわんばかりの、
その見た目だろう。
立てば綽然、
座れば異端、
歩く姿は悪役令嬢。
悪役令嬢っぷりを醸し出す彼女だが、
決して、本物の悪役ではない。
元はストローム騎士団の副団長を務め、
ふてぶてしい見た目とは裏腹に、
とても部下想いなオッサンだった。
ところが、母親に女装剤を飲まされ
「少女化」した今では体は若く軽くなり、
スイスイ動けるようになると、
聖騎士への夢を追うことを再開したのだ。
また、母親に対して熱く語ったばかりに、
次の日には、思いもしなかった場所へ
連れてこれられてしまったのだった。
・⋯━☞馬車の中☜━⋯・
カッポ! コッポ! カッポ! コッポ!
「そろそろですわね……」
「あの……お母様、いったいどちらへ?」
「とっても、いいところよ!」
「…………(汗)」
不安で仕方がないコンフィ。
窓にはカーテンが閉じられ、
外の景色を見ることができなかった。
感覚としては、王宮に近いようだが、
コンフィは、薄々察してしまっていた。
そして……
「どぉー! どぉどぉ!」
「クワァ!……グワゥ……」←(従魔)
ガタン!
(馬車が止まる)
「着きましたわね」
「……」
「さあ、降りましょうか?」
「……は、はい」
カチャ!……
「?!……こ、ここは!!」
・⋯━☞マイーヤ王宮學園正門前☜━⋯・
そこは、マイーヤ王宮學園だった。
ガタッ!
(馬車の中で立ち上がるコンフィ)
「お母様! どうして……
わたくしは、聖騎士になるため騎士団に」
「お黙りなさい!」
「うっ……」
「約束でしたわよね?
貴女が女騎士になることを許す代わりに、
立派な淑女になるために、
淑女教育を学ぶことを条件に……と」
「で、ですが……」
「お黙りなさい!」
「あうう……あんまりです、お母様
わたくしはもう、48歳になりました!
今更この歳になって、學園になど……」
パチン!
(扇子で自分の手を叩く夫人)
「アンビジョーネ?」
「!……はい」
「貴女は、女として生まれ変わったのです」
「……」
「年齢などわたくしの財力と権限で、
どうとでもできます。
それよりも貴族の娘として
淑女教育を受けるのは責務」
「ですが、なにも學園などに通わなくても、
家庭教師で十分ではないですか!」
「あら、本当にそうかしら?」
「……え?」
「屋敷に居ても勉強もせずに剣を振り、
屋敷に居なければ居ないで、
騎士団施設から戻らなくなる……」
「くっ……」
「そんなお調子で、いつ家庭教師から
淑女教育や学問を学べると言えますの?」
「んっ!……ううん……」
ストン……
(椅子に座るコンフィ)
「この學園で、淑女としての教育を
学ばないと言うのでしたら、
わたしくは貴女を騎士になることを、
絶対に許しませんからね」
「!!……わかり……ました」
「よろしい うふふふ
いい娘ね、アン?」
「……はい お母様」
こうしてコンフィは、
マイーヤ王宮學園へ通うこととなった。
第26話、いかがでしたでしょうか。
少し静かな展開でしたが、この積み重ねが後の大きな波になります。
女騎士たちの選択が、これからどんな未来を紡ぐのか……。
感想や応援、とても励みになっております。
次話も準備しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




