↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

暴食Ⅱ その2『ロナンの町』

「ぜえっ、はぁっ、や、やっと着きました⋯⋯」

「ナージャ、大丈夫か?」

「はい、なんとか⋯⋯うう、クラクラします⋯⋯」

「姫様バテバテだわさ。ほんと体力ないケロねえ」

「やんごとなきお立場なのだ、致し方あるまい」

「まあ、結構歩いたもんな。北の町ロナンか⋯⋯」


 息も絶え絶えな貧弱王女に手を貸しながら、ミライは一望を眺めた。草原を歩いてニ時間。たどり着いたのは長閑(のどか)な田舎町だった。


「⋯⋯いい風だな」


 柵の中で群れる牛や羊。稲穂が波打つ金色の海。

 小屋で回る水車が風景にスローをかける。覚えのないノスタルジーが琴線を撫でるようだった。


「あ、うぷ。ちょ。ちょっとまずい、です。少し気分が⋯⋯」

「直ちに宿の手配を致します! 姫様、もう暫(しば)辛抱を!」

「ひ、姫様! さすがに宿までは耐えるケロ! それは一国の姫としても女としてもアウトだわさ!」

「だ、大丈夫。ナージャ、負け、ません。あでもミライくん少し背中を擦って優しくお願いします⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯はい」


 なおノスタルジーは秒で死んだ。

 向こうは甘やかしたいらしいが、こっちは多少厳しく行こう。ミライはひっそりと決意した。



◆



「んはぁ⋯⋯部屋の隅⋯⋯このじっとり感⋯⋯どうしてこんなにも心落ち着くんでしょう⋯⋯生を実感しますう」

「おい一国の姫」


 決意は秒で施行された。宿の部屋に入るなりこれである。安い宿の床など掃除が行き届いてないだろうに、ナージャはべっとり倒れ伏す事にまるで躊躇(ちゅうちょ)がない。

 しなだれる肢体は羽織り衣の薄さもあって妖艶ともいえたが、想像以上のだらしなさに劣情以前に呆れるばかりだった。


「姫様。不逞の輩の前で、そのように隙を晒されるのはいささか」

「誰が不逞の輩だよ」

「貴様に決まっているのである! いやらしい眼付きで姫様を凝視しおってからに!」

「どっちかっていうと冷めてんだけど。鏡出して確かめてやろうか、今此処で!」

「あー⋯⋯ひんやりして気持ちいい⋯⋯やはり過ごすならば屋内に限りますね⋯⋯あふ」

「はぁ。このぐうたら感、王宮に居た頃とまるで成長してないんだわさ⋯⋯」


 男性陣の口論などどこ吹く風で、今までの分を取り戻すかのようにだらけるナージャ。骨の髄までインドア気質なのだろう。そんな姿に今更幻滅したりはしないミライだが、零れる溜め息までは止められなかった。


「もうこの際ナージャは置いとくとして、これからどうする。早速問題発生してたけど」

「ケロ。その問題って、さっきのアレのことケロ?」

「ああ。ダストンさんも見たろ。この町の西門に、なぜか駐留してる"帝国軍"。あれじゃあ共和国方面には行けないんだろ?」

「うぬぬ⋯⋯」


 怠惰な王女によって緊張感に欠けてはいるが、現在の彼らは難題に悩まされていた。

 そう。帝国の支配領土外であるはずのロナンには、居るはずのない帝国の軍人達が駐留していたのである。

 咄嗟に隠れ、彼らに見つからずに宿へ来れたのは幸いだったが、意図せず目指すべき進路を塞がれた形となっていた。


「西門ってことは、多分⋯⋯」

「ケロ。十中八九、こっちを待ち構えている感じがするだわさ。規模からして一個小隊って所けども、困った事になったんだわさ」

「ぬう。しかし追手にしては脚が速すぎるのである。たまたま居合わせた軍という可能性もあるが」

「んー、追いつこうと思えば追いつけたかもしれないケロね。行き先を気取られないように遠回りもしちゃったから⋯⋯」

「先回りされた可能性が高い、か。たまたま居合わせた他の部隊ってのも無くは無さそうだけど」


 憶測を巡らせるにしても、決定打たる情報が無い。

 どちらにせよ西門を越えるのは難題だが、帝国軍が何を目的としてこの町に居るのかは重要だろう。

 偵察(ていさつ)は必要不可欠だった。


「やっぱり俺が、町の人に話を聞いてみるべきだよな」

「どうして貴様でなければならぬ」

「顔が割れてるかもしれないダストンさんとナージャじゃまず無理だろ。ケトルンも論外だし」

「論外とは心外だわさ。でも、あーしじゃどう頑張っても目立つケロね」

「だが帝国の者共が、"捕縛したカガミの二人"を回収したのであれば、貴様の顔も割れてるのである」

「確かに。でも⋯⋯カガミといったら、三頭蛇のピアスに黒法衣だろ。その先入観はどうしたって強いから、俺が一番バレにくいはず。違うか?」

「⋯⋯む」


 白髪に赤い目という特徴もあるが、小屋から拝借した黒い上着にはフードが付いていた。目深く被れば気付かれる確率は一層下がるだろう。消去法で考えれば、やはり情報収集にはミライが一番適しているのだ。


「⋯⋯それに、俺の顔、割と地味だし」

「⋯⋯であるか」

「⋯⋯だわさ」


 なんとも虚しい決定打を自ら押したミライに、流石のダストンも哀れみでもって目を逸らすしかなかった。




◆



「⋯⋯わ、わたしは、綺麗で整ってる顔立ちだと思いますけど⋯⋯」

「⋯⋯姫様。せめてそういうことはミライが行く前に言ってあげるべきだわさ」


 時間差で告げられた王女からの好評を、本人の耳に入らなかったのは、なんとも不幸な事である。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。