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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
八章 Return 11月

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第97話 池田の推理

次の日も。

茜は学校を休んだ。

そして放課後。

茜がいないせいか、

若干元気のない洋が

「今日はまた留守番だぜ」

と一足先に教室を出ていき、

それなら俺達も

真っ直ぐに家に帰ろうと

翔太と話していた時だった。

俺はまた池田に絡まれた。


「ちょ、ちょっといいかな・・?」

振り返ると、

池田が申し訳なさそうな顔をして

立っていた。

翔太は俺と池田に

交互に視線を送ってから、

「じゃあ僕は先に帰るよ。

 あっくん、

 また明日」

と言って、

そそくさと教室を出ていった。


池田は周りを

キョロキョロと窺っていて、

一向に口を開く気配がなかった。

どうやら。

人に聞かれたくない話のようだ。

場所を移すかと提案しようとして、

俺は屋上が封鎖されていることを

思い出した。

子供達が次々と教室から出ていく。

その中には当然、

奥川の姿もあった。

奥川は数人の女子生徒と一緒だった。

ちらりと見えた奥川の笑顔に、

俺はほんの少しだけ

気持ちが軽くなった。

相馬は相変わらず1人だった。

教室から出る際、

彼女は一度足を止めて、

振り返った。

そして。

俺と池田にさらりと視線を投げると、

「サヨナラ」

と呟いた。

それから。

俺達の返事を待たずにドアを閉めた。

教室には俺と池田だけが残された。


「話ってなんだ?」

俺は気を取り直して、

池田に話を促した。

「う、うん・・。

 そ、その・・。

 さ、猿田先生の、

 い、遺書のことなんだけど・・」

池田はそう呟いて俯いた。

「お前も案外しつこいな。

 ボス猿の遺書がどうしたんだよ?」

「あ、あの遺書って、

 ほ、本当に・・。

 さ、猿田先生が書いたのかな・・」

池田がどうしてボス猿の死に

こだわっているのか、

俺には不思議だった。

「ま、前に話した時・・。

 じ、事故の可能性がないことは、

 き、君も納得したよね・・?」

俺は無言で頷いた。

「あ、あの時・・。

 き、君は・・。

 う、噂と同じ自殺説を支持して、

 ぼ、僕は・・。

 た、他殺の可能性を模索した・・」

「そして。

 噂を裏付ける遺書が見つかり、

 お前の他殺説は否定された」

俺は、

小学生が「模索」なんていう言葉を

使うだろうかと疑問を抱きつつ、

池田の言葉の後を継いだ。

「だ、だけど・・。

 い、遺書が出てこなければ、

 じ、自殺とは断定できなかった・・」

「お前はあの遺書が、

 偽物だと言いたいのか?」

俺は池田が考えそうなことを代弁した。

池田は力強く頷いた。

常におどおどしている池田にしては

珍しく自信に満ちた表情だった。

「は、葉山さんを・・。

 こ、殺した動機にしても、

 し、信じられない・・。

 か、彼女が妊娠していたのかは、

 い、今となっては、

 わ、わからないわけだし・・」

確かに。

事情を知らない人間ならば、

そう考えてもおかしくはない。

しかし。

妊娠は事実で、

それを知りえるのは、

葉山を殺した犯人だけなのだ。

つまり。

ボス猿の遺書は本物。

「そ、それに・・。

 も、もし本当に、

 じ、自殺するのなら・・。

 こ、校舎の屋上から、

 と、飛び降りるよりも・・。

 も、もっと確実な方法や場所を、

 え、選ぶんじゃないかな?」

「それを言い出したら。

 他殺だって否定されるだろ?

 人を殺すなら、

 もっと確実な方法や場所を

 選ぶだろ?」

「だ、だから・・。

 は、犯人はそんなことまで、

 か、考えてなかった・・。

 そ、そう思うんだ・・」

俺の指摘にも池田は怯まなかった。

「人を殺そうとする奴が、

 そんなミスをするか?」

「は、犯人は

 こ、この学校の・・。

 せ、生徒なんじゃないかな・・」

それが池田の出した結論だった。

確かに。

池田は子供にしては鋭い。

しかし。

その推理は間違っていた。

ボス猿が死んだあの時間、

学校に残っている生徒はいなかった。

それはつまり。

生徒全員に

アリバイがあるということだ。

だが。

俺はそれを

池田に話すつもりはなかった。

「なぜ生徒がボス猿を殺すんだ?

 確かにボス猿は嫌われていた。

 でも嫌いという感情だけで

 人を殺したら、

 この世は人殺しばかりになるぞ」

「こ、これは僕の推測だけど・・。

 そ、それは噂のせいじゃないかな?

 い、以前・・。

 が、学校に流れた噂で、

 こ、子供達の多くが、

 は、葉山さんを殺したのは、

 さ、猿田先生だと考えた・・」

「・・それで?」

俺が流した噂の狙いを言い当てた

池田の話に、

俺はもう少しだけ付き合うことにした。

「は、犯人は・・。

 は、葉山さんの敵討ちのつもりで、

 さ、猿田先生を、

 こ、殺したんじゃないかな?」

「敵討ちか・・。

 それで?

 その犯人の見当はついてるのか?」

「そ、それは・・。

 い、今はまだ・・。

 わ、わからないけど・・」

池田は口籠った。

「お前・・。

 小説家になれよ」

「ぼ、僕には・・。

 む、無理だよ・・」

池田は悲しげに呟いた。

「は、話を聞いてくれて・・。

 あ、ありがとう・・」


池田が教室を出ていってから、

1人残った俺は、

ベランダに出た。

校庭で数人の子供達が遊んでいた。

しばらくすると。

池田が校舎から出てくるのが見えた。

池田はゆっくりと校庭を歩いていた。

その後姿は、

どこにでもいる小学生だった。

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