第91話 知らなくていいこと
11月13日。月曜日。
この日の朝、
臨時の全校集会が開かれた。
校長の勅使河原が、
重々しい足取りで朝礼台に上った。
校長は一度咳払いをしてから、
徐に口を開いた。
「えー。
皆さんにぃ。
悲しいお知らせがありまぁす」
校長はもう一度コホンと
小さく咳払いをしてから、
大袈裟にその長髪をかき上げた。
「先週の金曜日のことでぇす。
猿田先生が
お亡くなりになりましたぁ」
その粘っこい口調のせいか、
校長の言葉は、
悪い冗談のように聞こえた。
それでも一瞬の後。
子供達は事の重大さに気付いたのか、
騒つき始めた。
6年2組の生徒は、
すでに知らされていたのか、
比較的落ち着いていた。
校長はボス猿の死について、
大吾や葉山の時と同じように、
不幸な事故とだけ説明した。
「・・今後。
屋上は立ち入り禁止にしまぁす。
屋上の扉には鍵を掛けましたぁ。
鍵は私が責任を持って、
管理しまぁす」
「えーっ!」
校長の言葉に、
高学年の生徒達から
不満の声が上がった。
そんな中。
探偵団の3人に目を向けると、
「僕達には『楽園』があるから
関係ないよね」
「だな」
「そうね」
と楽観的だった。
全校集会が終わり教室に戻ると、
しばらくしてから校長がやって来た。
校長の口から
ナカマイ先生が休みであることが
告げられた。
「畑中先生は
すぐに戻ってきますからぁ、
心配しないでくださぁい」
校長はそう説明したが、
俺はそうは思わなかった。
愛する人を失った悲しみは、
他人にはわからない。
きっと校長は2人の関係を
知らないのだろう。
それから。
校長は名簿と生徒の顔を
照らし合わせながら、
時間をかけて出席を取った。
名前が呼ばれると、
俺は手を挙げて返事をした。
「確か。
君は転校生ですねぇ。
頭の良い生徒だと聞いてますよぉ」
校長は俺と目が合うと、
髪をかき上げてそう言った。
1時間目の授業が始まると、
ふたたび校長が現れた。
ボス猿のいなくなった隣のクラスは、
次の担任が決まるまで、
教頭が受け持つことになり、
そのため校長が
俺達のクラスを
指導することになったようだ。
小学校の教員というのは、
それほどまでに
人手が足りないのだろうかと
俺は不思議に思った。
それとも。
校長や教頭というのは、
よほど暇な役職なのだろうか。
校長の授業は
予想に反して面白かった。
時折。
説教じみた話題に
脱線することもあったが、
概ね子供達には好評だった。
ナカマイ先生がいないだけで、
あとは普段と変わらない
授業風景だった。
ただ俺だけが混乱していた。
俺が殺すはずだったボス猿は、
俺が手を下すまでもなく
命を落とした。
校長はそれを事故と説明したが、
俺にはそうは思えない。
あの日のボス猿の行動を考えてみる。
ボス猿は俺の手紙に誘われて、
屋上へ顔を出した。
しかし。
それは俺が屋上へ上がった
16時40分よりももっと前だ。
ボス猿は先に行って、
待ち伏せるつもりだったのだろう。
その結果。
転落した。
だが。
それにはあのフェンスを
越える必要がある。
仮に何らかの理由で、
フェンスを越えたとしても、
大人が簡単に転落するとは思えない。
やはり。
ボス猿は誰かに突き落とされた。
そう考えるのが自然だった。
しかし誰が?
ボス猿の殺害時刻を考えても、
生徒による犯行の可能性はない。
つまり。
ボス猿を突き落とした犯人は、
教師の中にいる。
また教師だ。
葉山を殺したのはボス猿だった。
そのボス猿が、
今度は同僚の教師に殺された。
まさか。
同じ学校に、
2人も殺人犯がいるのか。
僕は頭を振った。
しかし。
俺の代わりにボス猿を
殺してくれたことに関しては、
感謝すべきかもしれない。
その教師が誰で、
その動機は気になるが、
世の中、
知らなくていいことだってある。
手品の種明かしはルール違反だ。
俺はこれ以上この件を詮索しない。
どちらにせよ。
葉山を殺したボス猿は、
その命で自らの罪を償った。
「因果応報」
若干の謎は残ったものの、
これで葉山の件には
ケリがついたことになる。
俺は小さく溜息を吐き出した。




