第90話 誰かが突き落とした・・
俺達が
『Paradise Garden 中之島』
に着いた時、
太陽ははるか向こうの稜線に、
その姿を消そうとしていた。
「2人共もう帰ったみたいだな」
「翔太さんも洋さんも冷たいわ」
茜は頬を膨らませたが、
いつ来るかわからない俺達を
待てというのは酷な話だった。
俺達は並んで腰を下ろした。
茜が鞄から煙草を出した。
俺は差し出されたケースから
黙って1本手に取った。
茜がライターを擦り、
俺は煙草をその火に近づけた。
手が小さく震えていた。
俺は茜に気付かれないように、
すぐに火から離した。
そして。
大きく吸い込んでから、
ゆっくりと煙を吐き出した。
眩暈にも似た感覚が襲ってきて、
一瞬だけ俺の頭をぼんやりとさせた。
同時に。
気持ちが少し落ち着いた。
隣を見ると、
茜が煙草に火を点けたところだった。
茜は吸い込んだ煙を
「ぽっ」
と小さな輪にして吐き出した。
俺は茜よりも大きな輪を
3つ連続で吐き出した。
それを見て茜が笑った。
「茜、
今日は
ピアノのレッスンはないのか?」
「うん」
そして俺達は黙り込んだ。
沈黙が俺に考える時間をくれた。
なぜボス猿が死んでいたのか?
あの状況からして、
ボス猿は転落したと思われる。
しかし。
誤って転落したとは考え難い。
誰かが突き落とした・・。
一体誰が?
そして。
それはいつのことなのか?
俺が屋上へ上がったのは16時40分。
その時点で、
すでにボス猿は死んでいた。
俺達のクラスの帰りの会が終わり、
皆が教室からいなくなったのは
15時40分。
この時、
2組の教室に残っている生徒も
いなかった。
ボス猿はこの間に殺されたのか。
正確にはもっと絞り込める。
もし。
放課後すぐに殺されたのだとしたら、
誰かがボス猿の死体を
発見しているはずだ。
つまり。
ボス猿は放課後、
子供達が学校からいなくなった後で
殺されたのだ。
「・・どうしたの?
あっくん」
茜の言葉で俺は我に返った。
「学校を出た時から、
何だか様子が変だわ」
「そんなことないさ」
「・・そう。
それならいいんだけど」
茜は小さな煙の輪を
「ぽっ」
と吐き出してにこりと微笑んだ。
茜の真っ直ぐな視線から
逃げるようにして、
俺は立ち上がった。
「茜、
それを吸い終わったら帰ろう。
遅くなったら、
家の人が心配するだろ?」
「うん」
俺達は並んでマンションを出た。
辺りはすっかり闇に包まれていた。
俺達の前でタクシーが停まって、
中からスーツ姿の若い男女が
降りてきた。
2人は体を寄せ合って、
マンションの中へと消えていった。
俺は茜に1万円札を手渡して、
そのタクシーに乗せた。
「あっくんは?」
と言う茜を無視して、
俺は運転手に
「よろしくお願いします」
と頭を下げた。
そして。
不安げな表情の茜に手を振った。
タクシーが走り出したのを
見届けてから、
俺は闇に紛れて学校へ戻った。
正門の前が騒がしかった。
数台のパトカーと制服警官、
それに野次馬らしき
人だかりが見えた。
俺は脇道へ入ると、
学校を大きく迂回して家に帰った。
帰宅後。
晩御飯の時に掛かってきた電話で、
明日が休校になったことを
知らされた。




