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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
八章 Return 11月

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89/136

第89話 マゼンタ色

屋上には誰もいなかった。

やはりこの日を選んで正解だった。

仮に他の生徒がいたとしても、

そこは適当に言いくるめて

追い出す予定だったが、

その手間が省けたのは好都合だった。

風が冷たかった。

俺は6年2組の教室の

真上にあたる場所まで歩いて、

目の前に立ち塞がる

フェンスを乗り越えた。

そして。

屋上の縁へ近づいた。

それから。

俺はポケットから封筒と

拳大の石を取り出した。

封筒はボス猿の机に置いた物と

同一の物だったが、

中には何も入っていない。

これは餌だった。

俺は封筒を屋上の端、

ギリギリのところに置いて

風で飛ばないように

その上に石を乗せた。

これが葉山の供養になれば。

そう思ってこの場所を選んだ。

俺は改めて縁から下を覗き込んだ。

ほんの数時間前の

昼休みに見た時の光景とは、

明らかに違う景色が

眼下に広がっていた。


花壇に

うつ伏せで倒れている人物が見えた。

その人物の周囲の花弁が

鮮やかなマゼンタ色に染まっていた。

そして。

その人物こそ。

俺がこれから殺そうとしていた

ボス猿だった。

それは。

あの旧日本陸軍の軍服ような

服装からも明らかだった。

俺はしばらくの間、

ただ呆然とその光景を見つめていた。


そして。

ようやく、

この状況が俺にとって

好ましくないことだと理解した。

俺はすぐにフェンスを乗り越えて

扉へ走った。

それから。

階段を駆け下りて教室へ戻った。

席に座って大きく深呼吸をした。

先ほど見た光景が、

改めて頭の中で再生された。

ボス猿は、

恐らく屋上から転落したに違いない。

しかし。

そう考えると疑問が出てくる。

俺は何も書かれていない黒板を

じっと見つめた。

考えようとしたが、

思考に集中できなかった。


どれくらいそうしていただろう。

俺はふと我に返った。

今はボス猿のことを

考えている暇はない。

それよりも。

誰かに見つかる前に、

急いで学校から出なければならない。

俺は極力音を立てないように、

静かに廊下を走って靴箱へ向かった。


靴箱まで来たところで、

玄関に佇んでいる少女を見つけ、

俺は足を止めた。

少女がこちらを振り向いた。


茜だった。

茜は俺に気付くと、

小さく手を振った。

「ど、どうしたんだ?

 『楽園』に

 行ったんじゃないのか?」

俺は動揺を悟られないよう、

努めて冷静に話しかけた。

「行こうと思ったんだけど。

 やっぱり待ってることにしたの」

そう言って、

茜は無邪気に笑った。

俺は無理に笑顔を作ってから、

急いで靴に履き替えた。

「俺達も早く行こう」

俺は茜の手を引いて、

校舎から飛び出した。


空に広がる夕日の色が、

ボス猿の血で染まった花壇を

連想させた。

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