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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
八章 Return 11月

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88/136

第88話 嵐の前の静けさ

帰りの挨拶が終わると、

子供達は次々と教室から出ていった。

翔太と洋が誘ってきたが、

俺は用事があると言って断った。

「あっくん、用事って何?」

「・・や、野暮用さ」

突然目の前に現れた茜に、

俺は動揺を悟られまいと、

努めて冷静に答えた。

「言えないこと?」

茜は俺の曖昧な返事に

納得しなかった。

「兎に角。

 早く終わったら、

 俺も顔を出すからさ。

 茜も2人と一緒に

 『楽園』に行ってこいよ」

茜はやや不満そうだったが、

それ以上は追及してこなかった。

「じゃあ待ってるからね」

茜は手を振って、

教室から出ていった。

そして。

教室には俺だけが残された。


教室の時計は15時40分を指していた。

俺は気を紛らわせるために

ベランダに出た。

子供達が校庭を

散り散りに歩いていた。

その様子は

校門というお菓子を目指す、

纏まりのない蟻のように見えた。

俺はそのままベランダを通って、

隣の教室へ行った。

こっそりと窓から中を覗いたが、

誰もいなかった。

俺はその場で

ベランダから身を乗り出して

下を覗いた。

葉山はここから落とされたのだ。

花壇の上に落ちたのだとしたら、

今咲いている紫の花は、

その後植えられたのだろうか。

そんな疑問が浮かんだ。

その時。

ふと。

大吾の死を思い出した。

大吾は13階から落ちて命を落とした。

しかし。

今、

眼下に広がっているこの高さなら。

はたしてこの高さから落ちて、

人は死ぬだろうか?

落ち方にもよるだろうが、

どうも腑に落ちなかった。

もしかしたら。

葉山は殺された後、

落とされたのではないか。

そんな考えが頭をよぎった。

どちらにせよ。

夏休みの学校であれば、

目撃者は期待できない。

真相は犯人にしかわからない。

それに今更。

葉山の殺害方法がわかったところで、

何の意味もない。

大事なのは、

誰が葉山を殺したのかということだ。


俺は6年3組の教室に戻った。

指定した時間まで、

まだ1時間以上あった。


俺は机に伏せてもう一度思案した。

ボス猿が屋上に現れたら。

それは即ち、

ボス猿が葉山を殺した

犯人であることを意味する。

その時。

俺は本当にボス猿を罰することが

できるのか。


『世の中には。

 死んでもいい人間は確実に存在する』


確かに。

人の命が平等ならば、

それを奪った人間は、

己の命で償うべきである。

そんな当たり前の理屈が通らない

この世の中だ。


『簡単なことだ。

 何度もシミュレーションを

 しただろう?

 アレを餌に

 フェンスの外へ誘導すれば、

 子供のお前でも、

 簡単に突き落とすことができる』


わかっている。

今更躊躇っているわけではない。

しかし。

もし・・。

ボス猿が犯人でなかったら?

もし・・万が一でも・・。

ボス猿が・・犯人・・ったら・・。

俺は・・。

俺は・・。

・・。


・・・。


ハッとして俺は飛び起きた。

机に伏したまま、

俺はいつの間にか眠っていたようだ。

額に汗が滲んでいた。

何か大きな音が聞こえた気がしたが、

どうやらそれは夢だったようだ。

窓の外が紅く染まっていた。

時計を見ると16時40分を指していた。

俺は立ち上がって、

大きく背伸びをした。

その時。

廊下に人の気配がした。

俺は素早く音を立てないように

ドアに近づいてから、

一気に開けた。

廊下に出て周りを窺ったが、

誰もいなかった。

神経質になりすぎか。

指定の時間まではまだ20分あったが、

俺は屋上へ向かった。

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