第83話 貯水タンクから見る黄昏色の空
秋の一大イベントである
運動会が終わり、
学校にはふたたび、
平穏という名の日常が戻ってきた。
時間は確実に流れていた。
そんなある日。
俺は塾をサボって1人
『Riverside Doom 春日』
に来ていた。
貯水タンクの上に寝ころんで、
俺は黄昏色に染まる空を
することもなくただ眺めていた。
その時。
ふいに下で物音がした。
俺は音を立てずに、
静かに体を起こした。
闖入者が腰を下ろしたのが、
気配でわかった。
俺は警戒しつつ慎重に、
闖入者とは反対側へ降りた。
しかし。
闖入者がいる限り、
これ以上身動きが取れなかった。
何せ下へ降りる階段は、
あちら側にあるのだ。
それにしても。
一体どのような人間が、
こんな時間にこんな場所に
来るというのか。
どちらにしても。
俺達少年探偵団以外に、
ここを利用している人間が
いるのであれば、
今後ここの利用は、
避けた方がいいのかもしれない。
ふいに。
シュボッという音に続いて、
ジリジリと紙が焼けるような音が
聞こえてきた。
やがて。
風に乗って煙草の香りが漂ってきた。
俺は細心の注意を払いながら、
そっと覗き込んだ。
見覚えのある後姿が見えた。
「茜」
俺が声を掛けると、
「キャッ!」
と小さな悲鳴が上がり、
少女の手から煙草が落ちた。
少女がゆっくりと振り返った。
「もう、
驚かさないで!」
そして声の主が俺だとわかると
少女は安堵の表情を浮かべた。
「あっくん、今日は塾じゃないの?」
俺達は貯水タンクの上に
並んで座った。
俺は茜から煙草をもらって火を点けた。
茜とこうして2人きりで話すのは、
告白されたあの日以来のことだった。
告白。
はたして。
あれは本当に告白だったのだろうか。
もしかして。
茜にとってはそれほど深い意味は
なかったのかもしれない。
奥川や相馬と比べると、
幼い茜にとって
「好き」
という言葉の意味は、
LOVEではなくて、
LIKEだったのかもしれない。
・・いや。
そこで俺は、
翔太の話を思い出した。
翔太の話が本当であれば、
茜が幼いということはない。
少なくとも。
奥川や相馬よりも
女の武器を十分理解している。
そして。
その武器を使って大吾を・・。
俺は頭を振った。
「どうしたの?
あっくん」
「えっ?
い、いや・・何でもない」
茜の目が俺の心の内を
見透かしているような気がして、
俺は少し動揺した。
「でも。
こうしてあっくんと会えるなんて、
来てよかったわ」
茜はゆっくりと煙草を吸った。
その仕草は、
クラスの誰よりも大人びて見えた。
今聞かなければ・・。
あの話題は今後一生、
口にすることはないだろう。
それに・・。
もし仮に。
茜に殺意があったとして、
はたして茜1人に、
大吾の死の責任を
押し付けていいのか。
元を辿れば。
俺が屋上への入り口を
開いたことが原因である。
そして。
洋は状況を把握したうえで、
傍観していた。
手を差し伸べた翔太も、
胸中には
怒りと嫉妬の入り混じった
複雑な感情を抱えていた。
俺達に茜を責める資格はない。
「茜。
こうして2人きりっていうのも、
たまには良いな」
「うん」
茜は笑顔で頷いた。




