第67話 夏休みと彼女の決意
夏休みに入るとすぐに、
塾の夏期講習が始まり、
俺は朝から晩まで、
塾に軟禁されることになった。
退屈な授業だけでもうんざりなのに、
頭の悪いアルバイトの学生講師が、
余計に俺をイラつかせた。
俺はこの夏、
潤沢な資金にものを言わせて、
羽を伸ばそうと考えていた。
夏期講習は外出するための、
口実になるはずだったのだ。
しかし。
人生というものは往々にして
思い通りにならないのだ。
俺の成績が良いことを聞きつけた
洋の母親が、
「息子をよろしく」
と洋を夏期講習に送り込んできたのだ。
これにより。
俺は適当な理由を付けて
夏期講習をサボることが、
できなくなった。
表向きは、
俺が洋のお守り役ということに
なっていたが、
実のところは、
洋が俺の監視役を務めるという
皮肉な結果になっていた。
夏季講習が始まってから
5日が過ぎたある日。
塾から帰宅すると、
俺に電話があったことを、
母から知らされた。
「あっくん、
女の子からよ」
俺に電話が掛かってくること自体、
珍しいというのに、
それが女の子ということもあり、
母は若干浮足立っていた。
誰だろうかと考えて、
すぐに思いついたのは茜だった。
可能性はないだろうと思ったが一瞬、
奥川の顔も浮かんだ。
「隣のクラスの女の子なんて、
あなたも隅に置けないわね」
その言葉に、
階段を上がっていた俺の足が止まった。
俺は急いでリビングへ引き返した。
「だ、誰だって?」
「えーっと・・」
母はそう言いながら、
メモ用紙に目を落とした。
「もしかして・・は、葉山実果?」
「そうそう『はやまみか』さん。
何よ、
知ってるんじゃない」
俺の心臓が大きく跳ねた。
「よ、用件は何だって?」
「あなたにお礼を言いたくて、
電話してきたみたいよ。
『自分の意志を貫きます』だって。
あなた、
彼女の相談に
乗ってあげたんですってね」
母は嬉しそうに目を細めた。
「他には?
彼女の声の調子はどうだった?
元気だった?
それとも悲しそうだった?」
俺は矢継ぎ早に質問した。
「何をそんなに慌ててるのよ?
丁寧で、
はきはきとした
感じの良い子だったわよ」
「そ、そうか・・」
俺はひとまず胸を撫で下ろした。
「もう1つ。
葉山は家の電話番号を
言ってなかった?」
「あら呆れた。
あなた、
彼女の家の番号を知らないの?」
葉山が自宅の電話番号を、
母に伝えなかったということは、
折り返しの連絡が
必要ないということだ。
つまり。
葉山はただ、
俺に感謝の気持ちを
伝えるためだけに、
連絡してきたということになる。
俺はふっと
肩の力が抜けるのを感じた。




