第66話 終業式
「はぁい、皆さぁん。
今日で一学期は終わりでぇす。
明日から、
長い長ぁい夏休みが始まりまぁす。
しかぁ~し。
学校がないからといって、
夜遅くまで起きていたり、
朝は遅くまで寝ていたり、
そんなことがないよう、
規則正しい生活を
心がけて下さぁい。
宿題は溜めたりせずに、
毎日コツコツやりましょう。
貯めてもいいのは、
お金だけですよぉ」
校長の長くて退屈な話を
ぼんやりと聞きながら、
その内容に微かな違和感を覚えつつ、
俺は時折、
相馬の様子を窺っていた。
「もうひとぉつ。
注意することがありまぁす。
夏休みは元気いっぱい遊んでも、
構いましぇん。
ただぁ~し、
危険な場所に行ったり、
危険な遊びをしては
いけましぇぇん。
一学期、
不幸な事故がありましたぁ。
決して忘れてはいけないことでぇす。
いいですかぁ皆さぁん。
命は大切でぇす。
この世で一番大切なものは
お金ですがぁ、
命はその次に
大切なものですよぉぉ」
校長の話から解放されて
教室へ戻ると、
室内は喧噪に包まれていた。
子供達は皆浮かれていた。
そんな中。
相馬はいつもと変わらず、
机に座って本を読んでいた。
「何を読んでるんだ?」
相馬は本を持ち上げて、
表紙を俺の方へ向けた。
『氷点』
と書かれたそのタイトルは、
俺も聞いたことがあった。
何度かドラマ化もされているはずだ。
しかし。
残念なことに
俺は読んだことも、
見たこともなかった。
それでも。
有名な文学作品ということだけは
知っていた。
「面白いのか?それ」
そう言った後で、
俺はすぐに後悔した。
初めて相馬に話しかけた時も、
同じようなことを聞いて、
失敗したのだ。
あの時の相馬の素っ気ない態度が
思い出された。
「そうね。
3回目だけど。
良い本よ」
しかし。
以外にも相馬の反応は悪くなかった。
3回も読んでるということは、
よほど好きな本なのだろう。
「どんな本なんだ?」
そこで相馬は本を閉じると、
俺の方をチラリと見た。
「そうね。
一言で説明するのなら。
この上なく上質な
ミステリ小説かしら」
「へえ。
てっきり文学作品だと思ってたよ」
「極上のミステリ小説は、
優れた文学作品でもあるのよ」
相馬の口振りは、
まるで小さな子供に
諭すかのようだった。
丁度そこで
ナカマイ先生が教室に入ってきて、
俺達の会話は終わった。
夏休みの注意事項が説明された後、
通知表を受け取った。
そして。
ようやく俺達は解放された。
一学期最後となる挨拶をして、
子供達はこれから始まる夏休みに
胸を躍らせて、
教室から飛び出していった。
俺は相馬の姿を探したが、
すでに彼女の姿はなかった。
「帰ろうぜ」
洋と翔太と茜が俺の席へやってきた。
俺達は揃って教室を出た。
2組の教室の前を通りかかると、
すでに教室は空っぽだった。
葉山のことが少し気になった。
俺は、
きっと大丈夫だと、
自分に言い聞かせた。




