第60話 名探偵?の推理
7月に入って、
徐々に暑さが増してくると、
子供達の間では
怪談話が盛んになってきた。
子供は怖がりなくせに、
不思議と怖い話が好きだった。
ある晴れた日の放課後。
俺達少年探偵団はいつものように
『Twilight Avenue 城之三崎』
に集まって煙草をふかしていた。
「覚えてるか?
先月、
連市で発見された
焼かれた死体のことを」
洋はそう言って、
新しい煙草に火を点けた。
洋が口にしたのは、
『連市身元不明男性焼死体事件』
のことだ。
「実はさ。
あの事件の犯人と、
死体の正体がわかったんだ」
洋の言葉に翔太と茜が、
ハッと息を呑んだ。
俺は20年後も未解決である事件を、
洋が子供なりにどう推理したのか、
少しだけ興味が湧いた。
「あの死体は・・相馬の親父だ」
誰も言葉を発しなかった。
沈黙が屋上全体を包み込んだ。
「あ、あれだぞ!
親父って言っても、
一緒に住んでる
血の繋がってない男の方だぞ」
洋は急いで言葉を足したが、
翔太と茜の反応は微妙だった。
「お前ら、
あの男を見たことがないだろ?」
翔太と茜が頷いたので、
俺も2人に合わせて頷いた。
「ひひひ。
俺は一度だけ見たことあるんだ。
真っ黒なコートに、
帽子を被っててさ。
長い銀色の髪に隠れて、
顔ははっきりとは
見えなかったけどさ。
あれは普通じゃないぜ」
「普通じゃないって?」
「翔太は鈍いな。
あれはヤバい組織の人間だぜ」
洋は声を潜めた。
「わかったわ!」
茜がポンと手を叩いた。
「その組織で何かヘマをしたから、
殺されたのね」
「もしかしたら、
敵対する組織に
やられたのかもしれないよ」
翔太と茜が顔を見合わせて、
大きく頷いた。
その様子を見ていた洋が
にやりと白い歯を見せた。
「2人とも。
残念ながら全然違うんだよなぁ」
そして洋は俺の方を見た。
「あっくん、
犯人がわかるか?」
「さあな。
さすがにニュースだけじゃ、
情報が少なすぎる」
子供が簡単に
犯人を特定することができるなら、
そもそもこの事件が
迷宮入りすることはない。
「ひひひ。
この謎はさすがのあっくんでも
解けないか」
洋は満足そうに頷いた。
「うーん。
相馬さんのお父さんに
恨みを持つ人って、
誰だろう?」
翔太は腕を組んで空を見上げた。
「もしかして家を出ていった
お母さんじゃないかしら?」
茜はそう言って目を輝かせたが、
洋は首を横に振った。
すでに3人の中では、
焼死体の身元は
相馬と同居している男だと
断定されていた。
「それで?
早く名探偵の推理を聞かせてくれよ」
俺は洋に先を促した。
「ひひひ。
聞いて驚くなよ・・」
洋は俺達の顔を順に見回した。
翔太がごくりと唾を飲み込んだ。
茜は胸の前で
両手をギュッと握り締めた。
「犯人は・・相馬だ」
一瞬、
時が止まった。
「え?」
「そ、相馬さん・・?」
翔太と茜は目を丸くした。
俺は溜息を吐いた。
「な、何だよ。
俺の話が信じられないのかよ」
洋は口を尖らせて、
細い煙を吐き出した。
「と、突然だったから
驚いてるんだよ。
ねえ、茜ちゃん」
「え、ええ。
でも相馬さんが
お父さんを殺したなんて、
信じられないわ」
「お父さんじゃないぜ。
あの男と相馬は
血が繋がってないんだからよ。
それに。
証拠ならあるぜ」
洋は「ふぅ」と煙を吐いた。
「相馬は日頃から、
男にいじめられてるって噂は
知ってるだろ?
だから。
我慢ができずに殺したんだよ」
洋の言葉は、
俺の感情を僅かに刺激した。
俺は煙草を深く吸って、
ゆっくりと長く煙を吐き出した。
「洋。
それは証拠じゃなくて、
動機というんだ。
そして。
動機があるからといって、
人は必ずしも、
罪を犯すとは限らない」
「でも相馬は、
人殺しの本ばっかり読んでるぜ」
それも語弊がある。
相馬が読んでいるのは、
人殺しの本ではなく
ミステリ小説である。
「洋の推理には、
1つ決定的な欠点がある」
俺の言葉に
洋は丸い煙の輪を1つ吐き出すと、
姿勢を正した。
洋には悪いが、
相馬に殺人の汚名を着せたままに
しておくわけにはいかない。
「焼死体が
連市の山奥で発見されたのは
知ってるよな?
小学生の相馬が、
一体どうやって死体を
そんな場所まで運んだんだ?
車でもない限り無理だ」
洋は口を大きく開けたまま、
固まっていた。
洋の指に挟まれた煙草から
灰がぽとりと地面に落ちた。
「危うく。
洋の話を信じるところだったよ」
「本当、
びっくりしたわ。
いくら相馬さんでも
人を殺したりしないわよ」
翔太と茜はホッとしたような
表情を浮かべた。
「ちぇっ。
この推理には自信があったのになぁ」
一方の洋は、
悔しそうに煙草を踏み消した。




