第47話 その名前
葉山実果。
その名前を俺は確かに知っていた。
小学校6年生の夏休み。
つまりこの年の夏休み。
葉山実果は自ら命を絶つ。
どうしてこんな重大な出来事を、
今まで忘れていたのだろう。
1つは。
それが、
夏休みの間に起こったということ。
そしてもう1つは。
彼女が隣のクラスの
生徒だったということ。
それでも。
新学期が始まって、
俺達のクラスでも少しは話題になった。
「隣のクラスの葉山実果が、
自殺したんだって」
人の口に戸は立てられぬ。
しかし。
なぜ葉山が自殺をしたのか、
その理由を知る者はいなかった。
大人達は知っていたのだろうか。
どちらにせよ。
彼女の自殺の理由が、
子供達に伝わることはなかった。
去る者日々に疎し。
元々隣のクラスの生徒
ということもあって、
俺達のクラスでは、
すぐにその話題は立ち消えた。
「あっくん、
どうかした?」
翔太の声で俺は我に返った。
「い、いや・・。
何でもない。
それよりも翔太、
俺にも1本くれよ」
当然だが。
この時点では、
3人はまだ
葉山が自殺することを知らない。
「葉山とボス猿には、
きっと何かあるぜ。
ひひひ」
洋は興奮気味にそう言って、
俺達を見回した。
「何かって?」
翔太も洋の話に
俄然興味が湧いてきたようだった。
「それはわからないけどよ。
でも。
あの気の強い葉山が、
泣いてたんだぜ?」
「・・そうね。
洋さんの言うことも、
一理あると思うわ。
葉山さんが怒られたくらいで、
泣くわけがないもの」
「さすが茜ちゃん。
翔太とは頭の出来が違うぜ」
「何だよ、洋。
自分だってそんなに
頭良くないくせに。
それに。
僕は葉山さんのことは、
ほとんど知らないんだよ」
「2人は葉山のことを、
よく知ってるのか?」
俺は洋と茜に訊ねた。
「ええ。
私達は3、4年生の時、
葉山さんと同じクラスだったの。
ねえ、洋さん」
「そうだぜ」
葉山のことを知っている2人が、
彼女の涙に何かがあると
感じたのであれば、
それはある程度、
信用できるのかもしれない。
そして。
その場にボス猿がいたという事実・・。
「葉山とボス猿。
絶対、
何か秘密があるぜ!」
「まぁ、
どんな秘密があるのか。
私、
すごく気になるわ」
「洋も茜ちゃんも、
テレビドラマの見過ぎだよ」
先ほどまでは、
一緒に興奮していた翔太が、
今は醒めた目で2人を見ていた。
夏休みまであと1か月半。
洋と茜の言うように、
葉山とボス猿の間に
何かがあるとすれば、
葉山の自殺にも、
ボス猿が関係していると考えるのは、
飛躍しすぎだろうか。
俺はそっと煙草に口をつけた。




